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デスターン  作者: 春川立木
28/72

25話 ミルナランディングミーガバード

大変遅くなり、申し訳わけないと思っております。

ですが、反省はしません。

そういう人間なので、ボコボコにしても大丈夫です。

次回は早めに出す事をここに残しときます。

守るか知らんが……。

「なるほどね、そのローブのお陰で見つからずに家出したんだ」


クルトがケタケタと笑い、話をまとめる。


「笑い事ではねーだろ。俺らが家出するのとは全く違うぞ」

「……確かにね。でも最高に狂ってて僕は好きだよ」

「申し訳ないの。少しだけお世話になるの」


ミーガバードの食堂にて俺とクルトとロンがことの成り行きを聞いていた。


「良いですよ。寝るところは余っていますし、困る事は特に無いです。それより無事だったことが良かったです」

「本当だよ。急に来なくなったと思ったら、今度は急に来るんだから」


猫みたいだな。


「朝ごはんにしましょう。皆さんを起こして来てください」

「了解です」


話が大体分かった所で、ロンが手を叩いて席を立つ。


「ミルナは女子部屋で叫んで起こして来て」

「……え?」


クルトも席を立ち、食堂を出る。

もちろん俺もミルナもそれについて行く。


「なんて叫ぶの」

「そりゃぁ、ニワトリの真似しかないよ」


クルトは冗談のように言うが、実のところこれは嘘ではない。


俺が調子に乗りふざけてたった一回しか言っていないニワトリの物真似を、馬鹿にしたクルトが毎日言うようになったのだ。


もう一度言おう、俺はたった一回しか言ってない。


階段を登り、クルトが女子部屋を指差す。


「あっちが女子の寝室だからよろしくね」

「分かったの」


俺らは自分たちの寝室に入る。


「俺は言わねーぞ」

「照れちゃって」


照れてねぇーよ。

馬鹿にしやがって。


クルトは息を吸い上げ叫ぶ。


「コケコッコー!! 起きろぉー!!」


本当に恥ずかしい。

これが共感性羞恥ってやつだろうか。


クルトの声が部屋中に轟く。

それに反応して次々ベッドから皆んなが這い出てくる。


実に滑稽だ。

ニワトリだけに。


「おはよー、皆んな顔洗って朝ごはんにしよう」


皆目を擦りながら腑抜けた返事を返す。


「エルにぃーちゃん、今日はやいよぉ」


ケインが早めに起こされたことを嘆く。


しょうがないだろ。こんな状況なんだから。

俺だって剣術習いたかったよ。


「ミルナお嬢様が遊びに来てるからな」

「え!? ミルナねぇーちゃん来てるの?」

「おう」

「やったー」


眠気が吹っ飛んだのか、ケインが一番乗りで扉に飛びつく。

ケインが扉を開けた瞬間、隣の部屋からミルナの情けない鳴き声が聞こえた。


「お前は本当に酷いな。可哀想すぎる」

「いや、本当にやるとは思わなかったんだよ」





朝ごはん。

それは朝から昼にかけてのエネルギーになる、とても大事な行為。


「味、薄いだろ?」


俺はほぼお湯に近いスープを飲みながらミルナに言う。


「……お、おいしい……の」

「無理すんなよ」


ミルナはパンを手に取り、ちぎる。


「硬いでしょ? パン。味もそこまでだしね」


クルトが笑ってパンを齧る。


「……こっちの……方が、好み……」

「無理しなくていいよ」


毎日こんな飯だ。

朝も昼も夜も。

肉が食いたいってもんだよな。


「毎日3食食べれるだけ感謝してください」


そう言うロンは誰よりも眉をひそめ、無理やり口に運んでいる。


「ロンさんが一番不味そうに食べてるよ」

「そ、そんな事はないですよ……。消化にいいなって思いながら食べてるだけです」


消化にいいなら、このゴムぱんは一体何なんだよ。


「毎日これを食べてるの」


ミルナは口を押さえてそう聞いた。


「あたぼうよ。たまにゃ肉が食いたいよな」

「確かにね。今度狩りにでも行こう」


お、それは名案過ぎやしないか?

