36話 最終決戦
引っ越しを真剣に考えてるはずなのに、何故僕は家を探していないのだろう。
もう、高架下に住もうか……。
「悲惨だ……」
エスタ城を目の前に、勇者であるヒーク・レイナリアはエスタ城前にて、街の惨状に息を呑んでいた。
「街の原型がない。それに魔物も……」
来る途中、一匹も魔物と出くわさなかったことに疑問を浮かべ、城を見つめる。
「ヒーク!!」
「? ミーラ!?」
東方面から子供を背負ったミーラがやってくる。
「この子は?」
「うん、魔人と戦ってて……」
「子供が?!」
ヒークは驚いた顔で白髪の子供を見た。
「やられる直前でコルネが蹴りを入れたんだよ」
「魔人に?」
「いや……子供に」
「はぁ!?」
ヒークはさらに驚き、子供の体を触り始める。
「この子、コルネの蹴りを喰らった後も魔人に突っ込んで行ったんだよ!?」
「はぁ!? 嘘でしょ!?」
ヒークの目は飛び出て、口をあんぐりと開ける。
「本当だって。魔人の拳で気絶はしてるけど……息はあるから避難させようと──」
ミーラの会話が終わる直前、遮るようにそれは現れた。
「探す手間が省けた」
ローブをなびかせるそれは、いつの間にそこに居たのか、誰も気づかなまま、言葉を漏らした。
「──ミーラ! 早くその子を連れて逃げろ!」
ヒークはそれをみるなり、鞘に収めていた剣の柄を握りしめて居合の姿勢を取った。
「久しぶりの再会だろ? 礼儀作法は知らないか?」
「ガットレイ……」
着ていたローブのフードを脱ぎ、背中を向けて走る女と白髪の子供を睨む。
「まだ絶滅していなかったか……」
「なんの話だ」
ガットレイは手のひらをヒークに向けると、何でもないと首を振るう。
「しかし前回は驚いた。まさか地獄門を応用されるとは……」
「戸締りはしっかりするものだ」
「そうだな……、だから今回は鍵はしっかり締めておいたぞ」
「だから見当たらなかったのか」
ヒークは辺りを見渡し、鼻で笑ってそう言った。
◇
「容易、逃がせた」
「はっ、別に興味が無かっただけだ」
シルバリは笑って両手を上げる。
「今度はここで殺す」
「笑止。やってみろ」
コルネは体勢をとり、シルバリを睨む。
「先行は譲ってくれるのか?」
「紳士の嗜みだ」
「そうかよっ!」
シルバリは表情筋を釣り上げ、コルネに突っ込む。
「──!?」
コルネは驚いた様子のままシルバリの槍を横腹に喰らう。
「どうした? 威勢だけかぁ?」
「なぜだ……見えぬ……」
腹を押さえてコルネはシルバリを睨み続ける。
「あぁ、なるほど……お前も祝福持ってんのか……」
槍を回しながらコルネへ近づく。
「しらねぇーのか? まぁ、いいか。結局は実力勝負になるだけだ」
「理解っ!」
押さえていた腹から手を離し、シルバリへ走る。
「不可視ならば感覚だ」
コルネの飛び回し蹴りで踵がシルバリの顔面に直撃。
「軽いな」
よろける事もせず、シルバリはこの足を掴んだ。
「──ふんっ!」
掴まれた足はそのままで、反対の足で蹴り飛ばす。
「光星の如く、焦燥の撃を『雷光槍』」
飛ばされるシルバリに向けてコルネは光る槍の魔術を3発放つ。
「──っ」
その全てをシルバリは自身の槍で弾き、後ろの建物に足をつけ、コルネの方向へ踏み込む。
その脚力で建物は全て砕け散り、爆音を奏でる。
槍をコルネの左首へ回すが、これを右手の手のひらでコルネが弾き、空いた左手でシルバリをアッパー。
その直前に、シルバリは空中で回転し、槍の反対側の柄でコルネの真反対の首を叩く。
しかしそれをしゃがみで回避。
その隙をシルバリは逃さず、コルネの後頭部へ上からの蹴りを加えた。
だが、それすらもコルネの両腕で防がれる。
「塞がっちまったなぁ!」
両手で掴んだ杖をコルネの顔面を貫く勢いで叩きつける。
「はぁ?」
ついた槍は空気だけを貫き、そこにはコルネはいなかった。
