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デスターン  作者: 春川立木
48/72

44話 夢中とは

今年はどうしようか。

本気の年にしましょうか。


…………


やっぱ無しで。

いつだったか、幼い頃に見たジィーナスはどの大人達よりも輝いて見えた。




いつ外を見てもそこには剣を振るう男がいた。

剣を振っている彼はキツいとか、嫌だとかの邪念がなく、子供ながらにも楽しそうに振るっているように思えた。


メイドに彼のことを聞くと騎士団の副団長。

一般家庭に生まれた次男で、名をジィーナスと教えてくれた。


血も環境も関係ないってことをそこで始めて知った。


来る日も来る日も剣を振るうジィーナスは気づけば私の憧れになっていた。


私も真似をして外で剣を振るったが、30分そこらで悲鳴をあげた。


しかしジィーナスは一日中剣を振っている。

なぜずっと剣を振るうのだろうと考えていた。


答えを知りたくなって私はついにジィーナス本人に聞いた。


「夢中になれるものがこれしかないから」


そう一言笑って私に伝えると再び剣を降り出した。


私は共感が持てなかった。

外で遊ぶことは夢中になれる。

母上から読み聞かせしてくれる英雄譚にも夢中になれる。

だけどずっとそれをしたい、聞きたいとは思えなかったからだ。


それは大人になった今もそうだ。

むしろ夢中になれるものなど気づけば一つも残っていない。


「彼と何が違うのだろう。私はこの国のために夢中になれることはないのだろう。私はこの国に愛が無いのだろうか。向いていないのだろうか」


そう言うことばかり考えてゆく。

そう考えているうちに子供が生まれた。


「元気な女の子ですよ。抱いてあげてください」


嫁にそう言われて無理やり持たされた赤子は小さく、柔らかく、簡単に壊れそうな生物だった。


「なんて可愛らしい者なんだ……」


その時始めて気づいた。

気付かされた。


『この子を立派に育て上げることが私の夢中』


そう悟った。


それからは人生が楽しかった。

娘のミルナを生涯幸せに生きていけるように様々なことを学ばせ、育ててきた。


そこから2年が経ち、息子も生まれた。


息子も同じように厳しく育ててきたが、何かが違かった。


言葉を覚え始めた頃、私の指示を無視して、部屋から出なくなったのだ。


「何かが違う。これは夢中じゃ無い。ミルナだけだミルナだけが私を夢中にしてくれる」


そう思っていたのも束の間、ミルナが家出をした。

その時私の何かが消えていった。


「あぁ、そうか。私は従順で賢い者が欲しかっただけなのか」


そう感じたんだ。


倅も、使いも、民衆も、国も、全てうまくいかないと思ったら飽きてしまう。


「ダメなんだ。私はこの国のトップに立つのはダメなんだ」


ジィーナスが死んでさらに塞ぎ込んだ。


私の手から離れたミルナは誰が見ても別人のように変わってしまった。


「楽しく無い。つまらない。気が重い」


そんなことばかり、嫌な事ばかり考えてしまう。


『あたしは変わった、じぃが居なくなって寂しいけど、それを糧に前に進むって決めたの!! で、お父様は何をするの!!』


ミルナの叫びが耳に入る。


『あたしは決めたの! こんなとこでのうのうと安泰なレールに引かれるぐらいなら、魔術を知って、魔術を学んで、自分から進んで冒険者になるって!! それがあたしの夢中になれる事なの!! お父様はどうするの!?』


あぁ、そうか。

そうだったのか……。


私はただ私の命令を聞くだけの人形遊びに夢中になってただけなのか。


いつの日かジィーナスから聞いた言葉が鮮明に溢れ出す。





「夢中とはなにかって?」


羨望の眼差しをする私に困りながらもジィーナスは答える。


「別に夢中って楽しいからって訳じゃ無いんだよ。嫌なことも面倒なこともある。それが徒労だろうが、なんだろうが、それでも何かを捨ててまでも何かを得ようとする事なんだ」


幼い頃は全くわからなかったその言葉。

今ならわかる気がする。


「夢中とは自分が成したいもののために他全てを捨て去って努力する事」


それが夢中なのでは無いだろうか?


