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デスターン  作者: 春川立木
34/72

31話 魔法

みなさん。ヨーグルトと野菜と、牛乳を摂りましょう

一週間続けるだけで劇的に体調が良くなります。

最近疲れが溜まらないんです。

本当にたまんないね。

よくある日常。

洗濯物を干しているロンの隣りで剣を振る。


「あれ? 俺、さっきまで何してたっけ……」


何か忘れている気がする。

大事なことを。


「エルくん。剣の振りがブレてますよ」

「え、あ、あぁ、すみません。何か少し忘れている気がして……」


横目でクルトが指揮者のような杖で放った魔術。


あれ?

でかい杖は?


ふと、思考が過ぎる。


「ん? 元からあの杖だったよな?」


何かがおかしい。

デジャブとは少し違う何か。


素振りを止め、ロンに質問をする。


「ミルナお嬢様って、無詠唱魔術使えるようになってなかった?」

「え? 何言ってるんですか、ここ3ヶ月修行してる通り、まだですよ」


その言葉に何かが引っ掛かる。


「エルくんだってまだまだなんですから、すぐ追い抜かれてしまいますよ」

「いや、剣術と魔術は別ものですって」


なんだ、まだ無詠唱使えないのか、てっきり1ヶ月でマスターしてるもんだと……。

少し安心した。

俺だけが全然成長していない不安があったから。


「ジィーナスさんは?」

「今日は都合で来られないらしいです」


1人で来たんだ。

大丈夫なのかよ、バレたら領主さまに怒られるんじゃないのか?


「でも、よかったですね。領主さま直々に教師としてクルトくんが指名されて」

「教師?」


領主公認のミルナの先生になったの? クルトは。


「エルくんが直談判したんでしょう? お堅いカモク様に納得させるって意気揚々と、城に潜入したじゃないですか」

「……、あ、そうだった」


やはりおかしい。

辻褄が合わない。


「でもエルくんは体術の他に交渉力も優れているとは、恐ろしいですね」


城に潜入した記憶も領主と会話した覚えもない。

それよりももっと大事で、今すぐやらなくちゃいけないことがあったはず……。


「まぁ、剣術はまだまだですけどね」

「伸びしろってやつですよ、ロンさん」


俺は再び剣を振った。


まぁ、気のせいだろうな。

昨日見た夢でも思い出したんだろう。


「痛っ──」


何度も剣素振りをした成果だろうか、手の豆が捲れた。


「クルトに治してもらうか……いや──」


頑張った証であるこの怪我を簡単に治すのは少し勿体無い気がする。

確か食堂に医療箱があったはずだ。


「軟膏でも塗っとくか……」


俺は木刀を地面に突き刺し、裏口に手を掛ける。


「ちょっと薬取ってくる」

「お、皮が剥けましたか、おめでとうございます」


ロンは笑って俺にそう言った。

きっとロンもクルトに治してもらうより、自力で治す方に賛成なんだろう。


「ありがとうございます」


そうロンに伝えて扉をくぐる。









「おかえり、エル」

「……は?」


ミーガバードにいたはずの俺は、扉に入ると食堂ではなく、ココ村の実家の玄関に立っていた。


目の前にはこの世には居ないはずのミスカが笑顔で出迎える。


「は? ってなによ。せっかく朝のトレーニングから帰った可愛い息子のために、丹精込めた朝ごはんを用意してあげたのに」

「ごめんなさい。ありがとうございます」

「そ、じゃぁ、早く食べて」


ミスカに急かされ俺は急いで朝ごはんを頬張る。


「…………」

「え……、なんで泣いてるのよ」

「え?」


ミスカに指摘されて気づく。

左目から垂れる涙。


「なんでだ?」

「そんなに美味しいってことかしら」


ミスカは嬉しそうに俺を見る。


「た、多分……」

「多分じゃないでしょ!」


おかしい。

さっきまで確かにミーガバードにいた。

それがどうしてだ? 

なんで母さんがいる?


「食べ終わったら、特訓よ」


あぁ、なんか懐かしいな。

懐かしい?

何を言ってるんだろうか?

