37話 勇者パーティ
さーて、サボりがちになってまいりました。
戦闘シーンが一番難しいし、頭おかしくなりそうになる為、余計にサボりたくなるんだよね。
誰か助けて欲しいよね。
「ずっと考えていたことがある……」
魔神ガットレイは勇者を睨みながらそう口を開いた。
「勇者の紋章は右手の甲に表れる」
「何が言いたい……?」
「いやぁ、その腕を切り落としたら、勇者の力は消えるのかって話だ」
ガットレイはクソ微笑み、自分の腕を手刀で切る動作をする。
「できるものならなっ!」
ヒークはその場で居合の構えを取り、ガットレイを睨む。
「その距離で届くか?」
2人の間にはおよそ3メートルの隙間がある。
それに対して、ヒークの剣は1メートル程。
「あぁ、届くさ」
剣の鞘についているスイッチを押し、ヒークが柄を握る。
「グレイライト流奥義! 『蒸飂獸居合』!!」
剣が鞘から少し抜かれたその隙間から、大量の蒸気が溢れ出し、そのガスによって生まれた圧縮された空気が剣を押し上げた。
「マジかっ!?」
ガットレイはその光景に目を見開いた。
人の出せる限界の居合速度を遥かに超えた速度の剣筋がガットレイに向かう。
その剣筋は空気を切り裂き、真空を生み出し、ガットレイを襲う。
「守護を表せっ、『朧衛守』!!」
咄嗟に出したガットレイの魔術は、真っ黒の壁。
その壁は斬撃を受け止めた途端、崩れて消える。
それが合図に、ヒークはガットレイへ飛び込んだ。
ヒークの太刀筋は一振り一振り重く、鋭く、速いものだったが、その全てをガットレイは杖一本で弾き返す。
「ハッ、以前よりも腕を上げたなぁ!」
「そりゃぁ、勇者なんでねっ」
打楽器の如く、弾き合う剣と杖にヒークはフェイントを挟む。
右手の剣を手放し、ガットレイの鳩尾に拳を向ける。
その拳を杖で受け止めるが、左手で剣を持ち直し、ガットレイの首に王手をかける。
「──っぶ!」
ギリギリのところでガットレイはしゃがみ、杖の先端をヒークの腹に押しつけ、魔術を放つ。
「がぁっ──!!」
その衝撃でヒークの脳が揺れ、視界が揺らぐ。
「やはり二代目ともなると、弱さが目立つな……」
「そうか……? そうでもないさ……」
ヒークは歯茎を見せながら、ガットレイの腕を掴む。
「愚かな……なんの自信──!?」
ガットレイは気づく。
そのニヤついたヒークの意味に──
ヒークの持っていた剣は柄だけを残して、剣先が消えていることに──。
「何処に──」
そう、呟いた時には自身の背中を貫く剣先が腹を貫通していた。
「な……グフッ──!」
「柄にもガスを込めてて良かった……」
刃の先端には小さい魔石が青白く輝いている。
「その剣は……魔力に敏感でね……、自動追尾する剣だ……」
ヒークは掴んだガットレイを投げ飛ばす。
「戻れ!」
その声一つで刺さった剣先が柄へと戻る。
「どうした! そんなもんか? 魔神よ!」
「──勇者よ……過信するなよ……」
ガットレイは起き上がり、自分の腹に回復魔術を施しながら、杖をヒークに向け、魔力を込める。
「爆ぜろ──!」
その省略された詠唱で構築された魔術は、杖の魔石から放たれず、勇者の剣先から爆発した。
「我の血は我の魔力だ。大層な剣だが、それで使い物にはならんだろう?」
「──いやぁ? 残念な奴だなぁ」
「──!?」
爆発したはずの剣は折れることも、爆散することもなく、ヒークの右手に残っている。
「魔剛製……」
「一度折られてるからな、バカじゃない」
「そうか……」