流石はクルトだ。

狩のあれこれ叩き込まれた俺が叩きのめしてやろう。


「血抜きも捌き方も分からないので無しです」

「いや、ロンさん。目の前に誰が見えますか? 目の前にはそれを教え込まれた男。そう、漢アズエリックがいるじゃないですか」


俺は強めに胸を叩く。


よくミスカの手伝いをしてたんだ。

血抜きも皮の剥ぎ方も、何でもこいよ。


「そうだよ、ロンさん。ミルナの歓迎をかねて肉パティーだよ」

「そうですね。私の体が肉を欲していますし、ありですね」


案外あっさりロンレルと言うリーダーのOKサインが出た。


「じゃぁ、これから狩りに行こうぜ、クルト」

「いいね。ミルナも行く?」

「いいの?」


誘われたことに驚いた様子で俺を見る。

別に俺が決定するわけでもないのに。


「ミルナお嬢様が度胸を持ってるならかかって来い」

「じゃぁ、いくの」


決まりだな。

この時期ならポリヌもいるだろうし、俺ならワンパンだし、余裕だろ。







「いやーほんとにバレんもんなんだな。そのローブ」

「存在そのものがいない感じだったね」


エスタ領都を出た俺らは門に立っていた衛兵の反応に少し驚いた。

ミルナ合わせて3人だったのに、衛兵からは二人だと、そう言われ門を通らせてもらったからだ。


「物を探す時に限って見つからないみたいなもんだろ? 探してない人達には見つかるはずだ」

「そうだね。極力フードは外しちゃダメだね」

「うん」


ミルナが再度フードを深く被る。


「さて、森に行こう。昼下がりには帰って来いってロンさんが言ってたし、早めに仕留めて早めに帰ろう」


エスタ領都からでて森は意外とすぐだ。


懐かしいな。

一年前、ここを通ってココ村まで魚を運んだな。


ココ村まで1時間も掛からなかったはず……。

今度ゲリラ帰省でもやろうかな。


「エル、ポリヌってどんなの?」


森に入った所でクルトが質問を投げかける。


「あぁ、えっとな、額にツノが三つあって、四足でデカいやつだ」

「は?」


きっとクルトの頭には見上げるほどの巨体の怪物を思い浮かべているのだろう。

引き攣った顔をしているもの。


「想像してんのとはもっとちっこいぞ」

「え? 全く想像できないよ」


まぁ、見たら一発で分かるよ。

豚みたいな、猪みたいな奴だから。


森の奥へどんどん進む。


進んでいると、大きな岩が見える。

その裏から微かな違和感が目から耳から鼻から感じられる。


「ストップ」


俺の合図で二人が止まる。


「その岩裏がなんか怪しい」


昔ミスカが見えないポリヌを見つけたように、俺もその感覚が分かって来たのかな。


「ポリヌ?」

「多分な。クルトとミルナお嬢様はそこで観戦しといてくれ」

「了解」

「分かったの」


昔教えられたからな。

ポリヌは意外と臆病であり、人並みの頭脳を持っている。

さらに、人の行動を三つのツノの二つで熱と音を感じ取れる。

そしてポリヌは大体2匹か、3匹で群れて行動する。


つまり近くに他のポリヌがいるってことだ。


さて、どこだ?

