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デスターン  作者: 春川立木
38/72

35話 連戦

買いたいものが沢山ある。

しかし買えないものがほとんどだ。

なぜならお金は沢山ないから。

「「母さん?!」」


周りの人達が驚いて声を上げる。


「え?! エルのお母さんって、魔人にやられたんじゃ……」

「は? どう言う事だよ、何言ってんだ?!」


ガエルはミスカと俺を交互に見て、困惑している。


「あぁ、死んだよ。死体はこの目で見た……。でも、目の前にいる」


俺だって理解ができない。

この状況に、正面に立っている母親に。


「仲間なのか?」

「わかんねぇ、でも敵じゃないはず……」


生唾を飲み、ジリジリと俺はミスカに近づいた。


「本当に大丈夫なのか……?」

「母さん? 母さんなの……?」


距離にしておよそ25メートル。

動く気配のないミスカへゆっくりと縮める。


約20メートルにして、もう一歩足を出した瞬間、目の前に居たはずのミスカが消える。


「──!?」


消えたミスカは気付けば目の前、俺の顔面へ、拳を握っていた。


咄嗟に腕でガードをし、ミーガバードの外壁に衝突する。


「あがっ──!」


急な出来事で、周りに居た全員の思考は遅れていた。


「なんで……」

「おい! 何処が味方なんだよ!!」


何がどうなってんだ……。


見た目もさっきの動きも完全にミスカそのもの。

しかし目の光が全くない。

それに、あの顔面へのパンチ、今までにない戦術……。

ずっと脚だけの攻撃ばかりで、両手の攻撃はできないものだと思っていた……。


「なるほどね……。今までの組み手は手加減してたって事か……」

「エルにぃ……?」


後ろからするカインの声で気づく。


「壁ぶっ壊してキッチンまで来てたのか……」


立ち上がり、首を回しながらその場でジャンプを繰り返す。


「ごめんな、皆んな。少しここを外す、衛兵さんの言う事聞くんだぞ」


振り向かず、目の前の強敵を睨みながら、後ろにいるであろう子供達に伝え、ミスカの元へ飛び出した。


真正面へのストレートパンチ。

ミスカの顔目掛けて、殴る。


「──っ」


しかし、鼻尖に触れる直前、ミスカのつま先が俺の下顎を蹴り上げる。


「真上に飛ぶんなら、都合がいい」


高く上がった俺を見上げるミスカへ狙いを定めて。


「『落華星石』!!」


右踵落としを喰らわせる。


しかし、その手応えはあまりなく、ミスカの両手が邪魔をする。


「おりゃぁ!!!」


ガードした腕を弾くように、限界まで力を込める。


「──えっ?!」


これでもかと、力を入れ、纏魔を込めたはずの俺の落華星石は、気付けばミスカの右手に掴まれていた。


「ちょっ──」


ミスカはそのまま門の外へ俺を投げ飛ばす。


「やびっ!」


飛ばした俺へすぐさま近づくミスカにすぐにガードをする。


追い討ちをかけるようにミスカは俺へ飛び蹴りを与え、さらに遠くへ飛ばされる。


「あぶなっ!」


数メートル飛ばされ、近くにあった煙突の角に捕まり、まだ追いかけてくるミスカへふたたび突っ込んだ。


「今までとは違う組み手だが、俺も今までと違うよ!」


右手を大きく振りかぶる直前の動作のまま突っ込み、それを見たミスカは攻撃を喰らわず、カウンターを決めるため、近くの屋根に捕まり、飛び上がる。


やっぱり、頭横への蹴りか……。

なら───


振りかぶりそうになった右腕をブラフに左足を屋根につけ速度を急激に落とす。

そのまま、タイミングよく180度、後ろを向く。

貯めていた右腕を攻撃が来る位置へ持ってきてガード。


「ドンピシャぁ!!」


思惑通り、ミスカの右足を右腕で止め、左手でその足を掴む。


「お返し!!」


中央区方面へ投げ飛ばす。


「あれ? 門がなくなってる!?」


あの門がこのミスカを生み出した元凶だと踏んでいた。

だからあの門へ飛ばせば終わると思っていたんだが……。


「まぁいいか、殺しても文句言うなよ! 母さん!!」


建物という建物を破壊しながら飛んでいくミスカを屋根をつたい追いかける。


「バケモン同士の戦いだろこれ……」


ミーガバードの庭でガエルはため息混じりの言葉を漏らす。