俺はここに生まれてここで育って来た。

ミスカの料理を食べて、一緒に手合わせして、トレーニングをして来た。

今までも、これからも。

そうだろ?


「今日こそは勝つ」

「無理無理、昨日なんて三回も気絶してたじゃない」

「う……」


実の息子を三回気絶させる親が目の前に居るとは、恐ろしい。


「母さんは強いけどさ」


料理を飲み込み、ミスカの目を見て伝える。


「何その右足出した後左足を出すと歩けるみたいな当たり前な事」


あたりまえ体操かよ。

懐かしいな。


「1人で死にに行かないでね」

「は? 死ぬわけないでしょ」


なぜその言葉が出たのか不思議だった。

だけどなぜか伝えたかったその言葉。


夢で見たのか、はたまた考えたくもない妄想か、ミスカが原型を留めず死ぬ姿が想像できた。


「お母さんは強いのよ。エルよりもゲールよりもね」

「父さん……会いたいな」


俺のそのこぼした言葉にミスカは少し黙る。


「あ、父さんで思い出した。無詠唱魔術を使える友達が出来たんだよ!」


ふと、思い出す。

ミーガバードの事、そこで出会ったクルトの事を。


「クルトって言うんだけど、黒髪で同い年の男の子なんだ。常に魔術の事を考えてるか、寝ているかのどっちかしかしてない友達」

「へー、こんな村に同い年の子がいたんだ」


ミスカはパンをちぎり口に運ぶ。


「いや、ココ村じゃなくてエスタ領都のミーガバードって所」

「ん? エルってエスタ領都に行った事あったっけ……」


あれ?

まただ、また辻褄が合わない。

やっぱりおかしい。

俺が経験して来た記憶とミスカの記憶、さっきまで居たはずのミーガバードでしたロンとの会話。

どれもが何かズレている。


それに何か忘れているようなこの気持ち、やっぱり変だ。


「エル、今日は休みなさい」

「え?」


ミスカは水を飲み干し、俺にそう伝える。


「どっかの誰かから魔法でも貰って来たんじゃない? 寝れば治るはずよ」


何その病気みたいな理論は────


「魔法……っ!!??」


思い出した!

そうだ、そうだった。

さっきまで俺は領都の北区で魔族と戦っていたんだ!


なんで忘れていたんだ。

なんで思い出さなかったんだ。


早く戻らないとクルトが危ない!