気配を探れ。

集中しろ、目では見えないのなら、音、匂い、それだけを感じろ。


岩の裏から呼吸音。

さらにその奥、木の影にもう一匹の足音がする。


2匹か……。


他には音も匂いもしない。

確定だな。


「ポリヌはね、頭がいい。下手したら人よりも。」


俺はいつしかのミスカのように足元に転がっている小石を持つ。


「人より音も、熱も敏感だ。だが、急な攻撃には対処できないノロマな生物だ」


ミルナが生唾を飲み込む。


俺は足に力を込め、体重をかける。


それを察知したのだろうポリヌは戦闘体勢に入った。


しかしまだ、こちらには見えない。

だが、大丈夫。


力強く踏み込んだ。

大きな岩の上を飛び、石を投げるフォームを取る。


一匹のポリヌが怯えた様子でこちらを見る。

流石にここまでは飛べないのだろう。


しかし警戒するポリヌはもう一匹。

自分は見つかっていないと、思い込んでいる木陰のバカな豚だ。


その豚が俺の死界から飛び出した。


やっぱりな、この高さでも問題なく飛び刺せる脚力はあるだろうな!


一番長いツノが俺の横腹を刺そうとした時、無理やり体を曲げ、回転し、空中のポリヌに蹴りを与えた。


その威力でポリヌは隕石の如く地面に衝突。


「せっかく回転したんだ。ついでに投げるか」


そしてもう一匹、その隙に逃げるポリヌを回転のエネルギーを加えた体で小石をポリヌにぶつける。


「ふぎゃ!」


小石はポリヌの背中を貫通し、腹から出る。


「な、人並みの賢さをしてるだろ?」

「うん。飛び上がって攻撃できるのに、わざと逃げることを選んで、もう一匹の不意打ちを強めたんだね」


流石はクルトだ。

俺の言いたいことを全て言ってくれた。


「さて、次は血抜きを教えよう」

「はーい」








「まだ見つからんのか!!」


カモクの怒号はまだ止まらない。


「申し訳ありません。ミーガバードも探したのですが……見つかりません」

「はぁ、領都からは出ていないのだろ! なら必ず見つかるはずだ! 何をチンタラしているのだ!!」

「すぐに見つけて参ります!!」


兵士は逃げるようにその場を後にする。


「この手紙も、ふざけやがって」


カモクは自身の机に置いてあるミルナの直筆、宣戦布告置き手紙を睨む。


『冒険をしたことのないキチンにとやかく言われる筋はないの。あたしは置かれた餌を考え無しに食べに行く鳥とは違う。そのうち脂だらけで息苦しくなるくらいならここで縁を切る』


