28話 クソデカすぎる
ゲーセンでクソデカいサメのぬいぐるみを取ったから、抱き枕として使ってるけど、サメの腹をむけて寝ると口が怖くて反対にして寝てる。
しかし、今度は背びれが腹に当たって苦しい。
可愛いのに……。
僕は昔から運が良かった。
誰かについて行くだけで、全て上手くいっていた。
だからこそ自分から選ぶ道は自信が無い。
「そろそろ変わらないとね……」
杖を握りしめ、覚悟を決める。
分かっていても急には変えられない。
だって前世の頃の方が長い人生だったし、まだ子供だ。
トシヒデだったら自分の道をすぐ決めるんだろうな……。
ここには今はいない前世の親友を思い浮かべる。
「エル……どこにいるんだろ」
何故かエルを見るとトシヒデを思い出す。
だからこそエルにここまで固執してるんだろうな。
僕は頭を振り、無駄な思考をやめ、走り出した。
「とにかく急ごう……んっ?」
地面に倒れている狼を見て気づく。
首を綺麗に切られた死体に、殴られたような死体。
「これ、ロンさんとエルの……」
死体は中央区の広場に点々と続いている。
「お菓子の家みたいだね。これを辿れば正解っぽいな」
僕はその死体の続く方へ走った。
「ロンさん! 西区に行くってもしかしてあの巨人?」
全力で走りながら俺は質問をした。
「そうです、早めにあいつを対処しないと、被害が凄いことになるんですよ」
確かにな。
ここからでも見える。
今だに歩みを止めない巨人は建物を破壊し、こちらに向かっている。
「あの巨人は変異種でしょうね」
「変異種?」
「魔獣朧って知ってますか?」
魔獣朧……、
あれか、前にブリタリ湖に出た奴か。
「龍魔獣朧って奴ですか?」
「そうです。それはドラゴンの変異種、あれは巨人の変異種です。言うならば巨魔獣朧」
そりゃやばいな。
早めに倒さねーと、大惨事になっちまう。
「あ、そうだ、エルくんこれを」
ロンは手に持っていた剣を俺に投げて渡す。
「剣?」
「さっき北区の人から拝借させて頂いた剣です。せっかく剣術を習ったのに使わなかったら意味がないでしょう?」
「確かに、ありがとうございます師匠」
俺は受け取った剣を腰に納める。
「急ぎましょう」
「はい!」
「なにこれ……」
中央区へ続く道、大通りにて、僕は恐ろしい光景を見ていた。
「北区の住人……?」
ボロボロの服に似合わぬ豪華な武器を手に、城の衛兵達と戦っている。
その中にはジィーナスの姿もあった。
「ジィーナスさん! 状況は!?」
「クルトさん!?」
ジィーナスは驚いた顔をして僕を見つめたが、すぐさま状況を整理し、簡潔に説明を始めた。
「エルくん達は西区に! 北区の人たちは魔族に洗脳中!」
「解除条件は?!」
僕は走りながら土魔術を展開して、群衆に突っ込んでゆく。
「頭部への強い衝撃!!」
「了解です!」
魔術で生み出した小石を回転を加えて、的確に頭部へヒットさせる。
多いな、この数は。
「ジィーナスさん! 僕も西区に向かいます!」
「承知致しました!」
こんなとこで足止めをされていては進もうにも進めない。
僕はすぐさま西区に続く大通りを曲がり走り出す。
曲がった直ぐにある建物で悲鳴が上がる。
「! 魔物!」
展開をしていた小石を尖らせ回転数をさらに上げ、魔物目掛けて放つ。
「ぴぎぁ!」
錆びた斧を持ったゴブリンが断末魔を上げ、地べたに寝転がる。
「直ぐに逃げて下さい!!」
「……助けてく……え?」
建物に駆け込み、声を荒げるとそこには茶髪の青年が屈んで怯えていた。
「助かったのか……」
「はい、直ぐに逃げて下さい!」
その青年は礼を言いながら、僕を見るなり目を見開いた。
「君は! ミーガバードの小さな魔術師!!」
え、なに……?
僕そんな異名があったの?
「ここから見えたあの魔術に俺は感動したんだ! ありがとう、そんな方から助けて頂けるかとは!」
急に手を握りしめられて、ブンブンと振る。
「え、あ、はい。いや、早く逃げ──」
「ずっと思っていたんだ。君はいずれこの世界に名を馳せる魔術師になると!」
怖い怖い、急展開すぎてどうしていいか分からないよ。
「そんな君に渡したかったんだ! ロンレルさんから直接渡した方がいいと言われて、今度会おうとしてたんだ!」
なになに?!
分からないよ全く!
それより早く逃げてよね!