「あれが本当に8歳児なの?!」


リャンも驚いて口を開く。


「状況はわかんないけど……僕も行ってきます!!」

「クルト君! 待ちなさい!!」


衛兵に止められるが、クルトは無視して塀を飛び越しエルの向かった先へ駆ける。








じぃが死んだ……。

実感が湧かない……。


でも、信じていないわけではない。

現に涙が止まらないから。


あたしは師匠に変わって子供達に慰められながら泣きじゃくる。


ここの中じゃあたしが一番年上なのに、いつも師匠やエルに助けられる……。


わかってるんだ。

ただ魔術を覚えて、目に見えるだけの努力をしたって、冒険者になることも、人を助けることも無理。

このままじゃ何も変わらないことなんてあたしが一番分かってる。


でも、出来ない。

体が言うことを聞かずその場でうずくまってる。


「腹が立つ……」


掠れる声が口から溢れる。


「ミルナ姉?」


ここでのうのうと待ってただけの自分なのに、いざじぃが死んだら泣く。


そんな権利があたしにはあるの?


今もエルと師匠が外で戦ってるのにいまだにここから動こうとしない。


もし、ここで動いたって、結果は変わらないなんて甘えた考えを、ぬるま湯に浸かってる自分に腹が立つ。


いつまでぐずぐず縮こまる?

思っていたって、動かなかったら意味がなんだ。


「動け……」


自分自身に言い聞かせるように、言葉を漏らし続ける。


あたしの中、心の奥底にずっとあったはず……。

なりたい自分になるための考え方が……。


「あたしは──」


腹を括れ、ミルナ・エスタ。


「冒険者になるって──」


もう機会は無い。

ここで変わるんだ。


「決めたんだ!!」


あたしは勢いよく立ち上がり、庭へ走る。


「あっ、ちょっ!!」

「ミルナお嬢様!?」


見えなくなったクルトの後をあたしは追いかける。


「おい、どうすんだこれ……」

「冒険者さん! ここを任せてもいいですか!?」


衛兵はガエルの肩を掴み、焦った顔でそう言った。


「お、おう……」

「私たちはミルナお嬢様を追いかけます!!」

「えっ……マジで?」


ガエルの声は届かなかったのか、衛兵達はすぐさま門の方へ走り去る。


「残党討伐の後は子守かよ……」


ガエルは愚痴をこぼしながら子供達を見た。







気付けば中央区の大広場まで走っていた。


「誰もいねぇ」


建物によってスピードが落ちたミスカは噴水を足場にこちらに飛び出す。


「おっと!!」


ミスカの横からのパンチをしゃがんで避け、懐に潜り込んでアッパーを決める。


しかし、ギリギリで体を反らされ避けられる。

さらには避けた反動のままミスカのつま先が俺の顎を掠る。


「──っぶね」


宙に浮いたミスカを俺は回し蹴りで地面に叩きつけ、追い討ちを、してカウンターを警戒して、飛ばすに踵を落とした。


が、それをミスカは転がり避け、地面に叩きつけた踵を足蹴りし、俺のバランスを崩す。


マズっ──!


隙を与えないよう、すぐに地面へ右手を出し、体を支えて無理やりミスカの首を両足で挟む。


「前にやられた技! 盗んだぜぇ!!」


右手を地面から離し、高速の回転エネルギーを放ち、ミスカを地面に再び叩きつける。


「そろそろか……」


ミスカは素早く立ち上がり、俺に突進。


その攻撃を俺は何もせず右手に魔力を流し込んでひたすら溜める。


ミスカの拳が俺の目と鼻の先にやってくる。


しかし俺は目を瞑らず、ただ自分の右手の拳だけに集中した。


俺の顔にぶつかるほんの数ミリ、スレスレで尖った岩がミスカの顎にクリティカルヒット。


アッパーと同じく、真下から来た衝撃に、ミスカは後ろへ反らされる。


「ビンゴ!! ナイスクルト、最高だね!」


溜めに溜めた右拳は、無防備なミスカの顔面へ向かう。


ミスカの纏魔と俺の纏魔かぶつかりその衝撃で辺りはものすごいほどの衝撃を受け、建物が崩れる。


ミスカは真後ろへぶっ飛び、俺は急いでそれに追いつき、再び拳を、纏魔の残った余熱状態の右拳をミスカへ振りかざす。


「──!!」


拳を下ろした直後、ミスカは自身の両手を俺の目の前で叩く。


猫騙し……!?

いや、そんな事どうでもいい、ここで終わらす……!