時間だったり、お金だったり、友人だったり、家族だったり、趣味だったり、仕事だったり、その全てをオールインしてまでも成し得たいものを具現化するための言葉だったんだろう。


「何を……する──か」


その時、私の何かが叫んでいることに気づく。


「私は、私は──」


今まで片鱗はあった。

それに気づかず、やらなくてはいけないものだと強制感という枷に嵌められていた。


でも今は違う。

やらなくてはいけないものが、やりたいものに変わって気づいた。


「私は──民衆から慕われたかった」







「私は──民衆から慕われたかった」


カモクの一言でミルナは驚いたまま立ち尽くす。

あげていた拳も気づけば下がっている。


「領主様……」


モナはそうポツリと言葉を溢す。


「私はジィーナスのように周りから慕われて、それでもなお驕らず努力する姿に見惚れてたんだ。だから私も形は違えど国を発展させ、民衆から慕われ、他の国から称賛を浴び、それでもなお驕らず研鑽を続ける領主になりたかった」


ミルナは落ち着いたのか、ゆっくりと席に着く。


「昔、ジィーナスに夢中とは何かと聞いたことがあった……。こんなに簡単な事だったんだな──」


カモクの頬が緩む。


「忘れていた。父が通った悪事の結末を見て、周りからの評価が目に見えた瞬間、私は私だけはこの領土を守っていこうと、時間も金も捨てていたはずなのにな……」


ティーカップを持ち上げて紅茶を一気に飲み干す。


その様子を見ていたクルトはニヤリと笑みを浮かべる。


「カモク領主様! 本題を話します!」


ドンと、机の上に金貨の入った布袋を勢いよく置くと、皆の目線がカモクから金貨へ変わる。


「ここにあるのは金貨18枚! これで復興の資金の目標に達しますよね!」


その言葉はカモクと、ここにいたメイド達、さらには俺らも驚き目を見開いた。


「……金貨18枚?」

「はい。3ヶ月前に起こった事件で冒険者のガエルさん達と討伐した魔物の素材と、冒険者協会での依頼にて討伐したダンパ、キラーバット、さらには赤龍の素材で得た報酬です」