青年は建物の奥に入り、一本の大きな杖を持ってくる。
「これはこの店で最高の魔術の杖だ。真ん中に入れている魔導石は魔力対抗を0.06%にし、グリップ部分にも埋め込まれた魔石と共鳴して不純な魔力すらもエネルギーにできる最強の杖なんだ」
「は、はぁ」
青年はそれだけを伝え、僕に渡す。
「え、えぇ!?」
「貰ってくれ、頼む!」
「貰えって、そんな凄いもの貰っても僕にはこの杖があるんですけど……」
僕の右手に持っている杖を見せると青年は笑った。
「なに言ってんだよ、そんな指揮棒みたいなチンケな棒切れで魔術なんて発動出来るわけないだろ」
チンケって、酷いな。
頑張って貯めたお小遣いで買った骨董品の杖なのに。
「いいから貰ってくれ。嫌なら売ってもらっても構わない」
「そこまで言うなら……」
貰えるもんは貰ーとけ。
僕のばぁちゃんがよく言ってた言葉に従って渋々その杖を受け取った。
「はは、流石にでかいな」
その杖は全長150センチはある大きさをしている。
子供の僕には少しどころかだいぶでかい杖だ。
「きっと使えば気に入るはずだ、いつかその杖の宣伝効果で店も儲かるだろうな」
あぁ、やっと理解できた。
そう言う魂胆だったんだね。
「ありがたく使わせてもらうよ」
「あぁ、そうしてくれ」
「おじさんも早くここから逃げた方がいいよ」
僕は急足で西区に向かいながら青年に声をかけた。
「おじさん……。まだ21だけど……」
「ここから後1時間くらいでエスタ領都に着くかな」
エスタ領土の茂みにて、一人の男がパーティに向かってそう言った。
「ハァハァ、そうなんですね。でも少し休憩しませんか?」
金髪の聖女が息を荒げて、杖に体重を乗せながら立ち止まる。
「ふん、ノアリアから抜け出した箱入り娘はこれだから」
「またコルネは意地悪いことを言う」
弓を背中に背負った女性がコルネの頭を軽く叩く。
「まぁ、そうだね、半日歩きっぱなしでもう夜だ。シャアーラの言う通り少し休もうか」
「すみません。私の我儘で勇者様のパーティに入れてもらったのに、足を引っ張ってばかりで……」
シャアーラは木に寄りかかり地べたに座り込む。
「そんなことないよ、シャアーラが入ってからパーティも無茶ができるようになったんだし。僕としては同じ性別の仲間が入ってくれて、嬉しいんだよ」
「それにカルマが作ったこの剣があるしね」
勇者のヒークはスチームパンクのような剣を取り出して蒸気を出す。
「カカっ、そう言ってもらえるとオイラの職人明瞭に尽きるってもんだ」
アンティークなゴーグルを目につけて、何かを作っているカルマが笑う。
「ほんとだよ、この矢も弓も新しいことができるようになったし」
ミーラが弓の調整をしながらカルマを誉める。
「ガス、入れとくか?」
カルマがヒークの剣を取り、ガスを注入する。
「僕のもたのむよ」
ミーラも弓をカルマに渡す。
「私は教えに反するので使えないのですが、コルネ様は使わないんですか?」
「愚問。スチームは性能よりファッション。デザインが素晴らしいのだ」
コルネは息を荒げてカルマが調整中の弓を見る。
「オイラの技術で、デザインまで褒められるのは初めてだか、嬉しいもんだな。前まではノアリアの双子から調理道具ばかり、作らせられてたからな」
弓の調整も終わり再び何かを作り始めた。
「あれでしょ、圧力鍋だっけ」
「カカっ、よく知ってんな」
「賛同。ノアリアはご飯が本当に美味」
「オイラはこっちの方が得意なんだがな」
黙々と作ったその機械を地面に置き、スイッチを押す。
まるでタコのような頭を持ち、足はキャタピラがついているそれは、遠くの岩を狙って鉛を撃ち込んだ。
「うお!」
「びっくりしたぁ」
鉛を撃ち込まれた岩は粉々に砕け散った。
「キャタピラ式タレット、通称キラーちゃんだ!!」
カルマの腕は素人でも分かるほどに優れているが、その男ネーミングセンスは無い。
「…………」
「…………」
「感激。素晴らしいデザインだ」
「だろぉ?」
「あぁ、これは神託なのだぁ!!!」
恐怖心でいかれた男が巨人に向かって膝をつく。
「ハハハハハっ! 逃げ惑う群衆をそこら辺に生えた雑草の如く踏み潰すの────っ」
男は狂ったまま笑い続けて巨人の足に踏まれ潰される。