強行突破でミスカの顔面を叩く──


「──がっ!!」


ミスカが手のひらを離した場所から何が青色に光る淡い球体が現れ、俺に襲いかかる。


「エル!!」


それは俺の顔面を殴る。

さらには俺の体の中に入り込み、まるでホログラムのように、質量のない物体のように、背後にに飛び出て、背中を殴る。


「──っ!!」


なんだこれ……。

こんな技ミスカは一度も見せたことも、聞かされたこともねぇ。


「やべぇ……」


このままじゃタコ殴りだ……。

一旦距離を取る──。


地面に叩きつけられる前に、両手で地面を押し上げ、ミスカの真上を飛ぶ。


! 二つ?!


俺がさっきまでいた場所で青色の球体が二球浮遊しているのが見える。


なんだよあれ……。


球体は速度を上げ、俺の元へ飛んでくる。


「くそっ!」


それを弾き返そうと、右手で薙ぎ払う。


「マジかよ!」


二つの球は俺の手の中に入り込み、顔に目掛けて上がってくる。


「──ぶぶへっ!」


二連撃の衝撃が顔面を叩く。


任意のタイミングで物質がすんのか?!

どうしたらいいんだよ!


球に気を取られていたらミスカの蹴りが俺の横腹に食い込む。


「ちっきしょぅ!!」


必死にその足を掴み、振り回す。


投げ飛ばすと、再び球が俺を襲う。


頭部、左頬、顎、右胸、腰、鳩尾、左肩、それぞれに球が叩き込む。


やべぇ……。

マズ過ぎる……。


エル自身は気づいていないが、道にいた魔物、北区住民、巨人に魔族と、連戦に連戦が続いた。

その為体力も、集中力も低下しており、さらには体に蓄積されたダメージが未だに残っている。


脳が揺れる……。

目が霞む……。


すでにアズエリックの体は限界を迎えるのに十分な条件が揃っていたのだ。







「何あれ……」


クルトは青い球に目線を合わせ続けていた。


「魔力の糸……?」


それは青い球からミスカにかけて伸びる細い紫色の線。

その線はミスカの頭に繋がっている。


「もしかして、あれで操ってる……? やってみるか……」


杖を構えて、クルトは魔力を貯める。


「ふー」


深呼吸をし、狙いを定める。


いつもの岩じゃダメだ、もっと広範囲に狙える魔術じゃないと、意味がない。

あの糸はきっと魔素の糸……、魔素を断ち切るのなら……


以前、魔術教本に書いてあったことを思い出す。


魔力はほとんどの人間、生物が目視できるが、魔素はごく一部の者にしか見ることが出来ない。


魔力は無毒化したもので、物質を変えることができる。

しかし魔素は物質を変えることが出来ない質量だ。


「なら……、魔素を魔力で叩きつけて薄めることなら出来る!」


膨大な魔力、物質を変化させないシンプルでいて、純度の高い魔力を糸に向けて放つ。


「からの魔術に変換!!」


魔力の塊が糸にぶつかった瞬間、それは弛む。

その隙を突き、クルトはその糸を水に変える。


「成功!!」


糸は切れ、雨のように辺りを降らす。


「エル! 今!!」









「エル! 今!!」


クルトが叫ぶ声が聞こえる。


でももう無理だ。

この攻撃はガードしててもすり抜けて殴ってくる。


きっと俺を殺すまで振り続けるんだろう。


「……エル!!」

「──!」


攻撃が止んだ!?

クルトが何かしたのか!?


朧げな視界で目の前にいたミスカを睨む。

すでにミスカは俺へ回し蹴りをする直前だった。


ダメだ……。

もう頭がまわんねぇ……。


踵が俺のこめかみを蹴り飛ばす。


「エル!?」


もう後ろに回り込んでやがる……。

速ぇーな……。


「エル! 師匠!!」


ミスカが俺の背後で拳を握るのと同時に、ミルナがこちらに走ってくるのが見えた。


「ミルナ!?」


ミルナは手のひらに魔力を貯め、クルトに何か大声で伝える。


やべぇ……、耳が遠い……。


クルトが杖をミルナに向け、突風をぶつける。

それに乗ったミルナは俺に高速で向かってくる。


「エル! 受け取るの!!」


手のひらに貯めたそれは俺の腹に目掛けて撃ち込まれる。


「ぐはっ───痛ってぇ!!!」


不思議とその衝撃で目が覚め、視界がクリアになり、力が湧いてくる。


しかし、背後のミスカは攻撃を続けようとしている。


脳の揺れは止まった。目も見える。耳鳴りもしねぇ。

なんなら体が軽い気がする。


「これならもう、喰らわねぇ!!」


振り向く時間も残されていなかった為、ミルナの腕を掴み、遠心力でミルナを飛ばし、俺も飛ぶ。


「なんだこれ……、なんか気分がいい!」

「回復魔術なの!」


なるほどね。

これならやれる!


