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デスターン  作者: 春川立木
35/72

32話 クルトの力

どうも、万年金欠男の春川です。

最近chevonにハマりまくってます。

今度のフェスが楽しみすぎます。

結束バンドも来るしね、最高だね。

「こいつは今、自分に都合よく、自分が求めていた幸せを見てる。こっちに戻る気力も覚悟もなくなってなぁ!」


北区、城壁の上で、僕は目を見開いていた。

その目線の先には、目に光がなくなったエルがこちらを見ている。


「ただサシになっただけでしょ」

「はは、バカだなぁ。魔術だけか? 天才くんは」


フィーナはエルに近づき、肩を組む。


「もうこいつはお前の味方じゃねぇ。2対1だぜ」

「──!?」


書庫で読んだことがある。

サキュバスや吸血鬼の魔法には魅了という効果がある。

相手を虜にして仲間にする魔法。


「でも──」

「言いたいことはわかる。あれだろ? 俺が魔族なのに、この魔法が使えるのが不思議なんだろ?」


フィーナはエルから離れ、僕を見る。


「人生経験の差があるから教えてやる。魔法ってやつはな、その人が望んだ能力が生死を彷徨ってる時に発現する能力だ。言わば火事場の底力ってやつ」

「……」


フィーナは僕に近づきながら話を続ける。


「一つは魅了。もう一つは洗脳。あの北区の奴らは後者だ」

「そうなんだ……」


僕はエルの魅了状態を解除するために、土魔術で拳ほどの岩を作り上げる。


エルを傷つけないように、先端は丸めて、頭が破裂しないように回転も弱める。


「やっぱりなぁ、無詠唱魔術か」


フィーナが笑って感心している隙に、僕はその魔術をエルの後頭部に放つ。


狙い通り、その岩はエルを通り過ぎ、Uターンを描いてヒットする。


「え……」

「言ったろ? 今のこいつは前者なんだよ。北区の奴らとは別だ」


狙いは良かった。

当たりも良かった。

その証拠にエルが魔術の衝撃で倒れている。

しかし、気絶どころか、起き上がり、再びそこに突っ立ている。

目の光も消えたままだ。


「マジで……」

「ははは、こいつなら殺せねぇーよなぁ? あの巨人とは訳が違うからなぁ」


やばい。

僕1人でこの女と、エル。

2人を捌ききれるわけがない。


まだこの杖に慣れていないし、例えエルと1対1でやったとしても負けるビジョンしか見えない。


「頑張ってあの巨人を魅了したってのに、お前の魔術で消し飛んだ。その代償を払ってくれよぉ!」


フィーナは飛び出し、僕に長い爪を振るう。


「一旦、逃げよ!」


僕は咄嗟に前方の地面へ杖を向けて、壁を作り出す。


フィーナの攻撃が壁に弾かれた隙に後方へ走る。


「嘘──」


振り返った瞬間、目の前にエルが剣を振り上げて立っていた。


「ふんっ!」


突風を作り、杖を持っていない左手でエルを押し上げる。


狙い通り、エルは後ろに吹っ飛び、北区の居住区の屋根に落ちる。


「まだだよぉ!」


魔術の壁を飛び越し、僕の真上からフィーナが落下してくる。


「せい!」


杖を地面に叩きつけ、ミーガバードで何度も打った花火を打ち上げる。


「熱っつ!」


その威力でフィーナは体制を崩し、チャンスが生まれる。

しかし、そのわずかな隙にさっき、飛ばされていたエルが落下地点から剣を飛ばす。


「あぶなっ!」


再び壁を作り、防ぐ。


「うわっ!!」


その剣は壁を貫通して、僕の顔ギリギリで止まる。


敵になると厄介すぎるね、纏魔ってやつは。

とにかくどっちかを拘束しないと……。


「良い剣だなぁ」


フィーナは壁に刺さった剣を抜き、壁越しに横斬り。


纏魔の効果が切れず付与されたままのその剣は、易々と壁を斬り、僕の頭上を通過する。


「運がいいな」

「まぁね」


