表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスターン  作者: 春川立木
29/72

26話 後夜の愚者の行進

2024年は本気で死ぬ気で小説書きます……。

頑張り……ま……す……。

収穫祭。

それは酒を飲むための免罪符。

あたりはすでにハッピー空間で満ちてきた。

周囲からするアルコールの香り、呂律が回っていない会話、日常とは遠く離れた非日常がそこにある。


「置いてくぞー」

「待って待って、財布忘れてたんだよ」


俺とミルナはミーガバードを出たすぐの大通りに続く小道で、クルトを待っていた。


「ごめんごめん、どこ行く?」

「とりあえず、中央にでも行こうぜ。なんかありそうだし」







「お、腕相撲大会?」


中央広場にて、デカデカと看板に書かれた文字を見て俺は興味を唆られる。


「やってみる?」

「どーせ大人と子供で分けられるって」

「確かに。でも、掛け合えば大人組に混じれるんじゃ……」


クルトはそう言うとイベント受付にいるお姉さんに近づき、会話をする。


ほんの数秒話をするとクルトはこちらを見て手を振った。


「ん、呼んでんな。行くか」

「うん」


俺についてくるようにミルナも受付に向かう。


「試しにお姉さんと腕相撲して勝てたら出て良いって」

「はい。こう見えて力強いんです」


クルトは受付嬢を指差して笑う。

細身のお姉さんは笑って力こぶを見せる。


きっと向こうは子供の力を馬鹿にしてるんだろうな。

勝てるわけないなんて、人を見かけで判断するのはいかんぞ。


「お姉さん。手加減しなくても意味ないですよ」

「え?」


その言葉の意味に彼女は気づかないだろう。

俺と腕相撲をしない限り。


「まぁ、気にしないであげて下さい。ちょっと頭がアレなだけなんです」

「非常識人がなんか言ってるな」


俺が足場に登ってカウンターに肘を置く。

それに続いてお姉さんも位置に着く。


「まーだ擦るんだ。もう味してないのにねミルナ」

「まだ濃いぃの」

「ミルナまで!?」


どちらとも手を繋ぎ、体勢をとる。


「じゃぁ、ミルナ合図よろしく」

「分かったの」


お姉さんは真剣な顔で俺を見る。

俺も負けじと気合を入れてお姉さんの鋭い目を睨みつける。


「よーい、どんっ!」


ミルナの合図でどちらとも力を入れる。


「えっ……?」


だが勝敗は言わずもがな。


「勝者! アズエリック・フォール!!!!」


クルトの声で俺がガッツポーズで声を荒げる。


「お姉さん、大人側の腕相撲大会に参加させてください」


受付嬢は今だに自分が負けた事を理解出来ていないのか、カウンターに寝ている自分の腕を見つめていた。


「ん? お姉さん?」

「…………」

「お姉ーさん! あなたの負けですよー!」

「はっ!」


やっと理解が追いついたのか、受付嬢の目線は俺に戻った。


「流石です。負けました。それでは大人部門に登録しておきます。開始時間はあと10分後、予選の後、トーナメント形式で試合を始めていきます。開始時間になったらイベント大ホールに来てください」