まるでその場から消えたように、高速でコルネがシルバリの背後に回っていたのだ。
「マジかよ!」
「大マジ」
コルネはそう、言い放つとシルバリの背中に重い一撃を喰らわせる。
「──消えっ!?」
全く同じように、シルバリはその場から消え、コルネの背後に立つ。
それに気づいたのか、はたまた予想していたのか、タイムラグがないほどの速さで、背後のシルバリの足元へ回し蹴り。
それをジャンプで避られる。
追撃でコルネの拳、それを槍でガード、シルバリはその場から右回りでコルネの膝へ槍を回す。
コルネは高く飛んで回避をし、ついでにシルバリの横顎へ蹴りを入れる。
「ぶべっ──」
しかしその攻撃は軽く、すぐさま反撃の槍の柄がコルネの鳩尾に突き刺さる。
「ごはっ──」
その槍をコルネは掴み、攻撃の手段を封じる。
が、簡単にシルバリは槍を手放し、コルネの顔へ両拳が連続で殴りかかる。
およそ12発、殴った後、槍を奪い返し、その槍でコルネを弾き飛ばす。
瓦礫に山にコルネは突っ込み、砂埃でコルネの姿が消える。
「勝負はすぐに着きそうだな」
シルバリは鼻で笑い、瓦礫の方へ歩く。
「さぁ、潰させてくれよ。その──」
煙幕になっていた砂埃が落ち着き、コルネの姿を確認しようとしたシルバリは驚いた。
いるはずのコルネの姿がそこには無かったのだ。
「何処に……」
シルバリの背後、その首筋に刃物が近づく気配がした。
「!!」
紙一重でそれを槍で弾き、すぐさま振り向いた。
「剣も扱えるのか」
「嗜む程度だがな」
コルネは近くに落ちていたのであろう、剣を構えてシルバリを睨むでいる。
シルバリの右足が地面を蹴り上げ、コルネの左足が地面を抉りとる。
シルバリの攻撃を剣で弾き続け、隙ができた瞬間、左拳で腹を殴る。
シルバリも負けじと槍を振るう。
それを避け、コルネの剣筋がシルバリの右手を捉える。
その剣先を槍で弾き、振り向いて槍先をコルネにぶつける。
それをコルネは腕で守り、剣筋はシルバリの腰、真横へ振るわれる。
剣を避けるため、シルバリは側転のように空中で飛び上がる。
コルネは飛び上がったシルバリを睨みながら剣筋を無理やり変え、真上の首筋に持っていく。
しかしこの剣筋は弾かれる。
そう踏んだコルネは途中で剣をその場で離し、シルバリを左手で掴み、空いた右手でシルバリの顔面へ連続のパンチをぶちかます。
さらには両手でシルバリの頭を押さえ込み、右膝で顔面を抉る。
「──っ!」
シルバリの意識が消えかける瞬間に、コルネは掴んでいた手でシルバリを真上に高く、投げ飛ばす。
コルネも一緒にその場から飛び上がり、辺りを確認してシルバリをある場所へと蹴り飛ばす。
飛ばされたシルバリは大きな深い川へと落ちる。
「チェックメイトだ。魔人よ」
河岸に立ったコルネの周りにはバチバチと火花に飛び散る。
朦朧とする意識の中、シルバリは水中からそれをを見ていた。
コルネの周りで小さく爆発し続ける火花は、川の中に居るシルバリへ。
まるでスパークする電流のの如く直行し、川の中で爆発する。
それは何度も、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返し、爆発の連鎖を起こしながらシルバリに突っ込んで行く。
一瞬にしてその川は蒸気を上げ、沸騰し始めた。
◇
おかしい……。
元凶のフィーナは倒したはず……。
南区にて僕とミルナは目を見開くほどの光景を目撃していた。
「おかしいの……この人たち……」
ミルナの言う通り、目の前にはここの住人だった人たちが大勢、何かに乗っ取られたかの如く、街を侵攻しているのだ。
さっきから後頭部に攻撃しているのに、全く止まる気配が無い。
僕とミルナは土魔術で攻撃し続ける。
フィーナは倒した、それは事実だ。
じゃあ、この状況は、この人達は、一体誰に操られてるんだ?