ガットレイは腹の傷を完治させ、杖を地面に突き刺す。
「なら……お前を折るまでだ!」
刺さった杖のてっぺんを握り地面から抜くと、それは杖ではなく、剣へと変わる。
「!?」
「驚いたか? 我は魔術だけではないぞ?」
「いやぁ? これでやっとフェアでやれる!」
ヒークは地面を蹴り上げ、ガットレイの懐へ瞬時に潜り込み、剣を鞘に納める。
「ゼロ距離── グレイライト流……奥義──『閃蒸飂獸居合』!!」
先ほどの居合は速度を上げただけの代物だったが、今回の居合は次元が違う。
抜刀する直前、剣に付与した自身の雷魔術と、ガスの圧縮が加わった、高速かつ、高威力の居合。
閃光の如く抜かれた剣は比喩抜きで音速を超え、光の速度と変わらぬスピードであった。
「土龍峩──!!」
それに反応して、ガットレイは剣を地面に刺し、太刀筋と居合に込められた電流を受け流す。
「その型は、攻撃後のモーションが隙になる。一度見れば学習する」
剣を抜かず、右拳でヒークの顔面を殴り飛ばす。
「がっ──」
飛んだ方向へ、ガットレイはすぐさま剣を抜き取り、走り出す。
「勇者よ!! ここで殺す!!」
建物に衝突したヒークは土煙の中で手のひらをガットレイに向けていた。
「光星の如く、焦燥の撃を『雷光槍』」
三本の光の槍がガットレイに直行する。
「悪足掻きにも満たん」
冷静に一本、二本と、剣で弾き、三本目も弾き返そうとしたその一瞬。
三本目の光の槍の真後ろ、ガットレイの死界になっていた場所にヒークの剣先が飛んでいた。
「──!!」
それに気づいた時にはもう遅く、槍を弾くとその後ろの剣先はガットレイの右手首を貫いた。
「右手を無くしたのはお前の方だったな……」
ゆっくりと、剣先のない柄をガットレイに向けたまま立ち上がるヒークは、前髪をかき分けてそう笑って言い放つ。
「貴様ぁ……」
宙を舞う右手が地面にボトリと音を立てて落ちたその瞬間、ヒークは走り出す。
「戻れ!!」
ガットレイの腕を切り落とすという役目を終えた剣先を元の場所へ戻す。
計4回の噴射で、すでに空になった鞘を触って確かめる。
『もう、ガスは残っていない……。なら──』
ヒークが剣を地面に突き立てて、魔力を注いだその時、魔力に反応したかの如く、剣に付着した血が瞬く間に棘に変わり、ヒークの腕に突き刺さる。
「なっ──?!」
「言っただろう。我の血は魔力そのものと──2度目だ……『爆ぜよ』」
今度は表面化での爆発ではない。
棘に刺さった腕の内部からの爆散。
「があぁ──っ」
ヒークの右腕はその場で吹き飛ばされ、空を舞う。
「有言実行だ」
そう言ったガットレイの右腕はすでに再生され、元通りになっている。
「人間は残念だなぁ。腕は生えないし、寿命も短い」
「はぁ──はぁ──……腕が……右腕が……」
必死に左手で右腕を握り、血を止める。
「もう、諦めろ」
ガットレイはしゃがんだヒークを睨みつけたまま、剣を杖に変形させ、魔石のはめ込まれた杖の頭を勇者に向けた。
◇
「チェックメイトだ。魔人よ……」
荒々しく沸る川底でシルバリは思考を巡らせていた。
爆発の連鎖で、身動きも取れず、ただ煮えたぎる川でコルネを睨む。
うざい──。
あいつの魔法……ただの爆発ならばまだしも、爆発が空気に触れた瞬間、その空気すらも爆発させるこの連鎖……。
水面のギリギリで弾かせ、空気を川の中へ送らせて、再び弾き、さらに気泡を分裂させる……ってところか。
別に100℃に達した熱湯はどうでもいい。
爛れたとこから回復し続ければいいだけだ。