「さぁ! 最終決戦だ! 母さん!!」


ミスカが駆け出し、それに続いて俺も駆ける。


先行はミスカの拳。

それを避け、頬を擦り、カウンター。


鳩尾に向かって思いっきりの大振りを喰らわせる。


「クルト!」


俺の声を合図に俺の後ろをクルトが走る。


「いつでも!」

「オーケー」


ミスカの鳩を殴ったついでに逃げられないよう、服を掴む。


「もう1発だ」


左手を握りしめ、今度は顔面に攻撃を喰らわせる。


さらに首根っこを左手で掴み、頭でミスカの頭部を叩きつける。


「今!」


すぐさまその場に離れ、クルトとスイッチ。


「ゼロ距離、最大火力の最強魔術! 「ロックマグナムフレイム』!!」


杖の先端から放たれるのは水と炎の混合魔術。

いつもの先端の尖った岩とは訳が違う、デカく、高速で回転され続けた摩擦熱で熱された岩はまるで鋼の如く固くしなやか。


その威力はミスカの体を貫通して、後ろの建物全てを破壊するほどだ。


「マジかよ……やべぇ。もう喧嘩売るのやめよ」


クルトの放った場所から300メートルまでの距離にあった家などの建造物は全て全壊し、領都を囲んでいる壁すらも跡形もなくなってしまった。


「何事ですか!?」

「ミルナお嬢様! ご無事で!!」


先ほどまでミーガバードにいたはずの衛兵がゾロゾロと駆けつける。


「大丈夫なの」

「……え、なんですかこれ……」


衛兵の1人がその惨状を見て口をあんぐりと開けている。


「さ、さぁ? 気づいたらこうでした」


クルト自身も魔術の威力に驚いたのか、キョドリながら否定をする。


「まぁ、いいです。先ほどの女性は?」

「倒しました」


俺は胸に穴を開けて倒れているミスカを指差して言う。


「そうですか……、では戻っても?」

「はいなの」

「すぐ戻ります」


クルトとミルナは衛兵の言うことを聞き、東区方面へ足を進める。


「アズエリック君?」

「あ、ごめんなさい。少しだけ時間をもらっていいですか?」

「なぜ?」


衛兵は困った顔で俺を見る。


それもそうか、勝手に外に出て、まだ帰らねぇってわがままだもんな。


「師匠! あっちの方に、魔物の反応なの!!」

「な、なにぃ!! そりゃいかん! すぐさま行くぞぉー」


ミルナとクルトが東区とは反対の南区方面へ走り出す。


「ちょっと! 待ってください!!」


衛兵達は全員、ミルナを優先して守るため1人残らず追いかけて行く。


「クルトは嘘が下手だよな」


俺は笑いながら倒れているミスカの元に座る。


「…………」


このミスカはただの死体だったんだろうな。

血すら流さなかったし、一言も言葉を発しなかった。


「…………」


今までの記憶が蘇る。

ミスカに起こされ寒い日に半袖で走らされたこと。

薪割りを纏魔を切らさずさせられたこと。

歯が抜けるほど蹴られたこと。

魚が食べたいからって、パシられたこと。


あれ?

あんまいい思い出なくない?


今にも動き出しそうな母親を見つめたまま口を開く。


「母さん……俺、友達出来たんだ。剣術も習い始めた」


すでに死んでいたミスカに俺は最近の報告をする。


「大人になったら俺、冒険者になろうと思う」


返事なんてしない屍に喋ったって意味がないと思う。

しかし、なぜだか伝えたくなった。


「いつか誰かとパーティを組んで色んなところを旅するんだ。父さんにも会いたいし」


死体はピクリともせず目を見開いたまま空を仰ぐ。


同じく真夜中の星空を見上げて、俺はミスカに伝える。


「今までありがとう。母さん」

「そう」

「え……」


口を開くはずもない、ただの死体のはずなのに、昔っから聞き慣れたその声が、俺の耳に届く。


驚いて、ミスカの方を見ると、すでに左腕と、土塊だけを残して消えていた。


「まさかな……」

「ここにいたのか。迷わせやがって……」


聞き慣れないその声は俺の後ろから発せられた。


「!!」

「あーあ、もう壊れちまったのかぁ?」


その見た目は人間というには程遠い生物。


黒色で短髪の頭、首から上は人間の見た目をしているのに、体はまるで人を殺すために造られたかの如く。


細いようで、筋肉の詰まったその長い腕。

大きな手に、鋭く尖った爪。

足の指が四本、そして何より誰よりも引き締まったその肉体。


「誰だ!」


俺は叫び、威嚇をする。


「そう慌てるな、自己紹介はしようとしてたんだ」

「…………」


そいつはニヤリと笑い、俺を睨む。


「俺は魔人、シルバリだ。世間からは破壊の魔人って言われてる」

「──お前か……」


破壊の魔人シルバリ。

俺の母親を殺した張本人。


あの時の記憶が鮮明に蘇る。


「ん? 俺を知ってんのかぁ?」


シルバリは挑発するように、俺に問う。


こいつが……。

こいつが──

こいつがぁ!!