近づいてくる住人から距離を取りつつ攻撃を仕掛ける。
まさか……エルの母親と同じ状況?
「師匠! おかしいの!」
ミルナが大声で叫ぶ。
「真ん中にいる人、3年前に葬儀した人なの!」
その言葉のお陰で過信が確信に変わった。
「あの人、元精鋭騎士団の人なの! じぃの同期なの!」
「なるほどね。なら確定だよ」
僕はミルナを見て合図を送る。
「逃げよう!!」
すぐさま振り向き、ミルナと共にその場から走り去る。
さて、何処に逃げよう。
アンデットって、神聖なものに弱いよね……。
「ミルナ! 近くに教会ってある?」
「そっちを左なの!」
ミルナの言われた通り左に曲がる。
「うおっ!」
「きゃっ!」
曲がった途端、金髪の女性にぶつかった。
「ごめんなさいっ。お姉さんも逃げてください!」
「えっ、あ、はい」
目もくれずに謝罪だけをして、すぐさま横切り走り去る。
「勇者パーティが逃げてどうする」
女性の後ろに居たアンティークのゴーグルをつけた男が、女性の頭を軽く叩いてツッコミを入れた。
勇者パーティ!?
すぐさまその場で立ち止まり、踵を返す。
「勇者パーティなんですか!?」
「え、あ、う、うん」
杖を両手で持った女性は振り向いて俺の目を見る。
「助けてください。すぐそこまでアンデットが大量に来てます!」
「ア、アンデッド?! 嘘っ! どうしましょう、。えっと……えっと……、聖職者! いや、教会?!──」
「聖職者はお前だろ」
再び男がツッコむ。
「そうだった」
そうこうしている内に、曲がり角から沢山の死体がゾロゾロと集まってきていた。
「うわっ! す、すごい量!」
「シャアーラ! 早くするんだ!」
聖職者と言われていた女性はその数に圧倒され、慌てて杖を持ち直し、上手くキャッチができず、杖を落とす。
「本当に勇者パーティなのか……?」
不安になった僕は、相手に聞かれない音量で不満をこぼしたが、それは杞憂だったことにすぐにきずいた。
すぐに杖を拾い、聖職者は詠唱を始める。
「無知の血肉、身罷る気息、頽廃死者の跋扈、魂の乖離、不勝への光明、昇天への抱擁よ、地への帰死を──『エクシスヘブネス』」
まばゆく、暖かい光が辺りを包み、あっという間に20体以上のゾンビが土に変わってゆく。
うそ……。
凄すぎる……。
いや、感心するのはまだ早い。
今ので20体近くが消えた、でもそれでもまだ大量のアンデットが湧いて来ている。
「この量、捌ききれない!」
「シャアーラさん! それ教えて!!」
僕は杖を握りしめ、聖職者の横に立った。
「え!? 急に何!?」
「さっきの詠唱を教えてほしいです!」
シャアーラの驚きと、戸惑いの顔を見ながら、僕は頼み込んだ。
「教えるって、無理ですよ!」
「なぜですか」
「だって、まず今のは上級だし、初級自体回復魔術を習得してないと詠唱できないんです!」
「それなら大丈夫!」
その言葉を聞いてさらに困った顔を見せる。
目の前には後ろに居たアンデットが近づいて来ている。
「早く! お願いします!」
「う……、お、教えてる時間なんてないです!」
「なら詠唱の反覆させてもらいます」
杖を構えて集中する。
