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デスターン  作者: 春川立木
52/72

48話 2、3時間目

Q、この時期になると体調が悪くなるなぜだろう?

「急に壁がぶっ壊れるなんてなー」

「授業中断って初めてだな」


運動着に着替えて外へ移動している際に、後ろにいた男子達が先ほどの騒動を口にする。


「老朽化だったんじゃね?」

「はっ、老朽化で爆音出るかよ。きっと上級生の魔術授業で暴発した魔力が原因だろ」


違うんです。

あれ、私のせいなんです、ほんとに。


「まぁ、でもラッキーだな。椅子に座って学ぶより、俺は体を動かしたかったし」

「まぁな」


放課後アリア先生に呼び出しくらって説教か……。


「どうした、辛気臭ぇー顔して」


アリア先生になに言われるか怯えていると、後ろから肩を叩かれて振り返る。


「え? あぁ、なんだルトか」

「悪かったな俺で」

「ルトは魔術使える?」


私は魔術の平均値が気になった。

同じ剣術専攻なら一番目安になるはず。


「あー、出来ねぇ事はねーが、ニーナと比べれば雲泥だな」

「ねぇ、ニーナって天才の部類?」

「そりゃぁ、天才だろ。あいつ一年の時から神聖術を学んでたし神童って言われてるからな」


やっぱり。

神語の時も魔術の時もあれは普通じゃないんだ。


「だけどな、俺だって天才って言われてたんだ」

「虚言の?」

「ちげーよ! テイマーの天才だ!!」


テイマー?

テイマーって魔獣とかをペットみたくするやつ?