一番厄介なのは、爆発の威力で上へ上がれないこの状況。
息も続かない。このままいけばジリ貧で負けるな。
その時、シルバリの中で一つの答えが生み出される。
『この空気……消すか……』
シルバリの呪いである破壊。
それは魔術も魔法も、ありとあらゆる攻撃を破壊し、発動そのものを掻き消す呪いである。
そして呪いにはある特徴、特質が存在する。
『自身の呪いの特性で、縛りを設ける』
というものだ。
それは音を出さずに曲を奏でる様に、簡単に行うことは出来ず、解くことも出来ない。
しかし、シルバリのその圧倒的なセンス。
それはいとも容易く縛りを発動させる。
『破壊しろ……自分の能力、回復力を……』
再生していた皮膚は止まり、爆発によって皮膚が捲れて肉が露出しだす。
蒸気を放つ水面を見つめて魔法を連続で放つコルネは目を見開いた。
その目線の先には爆ぜる空気の中、ゆっくりと、ただゆっくりと、上がってゆく両手がそこにはあったのだ。
「──っ」
威力をあげてコルネは続ける。
しかしその両手は微動だにせず、両腕まであらわになった。
肉は爛れ、赤い血で染まった骨が見えるその両手で、シルバリは勢いよく手を叩く。
「なっ……!」
その瞬間、回復魔術を生贄に強化された破壊によって、シルバリの周囲、およそ20メートル。
空気そのものが消滅する。
「──?!」
無音が包まれたその中心から勢いよく飛び出したシルバリはコルネの元へ向かう。
「…………!」
コルネは詠唱をし始めるが、空気のない場所では声は発せられず、顔面を掴まれる。
掴んだままシルバリはコルネの鳩尾を何度も殴打する。
自身の拳は真っ赤に染まり、骨格が露出していることを忘れて、ただ目の前の人間をいたぶるためだけにひたすらに殴打する。
「あがぁっ──!」
周囲の空気が元に戻り、コルネの痛々しい喘ぎが辺りを包む。
「チェックメイトだなぁ!!」
シルバリの叫び声がこだまする。
「ラストだぁ!! 死ねぇ!!」
掴んだ顔面を離し、右拳でその顔面を地面に叩きつける。
「──っ」
コルネの顔は原型を留めておらず、潰れてしまう。
「散れ」
シルバリはそう最後に伝えて顔面を踏み潰す。
「俺の勝ちだぁ!!!」
◇
「諦める……? 何をだ……」
ヒークはガットレイを睨んでゆっくりと立ち上がる。
「お前のその行動をだ」
「そうか……、まぁここで諦めて仕舞えば、命乞いをすれば助かるだろうな……」
鞘のベルトを腕に巻き付けて、左手で剣を握る。
「あぁ、邪魔さえしなければ殺しはしないかもな」
「だが、俺は勇者だ。全人類の希望として、代表として、ここに立ってお前と戦ってる」
ヒークはガットレイの後ろにそびえ立つ城を見る。
「俺は1人じゃないんだ。だから俺1人が諦めるなんて事はしない、それだけだ」
「そうか、お前は勇者……だけどな……我は──神だ」
杖の先端が紫色に光り、無数の氷の槍が辺りに漂う。
「勇者なら捌き切れるだろ?」
全ての槍がヒークに向かう。
「言っただろ。俺は1人じゃないって……」
その時、ガットレイの後方から無数の矢が全ての槍を弾き飛ばす。
「そういえば居たな……」
「ヒーク! 何その怪我!」
その声の元はミーラであった。
「ちょっとヘマした」
「ヘマってレベルじゃないよ! 早く南区に行って!!」
ミーラは次の矢を弓で引いてガットレイに放つ。
「こざかしい」
それを杖で弾き、光の球をミーラに飛ばす。
「うわっ! あぶなっ」
ギリギリでローリングし、回避をする。
ヒークはその場を離れて南区の方へ走る。