実際危なかった。

咄嗟にしゃがんで無かったら、首切られてた。


休む暇もなく、エルが飛び上がり、切られたて宙を舞っていた壁を殴り続ける。


その壁は砕け、さらに砕けた岩を殴り、まるで流星群のように僕に降りかかる。


杖で地面を叩き僕の周りにでかい岩の槍をテントのように張り巡らせ、防ぎ、再び杖を地面に叩いて、その槍を全方向に飛ばす。


その槍をエルは全て回避と蹴りで躱し、さらにはそれを足場にして高く飛び上がる。

フィーナは避け切れず頬、太ももにかすり傷を負い、剣がエルの方へ舞う。


その剣をエルが宙でキャッチ。


僕はエルから距離を取るために再び壁を作り、その壁目掛けて風魔術を放つ。


魔術の反動で後ろに下がり、水魔術を微細な岩を含ませて展開させる。


「逃げ足と運だけはいいんだなぁ!」


フィーナは落ちている岩を持ち上げて、エルに投げる。


空中にいるエルがその岩をまるで野球のバッターのように、剣で放つ。


その岩が魔力を纏っていないのが幸いだったが、驚くべきはそのスピード。

目には負えないその球速は僕目掛けてやってくる。


「無理っ!」


せめてその威力だけを殺すため、展開していた大量の水をその岩に放つ。


津波のように襲う水は岩の威力を殺すが、そのスピードではほとんど無駄。

大量の水に穴を開けて、直進する。


「しめたっ!」


目には見えなかったが、水にできた大きな穴なら見える。

その中心、そこに岩がある。


即座に岩を展開し、尖らせ、回転をこれでもかと加える。


「当たれぇー!」


感覚で放つ岩魔術はギャンブルだ。

しかしその岩はしっかりと球速の岩に当たる。


が、あまりにも時間がなかった状態で作り上げた岩魔術。


エルの打った岩の方が威力があり、強度もある。

僕の作った岩は虚しく砕けて散りゆく。


「知ってたよっ──!」


でも、僕もバカじゃない。

砕けるのはわかっていたから、せめて軌道だけでも変える。

そのための一撃だ。


球速はスピードを変えない。

しかし軌道は違った。


僕が当てた岩は中心から少しズレた右側。

そのおかげか、岩は左にずれて僕の足元に突っ込んだ。


「わっぷ!」


隕石のように突っ込んだ場所は抉れ、地面が大きく揺れる。


集中を途切らせない!

すぐに違う魔術を展開させるんだ。


今度は雷を纏う。


「ガキ1人がよく粘るなぁ!!」


僕の水魔術でずぶ濡れになったフィーナが飛び出す。


「これで終わりだよ!」


濡れたフィーナに向けて放つこの魔術。

あの巨人を消し飛ばしたんだ……。

エルも空中にいる。

被害は無いはずだ。


自分に被害がないように威力を少し弱め、射程を測る。


まだ、まだだ。

もう少し距離を……。


「死ねやぁ!」

「ここだぁ!! シンライ!」


その雷撃はフィーナの足元に落ち、水浸しの床からずぶ濡れのフィーナの足に駆け上がる。


「ぎぃぎゃぁぁ!!」


すぐさま自分の周りに魔術で壁を作り出す。


「これで終わったよね……」


息切れをしながら壁で見えない所にいるフィーナの方向を見る。


「はぁ、はぁ、はぁ、なるほどなぁ」

「!?」


その声はフィーナのもの。

あの雷では致命傷にすらならなかった?


「白髪、その壁壊せ」


この声と共に目の前の視界が開ける。


「おもしれぇー魔術の使い方だ」

「うそ……」


先ほどの悲鳴とは裏腹にピンピンとしているフィーナがそこには立っていた。


「前の俺だったら気絶してたかもなぁ」

「前……?」

「言っただろ? 何度も言わせたいのか? 肉親を殺せば覚醒するって……あぁ、お前には言ってなかったなぁ」


どういうことだ。

肉親を殺す?


「その口ぶりだと、さっき親を殺してきたってこと?」

「あぁ、そうだぜ。ジィーナスは俺の父親だ」

「──?!」


ジィーナスさんが実の父?