「了解です」


お姉さんは153番と書かれたネームプレートを俺に渡した。


「これを付けてお越しください……」


お姉さんはお辞儀をして、俺らを見送る。

小さな声でなんで負けた……と小言をこぼしながら。


「じゃぁ、俺だけ先に大ホールに行っとくわ」

「オッケー、遠くて応援しとくよ」


そう言ったクルトは手を振って俺がイベント大ホールに向かうのを見送ってくれた。







「さて、エルがでるのはずっと先だろうし、僕たちはお店でも回ろうか」


そう言って僕はミルナを見る。


「…………」

「どうしたの? くじ引き?」


ミルナの目線にはお祭りの定番であるくじ引きで、お客さんがハズレの残念賞、ボロいタワシを貰っていた。


「やってく?」

「いいの、お金ないの」

「出すよ」


ミルナの手を引いてくじ引きに向かう。


「くじ引き2回お願いします」

「おう、銅貨2枚だ」


お金を店主に渡して、店主が白い箱を僕らに渡す。


「景品はどんなのかあるんですか?」

「赤色の球が出たら当たりだ。そしたら後ろの景品一個と交換って感じだ」


店主は後ろにある商品を親指で指し、ニカッと笑う。


景品には槍兎のぬいぐるみに、レプリカの魔剣、子供用の魔術師、剣士セット、おもちゃの弓矢などが飾られていた。


「じゃぁ、ミルナから引いてみて。狙いは何?」

「分かったの。狙うはぬいぐるみ一択なの」


ミルナは気合を入れて箱に手を突っ込む。


ゴソゴソと球を手探りで選び真っ白の球を選び出した。


「はい、残念賞タワシ」


ミルナの手から白い球が取られて、茶色いタワシが交換される。


「要らないの……」

「タワシは意外と役に立つよ」


僕は出来る限りのフォローをして箱に手を突っ込む。


「ミルナ、僕はね昔から豪運って言われてたんだ」


勢いよく取り出した球は白色ではなく、真っ赤に輝く球……でもない。

金色に輝く球。

言わば金球が右手に輝いていた。


「え……金色?」


予期せぬ事態に僕たち二人は困惑をしていると、店主が目を見開いて声を荒げた。


「大当たりーー!!!!」


その声に周りの人達の目線がこちらを向く。


「大当たりが出るとはなぁ! 驚いた。ほれ、景品だ」


店主から渡されたのは木製の腕輪、真ん中には白い宝石が嵌め込まれている。


「これは魔具だ。一度だけ致命傷を肩代わりしてくれるって言う高価な腕輪」

「こんなすごい物もらっても良いんですか?」


きっと銅貨一枚じゃ買えない代物だし、持ってたとしても使う機会もない。


「あぁ、どうせ俺には無用のものだ。貰ってくれ」

「じゃぁ、頂きます」


俺は受け取った腕輪をそのままミルナにあげた。


「え……」


困った顔で僕を見る。


「あげるよ、プレゼント」

「いいの?」

「うん。冒険者になるんでしょ、なら一番必要性があるよ」


ミルナは目を見開き驚いた。

僕が冒険者になりたいって事を知っていたことに驚いてるんだろう。


「エルから聞いたよ。いいじゃん、冒険者」

「師匠はならないの?」

「えっ……」


唐突な質問に反射的に言葉を出したが、気にせずミルナは続ける。


「そんなに魔術の才能があるのに、やらないのは勿体無いの」

「うーん、でも別に特段やりたいことでも無いしな……」


正直冒険者よりも魔術の研究をしてたい。

それにインドア派の僕は外で活動するの向いてない。


「もし、エルが冒険者になったら師匠はどうするの?」

「なんでそこでエルがでるかなぁ……」


実際エルは冒険者になるだろう。

母親の仇を取りたがってるし、人を助ける性格してるし、その一番の近道で向いてる職業は冒険者だ。


「もし、かぁ」

「多分師匠はエルに着いてくの」


その言葉を聞くと自分自身も納得してしまう。

進んで金魚のフンになってる自分がいる。

正直、そんな自分にはなりたく無い。


でも、エルにはなぜが魅力を感じる。

これからこれ以上の、同等の、友達が出来るだろうか。


「……着いて行くかもね」


きっとそれは僕に向いている。

悔しいが、それが答えだろう。

主人公にはなれない僕の物語。


「そっちの方が向いてるの」


それを聞いて僕は少し腹が立った。

だが、それ以上に自分が嫌いになった。


「師匠は冒険者に向いてるの。例えエルが冒険者になってなくても、師匠は冒険者になるの。それが一番しっくりくるの」


ミルナの素直な言葉は僕の少しばかりの怒りと、嫌悪を消し去った。


「狐につままれた顔なの、師匠」


ぽかんとした顔でミルナを見ていた僕はハッとして我に帰る。


「広場に戻るの。腕相撲大会始まってるの」








「「うおぉぉぉぉぉーーー!!!」」


広場では大きな歓声が鳴り響いていた。


「これで8勝だぁ!! どこまで行くんだこの少年はぁ!!」


歓声に呼応して俺は腕を掲げて叫ぶ。


「160人いる中で子供はたった一人、最初はただの馬鹿かと思っていたが、これは肩透かしだぁ!!」


司会進行の男がそう叫ぶ。


随分な言いぐさだな。


「これで決勝トーナメント出場決定ー!!」


案外簡単だったな。

意外と俺は強い。

自意識過剰ではなく真面目に強い。


にやけが止まらない。

筋肉は裏切らないって素晴らしい事を昔の人は言ったもんだ。


「さぁ! 決勝戦です! 注目はもちろんこの少年! 名の通り歴史に刻めるかぁ! アズエリック・フォール!!」


再び歓声が飛び上がる。


ここまで行くと少し恥ずかしいな。


「相手は、現役冒険者のガエルさん!!」


名前が呼ばれると黒く焼けた肌にむちむちと張った筋肉の男が出てくる。


「まさか相手がガキとはな、早く帰ってねんねしな」

「今日ふて寝するとはそちらですよ」


その言葉に少し腹を立て勢いよく台に肘を置く。


「さぁ、早くやろう」


それに続いて俺はガエルの腕を掴む。