「逃げるのか? 勇者が」
ガットレイはヒークに杖を向ける。
「今度は僕だよっ」
ミーラは三本、矢を飛ばす。
「無駄だ」
言葉通り簡単に弾き、稲妻の炎を放つ。
「アッツ!」
ミーラはその場から急いで離れ、走りながら矢を装填し、再び三本の矢を放つ。
「何度も言わせるなよ」
「いーや、今度のは違うよ」
一直線で飛ぶ矢は先ほどと同じようにガットレイの杖で弾かれ────。
「そう。その矢はもう一段階加速する──」
弾く寸前、矢筈からガスが吹き出し、杖の間を縫ってガットレイの胸へ突き刺さる。
「ビンゴ!!」
「チッ、刺さったところで、矢如き……」
矢柄を持った途端、気づく。
めまいと、吐き気、筋肉の硬直に魔力の廻りの低下……。
「毒か!?」
「ポンピーン」
動きがトロくなったガットレイに追い討ちで矢を放つ。
「ぐふっ──」
「今度は違うよ! 3……2……1……ボーン!」
ミーラの言葉を合図に刺さった矢尻が爆発する。
煙がガットレイの周りを覆い爆風がミーラの髪を揺らす。
「流石に硬いか……」
煙の間から覗くガットレイの肉体はまだ原型を留めていた。
◇
「はぁ、はぁ、はぁ、ミーラ……持ち堪えてくれよ……」
南区を走るヒークはシャアーラとカルマの元へ急いでいた。
「どこだ……」
辺りを見回していると、鋭い爆発音が左の路地から聞こえる。
「こっちか」
ヒークは音のした方へ走ると、そこには魔人と戦うシャアーラとカルマがいた。
「シャアーラ!!」
「勇者さま!?」
シャアーラは驚いた顔でヒークの右腕を見た。
「ダメだ……また弾詰まりだ……」
カルマはキャタピラ式タレットキラーちゃんを片手に修理をしながら走って逃げている。
「お、勇者! どうした?」
「腕を治してほしくて」
カルマはヒークの右手を見るや否や振り返り、修繕の終わったキラーちゃんを投げる。
「キラーちゃん! あのガリマッチョはダメだ! フードのチビを狙え!!」
キラーちゃんは地面に着地し、即座にトラペジに連射する。
「ちょっと、危ないじゃん。守ってよみんなー」
追いかける魔人はゾンビを盾に歩みを止めない。
「シャアーラ頼む」
「わかりました」
シャアーラは自身の右手の袖を破り、布を噛み締めて、ナイフを取り出す。
「ふー……ふん!!」
勢いよくナイフで自分の腕を切り落とす。
「──っ」
シャアーラは踏ん張って痛みを堪える。
すると、ヒークと、シャアーラの腕にまばゆい光が溢れ出し、腕が再生する。
「助かった!」
「いえ……お安いご用です……」
布をとりだし、ポケットに入れる。
「コラ! キラーちゃん!! ガリマッチョはやめろって言っただろ!! あいつに撃つとジャムるんだから!!」
「カルマさん! 詠唱再開します!!」
「おう!」
キラーちゃんを回収して、再び走る。
「ここに居たか……」
「──!?」
逃げようと踵を返したその先にガットレイが立っていた。
「嘘だろ……」
その手にはミーラの生首があった。
「ミーラさん!?」
「マジかよ……」
「本当だ」
ガットレイはクソ微笑み、ヒーク達を見つめる。
「やっと……見つけた……」
「ん? シルバリか……」
ガットレイの後ろにもう1人の魔人が顔を見せる。
「トラペジに土産だ」
「土産って、めちゃくちゃグロい顔面してるけど」
「黙れ」
シルバリの手には潰れた頭部、誰のものだったか判別ができないほど原型を留めていないそれだったが、ヒークはヒークだけはそれを見て目を見開いた。
「コルネ……?」