そう書かれた手紙にはカモクに対して肥えた能無しの鶏と言っているものだった。


「何が何でも連れ戻さなくては……」








『肉』

それは高タンパク、高脂質の食材であり、筋肉を作る基本な食材。


「いいか、ケイン。俺みたいなマッチョメンになりたかったら肉を食うんだ。本当は鳥の胸肉が好ましいが、俺がポリヌ派だからこっちが好ましい」


ミルナの歓迎会と称して、ミーガバードの裏庭でポリヌの肉をみんなで頬張っていた。


「別にエルにぃみたいに鍛えたくないよ」


はっ、まだまだ青二歳だな。

大人になれば分かるよ、この全能感に。


「気にしないでいいよ、いつものことだから」

「そうなの?」


クルトが肉を頬張りながらミルナに言う。


「うん。エルはちょっと頭がね……」

「おい、棚上げだぞそれ。魔術バカには言われたかねぇーよ」


魔術をほぼ初対面に向けて撃つやつも、頭のネジが外れてるだろ。


「へへへ、魔術バカって、褒めないでよ」

「お前はポジティブの塊かよ」


俺は呆れた顔で肉を噛みちぎる。


「でも、流石に驚きましたよ。初心者殺しのポリヌを2体も狩るなんて」

「初心者殺しって、言い過ぎよロンさん。そこまで強くないし」


ミスカだってそんなこと言ってなかったし、特別防御が硬いわけでも、瞬殺される力もないし。


「まぁ、エルくんはそう言うでしょうね」 


ロンは笑って解体されていないもう一匹のポリヌを見る。


「あ、ロンさん。一体だけは血抜きだけして丸々持ってきたんだけど、これって売れる?」


そう。逃げるポリヌをほったらかす択もあったが、なんせうちは万年金欠。

少しでも資金を調達出来るように、2頭仕留めたんだ。


「なるほど……多分協会の方で売れるはずです」

「やった、損傷のない方を残したんで高値で売れることを祈る」


俺はポリヌに手を合わせてお辞儀をした。


お前の事は忘れないよ。

協会とやらで大金に変わってくれたらだけど。


「ん? 協会って何ですか?」


ふと、俺の知らない単語が出てきたので気になった。


「冒険者協会です。前に教えたでしょう、元冒険者って」


言ってたなそんなこと。


「冒険者登録は期限が無いんですよ。まぁ、試験は面倒いですけどね」


冒険者か……、ミスカも元冒険者だったな。

いいね、異世界って感じがして。

俺も冒険者になってみようかな。


「そうなれば鮮度が落ちる前に持っていきましょう。準備してきます」


ロンはそう言うと家に入って行った。


「じゃぁ、歓迎会ということで、ロンさんが居ない内にどデカい花火を上げます!!」


待ってましたと言わんばかりにクルトが満面の笑みで杖を取り出し、天に掲げる。


「やめろ、怒られるぞ。お前はロンさんに魔術禁止令出させられているんだから」


俺の忠告は虚しく、クルトは魔力を杖に溜める。


「いいや、限界だ! 出すねぇ!!」


聞いたことのある捨て台詞を荒げ、上空に火球が上がる。


「あーあ、しらね」


それは前見たものよりも高く、大きく、登ってゆく。


「今回は色を2段階変えて、最後に大きな花を咲かせる花火だ!」


言葉通り、花火は高い上空で爆発し、金色の花を咲かせる。


散った花の先端から今度は一回目より大きな爆発で赤色に輝きながら満開に咲いた。


「金色から赤、……すごいの」


おい、俺の活躍の時には何にも言わなかったくせに、クルトの方には目を見開いて感動しやがって。


「ね、すごいでしょ。エル」

「んーすごいすごい。流石だよ」


肉を齧り、空を眺める。


流石にやりすぎだと思うが、まぁ大丈夫か。


「何事ですか!! すごい音と、光が急に外から!!」

「あ、ロンさん。肉焼けてますよ」


裏口から飛び出してきたロンは空を見上げて叫ぶ。


「クルトくん! 撃ちましたね!」

「いや……エルが撃てって……」

「言ってねぇーよ!」

「じゃぁ、ミルナが撃った……よ……」

「撃ってないの!」







ミルナが来て一週間が経った。


「そういえば明日は収穫祭ですね」


みんなで昼食を食べている時、ロンはそう言った。


収穫祭、8月に行われる秋のお祭り。

今年の作物の収穫に感謝して来年も豊作であるように願う祭り。


聞こえは良いが単なる箍を外して酒を飲みまくる口実だ。


「こっちって何があるん?」


ココ村では村の広場で旬の料理を振る舞う宴会だったが、こんな都会な場所では流石に違うだろう。


「んーとね、酔っ払いと道端のゲロを避ける日かな」

「最悪な祭じゃねぇーか」