「俺は魔獣、魔物と友達になりたくてここに来た」

「言ってたね。魔物魔獣をあーだこーだって」

「イエス! 本当はテイマー専攻とかあれば良かったけど……まぁ、剣術も基本ぐらいは出来てねぇーといざって時戦えねぇーもんな」


剣を持っていないルトは腰につけたエア剣を引き抜き天に掲げる。


「じゃぁ、剣術初めてなんだ」

「おうよ。しかしマザード先生に変わるなんて俺はついてねぇーよ」

「ははは。まぁ、見た目は怖いもんね。中身もやばいけど……」

「知ってんのか?」


ルトは驚いた様子で私を見る。


「うん。師匠だから」








「今年からお前らに剣術を教えるマザードだ。よろしく」


コロッセオみたいな円形の闘技場。

その真ん中にマザードはいた。


私たちが闘技場に入るや否や大声で自己紹介を始める。


「自分の剣を持って来た奴らはこの樽に入れろ」

「え? 剣術を教えるんですよね……」


1人の生徒がマザードに質問をする。


「…………お前らは初っ端から剣を振れると思ったのか?」

「……?」


生徒は戸惑いながらも首を縦に振る。


「舐めた根性は大した物だ。たかが9歳の子供が体力と筋力を付けずに実践で敵を倒せると?」

「……い、いえ。すみません……」

「声が聞こえん!!」

「すみませんでした!!」


生徒は理解が出来たのか、樽の中に剣を入れる。


それに続いて他の生徒も入れる。


「おい。お前の師匠やべーじゃねーか」


ルトはビビりながら小声で私に訴える。


「まずはここの周りを私が合図するまで走れ」

「……え?」


大半の生徒が聞き返す。


「走れ!!」

「は、はい!!」


二度目の怒号に肩をびくつかせ、生徒は一斉に走り出す。


「やべーだろ、あの先生」

「あぁ、今からでも専攻の変更手続きしようかな……」


前を走る男子が口を開く。


「いつもあんな感じなのか?」


ルトは私の隣を走りながら質問をする。


「んー、いつもなら私をボコボコにして倒れたら立つまで叫ぶ」

「立ったら?」

「ボコボコ」


ルトは身震いをする。


「やばすぎるわ」

「私語が聞こえる──」


マザードがそう呟くと、ルトは黙って走り出す。









「はぁ、はぁ、はぁ、もう無理……」


ルトはそう言って地面に倒れ込む。


他の生徒も皆、気づけば突っ伏していた。


「私はまだ合図をしていないぞ」


マザードは腕を組んだまま睨む。


「少し休憩させてください」

「腑抜けるなよ。見てみろ、セリーヌはまだ走っている」


生徒は皆、私を見る。


「化け物かよ……」


聞こえてますよ。

化け物って言ったそこの男子、覚えたからなその顔。


「たかが1時間走っただけでへばってるお前らが化け物だがな」


マザードが鼻で笑いながらそう言った。


「セリーヌ! 終わりだ」

「はい!」

「お前らも立て」


マザードに言われて渋々立ち始める。


「次は腕立てだ」

「へ?」


私以外の生徒の魂が抜ける音がした。


「やれ」


マザードは一言そう言って睨む。


「は、はい」









「今日の授業は終わりだ」

「ありがとうございました」

「はぁ、はぁ、……とう────した」


私だけしっかり挨拶をし、その場を後にする。


「結局、剣なんか触れなかった」

「腕立て腹筋スクワット、体幹、そしてまたランニング……」

「初めてだ……こんなに力が入らないのは……」

「眠い……午後からの授業死ぬだろ……」


ゾロゾロとフラッフラの人たちが闘技場を後にする。


「腹減った……」

「人生で一番腹が減ってる気がする」

「セリーヌはなんともねーのか?」


ボロボロのルトがそう聞いてくる。


「まぁ、お腹は減ってる」

「おかしいよやっぱり」

「セリーヌさんってなに食べたらそんなに体力が付いたんだ?」

「別に特別なものは食べてない」


実際、結構きつかった。

ランニングとか筋トレとかはちょいちょいやってたけど、こんなにやった事無かったから、手足が震えてる。


「飯だー! 食堂いこーぜ!!」


廊下を歩いていると、腹の虫が鳴くほどの匂いがする。


「セリー! お疲れー」

「あ、ニーナそっちも終わり?」

「うん。ご飯食べよ」


ニーナが階段から降りてくる。


「最近のおすすめはパスタなんだ」


ニーナが人差し指を立てて熱弁を始める。


「ノアリアの料理なんだけど、トマトソースとオリーブ? が入ってる細い麺がこれまた合うんだ。たまにチーズを入れるんだけど、今はソルトクッキーをバラして入れる。そうすると食感が変わって楽しいって話」


トマトソースのパスタ?

ナポリタン的なやつかな?


「食堂の料理って昔は豆とかスープとかパンしか無かったらしいけど、ノアリアの人がこっちにレシピを持って来たおかげで食堂の利用率が増えたんだ」


喋っているうちに食堂に到着した。


ビュッフェ形式の食堂にはたくさんの生徒が並びなから料理をよそっている。


「ニーナ、鶏肉ってどこにある?」

「ん? 肉なら向こうじゃない?」


ニーナが指した方を見る。


「なんか、すごい人集りだけど……」

「だって肉じゃん。そりゃ群がる群がる」


あんまり行きたくないけど、鳥の胸肉を食べるようにしてるしな……。


ため息をこぼしながら人だかりに向かう。


「どこの世界も肉は人気。当たり前か、てかなんの料理なんだろう」


遠目から群がる先を見る。


「唐揚げ?」


私の目には黄金に輝く衣を着た鶏肉のもも肉がそこにはあった。


「お、セリーヌ。お前も唐揚げ狙いか?」


皿に大量の唐揚げを乗せたルトが自慢げに見せびらかす。


「名前も唐揚げなんだ」


前世の人気定番料理の唐揚げと完璧に一致するその料理。

誰が発案したんだろう。


「いや? もも肉だし、私は胸肉を取りに来た」

「胸肉ぅ? あのパサパサして人気のない鳥の胸肉ぅ?」

「人気ないんだ。美味しいのに……」


そういうと、ルトは目を見開く。


「まさか……セリーヌの無限体力の秘密は鳥の胸肉……」

「あ、あった」


唐揚げの人気具合に比例するように、ポツンと置かれた茹でられた胸肉の山。

まるで金の延棒のピラミッドの如く、私の目には光り輝く。


「おいしそー」


私は胸肉を皿に乗せる。


「タンパク質か?」


皿に山が出来るほど乗せていると後ろからマザードの声がする。


「あ、マザード先生。お疲れ様です」

「鳥の胸肉は脂質が少なく、タンパク質が多い。だが、取りすぎると痛風になるぞ」


その言葉に怯え、私は皿に乗せた肉を戻そうとする。


「まぁ、あれだけ動けばなる方が難しい。そんなに心配なら野菜とヨーグルトを一緒に摂るといい」


マザードは少し微笑みながら皿に鶏胸肉を乗せてその場を後にする。


「ヨーグルト持って行こ」


私はマザード栄養士の言葉通り、野菜とヨーグルトを皿に追加した。








「多すぎない……?」


机に戻ると少し引き気味のニーナが私の皿を見つめている。


「そう? マザード先生が体づくりで食べろって前言ってたから」

「剣術組の人たちもいつもの倍皿に持ってるし……どんだけしごかれたん」


ニーナはパスタを器用にフォークで巻く。


「ランニングと筋トレかな?」

「2時間中……?」

「うん」


ニーナが更に引き気味に喉の奥からうめきあげパスタを口に入れる。


「ニーナはどんな授業なの」

「んー、神語と、詠唱」

「2時間中……?」

「まぁね」

「うぇ」


私からしたらそっちの方が地獄に聞こえる。


「てか、唐揚げ目当てじゃなかったんだ」

「だって唐揚げは油の塊だし、タンパク質だけ摂りたかったんだ」


鶏肉をフォークで刺し、口に運ぶ。


「わかるー。確かに美味しいけど……あれはちょっと太りそうだし──」

「パスタも炭水化物だから太るよ」

「だいじょぶ。野菜を取れば0カロリー」


そう言ってニーナは別皿に入っていたトマトを食べる。


「トマトってなんでこんなにおいしんだろ。見た目も可愛いし」

「可愛いかは分からないけど私もトマト好き」


サラダに入っているトマトを食べながら頷く。


「農家に感謝。シェフに感謝」


フォークをクルクル回しながらそう咀嚼を続ける。


「ヨーグルトってなにから出来てんの?」


ニーナがフォークでヨーグルトを指す。


「牛乳? 便秘にいいよ」

「マヂ? 取り行ってくる!」


便秘なの?