でもジィーナスさんは人間だ。

それにまだ死んでいないはず……。


僕は右耳のたぶを触る。


待って、もしジィーナスさんが父親だとしたらこと魔族は異端児……。

それにジィーナスさんを殺す理由もできる……。

さっき岩槍で受けた傷が塞がってるし、雷の攻撃を喰らってこの反応……。


全てが一致する。

パズルのピースが、ハマる感覚。


「なるほどね。だからか……」


僕が応急処置だけでなく、完全に治していれば……。


「ジィーナスさんはいい人だったよ」

「はぁ? んな訳あるか! 10才の頃、俺を捨てたんだ」

「僕は5歳で捨てられたよ」

「…………」


その言葉の返答に少し戸惑う様子を見せる。


「だけど、お前は純粋な人間だろ!」

「まぁ、そうだけど」

「俺は違う。人間でも、魔族でもない。何処にいても腫れ物だった! 誰からも愛されなかった!」


フィーナは叫ぶ。


「どれだけ今まで苦労したか……、俺だって、俺だって、あっちの世界に行きたいんだよ!」


目線が僕からエルに変わる。


「その結果がこの惨状ってことなの?」

「あぁ、せっかく腫れ物の同志が出来たのにな。お前のせいで全部ぶっ壊れたんだ」


僕は少し黙り、城を見つめる。


「……でも、ジィーナスさんを殺したのは君だよね」

「黙れよ、お前。そろそろ魔力切れだろ? あれほどポンポンと魔術を放ったんだ」

「まだだよ。まだ元気ピンピンだね」


僕は杖を回して構える。

フィーナも同様構えて、僕を睨むんだ。







「美香……」

「ん? なんでしょう」


優しく微笑む顔は何故か俺を安心させる。


「忘れ物?」

「あ、バレた? スマホ机に忘れちゃって」


美香はそういうと、教室の扉を開ける。


「トシヒデ君、もう帰るんでしょ? ちょっと待ってて」


教室に入る直前、美香は振り向き、手のひらを見せる。


「えー、なんでぇ」

「だって、こんなに可愛い幼馴染が1人で帰るの危ないじゃん」

「確かにな、こんなに可愛い女の子がいたらストーカーが100人居てもおかしくないな」


俺は真顔で顎に手を置いて頷いた。


「ちょっと、真剣に肯定しないでよ。冗談なのに恥ずかしいじゃん!」

「ごめんごめん。待っとくわ、超絶可愛い幼馴染と放課後デートするために」

「おい」


美香はツッコミを入れると、教室に入って行った。


「はぁー」


マジかよクルトさんや。

解除方法の相手って美香かよ……。


俺は地面にへたり込み、頭を抱える。


どーしよ。

マジで、どーしよ。


美香にキスをする?

無理があるだろ。

ここが俺のイメージした世界だからって、無理やりは嫌だ。


てか、なんでキスなんだよ。

手を握るぐらいにしとけや。


「うーん。クルトさんや、もっと簡単な解除条件なかったんですか?」


俺は誰もいない教室を見つめる。


「あれ? 美香が居ねぇな」


魔法の影響か?