流石にそこまで治安は悪くねぇーぞ。


「ま、冗談だよ。普通に大通りに屋台が増えて、あちこちのステージで催しがあるくらい」


まぁ、そうだろうな。

予想は出来ていた。


「お祭りもいいですけど、今日は勉強会ですよ」

「……明日、中央広場に行こうぜ」

「いいね、ミルナも行こう」


きっと一番デカい場所のステージは盛り上がりが凄いだろう。

楽しみだ。


「明日の前に勉強会ですよ」

「屋台って何があるかなぁ。お小遣い奮発しよ」


クルトがパンを飲み込む


「勉強会」

「ご馳走様でした! 剣振ってくる!!」


食べ終えた俺は一目散に裏口に手を掛ける。

その手を何者かから掴まれた。


「今日は勉強会ですよ。席に着いてください」


目だけは笑っていない顔のロンが俺の腕を掴んでそう言った。


「う……いやぁ、あのー、えっと……そう! 剣が言ってくるんです。どう振れば良いかを。早く振らないといけない気がするんです」


あたふたと、取り乱しながら俺は言い訳をつく。


「安心してください。エルくんはまだその域に達してないですよ。ただの幻聴です。席に着いて下さい」

「うあぁぁぁぁぁ!!」







「はぁー」


テストの採点が全て終わったロン先生は、ため息を一つ俺に向けて吐いた。


「何ですか、脳筋バカって言うんですか。実の弟子に対して、お前は馬鹿かっていちゃもん付けるんですか。酷いですよ、それでも師匠何ですか」

「…………何言ってるんですか。そんな事は一言も言ってませんよ。まぁ、似たような事は思ってましたけどね」


テストを俺に渡し、もう一度ため息をつく。


「算術は満点なのに、どうして歴史と、常識の分野だけズタボロ何ですか」


そりゃぁ、前世の方が生きてた年月が長いから?


「そうだね。少し常識を身につけた方がいいのは確かだよ」

「うるせぇーよ、お前だって変わらん点数だろ!」


クルトの点数をチラ見する。


「うわぁ! 人の点数意識するタイプだぁ! 点数のところ折って見せないようにするタイプだぁ!!」


だるっ。

何なんこいつ。

俺をいじる事しか生きがいがねぇーのか。


「クルトくんは算術、歴史はほぼ満点ですけど……常識の方はエルくんが高いですよ」

「え…………」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇいぃぃ!!! 非常識人はお前だなぁ!!!」

「くっ……!」


ぐうの音もでねぇーなぁ!


クルトはテストを見返し、目を見開く。


「あ! ロンさん! ここ、合ってますよ!!」


採点ミスを見抜いたクルトは、机に勢いよくテスト用紙を叩きつけ、指を指す。


指している所は一般初級魔術の水魔術の詠唱のようだ。

ちなみに俺は間違えてた。

一年間も詠唱してたのに、悔しいな。


「いや、合って無いですよ。何ですかこの記号」


そこには丸が3つピラミッド状に組まれていて、てっぺんは黒く塗りつぶされていた。


「これは魔素記号だよ! 黒色のは活性化してるやつ!」

「そう言われても間違いですよ」


女々しいぞクルト。

もう諦めろ。


「魔素から水にするにはこうなるんです! だよね、ミルナ!」

「えっ、う、うん。でもそれは無詠唱なの」

「そうだぞクルト。これは詠唱の文を書く問題だ」


数学のテストで途中式を書いてないのとは訳が違う。


「お前は俺以下だって事を、味がしなくなるまで噛み締めろ」

「いやだぁーーー!!」







「エルは何でそんなに朝が早いの?」


食堂での勉強会が終わり、外で素振りをしていると、ミルナが問いかけていた。


「どうした? 急だな」


俺は手を止めてその場に座った。


「いや、あたしが起きる時にはエルは素振りしてるの、寝る時にも素振りしてるの、もしかして寝てないの」


素振りしかやる事のない暇人かなんかと思われてんのか俺は。


「寝てるぞ。しっかり爆睡6時間」

「嘘なの。この前、夜中の1時に起きた時、お風呂入ってたの。6時に起きた時、外に居たの」


よく見てんな。


「別にいいじゃん。寝る事だけが全てじゃないし」

「……でも」


ミルナは何が言いたげの顔をして俯いた。


「何だよ。言ってみなお嬢」

「……エルは冒険者になるの?」

「あぁーそうだな。まだ決めてないが、やらなくちゃいけない事があるんだ。そのために必要なら冒険者になるって感じ」


俺の答えに納得していないミルナはもう一度質問した。


「やらなくちゃいけない事って?」


んーなんて言おう。

魔人を殺す?