ニーナって。


「お疲れ様ですセリーヌさん」

「あ、お疲れ様です、アリア先生」


ニーナが席を外した直後、テーブルにアリアがやってくる。


正直気まずい。

壁をぶっ壊した原因の私になぜ声をかけるのか?

怒っているはずなのになぜ?


「隣、いいですか?」

「えっ……あ、はい大丈夫です」


周りの席は空いてるし、なんなら隣のテーブルは誰も使ってない。

これは私からの謝罪待ち……。

 

「あ、あのぉ」

「なんですか?」

「先ほどの授業はすみませんでした。先生が咄嗟に軌道を変えてなければ──」


脳裏にベッタリと張り付くあの瞬間。

少し結果が違えばと思うと少し息が苦しくなる気がする。


「いえ、大丈夫です。私も少し動揺してしまったため、壁を壊してしまいましたし」


トレイを置き、アリアが椅子に座る。


「放課後、私のところに来ることは忘れないで下さい。そしてこの事は誰にも……特にマザード先生には伝えないで下さい」

「はい」


うん。

ここで謝罪をしても呼び出しは変わらないか。

やっぱり怒ってるのかな……。


アリアの置いたトレイにはお米と魚、そして少しばかりのサラダが乗っていた。


というか全体的に少なめだ。


「と言うか、アリア先生足りるんですか?」


このままじゃ私の気が持たない。

無理にでも話を変えよう。


「はい。まぁ、最低限のエネルギーしか取らないので」


アリアは魚をほぐし、黙々と食べ始める。


会話終了!?

やばい。なんとかして繋げないと。


「……もしかして、食べるの嫌いなタイプですか?」

「いえ、嫌いではないです。まぁ、面倒とは思っていますけど」

「アリア、お前はいまだにそんな質素な食事を摂ってるのか」


アリアの次はマザードがやってくる。


助かった。

もう話の内容が頭に浮かんでこなかったところだった。


「うるさいですよ。いつもあなたはそう言って……私の母親ですか」


マザードはアリアの隣に座る。


いや、助かってない!

マザードさんも無口タイプだ!!

これは余計に気まずくなる組み合わせ!!


「? 母親ではないだろう」


いつも?

マザードさんがここに就任してからまだ月日は立っていないはず……。


今の会話は昔からの知り合いみたいな会話だった


「2人って知り合いなんですか?」

「はい。ここの卒業生で、同級生です」

「付き合いは入学前からだがな」


やっぱり。

ていうか幼馴染レベルの付き合いだったんだ。


「こいつは昔から食事を忘れて魔術に没頭しててな」

「忘れていたんじゃありません。暇がなかったんです」


マザードは親指でアリアを指し、アリアは黙々と食事を続ける。


「人間の生命活動の一つを暇つぶしで行うのは人間性を疑うぞ」

「そもそも、食事睡眠は最低限で生きていけます」

「それで楽しいのか? セリーヌもそう思うだろ」


へ?

ここで私にパスをまわす?!


まぁ、私もつい最近まで食事と睡眠両方の時間を減らして素振りしてたし……。

マザードさんに言われるまでは──。


「ま、まぁ、人それぞれですよ。よく食べる人とか、ショートスリーパーとかいますから……」

「そう言うものか……」


というか、マザードさんって本当はこんなお人好し感ある人だったんだ。


もっと、「人には興味がない」 って言いそうな人格だと思ってた。


「しかし珍しいな、お前が生徒とご飯を食べるなんて」

「そうですか? 私も彼女とはコミュニケーションをとりたかっただけです。珍しいって言うならマザード先生も、随分セリーヌさんに肩入れしている様子ですが、何か特別な思入れが?」


アリアは手を止めて私の顔を見つめてくる。


「アリア、セリーヌは剣の才があるんだ。魔術に時間を割いている場合ではないんだ」

「そうですか? 私からすれば剣士よりも魔術師の方が需要があると思いますが」


なるほど。

マザードさんに放課後の件を伝えるなってこと、ここでやっとわかった気がする。


「どんなに神童と呼ばれた剣士の卵にも目もくれなかったあのマザード先生が、彼女にだけ目をくれるんですね。まるでそれ以外にも価値があるような……」


アリアはそう言って私の右手だけについている手袋を見つめた。


「…………」


マザードは図星なのか、黙りこくる。


「…………ドンピシャですね。昔から変わってない」


そう言ってアリアは食事に戻る。


「いやー、迷子った。たかがヨーグルトちゃんのためにここまで探──」


乳酸菌を求める旅をしていたニーナがヨーグルト片手に戻って来た。


「え? どう言う状況……?」


ニーナは私たち三人が気まずそうに、昼食を食べる様子に言葉をこぼす。

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