クルトも居ないし、空間そのものが扉で区切られてんだろうか。


「あったあった、待たせたね」


そうこうしていると美香が教室から出てくる。


「誰か居たか? 教室に」

「え? 怖っ、さっき出てきたんでしょ?」


スマホをポケットに入れながら、驚いた顔で俺を見る


「いや、急いで出てきたから。誰も居なかったら教室締めねーとって、思って」

「あ、鍵! 教室に忘れてきた! ちょっと待ってて」


美香が再び教室に戻る為、扉を開ける。


「──!!」


ふと、扉の奥を見ると、そこには何もない真っ暗なモヤがかかっていた。


なるほどね、自分から扉を開けないと次の場所へは行けないのか……。

少しずつだけどわかってきた、この魔法が。


「もし、この状態で中に入ったらどうなるんかな?」


少し興味はあるけど、取り返しの付かねぇー事になったらまずいな。

やめとくか。


窓へ歩きながら、廊下の床を眺めて思い出す。


「ここで死んだんだな、俺は」


廊下の窓から誰も居ない裏庭を覗く。


誰も居ねぇ。

本当だったらこの時間帯、いつも陸上部が使ってる場所なのに……。


「再びお待たせ……。ん? 陸上に興味あるの?」


俺の隣に美香が近づき窓を見る。


「うわー。毎日そこで走るのキツそー」


美香の目には陸上部がいるのだろう。


「興味は無いけど、毎日走る辛さは痛いほどわかる」


窓から離れて、美香の手にある鍵を受け取って、教室のドアを締める。


「よし、職員室に行くか……」

「いいよ、私が最後だったし」


美香が鍵を受け取ろうと、手を差し出す。


「1人で職員室ってなんか嫌じゃね? どうせ一緒に帰るんなら2人で行こうぜ」

「え、あ、うん」


鍵をくるくると回しながら廊下を歩く。


「さっき、毎日走る辛さがわかるって言ってたよね」

「ん? あぁ」

「走ってるの?」

「まぁ、ここ3年ぐらいは毎朝走ってるよ」

「へー、凄い」


階段を降り、踊り場を歩く。


「サッカー部、今日休みなんだ」


踊り場の窓から見えるグラウンドを見た美香がそう言った。


「本当だ、野球部は?」

「筋トレしてるよ、ほらあそこ」


美香が指を指しているが、そこには何も映っていない。

誰も居ない運動場は少し寂しく、夕陽を浴びている。


「筋トレきついよな、やり続ければ楽しくなるけど……」

「筋トレもしてるの?」

「最近な」


階段を降りきり、職員室に向かう。


「帰り、スーパー寄ってもいい?」

「夜ご飯か?」

「うん。今日親が遅くなるから」


そうだ。

美香は両親どちらも共働きで、小学生の弟の為によくご飯を自分で作ってたんだ。


「また夜ご飯食べにきてもいいからね。翔も喜ぶし」

「そうだな。今度行くよ」


守れない約束をするのは、なんか嫌だな。


美香の料理は本当に美味かったし、翔と一緒にやったゲームも楽したかったな。


職員室の前に立ち、扉を見る。


「あ、」

「ん? どうかした?」

「いや、なんでも」


やばいな、せっかくクルトが条件を揃える方法を教えてくれて、その条件を達成できる美香が居るってのに……。


この扉を開ければまた別の場所に飛ばされる。


かと言って、ここで美香にキスをするのも心の準備が出来てない。


「んー、まっいいか」


何とかなるだろう。


職員室の扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。


「失礼しまーす……」








やばい、やばい。

さっきと全然動きが違う。


北区の城壁上で、僕はひたすら走って逃げていた。


魔力の尽きはない。

しかしエルの攻撃に、フィーナの攻撃。

この二つが本当に厄介だ。


さらには強力な魔術を放つタイミングで、エルがフィーナに重なってくる。

お陰でフィーナを殺すことができない。


親友のエルを殺すのは流石に……。


「邪魔なんだよ。エル!」


振り返り、魔術を放つ。


「ハッ、馬鹿の一つ覚えみてぇーだな!」


フィーナの前にエルが入る。


「馬鹿は2人の方だねっ!」


フィーナを殺すほどの威力ではなく、エルを飛ばすほどの威力で生成した土魔術のでかい岩。


それはエルの真正面に放たれ、顔面ギリギリで90度曲る。


「正面じゃないっ! 真横から!!」


側面に直撃した魔術で、狙い通り、エルが城壁から落ちる。


「よっしゃぁ! もう1発!」


今度の生成させた岩は鋭く、できる限り固く、高速の回転を乗せる。


「もう、効かねぇーんだよ!」


フィーナは、自身の耐久に自信がある。

だから逃げずに、こうやって突っ込んでくる。


予想はしていた。

だけど、ここまで簡単に挑発に乗ってくれるとは……、やり易い。


「もっと、もっと、速く、鋭く、ギリギリまで溜めろ」


どんどんと加速する回転の空気摩擦により、高温になる。

その岩は赤く輝きを放ち出す


もうエルが下から飛んできている。

フィーナもすでに15メートル程に近づいて来た。


今すぐにこの魔術を放ちたい。

だが、まだだ。

まだ、限界じゃない。


回転する岩のせいで、周りの空気が乱れ、突風を生み出す。


僕のローブと黒髪が風で荒ぶる。


距離にして約6メートル。

フィーナは目と鼻の先。


この瞬間、フィーナが左足を前に出したそのモーション。


溜めに溜めた魔術を放つタイミング。


岩は少し後ろに下がり、勢いよくフィーナにぶっ飛ぶ。


フィーナはそれを防ごうと、右手を前に出した。


轟音を忘れ、ただ真っ直ぐに、飛ぶ岩は誰の目にも止まらず、遅れて爆音がエスタ領都中を覆い尽くす。


フィーナの右手にぶつかり、岩は砕け散り、火花を降らせる。


「ハァハァハァ……」


流石にやったはず……。

僕の最大の攻撃だ、これ以上のことは出来ない。


土煙がフィーナを隠し、見えやしない。


「どうだ……」

「驚いた──」

「!?」


土煙の中、フィーナの影が立っている。


「マジで?!」

「マジ?! じゃねーよ。俺の腕がどっか行っちまった……」


ゆっくりと土煙から出てきたフィーナは、消し飛んだ右腕を庇っている。


「まぁ、そのうち生えてくるか……」


フィーナの隣にエルが着地し、一緒になって僕の方へ近づく。


やばい。この距離……。

魔術の展開よりも、2人の攻撃の方が圧倒的に速い。


逃げるにも、もう体力が……ない。


「どっちにやられたい?」

「ハァ……ハァ……、どっちって?」


バレずに魔術を展開させれるか?