ゆうじや美香達を見つける?

前者は相当きつい話だろうし、後者は納得出来そうにないな。


「まぁ、自分の名前通りに人を助ける為かな」

「名前……アズエル。すごく良いの、それ」


お、納得してくれたな。

よかったよかった。


「お嬢はどうするんだ?」

「え?」


急な質問返しに戸惑うミルナ。


「いや、親のレールが嫌で自ら脱線を選んだんだろ? そこまで出来るやつは夢とか、目標があるやつだけだろ?」

「……あたしは冒険者になりたいの」


へー、いいじゃん。

お嬢様あがりの冒険者。

結構好きなステータスだ。


「冒険者になって、格好いい人とダンジョンに潜って、死に掛けの所を助けてもらって、結婚したいの」

「お、おう。それは良いな……とても」


頬を赤らめてミルナはうずくまる。


少女漫画見たいな状況に憧れてんだな。

年頃だねぇー。


「でも、分からないの」

「?」


ミルナは顔を上げて遠くを見る。

その先にはクルトが子供達に魔術を教えている。


「あたしは他の人よりも魔術が出来るの。でも上には上がいるの。それに、エルみたいに敵に突っ込む勇気がないし、師匠みたいに生物に撃てる覚悟がない」


人より才能があっても、度胸が人より無いことを気にしてるのか。

そりゃそうか。

俺だって初めて見たミスカの戦闘に興奮してた裏で少しビビってた。


俺はこんな事出来ないだろうなって、決めつけてたっけ。


「お嬢。覚悟とか、勇気とかって死んでも良いって考えじゃない。俺だって死にたく無いし、クルトだって内心震えてる」


その二つは簡単な物では片付けられない。

きっと何かのきっかけが必要で、何かを捨てなければ得られない二つだろう。

それが俺の場合ミスカであったり、遊ぶ時間であったり。

もしかすると、命を賭けるより、自信や慣れに近いものかもしれない。

誰も分からないんだ。

誰しも思考の奥底では畏怖や後悔が眠ってる。


「お嬢だって覚悟して家出したんだろ? 勇気を出してミーガバードに来たんだろ? ビビる必要はあって良い。人間は考え過ぎる生き物だからそれを気づいて、それを知っててバカになれば良い」

「バカになるの?」

「あぁ、俺が昔から意識している事だ。それを賢い馬鹿と呼んでる。そっちの方が気楽で良いもんだ」


物事を対立してみるより、中立してみた方が面白いように、やってしまった事を他人事にしてみたり、そうやった方が楽しいに決まってる。


「まぁ、逃げるみたいなもんだな。クルトだって俺に魔術を撃ったこと忘れてないしな」


あいつもポジティブ馬鹿なふりをして目を逸らしてるんだ。


「俺は何一つ気にして無いが面白ぇーから掘り返してるだけだ」


これも他人事と同じことだろう。


「いちいち気にしてたら損するだけってことだ」

「あたしより年下なのに……なんかムカつくの」

「ハハ、ひでぇー」


ミルナは立ち上がり、俺を見る。


「でも、分かったの。ありがとうエル」


ミルナは笑って、礼を言うと、クルトの方へ走って混ざりに行った。


「まぁ、本当の俺はただの怒りだけなんだけどな」

「良いじゃ無いですか、原動力は人それぞれで」


後方からロンが口を挟む。


「え! いつからいたんですか!!」

「初っ端からですよ」

「恥っず!」


ロンはニヤニヤと笑いながら俺を見つめる。


「エルくんも色々考えてるんですねぇ」

「やめて下さい」

「賢い馬鹿ですか」

「やめて下さい」

「でもテストは本気でやって下さいよ」

「それは本気ですよ」

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