表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスターン  作者: 春川立木
41/72

38話 決着

引っ越しって、ロマンだ。

どこに家具を置いて、どんなラグ、カーテンにしてって、めんどくさいけど楽しい。

エスタ城、避難所に子供を背負った女性が勢いよく扉を開けて入ってきた。


「手当をお願いします!!」


その女性はそう言うと、すぐに子供を預けて再び外へ出ていった。


預けられた子供は重症なのか、周りに人集りができている中、神官が慌てて手当を施す。


「この子! ミーガバードで見た子だわ!」


1人の奥さんがそう声を上げて私は勢いよく腰を上げ、ジィーナスさんの場から離れる。


「腕だけじゃない! 拳も骨が粉々だ!」

「脳自体も損傷してるよ!」

「こりゃぁ、肋骨も何本かいってるな……」


神官の回復魔術で照らされるその場所へ、人を押し除けて中心部に向かう。


「気絶だけで済んでるのがおかしいな」

「エルくん!!?」


最前列へ出た瞬間、施術されてるボロボロの子供を見て愕然とした。


こんなに……あのエル君が……。


あの魔族にやられた?

じゃぁ、クルト君は!?


私は辺りを見渡すが、クルト君らしい人影はどこにも無い。


「嘘……だ……」


軽率だった。

実力はあっても2人はまだ8歳児だ。


ジィーナスさんを見て焦って、あの2人に任せた私の判断のせいだ……。


その場で力が抜け、地面にへたり込む。


何を考えてたんだ。

何をしていたんだ。

私はここで2人に任せて……。


拳を地面に叩きつける。


「エル……くん……」


そう口からこぼれ落ちた時、神官が叫ぶ。


「目を覚ましたぞ!!」

「──!!」


それを聞いて、私は地べたを這いそばによる。


「エルくん!!」

「──え……ロンさん?」

「すみません……私のせいで……」


エル君はなんでと、呟くが、私は続ける。


「大の大人が子供に任せて……軽率……いや、こんな言葉で許されるわけがない……」

「ロンさん?」

「クルトくんのことは私がなんとかします……」


エル君は眉をひそめて私の顔を見る。


「ロンさん……クルト生きてますよ?」

「はい。クルトくんは生きてるんです……、本当に私のせいで…………え?」

「いや、クルトは先にミーガバードに戻っています」


私はキョトンとした様子でエル君を見つめる。


「俺は魔人にやられただけです」

「え? クルトくんは生きてるんですか!?」

「はい」


エル君はそう言うと、ふらつく足で立ち上がり外の方へ向かう。


「ちょっとちょっと! どこ行く気?!」

「エルくん?!」


女神官の1人がエル君の前に立ち塞がり、邪魔をする。


「どこって……外です」

「いや! まだ治ってないし、外は危険なんですよ!?」

「知ってます」


私は神官の横を通り抜けるエルくんの腕を掴む。


「エルくんどうしたんですか!? まだ治療は終わってないですよ!!」

「行かせてください」

「ダメです! 何を考えてるんですか!?」


力強く掴んでいたはずの腕を振り解かれ、エル君はドアへ歩く。


「神官さん。邪魔ですよ」


気づけば扉の前で両手を広げ立っている神官に、エル君が睨む。


「無理です! 行かせません!」


断固として動こうとしない神官にエル君はため息をついて、目の前に立つ。


「どいてください」

「無理です!」

「なぜ?」

「危ないからです!」

「だから、知ってるっていってますよね」

「危ないことぐらいはみんな知ってます! だからこそ、行かせられないんです!!」


女神官はプイッと、そっぽを向くと、エル君が叫ぶ。


「危ないとか、そんなことどうでもいいんだよ……」

「え……」

「すぐそこで、俺の母さんを殺した奴がいるんだ……。仇が目の前にいたんだ!! 今ここで殺さないと……ダメなんだ!!」

「エル君……」


私は何もできず、その場で立ち尽くしていた。


「行かせろよ!! 俺はお前よりも、この場にいるあんたら達よりずっと戦えるんだよ!!」


荒い息継ぎをして叫び続ける。


「邪魔をするってんなら、お前も殺すぞ! どけよ!!」

「えぇ! やってみなさい!」


女神官は震えながら反論をする。


「抑え込めー!!」


周りにいた男達が一斉にエル君を抑え込む。


「離れろや!! 邪魔すんな!!」

「子供が贅沢言ってんじゃねぇ! 生きてるだけ有難いと思えよ!!」


群がる人々を跳ね除けながらエル君は進み続ける。


「止めろ!!」

「力強ぇ!!」

「そりゃそうだろ! あのガエルが腕相撲で負けてんだ!」

「手が空いてるやつ! 全員来い!!」

「があぁぁぁ!!!」


おらびながらエル君は扉に頭突きをする。


「出せ!! 出せよ!!」


何度も何度も頭突きをする。


「ロンレル!! 止めさせろ!!」

「え……」

「え……じゃねぇーよ!! お前のガキだろ!!」


私の子供……。


そうだ。そうだよ。

エル君はミーガバードに住んでる、私が育てている子だ。


なのになんでここにいる人達が私より心配しているんだ。


「エルくん!!」


私が一番心配しなくちゃいけない大人だろ!!