「モナ……」

「確かに金貨18枚全て本物で、ピッタリ揃っています」 


カモクは10枚と、8枚に積み重なった金貨を見て困惑する。


「今の冒険者協会はこんな大金を払える程潤っていないはずだ」

「流石領主様。この金貨達はエスタ領の管轄で換金した物ではありません」

「? どういう事だ」


モナとカモクは2人して頭を傾げて顔を見合わせる。


「この金貨はブリタリア領での交換です」

「ブリタリア領だと? しかし赤龍などでも足りないだろう?」


クルトへの質問にモナも首を縦に振る。


「はい。多く見積もっても金貨10枚だったでしょう」


クルトは自信満々に答える。


しかし、カモクもモナもよく知ってるな。

博識だ。


「なら、どうやって残り8枚を?」

「ごほん。自己紹介がまだ途中でしたっけ」


クルトは席を立ち、姿勢を正してカモクを見下ろす。


「ミーガバードにて、ミルナお嬢様に魔術を教えている、クルトです。そして姓をブリタリア。ブリタリア領主の三男にして末っ子のクルト・ブリタリアと申します」

「は?」


カモク達よりも俺が口を開いた。


「…………」


カモクはクルトと目を合わせたまま、口を閉ざしたままになる。


「あれ? 自己紹介ミスった?」


そうクルトが恥ずかしそうに席に着くと、カモクの口が開いた。


「はっはっはっ、なるほどなそういうことか」


天井を見つめてそう高らかに笑い上げる。


「え? ブリタリアの三男……?!」


ミルナも驚きで顔が赤くなる。


「アーノルドとは古い仲だ。詳しい話も知っている。なるほどな、あいつは取り返しのつかないことをしたな」


笑いは止まることなく、カモクは話す。


「この金貨の出所は分かった。で、この金貨は復興の足しにいや、あまりが出るな。報酬は何がいい? 娘か?」

「お父様!!」


先ほどの勢いはなくなり、恥ずかしそうにミルナが叫ぶ。


「いえ、報酬は要りません。全て差し上げます。募金みたいな物です」

「そうか、なら有り難く使わせて頂く」


モナはその言葉を聞いて金貨を袋の中に詰め、拾い上げる。


「その代わりと言ってもなんですが、この前の事件の主犯を堂々と張り出して下さい。


人差し指を立ててクルトが話す。


「主犯?」

「はい。魔族の女の人です」

「あぁ、フィーナか……」


流石はジィーナスのファンボといったところか、娘の事までしっかり範囲内。


「そして今回の立役者をガエルさん達とロンレル大先生にスポットライトを当ててあげて下さい」

「おい、お前らも当たるんだぞ」


ホルスが逃げるなと言わんばかりに付け足してくる。


「ガエルさんはシルバーランク、ロンレルさんはゴールドランクなので矛盾はないかと」

「なるほどな。あくまでも自分は目立ちたくないと」


カモクは笑ってそうクルトに向ける。


「はい。約束だもんで」


それを聞いてカモクは少し考え、首を縦に振った。


「わかった。モナ、お前に任せる」

「分かりました」


クルトは満足そうに笑みを浮かべて手を叩く。


横にいるホルスの不満そうな顔は見なかったことにしよう。


「と言うことで、話は以上です。この度はこのような時間を頂き有り難く思います」

「いや、こちらからも感謝をしよう。いつかこの恩はどこかで返す」


そう言ってカモクは席を立ち、その場を後にする。


「お父様!? どこに?」

「ん? 目的が決まったんだ。早急に全てを片付ける」


カモクの目はここにきた時よりも遥かに頼もしく、かっこよく見える。


「アーノルドには私から上手いこと話をつけよう……、そうだ」


思い出したかのようにカモクが振り返り俺らを見る。


「クルトと言ったか、ここの書庫には魔術に関することが書いている本が沢山ある。今度はミルナの友人として招こう、酒屋感覚で遊びに来い」

「え!? いいんですか?!」

「あぁ、構わん。他の者もだ」


え、俺もですか?

俺は別に魔術には興味ないけど……。


そう言ってその場を後にした。


「ミルナお嬢様。私もお仕事がございますので、失礼させて頂きます」


カモクに続いてモナもその場を後にする。


「じゃぁ、僕らも帰ろうか」

「はぁーーー。やっと終わった。もう無理この雰囲気」


ガエルは空気が抜けたようにソファーにもたれかかる。


「紅茶また飲みにこれるのうれしー」

「流石におもろかったな」


リャンとホルスも立ち上がって帰りの支度を始める。


「え、ちょっと待って、なんでみんな普通に出来んの?!」


俺だけ理解が出来ないまま終わってるんだが、クルトの話はどうなるんだよ。


「え?」

「え? じゃねーよ。ブリタリアってどういう事だよ。お前貴族なの?!」

「んー、もう違うかな。追い出されたから」

「まぁまぁ、いいじゃん。早くお風呂入りたいし」


いや、クルトの血縁より風呂が大事なのかよ。


「そのうちちゃんと話すよ。ミルナ僕ら帰るから」

「え! あっ……う、うん」


顔を赤めたままのミルナは驚いて席を立ち、俺を見る。


「え、なんですか?」

「師匠。ありがとうございました」

「いや、俺師匠じゃないけど」

「また、今度!」


そのままミルナは勢いよく部屋を飛び出した。


「は? 意味がわからん」

「僕もわからん」


クルトに助けを求めるも、本人もお手上げらしい。

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