「お前が俺の母さんを殺した魔人かぁ!!!」


俺はシルバリ目掛けて飛び出した。


「うお! 野蛮だねぇ!」


ブラフもフェイントもないただのストレートの全力パンチ。

怒りに身を任せただけの攻撃。


それをシルバリはいとも容易く正面から俺の拳をキャッチする。


「──っ!!」

「本当にさっきの女の息子か? 弱ぇーじゃねぇか!」


掴んだ拳をグシャリという音と共に軽々と折り、引きちぎれそうなほど引っ張られ、シルバリのもう片方の手が俺の顔面を狙う。


まずい──


その瞬間、俺の横腹に激しいほどの衝撃を生む蹴りが訪れる。


「──あがぁ!!」


その衝撃はシルバリの手を離れ、奥の建物へ衝突する。


「なぜ子供が?」


俺を蹴り飛ばした男はそう言って前髪をかきあげる。


「テメェ! あん時の……」

「?」


男はシルバリを見て首を傾げる。


「謝罪。俺はお前を知らない」

「調子に乗りやがって……」


誰が俺を蹴り飛ばした……。

いや、助けられたのか?


瓦礫の中から這い出て、そいつを見る。


「コルネ! そいつ任せていい?」

「承諾した」


弓矢を持った女が俺の方へ近づいてくる。


「大丈夫? ごめんね、あの人手加減を知らないんだ」

「だ、大丈夫です……」


俺は立ち上がり、シルバリの元へ向かう。


「ちょっと! ダメだって、子供が戦おうなんて……え?! 子供?! なんで子供がここに!?」


俺は女の言葉を無視して、目の前にいる母親を殺した奴へ近づく。


「てかあの蹴りでなんで動けるの!?」


うるせぇ、頭に響いて痛ぇ。

せっかくミルナから回復してもらったってのに。


俺はスピードを上げ、シルバリの頭部へ飛び膝を喰らわせる。


「煙たい」


コルネと言われていた男は俺を掴み、再び同じ場所へ投げ飛ばす。


「コラ! コルネ! 子供にすることじゃないでしょ!」

「不可避、間違いなくやられていた」


痛ぇ、さっきからなんだよあいつは……。

邪魔しやがって、あいつは俺が殺すんだ……。


「本当にごめんね、私たち一応勇者パーティなんだ。だからここは任せてよ」

「────す」

「え?」


か細い声で俺はシルバリを睨む。


「──す──ろす」

「……どうしたの?」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す────!」


瓦礫の中から鉄パイプを取り、トップスピードで俺はシルバリに突進する。


そのスピードに乗せ、さらには自分の投げるスピードを加えて、鉄パイプを投げる。


鉄パイプはシルバリの顔面を捉えていたが、それを簡単に受け取り、俺に返す。


「──!!」

「煩わしいこと限りなし!」


コルネはその鉄パイプを追いかけ、掴み、俺に当たるギリギリのところで止める。


「少年。ここから去れ。邪魔だ」

「うるせぇ──」


止まったパイプを避け、シルバリへ近づき、顔面へ蹴りを入れる。


「──がっ!」


蹴りよりも長いリーチのシルバリの腕は俺の首を掴んだ。


「壊す価値も何もねぇ」


全く太刀打ちができない──

あの魔人も、この男にも……。


掴んだ俺ををシルバリは建物へと投げ、追い撃ちの如く飛ぶ俺を追いかけ、顔面へ拳を叩きつける。


ミスカに喰らわれたものとは全くの差がありすぎるその衝撃に、たまらず意識を失った。







「コルネ、城まで連れてくね!」

「委託」


ミーラは気絶しているアズエリックを背中に乗せてコルネに叫ぶ。


「あとは頼んだよ!」

「承知!」

追記、生前のミスカの魔法の条件は、自然があり、太陽に晒され、敵が一体という縛りがありました。

ですが今回のミスカはただの戦闘死体なので条件が真逆になったらしいです。

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