私はエル君に掴みかかり、抱きしめる。


「エルくん!! やめてください!!」

「ロンさん──離せ……」


エル君の手の甲が私の鼻にぶつかる。


「──っ! エル君!! しっかりしろ!!」


鼻から血が流れる。


「君は確かに強い! だからこそ、こんな所で命を粗末に……いや、自分の命を軽く見るな!!」


あぁ、私ってこんなに大声が出せたんだ。


「──!!」


エル君は驚いて手を止める。


「これ以上、心配させないでくれ!! エル君が死んだら悲しむ奴がいるんだ……ここに!!」

「うるせぇ……親みてぇに──」


エル君は再び踠き、反抗する。

それを拘束し顔を両手で掴み、無理やり目を合わせる。


「うるさいのはお前だ! いいか? 私は親みたいなものなんだ!」


だんだんと、視界が涙でぼやけ始める。


「エル君のアズエリックの親なんだよ。エルがどう思おうが、どんなに魔人を殺したがろうが、自分の命をどうしようが──」


溢れた涙がエルの顔に落ちる。


「私は親としてエルくんを心配してるからここで止めてるんだ!!」

「──!!」


エルの動きが止まる。


「もう……心配させないでくれよ……」

「──ロン……さん……」

「命さえあれば、いくらでもチャンスはできる……から……」








「コルネ……?」


ヒークからこぼれ落ちたか細い声に反応して、ガットレイの笑みがこぼれ落ちる。


「いいね。いい顔をするじゃないか」

「貴様ら……ミーラも、コルネも……」

「あぁ? こいつが勇者か?」


火傷で爛れたままのシルバリが睨む。


「あれ? シルバリもグロいじゃん」

「ヒヒっ回復しないのか?」


トラペジとパラペットがヒーク達を無視してケラケラと笑う。


「まるでゴミだな……」


ヒークは力が抜けたようにそう吐いた。


「あ?」

「人の命をなんとも思っていない……真のクズだっていってんだよ!!」


ヒークの髪がまるで炎の如く揺れ、目は真っ赤に染まる。


「絶対に殺す。お前らはここで──」


ヒークは今までのスピードとは比べられないほどの速さでガットレイの元へ向かう。


「マジか! 神化か!!」


ガットレイは驚きながら笑い、ヒークの攻撃を受け止めるが、威力すらも以前とは違い、吹き飛ばされる。


「死ね」


今度は隣にいたシルバリを蹴り飛ばし、無詠唱で光の矢を無数に展開する。


「雷光槍!!」


その場にいたシルバリ、パラペット、トラペジに矢が刺さる。


「──なっ?!」

「いっ──!!」


休むことなく、ヒークは飛んでいったガットレイの元へ走る。


「初代にも勝る神化だなぁ!!」


ガットレイは宙に飛ばされたまま叫び杖をヒークに向ける。


「神に近づいただけで対等になったと、思うなよ!!」


杖の先端から放たれるのは高圧に圧縮された火炎。

その一本の線はヒークを追いかけるように全てを溶かしながら迫る。


レーザーの如く襲うそれをヒークは走りながらかわし、地面を蹴り上げ、ガットレイの懐へ迫る。


「無駄だ」


杖を天に向け、魔力を込め、振り下げる。


杖と共鳴して空から霹靂と共に稲妻がヒークに直撃する。


「追加だ」


再び杖を天に掲げて振り下ろす。


今度は大岩が無数に現れて隕石の如く降り注がれる。


「ぐあぁぁぁ!!!」


ヒークは岩を切り落としながら防ぐ。


「無様だなぁ、勇──っ?!」


安全圏で嘲笑うガットレイは右からくる光の矢を感知出来ずもろに受ける。


「こいつ……さっきの電光槍を残してやがった……」


さらに岩を追加して左手で横腹を押さえて回復する。


「殺す──!!」


回避と斬撃で岩を無効化しているヒークの横にガットレイの血が落ちる。


「もう一度言うぞ! 我の血は魔力そのものだ!!」


地面に落ち、血痕になるはずの血の滴は重力に逆らい、宙を浮く。


「おかわりだ」


ガットレイの声でその血から先ほどのレーザーが放たれる。


「がっ──!!」


その高圧の炎はヒークの横腹を貫通し、内臓を焼き切る。


「おい! シャアーラ!! 回復してやれ!!」

「はい!」


シャアーラの杖の石突部分は他とは違い、鋭く尖った形をした杖。

その理由は敵に刺すわけではない。


シャアーラの魔法は特殊で、対象の怪我を治すだけではなく、致命傷になった場合でも一瞬で完治できる魔法だ。