「わ、分かりました。なら少しだけゆっくりで──」
シャアーラは深呼吸をして、再び詠唱を繰り返す。
「無知の血肉、身罷る気息──」
「無知の血肉、身罷る気息──」
一言一句全く同じ様に繰り返す。
「──頽廃死者の跋扈、魂の乖離」
「──頽廃死者の跋扈、魂の乖離」
これ難しいな……。
「不勝への光明、昇天への抱擁よ、地への帰死を──」
「不勝への光明、昇天への抱擁よ、地への帰死を──」
シャアーラと、僕の周りに蛍のような光の点がポツポツと現れる。
『エクシスヘブネス』
『エクシスヘブネス』
シャアーラの詠唱の約0.6秒後、僕の詠唱が終わった時、二つの光がほぼ同時に放たれる。
「嘘でしょ……。1発ぅ?!」
シャアーラは驚きながら僕を見る。
「これ、魔力の構築と、配分難しいですね……」
「いや、難しいとかの次元じゃないですよ! 私でも四年かかった神聖魔術なんですよ! 何をしたら1発で発動できるんですか?!」
近くにいた半径10メートルのアンデットは浄化され、さっきの3倍以上の数が減っている。
「師匠は天才なの」
「世界は広いんだ。シャアーラ、気にするな」
「まぁ、そう言うことです」
ミルナと、アンティークおじさんは腕を組んで頷きながらそう言った。
「そう言うことって──」
シャアーラの言葉が終わる前に、僕らの前にいるアンデットの間をすり抜けるように、誰かがこちらに歩いてくるのに気づく。
「凄いね! パラペット。本当に勇者に新しい仲間が増えてるよ」
「ヒヒッ当たり前」
それに気づいたのは僕だけではなかったのか、シャアーラもアンおじも喉を鳴らしてそいつらを見ていた。
「おっと、ごめんね。そこ通しておくれ」
身長は僕とそんなに変わらない。
まるで子供の見た目をしているが、人ではない事はすぐにわかった。
隣にいる奴も例外じゃない。
2メートル以上ある腕に、鉄すらも噛み砕けるような歪で大きな牙。
明らかに魔族やその類の生物だ。
「来たか。予想通りだな、シャアーラ」
「はい。報告通りの魔人、トラペジとパラペットです。本当にすべて完璧です。流石はコルネ様」
さっきまでの腑抜けた空気感が一瞬にして凍りつく。
「君たちはここから逃げてください」
「ぼ、僕たちも戦えます」
「いや、ここは去ってくれ。子供は未来がある」
ミルナも2人の意見にに賛成なのか、僕を心配そうに見つめている。
「師匠。ここは逃げるの」
「あ、あぁ」
ミルナの一言で僕は踵を返し、ミルナと共に走った。
悔しいな。
道を走っていると、自分の右手の違和感に気づく。
持っている杖が震えていたことに。
今までやりやった敵とは別次元の威圧感にビビってるんだ。
戦えるとか、啖呵切った癖に、恐怖を感じている自分が恥で、不甲斐がなさすぎる。
「ミルナお嬢様!」
路地を走っていると、正面から衛兵の声が聞こえ、我に帰る。
「大丈夫でしたか?!」
「うんなの。もう帰るの」
ミルナは僕の顔を見て、衛兵に伝える。
「そうですか……無事で良かったです」
「ミルナお嬢様、クルト様、戻りましょう」
「はい……」
僕はしこりが残ったのか、来た道を振り返りすぐにミルナ達に続いた。