少しでもいい、時間を稼ぐ方法が……。


「そりゃぁ、俺か、白髪かのどっちかだ」

「選択権が……僕に……あるの?」


右手で握っている杖に魔力を流し込む。


「まぁな。どっちがいい?」

「どっちって……、エルに殺されるのはごめんだね……」

「そうか、じゃぁ、俺だな」


フィーナが左手を振り上げる。


「でもね……、君に殺されるのはもっとごめんだよっ!!」


杖をフィーナに向けて、閃光を放つ。


「──ぐっ! 目眩しか!?」


もう魔術の攻撃じゃほとんど意味がない。

僕じゃこの魔族には勝てやしないのなら、逃げるしかない!


走れる程体力が残っているわけじゃない。

だけど、逃げなくちゃ死ぬのなら、逃げるしかないんだ!!


「逃げるな! おい、白髪! お前がやれ!」


フィーナの命令に従い、エルが僕を追いかける。


「く……」


エルとの追いかけっこだと、分が悪い。

なら最後のギャンブルだ!


僕は振り返り、エルに突っ込んでいく。


「うおーーー!!」


エルは僕を殴るため、拳を握りしめて突っ込む。


ギリギリだ。

ギリギリでかわして、フィーナの元へ。


エルの拳が僕の顔面に到達する前に、しゃがみ込み、スライディングでエルの後ろへ駆け込む。


「危なっ!」


頭上をエルの拳が通過し、紙一重で躱す。


驚いている暇なんてない。

急いでフィーナの元へ駆ける。


逃した僕を再度追いかけるエル、フィーナへ近づく僕、目を擦るフィーナ。


完璧だ。

完璧な位置関係。


「いける!」


エルが僕の後頭部へ、飛び蹴りを入れるタイミング。

そのタイミングだ。

ミスれば僕が喰らい、ただ事では済まなくなる。


殺気──!