しかし、条件が非常に厳しく、治療をする対象のダメージと同等または、それ以上のダメージを自分に課さなければならない。


シャアーラは勢いよく、自分の足の甲に尖った杖をブッ刺した。


「──っ?!」


杖を引き抜き、もう一度刺す。


「が──っ!!」


2度刺した瞬間、ヒークとシャアーラの傷に光が纏う。


一瞬にして光はなくなり、完全に傷が塞がる。


「死ねぇ!!」


復活した瞬間、岩なんてお構いなしにヒークが突っ込んでゆく。


もちろん、岩はヒークの顔面にぶつかり、ヒークの顔の三分の一がえぐれる。


しかしその間シャアーラが自傷ですぐに治す。


「ハァハァハァ」


痛みも傷も残らないが、シャアーラの心、精神はダメージを残す。


「化け物がっ!!」


ガットレイは風の刃でヒークを斬りつける。


致命傷を避け弾くが、身体中切り傷ができ、片足は切断され、脇から反対側の横腹にかけて深く刃が刺さる。


「カルマ様!!」

「おうよ!!」


わざと、切れ味のないナイフを使って、カルマがシャアーラを切り刻む。


「うおぉぉぉ!!」


ヒークはガットレイの首に王手をかける。


「まずい!!」


ガットレイの首筋に食い込み、血が垂れる。


「うがぁぁぁ!!!」


首を切られる寸前、横からシルバリという邪魔が入る。


拳でチェックメイト状態の剣を殴り、魔剛性の剣は粉々に折れてしまい、ヒークは空振ってしまう。


「よくやった! シルバリよ!!」

「トラペジ!!」


シルバリは叫び下を見る。


「大丈夫ー! もう終わったよー」


下ではシャアーラとカルマの首を掲げて笑うトラペジとパラペットがシルバリを見て大声で伝える。


「だそうだ。勇者よ、もう終わりだ」


首から滴った血がヒークはの顔に落ちる。


「散れ」


ヒークに落ちた血が光り、高温に熱され、大爆発を産む。


「神化といっても攻撃特化か……、防御力自体は前と変わらん。前言撤回だ、弱いな」


ガットレイは頭部の消えた体だけの勇者を見てそう言った。


「ガットレイ様、怪我は?」

「シルバリ。鏡を見て言え」


ガットレイは地面に足をつけシルバリに回復魔術を施す。


「縛りを結んだな。流石だ……ぐっ──?!」


ガットレイは急に胸を押さえて地面に倒れる。


「……まさか……あいつ……」


ガットレイは死んだ勇者を睨む。



勇者ヒーク・レイナリアは魔法を使っていたのだ。


ヒーク自身、魔法を使えることを知らない。

魔法の条件に自身の死が必要だったため、発動することができなかったのだ。


「ガットレイ様?!」

「大丈夫だ……ただ、血の巡りが……」


勇者の魔法は自分を殺した対象に消えることのない呪いを付与する魔法。


そして、対象に付与する呪いは戦闘中に苦戦した技、初見殺し又は即死攻撃を発動出来ないというシンプルなもの。


そう、ガットレイに下した呪いとは魔力そのものの血を無効化するだけの呪い。


ガットレイは固有の能力である血液から魔術を生み出す力を失う呪い。

魔神に対しては致命的になるほどの力を持つ。


人間で言う酸素と同じく生命活動に必要不可欠な代物。

それが出来ない状態のガットレイは大幅に弱体化する。


「毒とは別だ……、やってくれたな……ヒーク・レイナリア」


ゆっくりと立ち上がり呼吸を整える。


「帰るぞ」

「え? ここはいいのですか?」


シルバリが質問をするが、ガットレイは手のひらを開けた場所に向けて詠唱をする。


「開け『地獄門』」


声と共にでかい門が開かれる。


「あぁ、こんな体じゃ門を出すだけでこうなるのか……」


そう言ってガットレイはふらつく足で先に門に入る。


「僕、疲れたから早く寝たーい」

「ヒヒっ案外サクッといった」


トラペジとパラペットも門の中に入っていく。


状況をイマイチ掴めていないシルバリは頭を傾げて、ガットレイの後を追いかけてゆく。





──聖方暦1071年──

勇者ヒーク・レイナリアと、

そのパーティ計5名、

コルネ・ビリング

ミーラ・フレス

カルマ・メイス

シャアーラ・マザー・クレア


エスタ領土エスタ領都にて、戦死。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