「母さん。俺、行かないと」

「どこに?」

「領都に戻るんだ」


俺は立ち上がり玄関に急ぐ。


「待ちなさい。何を言ってるのか全くわからないわ」


ミスカも立ち上がり、俺の行く手を阻む。


「簡単にでいいからお母さんに教えなさい」


教えるって言っても、伝えたところで信じてくれないだろ。


「お母さんはエルの味方よ」

「…………」

「教えて」

「……わかった」


どうせ信じてくれないのなら、嘘をつく必要もない。

今まであった事を盛らずに嘘なく伝えよう。









「なるほどね。私が魔人に殺される……」


嘘じゃないにしろ、心が苦しい。

張本人に死んだ経緯を伝えて、そのせいで俺が1人になってエスタ領都に辿り着く話。


「……いや、全部作り話……」


俺には子供が出来たことはないが、わかる。

自分のせいで、息子がどんなに辛いことを背負わされたのかと言う罪悪感。


「嘘つくんじゃないわよ」


やっぱり信じてもらえないか……。


「作り話って嘘ついて自分が悪者になれば、私の気が楽になるの?」

「え?」

「信じるわよその話。エルは嘘なんかつかないし、私のことだから1人で戦って死ぬ未来が簡単に想像つくもの」


そうか、そうだよな。

俺の母さんはそんな人だ。

俺のことをよく知っていて、俺のことを最優先で考えてくれる。

それがミスカ・フォールだ。


「行って来なさい」

「うん」

「そのために今までスパルタでやって来たんだから」


ミスカは笑って俺の前から外れる。


「そのクルトくんって人を助けてあげなさい。そしてついでに私の勇姿を盛りに盛って伝えといて」

「はは、わかったよ」


俺は玄関の扉を開ける。


「エル」


外に出ようとしたところで呼び止められる。


「?」

「大きくなったね」


その言葉にまた、涙が溢れそうになる。


「行って来ます!」


溢れそうな涙を堪え、俺は元気一杯の声で外に出た。








「マジかよ……」


見慣れた玄関。

嗅ぎ慣れた懐かしい香り。

下駄箱の上に置かれた手作りの造花飾り。


玄関の姿見を見て確信する。

白髪じゃなく、黒髪で、背も高くなってる。

服装も気付けば制服に変わっていた。


「前世の実家だ……」


きっちりと並べられた靴は懐かしい母親を思い出す。


「おかえりトシヒデ」

「た、ただいま」


懐かしいはずなのに、聞き慣れた声と見慣れた顔の母さんがそこには立っていた。


まぁ、そうだよな。

この魔法の解除条件がわかっていない以上、出れるわけがない。

もしかしたら、自分の意思が強ければ解けると思っていたが、そんな簡単なものじゃない。


「大変だったね。大丈夫だった?」

「なにが?」

「何がって、ほらちょうどニュースやってるよ」


俺は言われるがまま、後ろをついて行き、母さんが開けた引き戸を締めて、リビングへ向かう。



「なるほど、そう来たか」


テレビのニュースに映っている学校は、紛れもなく俺が通っていた学校だ。


アナウンサーが言うには新任でやって来た教師が、銃を乱射する元教師の本庄守を、素手で戦意喪失させたということだ。


「すごいわね、この新任って、籠原先生のことよね。見た目はすごい若いのに流石だわ」


確かに本庄の代わりでやって来たのは体育教師の籠原先生だ。

でも、いつも遅刻をしてやってくるため、俺が死んだ世界線では犯行時刻には居なかったはず……。


「噂では弾を素手で掴んだって話よ」

「そんな出鱈目な……」


いや、やりそうだなあの人なら。

どんなトラブルにあっても冷静だし、ありえんほどの身体能力してるしな。


そんなことを考えていると、俺の腹の虫が鳴る。


まじかよ、今さっきミスカの朝ごはんを食べたところだぜ。

いつ俺が食いしん坊キャラになったんだよ。


「昼ごはんまだ食べたなかったんだ」


母さんに問われ、俺はテレビで時刻を見る。


12時半……。


「それもそうよね、警察の事情聴取とかで食べる機会が無かったでしょ。ちょっと待ってて」


母さんはそのまま台所へ向かい、冷蔵庫から昨日の晩御飯の残りを電子レンジで温める。


「扉をくぐると時間も変わるんか……」


俺も台所へ向かい手を洗う。


いい匂いだ。

あっちの世界では嗅げない和食の香り、この匂いは肉じゃがだな。


冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぐ。


何年振りの緑茶だろう。

色すらも懐かしいと思える。


コップに入った緑茶をまじまじと見つめ、一気に飲み干す。


「ぷはぁーーー」


懐かしい。

うまい。

最高だ。


「はい、トシヒデ。残り物だけどお昼ご飯」

「ありがとう」


この白米の輝き、それに俺が中学から使っていた茶碗に箸。

そしてこの肉じゃが。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「どうしたの、そんなにお腹空いてたんだ」