まるで果汁の如く飛び散る血に、水風船が潰れた音が痛々しく残る。
「ここまでとは……」
ロンはその巨大な魔獣朧を見上げて呟いた。
その巨人は120メートルもあり、さらにはその右手に大木でも抜き取って来たと言っても過言では無い程、大きな棍棒を持っている。
誰もがそれを見ると絶句する生物。
「これってどう倒せばいいんだ?」
俺は見上げながら剣で肩を叩く。
「少しずつダメージを与えても意味がないでしょうね……」
薄ら笑いを浮かべ、ロンが答える。
「なら、首チョンパか……」
「えぇ」
俺は剣を構えて巨魔獣朧を睨む。
「ロンさん。ここは俺に任せといて下さい。策が一つだけあります」
「わかりました。危なくなったら手は出しますね」
ロンは剣を鞘にしまい、俺から距離を取る。
3ヶ月の間学んだ付け焼き刃の剣術がどこまで通じるか、ずっと気になっていた。
まぁ、流石に倒せるとは思っていないが、自分の限界を知れるチャンスだ。
「その時は頼みます────!!」
ロンレル流剣術に纏魔を使いゆっくりと進む巨人の股を走り抜ける。
こんな図体でも、体の作りは人とかわらねぇーはず。
どんな屈強な戦士でもここを斬られれば立つことすらままならない、そんな弱点が足には存在する。
「不死身の英雄すらも弱点なんだよっ──!!」
巨人の裏に回り込み、右足の付け根、アキレス腱に剣を振る。
纏魔の助力もあってか、硬そうな皮膚を突き破り、腱を断つ。
「どりゃぁ!!!」
巨魔獣朧はアキレス腱を切られた反動で正面の地面に体が傾いた。
「エルくん!! なにしてるんですか! そのままじゃ街全体が潰れますよ!!!」
「知ってます! だから────」
すぐさま左足に回り込み、急勾配になったふくらはぎを足場に、自分が落ちるよりも早く上へ駆け上がる。
「膝を着かせるんですっ────!!」
それはまるで膝カックン。
膝裏に飛び上がり、全力の蹴りを与える。
予想通り巨人は左の膝を曲げ、地面に崩れ落ちる。
「ここまで低けりゃ首に届く!」
一度地面に足をつけ、再び空へ高く跳ぶ。
「ロンレル流奥義! 首チョンパ──っ!!」
力を込めた剣は真っ直ぐに巨魔獣朧の首を捉え、分断する────。
「硬ってぇーー!!」
──が、しかしその剣は首の皮を切るのが精々。
硬くでかい筋肉に押し戻され、巨人の右腕が真横を通る。
「嘘っ──!!」
巨魔獣朧はまるで小蠅を振り解くように俺をロンの近くの地面に叩きつけた。
「なんですか、そのダサい技名は。そんな技ありませんよ」
「だって、ロンさんよく首斬るから」
瓦礫の中から這い出ながら俺は立ち上がる。
「にしても硬すぎる」
「なぜだと思います?」
ロンは薄ら笑いを浮かべて俺を見た。
「あいつが格上って話ですか?」
「違いますよ」
納めていた剣を抜き、ロンが体勢を整える。
「まず一つ。剣が真っ直ぐ振れていても刃が斜めに入っていては切れるものも切れません。それじゃ紙ですら切れないですよ。コツは刃が入った角度と平行に切ること」
「なるほど」
「そしてもう一つ。エルくんは力に頼りすぎです」
ぐうの音もでない。
実際纏魔に頼りすぎていると自分でも自覚してる。
「しかし、力を入れないと技術だけではあれは切れません」
「ロンさんでも?」
「はい」
じゃぁ、無理じゃん。
あいつは倒せねーのか。
「でも、エルくんのお陰で分かりました」
「?」
「あの敵には再生能力は無いことに」
俺はその言葉を確かめるために自分が切ったアキレスを見る。
そこにはしっかりと血が流れ、肉がめくれ骨が見えている。
「チクチク作戦ってことですね」
「いや、別の作戦で行きます。私がエルくんの名前を呼んだら魔力の纏ったその剣を私に投げて下さい」
「? 了解です」
作戦はよくわからんが、ロンさんが言うんだ、言う通りにしておこう。
俺の返事と共にロンは駆け出た。
「援護!!」
「応!!」
ロンの後ろを走り、魔獣朧の動きを読む。
巨魔獣朧はアキレス腱が切れた状態にも関わらず、その場で立ち上がろうと右足に体重をかけている。
「マジかよ、痛覚とかねーのかよ」
噴き出る血はお構いなしにゆっくりとそれは立ち上がる。
「パリィ!!」