後ろからエルが近づいた合図。


僕は振り向き、タイミングを測る。


「嘘──?!」


振り向いた時には既にエルの踵が鼻の先端に触れる直前だった。


あ、ダメだ……。

やられる────








「あぁ、やっちまったぁ! 勿体ねぇ」


職員室に入るとそこには、ココ村の実家の庭だった。


言えるタイミングも、キスをするタイミングもねーよ。


俺は地面にへたり込み、1人反省会&1人作戦会議を開く。


「えっ?! 何処ここ??」


その声は俺じゃない。

それにさっきまで聞いていた声だ。


驚いた俺は勢いよく振り返る。


「えっ!? 美香?!」


そこにはついさっき一緒にいた美香だった。


「何で……いや野暮だな」


ここは俺が望んだ世界線だ。

ここに美香がいるって事はそういう事だろう。


「トシヒデ君? だよね」

「あぁ」

「髪染めた?」


美香に言われて気づく。

俺の姿が元に戻っていることに。


「てか、ここ何処? さっきまで学校だったじゃん。それにその姿……コスプレ?」


これはチャンスだな。


早くあっちに戻らなければクルトが危ない。

もう、言うしかない。

覚悟を決めろ、俺。


「美香、言わなきゃいけないことがある」

「え? ここの事?」

「あぁ」


俺は立ち上がり、美香を見る。


「この村はココ村だ。俺の生まれた場所」

「ここ村? 変わった名前──」


美香の話を遮って話を続ける。


「俺はさっきの学校で死んでここに生まれた。この姿がこの世界の俺だ」

「死んだって、何言ってるの?」

「そう言う反応するだろうな、普通。美香は覚えてないか?」


そう返答すると、美香は複雑な顔を浮かべた。


「続けるぞ」

「うん……」


美香は納得しない様子で頷いた。


「この家が俺の実家。母親が死んで俺は今、違うところに住んでいる」

「お父さんは?」

「遠くにいるはずだ」


俺はゆっくりと歩き、門柱を出る。


「そして今住んでるところで俺は魔法にかかり、ここにいる」

「……そっか」


美香の頭にさらに?が増える。


「その解除条件がキスらしい」

「え?」

「訳わかんねぇーだろ? 俺も訳がわからねぇー」


村の外を歩く。


「俺は死んだからもうお前に会えないと思っていた……」

「う、うん」

「だが、こうやって話すことができる」


川に造られた橋を渡る。


「ずっと言いたかったことがあったんだ」

「え……あ、うん」


橋を渡り終え、振り返る。


「あれ? 髪戻ってる……」

「本当だ……、制服まで戻った」


本当によく分からん魔法だな。


「そんな事はどうでもいいだ。言いたい事とは別だし」

「そうなんだ……」


美香は川を覗き込む。


「美香、変なことを言うけどさ──」


いざ言葉にすると喉で引っかかる。

体が熱くなる。

脳が止めろと言っているようだ。


「トシヒデ君、私何言うかわかったかも……」

「え?」


美香は川から視線を外して俺を見つめる。


「キスして欲しいの?」


心臓がスピードをあげる。

呼吸がしづらい。


違う。違うんだ。


「いや、そうじゃ……」

「でも、キスしないと戻れないってさっき──」


困った顔で俺を見ないでくれ。

そんな顔じゃないんだ。


「違う! 俺はただ、お前が、お前が……」

「え……?」


なぜだろう視界がぼやける。

顔がよく見えない。


「トシヒデ君? 泣いてる?」

「え、あぁ、わかんねぇ」


涙を拭き取り、美香を見る。


「もう会えないんだ。美香」

「…………」

「しょうもない会話も、クソ上手い手料理も、夏休みの課題だって一緒にできない」

「課題は自分でしてよ」


美香の真面目なツッコミに少しだけ助けられる。


「最後になるんだ。ここでもう2度と俺は美香を見る事はないし、美香は俺と2度と話す事はない。出来ない」

「嫌だ。私はトシヒデ君と何度も話すし、何度だって前に立つ」


だから、それが出来ないから言ってるんだ。

俺だって嫌だ、でも、ダメなんだ。

嫌だとわがまま言っても無理なものは無理なんだよ。


「それに、私、私、トシヒデ君が大好きなんだよ!!」


美香は叫んだ。

恥ずかしさの葛藤と、逃げる俺の思いを吹っ飛ばすための叫び声。


「何で先に言うんだよ……」

「ごめん……」


涙がさらに溢れ出る。


「俺も、美香が、好きだ」

「うん」

「それをずっと言いたかった」


美香は泣きじゃくる俺の頬を触る。


「ずっと、ずっと、ずっと言いたかった。でも言えずに死んだんだ」

「私も言いたかった」


美香の頭にから何かが生えてくる。


「美香? 頭……」

「えっ?! 何これ」


それは猫の耳だ。


「トシヒデ君も」

「あ、」


美香が俺の頭を見つめる。

服装も、こっちの世界に戻っている。


「トシヒデ君なんか薄くなってるよ」

「あぁ、多分条件が揃ったんだな。キスなんかじゃなかったんだ」


美香が俺の涙を拭き取り、笑顔を見せる。


「時間なんだね」

「魔法が解けたんだ。もう戻らねぇーとクルトが心配だ」

「そうだね。じゃぁ、行ってらっしゃい」


涙はもう出ない。

お陰で最後に見る美香の顔が、最高によく見える。


「行ってくる」









やばい、避けきれない──


エルの踵が鼻の先端に当たる直前。

誰かが叫ぶ。


「──反らせ!!」


その声に体が反射的に反応して僕は体重を後ろへ傾け、背中を反らす。


エルが持っていた剣を地面に突かせ、その反動でほんの少しだけ、位置が変わる。


僕の鼻を少しだけ擦り、チッ! と、音を立てて、エルの踵がフィーナの下顎にクリティカルヒット。


「──うべっ、!」


フィーナは目を瞑ったままで、避けきれず、城壁から蹴り落とされた。


エルは地面に着地をして、剣を肩にかけ、城壁に足を置き、落ちていった魔族を睨みつける。


「良いもん見してくれたなぁ! クソ魔族がぁ!!」


睨むその目には光が戻っていた。


「エルっ!!」

フィーナの魔法は、相手に自分自身を惚れさせ、愛を囁くことが発動条件です。


それの最も効率が良い方法が愛を囁き、キスをすることらしいです。

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