「あ、あぁお腹が空きすぎて……」


手を合わせ、ジャガイモを掴む。


なんと言う色合い、旨みが染み込み、湯気が立つこのジャガイモは、言わば金塊の如き輝き。


ゆっくりと匂いを堪能しつつ、口に運ぶ。


「はっ!!」


美味。

とても美味。


また涙が溢れそうになる。


それにこの米、なんなんだ。

パンなんかじゃ再現できないこのコンビネーション。

たまらない。


「たまらん」


その後もひたすら俺は母親の肉じゃがを頬張った。









「ご馳走様でした」


食器を重ねて台所へ持っていく。


「いいよいいよ、そこ置いてて。今日は大変だったんでしょ」

「いや、これぐらいはやるよ」


てか、やりたい。

こっちの世界は全てが懐かしいまである。

皿洗いなんかでも感動できる自信がある。


俺は洗剤を手に取り、スポンジに染み込ませ、皿を洗う。


素晴らしい。

なんて画期的なものなんだ、このスポンジと言うものは。

この洗剤もよく汚れが取れる。

こんなものが異世界にあったら、ロンさんがどれだけ喜ぶか。


「いや、魔族!!」

「うわっ、びっくりした」

「あ、ごめんなさい」


危ない、ついついこの懐かしさで忘れるところだった。


食器を洗い終え、手をタオルで拭く。


でも、もういいんじゃね。

ここならゆうじもいるし、美香もいる。

全部がハッピーエンドの世界線だし、そもそも死ななかったから異世界に行くルートじゃなくなったわけだし。


日本食美味いし。


いや、ダメだろ。

ダメに決まってる。


クルトもロンもミルナもミーガバードの子供達も待ってるはずだろ。

それにゲールにあって、ミスカのこと伝えなきゃいけない。


帰らないと。

あっちの世界に。


「母さん」

「ん?」

「出かけてくる」


俺はソファーにもたれかかってテレビを見ている母親に挨拶をする。


「夜ご飯は?」

「いらない」


と言うかここにはもう帰ってこない。

日本食は恋しいし、この家は落ち着くが、そうじゃない。

俺のいるべき場所はあそこの世界だ。


「そう。気をつけて行ってらっしゃい」

「うん」


玄関に入る引き戸の取手に手をかけ、


行って来ますとは言わない。

この言葉は生きて帰ってくるって意味だ。

ここへは帰ってこない、帰ってこれない。

だから──


「今までありがとう。元気で」


リビングにいる母さんに聞こえるように、俺が死んだ時に伝えられなかったものを、できるだけ大きな声で気持ちを伝え、玄関へ足を踏み込んだ。








「あ、トシヒデ忘れ物?」

「まだ終わらないよなそりゃ」


今度の踏み込んだ先は高校の教室。

目の前には懐かしい顔のゆうじが机に座ってこっちを見ている。


「ごめんね、まだ全然終わらないんだよ」


机の上には半分ほど書かれた原稿用紙があった。


「遅刻しただけなのに、ひどいよね」

「じゃぁ遅刻すんなよ」

「確かに」


ケラケラとゆうじは笑ってペンを置く。


「まて、なんだお前のその格好……」

「ん? 何って制服だけど……あれ?」


ゆうじの着ていた服は学校指定の制服ではない。

あっちの世界でクルトが着ていた洋服だ。


「まじかよ……」


そうか、そうだったんだな。

俺はクルトがゆうじだったらいいのにって、心のどこかで思っていたんだ……。


「何この服……めっちゃかっこいいね」

「あぁ、そうだな……」


ため息を吐き、俺はゆうじの隣に座る。


「ねぇ、代わりに書いてくれない?」

「嫌だ、ゆうじがやったことだろ?」

「ケチだねぇー」


置いたペンを持ち、耳たぶを触りながら、原稿用紙と睨めっこを始める。


「そういえば、先週も遅刻してただろ?」

「あー、そうだっけ?」

「学ばねぇーな」


鼻で笑いながら懐かしい教室を見回す。


「エルだってこの前おんなじところで転んだじゃん」

「うるせぇーな、それとこれとは別もんだろ」

「そうかな? でも、2日連続で忘れ物したのは同じものでしょ」

「あーいえばこーいう。全く……お前って奴……は……? おい! 今俺のことをなんて言った!?」


自然すぎて一瞬スルーしたが、今、ゆうじは俺のことをエルって言った。


「え? あれ? なんで僕トシヒデのことエルって言ったんだろ?」 


これは何かの予兆か?

それとも俺の身勝手な思いか?


身勝手?


待てよ。

かかったこの魔法……。


ミルナが無詠唱魔術に苦戦してた。

ミスカは死んで無かった。

クルトの杖も変わっていない。

領主に直談判してミルナが毎日ミーガバードに来れる……。

そもそも本庄に殺されなかった。

家に帰ると好物の肉じゃががあった……。

ゆうじはクルトと同じ服を着ている……。


まさか、自分が望んだ世界……?


都合良く出来すぎているのではないか?