完全に立った巨魔獣朧は両手で棍棒を振り落とす。
「ぶっ飛べぇ!!!」
叫ぶロンに答えて俺は全力で飛び上がり、隕石の如く降る棍棒を気合いと、纏魔を込めた剣で弾き返す。
「懐ガラ空きですよ!!」
「ロンさん! 俺、足場!!」
役目を終えた俺は落下する途中、空中に飛ぶロンの足を拳で受け止める。
「ロケット!!」
真上にロンを殴り打ち上げる。
「ナイス!!」
俺の助力もあり、ロンは巨魔獣朧の首根元まで飛び上がった。
すでに振り上げられた両腕では対処のしようがない。
しかし巨人も馬鹿では無い。
咄嗟に頭を後ろに傾けて勢いをつける。
「この剣高かったんですが、致し方ない!」
へバトン攻撃に剣で受け弾き返す。
「っ────!!」
魔力を纏っていない剣は簡単に粉々に粉砕され、この等価交換で巨人の頭も弾かれる。
「エルくん!!」
ロンの合図。
纏魔を込め続けていた剣を真上に投げ、俺は地面と衝突した。
「ナイスコース! 首では無いですが、まぁいけるでしょう!!」
淡い青に輝く剣は閃光の如く直線を描き、巨魔獣朧の胴体を切り裂いた。
「これは、切れ味化け物ですね」
ロンは分かれた断面と、刃こぼれ一つない剣を見つめて少しの恐怖心と、多めの驚きを見せる。
「うわー。血の雨だぁー。風呂は入りてぇ」
巨魔獣朧から溢れ出す血液が真下にいる俺に降りかかる。
だが、まだ終わっていない。
ロンのパリィで後ろに傾いた体勢。
切られた胴体は下半身を残して街の方へ落下する。
「あ、まずいですね」
下へ直行するロンはそれを見つめて言葉を溢した。
「あれ? あの服……」
胴体の落下地点に一人の杖を持った魔術師が立っていた。
「お、あれまずくね」
俺も同じくその光景を眺める。
「エルくん! 胴体を真上に!!」
ロンの叫びが聞こえる直前、すでに俺は落下地点へ動いていた。
行けるか?
胴体だけでも60メートルあるぞ。
「いや、行くしかねぇーんだよ!」
再び飛び上がり空へ。
言葉通り真上へ、胴体を蹴り上げる。
「ぎばれぇ──!!っ」
もげるもげる!
足がもげる!
重すぎるだろ!!
「うぎぎぎぎぎいぃぃ!!!!」
悲鳴を上げる右足に共鳴して俺からも悲鳴が上がる。
「うおおおぉぉーー!!! おりゃぁぁ!!!」
なんとか飛び上がった胴体は、俺の頑張りに反して20メートル程しか上がらなかった。
「ごめんなさーい! ロンさーん!」
「いや、十分時間を稼げましたぁ!!」
上がる胴体は少しずつ速度を落とし、再び地面へと進路を変える。
待てよ、このままじゃ俺下敷きじゃね?
なんかデジャブ……。
そう感じとったのは束の間。
デカく黄色い閃光が俺の真横を猛スピードで通る。
「────!?」
その閃光は胴体全てを包み、轟音と共にさらに輝いた。
「目ぇ痛ったぁ!!」
思わず瞼を閉じ、再び開けるとそこには落ちてゆく胴体が灰に変わっていた。
「は?」
俺は魔術の発信源である地面を見る。
「クルト!?」
そこには俺よりも驚いた顔をしていたクルトが、見知らぬ杖を構えていた。
「なんでここにいるんだよ、おま────べふっ!」
俺は地面に衝突し、情けない声を出す。
「嘘……」
その魔術の威力は以前の杖では出すことの出来なかった威力。
家に放てばその街一体がたちまち消え去ると言っても過言じゃないその破壊力で、巨魔獣朧は空中で爆散し、朽ち果てる。
「杖を変えただけでこんなにやばくなるんだ」
クルトがそう呟くと、何かを閃いたのか、ニヤリと笑った。
「なんだよ、その杖、しかもあの火力。そんな杖隠し持ってたのかよ」
俺は瓦礫をどかし服を叩きながらクルトに近づいた。
「いいでしょ。さっき貰ったんだよ僕のファンなら、助けたお礼だって」
お礼ってそんな家が一軒建ちそうな高価な杖を?
見るからにその杖レアものだろ。
「ずりぃなぁ。いいな、俺も欲しいわ」
「エルは花火打ち上げらんないでしょ。あっ、そもそも魔術がダメでしたっけ?」
クルトは左手で口を覆い俺を煽る。
「安全圏からボコスカ叩くのは漢じゃねーから杖はいらねーよ」
「クルトくん……、喧嘩より……私の回復を……」
クルトの後ろに倒れていたロンは、地面との衝突で折れた四肢を引きずりながらも、こちらに向かって来ていた。