「さぁ、見合ってぇ! GO!!」


合図と共に両者に力が入る。


そこまで力を入れていないが、相手は少し苦しそうだ。


「そんなもんですか? 見た目だけですね」

「──ぐっ!」


力を入れてガエルの腕を倒す。


「勝者! アズエリック・フォール!!」







「大人気ないね、子供だけど」


僕は笑いながらミルナに言った。


「大人顔負けなの」


ミルナも笑ってそう呟く。


僕らはエルの強さを一番知ってるから、よくわかる。

エル以外の人たちは無謀な大会に出ているってことに。

勝てるかもって強がって、結局負けて恥をかく大会。

名付けるなら無謀恥かけ大会だ。


「今夜のデザートが楽しみだね」


今大会の優勝商品、ケーキ屋ライヤーの新商品、チョコレートドーナツを思い浮かべながら僕はよだれを拭いた。







遠くから響く楽しげな声。

そんなものには無縁の場所である北区ではせっせとデモの準備をしていた。


「皆の者! 準備は万全か!」


高台に立っているフードの女はそう叫ぶ。


「おう! 後少しだぜ」


その女の出身はここでは無い。

しかしここにいる全員はまるでその女が、ここで産まれここで育ったかの如く、ここにいるのが、そこにいるのが当たり前かのように接している。


「結構は祭りの後、明日の夜だ! 後夜祭を華々しく彩ろう!!」


その返事に住民全員が、声を上げる。







「いやー結果は知ってたけど、優勝おめでとう」

「おう! よゆーよ」


大会が終わり、祭りも後半戦になっていた。

早めにミーガバードに帰るため、俺らは大通りを歩いていた。


「可哀想だったよ、特に居酒屋の店主のジルクさん」

「あれは向こうが悪いだろ」


ジルクは最後の決勝戦で戦った相手。

これに勝ったら彼女と結婚すると大声で言って、観客にいた彼女を喜ばせようとしていた。

ま、結果は言わずもがな。


「なんか腹減ったな」


結局何も食べずに今に至る。


「なんか食べようか」


キョロキョロと出店を見渡すとクルトはでかい声で店を指差した。


「からあげだって!! からあげがあるよ!!」


からあげって、この世界は油がそもそも貴重だろ。

しかも動物性の油だけ、そんなもんあるわけ……


「本当だぁ!! からあげだぁ!!」


俺とクルトは一目散にその店に行き、からあげを頼む。


「お、いらっしゃい! ノアリア発祥のからあげだよ!」

「おっちゃん、からあげ10!」

「聖玉1枚だ」


少し値は張るがそんなことどうでも良い、今すぐからあげを食いたい。


「ほらよ」


紙袋に入ったからあげはどこからどう見ても唐揚げだ。


「最近作られたんだ。なんでもノアリアにある豆から油が作れるようになって、揚げ物って言う奴が発明されてな」

「うひょーーー、うんめぇーー!!」


からあげを頬張り、歓喜する。


「最近ノアリアはグルメが流行ってんだ。豆から作られる調味料とか、小麦を糸状にしたものとか」

「へー」


そんなことはどうでも良い。

とにかくこのからあげを堪能する。

それが今俺に出来る唯一のことだ。


「あ、それにな、からあげに合う調味料もあるんだ」


そう言うと一つの瓶を取り出してテーブルに置いた。


それは黄色で、テカっている調味料。


「そ、それは……」

「マヨだ。油と卵となんかを混ぜて作るらしいが、詳しいことはわからん」


店主はマヨネーズをからあげにかける。


「食ってみろ、飛ぶぞ」

「はぁはぁはぁカロリーの塊……だが、体が求める!」


二人してそれに齧り付く。


「飛ぶぅ〜〜〜〜」

「だろ」


嬉しそうに店主は笑う。


「からあげ50とマヨ2瓶ください」


クルトは全財産を使う勢いで注文した。

それほどカロリー爆弾にハマったのだろう。


「おう、聖玉15枚だ」


マヨネーズ一個聖玉5枚するのかよ。







絶望が芽吹くのは一瞬だ。

それを感じ取ったのは9月の秋が終わる季節。

食堂にて、勉強を皆としている時に訪れた。


やけにうるさい声が外から部屋へ響く。


「なんだ? うるせぇーな」

「収穫祭は終わってるのに?」


だが、この声は賑やかとは遥か彼方に置いて来たような騒音。


「ちょっと見てくるわ」

「じゃぁ、僕も」


俺とクルトは裏口から外へ出る。

外へ出ると気がついた。


町中に響く叫び声。

助けを求める声とは違う。

無力を謳う声とも違う。

ただ怯える、狂う、逃惑う声。

そんな声が耳に届く。


「え……あれ……」


クルトの怯える目線を見て、俺は絶望の文字を見た。




目を見開く光景。

それはあり得ない状況。

まるで高熱を出した時に見る夢の中のよう。


城壁から覗く巨体のひとつ目。

上空を遮る広大な羽を持つ龍。

壁を覆い隠す程の大きさの火を纏う蜥蜴。

逃惑う人々を貫く小さな兎。

血に飢えた小鬼。

赤く染まったよだれを垂らす狼。


総数300体を超える魔獣の行進。




「……は?」


掴めない状況に俺は言葉が出なかった。

唐突すぎたのだ。

まばたきのその一瞬で、今いる世界が変わったかの如く、領都エスタは地獄と化した。






フードの女は魔獣が行進を進めるエスタの城壁の上にて、踊っている。


それはとても華麗で、とても不快な舞。


「人の恨みは恐ろしく、儚く、面倒だぜぇ!!」


両手を広げて天を仰ぐ。


「さぁ! 革命の夜更だ、クソジジィ共々狂い合おう!!」


反らした反動でフードが外れる。


フードの取れた女の顔はとても美しく、耳に唇にたくさんのピアスが月明かりに反射する。

そして、人間ではないと瞬時に理解できるほどの、禍々しい赤色のツノが生え、ピンクのウルフカットが風になびいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