なら──


「そうか! 身勝手に出来るんだ! 自分に都合よく改変出来るんだよ! ここは!!」

「え? 何? 怖いよ」


俺は立ち上がり、ゆうじの肩を掴む。


「よく聞け、ゆうじ、いや、クルト!」

「クルト?」


キョトンとした反応のゆうじだが、可能性はある。


「お前の名前はクルトだ! 魔術が好きで、初対面の俺に無詠唱魔術を放ったヤバい奴! ロンさんからは何度も怒られてるくせに、花火を何度も打ち上げる奴なんだよ!」

「え……、」

「そして俺はエル、アズエリック・フォール!! 思い出せ! クルト!!!」


するとゆうじは頭を抑え机に突っ伏す。


「頭痛った……」

「俺はどうしたらこの魔法から抜け出せる!」


ゆうじの頭の中には知らないはずの記憶が流れ込んでいく。


「あれ? なんで僕こんなところに……?」

「クルト! 俺はどうしたらいい!?」


起き上がったゆうじの顔はクルトの顔に変わっている。 


ビンゴだ。

間違いない、ここの世界は俺が作り出した世界!!


「あれ? エルなんでここに……いや、トシヒデ?」

「あぁ、どっちも俺だ」


クルトは立ち上がり、周りを見渡す。


「ここ教室じゃん、懐かしー」

「クルト、魔術に詳しいだろ、どうしたら出れる」


俺の都合通りになると言っても、ゆうじが別人のクルトになったのかはよく分からない。

だが、そんなことどうでもいい。

希望ができた。

クルトなら分かるはずだ。


「魔術って言っても、これは魔法でしょ?」

「そうだけど、似てるだろ?」

「全然違うよ。そもそも魔法は条件が厳しいんだ。他の魔術とは雲泥の力があるけど、その分条件をクリアしないとだし、その条件を辿ればすぐに弱点になるんだよ」


何言ってるんだ?

全くわからん。


「もっと分かりやすく説明してくれ」

「んーと、魔法を使われたとき、変な動作とか、変な言動とか、周りの環境が変わったとか無かった?」


変な動作?

変な言動?


「うーん、告白されてキスされた」

「え!? ほんと!?」

「あぁ」


クルトは顔を赤くして顔を押さえる。


「じ、じゃぁ、多分それが条件だね……」

「解除方法は?」


顔を覆う手を俺は剥がし、クルトを見つめる。


「え、いや、多分だけど、同じことをするとか?」

「え……マジ?」

「う、うん。マジ……」


告白してキスをする!?

誰にするんだよこれ。

クルトか?


いや、気持ち悪いなそれは。

たとえ戻った世界のクルトに記憶がなくても顔を合わせるのが気まずすぎる。


「だからって僕にはしないでね?!」

「しねぇーよ! ばか!」


どうすんだよ。


自分に都合が良い世界だからって、見ず知らずの人にやるのか?

それとも母親?

ミスカとか?


いやいや、さっき別れの挨拶を済ませたし、それに実の母親にそれをやるのは無理だろ。


「あ、いるじゃん。エルがキスをする相手」

「いねーよ。彼女なんて出来たことないし」

「向こうもその気になると思うよ?」


ニヤニヤとクルトが笑い、廊下へ指を向ける。


「いや、そんな破廉恥な奴いてたまるか」


俺は向けられた指の方向を見る。


「ほらね」

「誰もいねぇーじゃねーか」


廊下が見える窓を見るがそこは伽藍堂。

人っこ1人いない。


「あれ? 魔法の影響かな?」


クルトは首を傾げて耳を触る。


「まぁ、でも助かった。ここから出る可能性があるだけで希望が見えた」

「どこか行くの?」


教室の扉に手をかける。


「おう。ちょっと探してみる。その相手とやらを。じゃぁ、また」

「うん。またねー」


教室を出る。


さて、次はどこに行くのか。

どんな場所に辿り着いて、誰に会わせてくれるんだろうか。


少しだけワクワクさせてくれるな。

このランダムの扉は。









「あ、まだいたんだ」

「うおっ、近」


扉を開けると至近距離で、俺のタイプのセミロングの髪が、柔らかい良い香りを漂わせる。

さらにはその髪の奥から、大きく綺麗な目で、俺を見つめる女性がそこにはいた。


「美香……」

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