21話 白黒つけるか、黒白が着けるか
もうすぐ夏が終わる。
やっとこの暑さから解放されるんだ。
涼しくなったら行きたいとこに僕は行くんだ。
鎌倉、東京、温泉にだって入りたい。
絶対遊んでやる。
待っとけよ秋。
「先攻、後攻選ばせてやるよ」
相手を挑発するよう俺は右手で煽る。
「ガキ相手だ。ハンデで後攻にしてやるよっ──!!」
言葉とは裏腹に、残り5人の先頭に立っていた男が、懐から投げナイフを素早く取り出すと俺の眉間目掛け撃つ。
「せこいね、おっさん」
「───?!」
眉間に突き刺さったはずだったそのナイフは、紙切れ一枚分残し、右手に掴まれ止まっている。
「先攻ってことでオーケェ? じゃぁ次は俺のターンだ!」
俺は魔力を右足に纏い、体重を前へ持っていく。
神体術。
防御は捨て、技は二の次でスピード特化に長けた武術。
普通ほとんどの生物は最高速度を初速で出すことは出来ない。
しかし、神体術は初速が最高速度と言われるほど、速く、鋭い。
俺は投げナイフを持ったまま、地面を蹴り上げる。
その初速はこの世界で最も速いと言われる飛竜すらも凌駕する。
「っ──!」
さらにそのスピードに自らの腕力がプラスされれば?
持っていた投げナイフを先頭の男、顔面目掛けて俺は力一杯投げつけた。
横から見るとナイフは、まっすぐな直線を残したまま、男の頬を擦る。
ナイフはそのまま壁にぶつかり、その衝撃で粉々に散ってゆく。
「へ……?」
状況を飲み込めないまま男は、俺の右拳が顔面に叩き込まれ、地面に衝突。
「ガキがよぉ!」
殴られた男の真後ろに隠れていた仲間が空中にいる俺へ剣を切り付ける。
「避けらんねぇなぁ!」
他の奴とは比べ物にならないほど鋭く、素早い剣筋に俺は回避もガードもしなかった。
『キンッ!』
左肩から右横腹にかけて切り付けたつもりの剣が俺の体に触れる前に、何かによって弾かれる。
「──!」
「最高のタイミングだ! クルト!」
その何かとは、クルトが放った土魔術のただの岩だ。
地面へ着地し、体勢を調整、殴りやすい角度のその顎へ、もう一度拳をぶつける。
「がっ──」
「へぇ、やるなぁ。流石は血筋だな」
ロンを刺した男が手を叩きながらゆっくりと歩いてくる。
「黒髪のガキもいい魔術を使うもんだ。それに精度もバケモンときた」
ナイフを振るい、ロンの血を落とす。
「ますます盛り上がるってもんだ」
「血筋?」
俺は男の言葉に引っかかる。
「あぁ、気にすんな。こっちの話だ」
クルトが自身の周りに魔術で尖った岩を4個ほど展開させる。
「まぁ、待てよ。こっちはもう二人しかいねぇんだ。焦るなよ」
なんだ?
なんでこんなこいつは落ち着いてやがる。
「その歳でこの強さ、後10年したら最強になるなぁ」
「何が言いたい」
土魔術だけじゃ心許ないのか、クルトの周りを雷が覆う。
「別に、世間話ってやつだ」
ガタイのいい男は後ろにいる仲間を尻目で見る。
「時間稼ぎか?」
「信用ねぇーな。ハハ、そりゃそうか。俺はお前の敵だもんな」
近づいてくるマッチョマンに一定の距離を保つため、後ろへ下がる。
「ほら、距離感も完璧だ。どんだけ対人戦やってきたんだ?」
「だから、何が言いたいんだ!」
マッチョメンはため息を吐いた。
「褒めてるだけなのに──」
マッチョは人差し指を立てると、クルトを指した。
「──やれ」
次の瞬間、空気の塊がクルトを襲う。
「──がっ!!」
発進源は後ろにいた仲間。
やっぱり、さっきまでの会話はこの魔術の詠唱のためのただの時間稼ぎか。
「クルトっ!!」
すぐに駆けつけようとするが、壁にぶつかったクルトが手のひらを見せ、俺を止める。
「さあ、後は白髪お前だけだなぁ!」
ナイフを握りしめ、突っ込んでくる。
あのナイフは毒──
掠りは御法度だ。
マッチョは躊躇いなく俺の首に、切り掛かる。
それをしゃがみ込み、回避、それと同時に足を掛けて体勢を崩す──
「避け──?!」
しかしマッチョはその場で飛び上がる。
焦って俺は両腕で守りに入るが、左足の蹴りの衝撃で吹っ飛んだ。
「俺の方が一枚上手だったなぁ」
「がはっ!」
嘘だろ?
纏魔でもねぇーのにそのスピード……いや、スピードは一般的だ。
そうじゃない、そうじゃなくて、ただ何か、何かがおかしい。
初速ぶっぱで俺は突進する。
「うお、はえぇ!」
マッチョは太い腕を使って俺の蹴りを受け止め、また蹴りで飛ばす。
「またまた俺の勝ちぃ」
なんだ?
この感じ。
やっぱりなんかちげぇ。
スピードは俺の方が遥かに上だ。
纏魔を使ってると言っても子供の筋力だ。
あいつの筋力と、さほど変わらねぇはずだ。
じゃぁ、なぜここまで違う。
「攻撃出来ないのが不思議に思ってるって顔だな」
「──!!」
「図星か」
マッチョはその場で軽くジャンプをする。
「当たり前だ。4年前まで現役で王直属の近衛兵やってたんだ。経験の差って奴だ」
「クビにでもなったのか?」
「いや、辞めてやった。ロムって所はクソだからな」
ロム!?
ロムって言ったらゲールが行ったところじゃねぇーか。
「じゃあ、故郷に逃げ帰った時、地元の奴らに言っといてくれよ」
「?」
俺はほくそ笑みマッチョを睨んでそう言った。
「ミスカ・フォールが死んだってな」
「フォール……?」
マッチョは顎に手を置いて考える。
知ってるだろ。
お前の同僚の名前だ。
「あぁ、杖なしの嫁か」
ポンと、手を叩いてマッチョが答える。
「俺の母さんだ」
「え……、母さん? ────なるほど、そういうことね」
マッチョはニヤリと笑うと、すっきりした顔つきに変わる。
「余計にお前が欲しくなった」
気持ち悪いことを言う男だな。
俺はそんな趣味ねぇーよ。
「きめぇよ、おっさん!!」
先程と同じように、俺は初速爆速で相手に向かう。
さっきまで疑問に思っていた。
だが、ようやく理由がわかった気がする。
スピードも技も奴に上回ってるのに、返り討ちにされている理由。
きっと、俺はビビってたんだ。
あいつの持ってるあの毒ナイフ、纏魔でも防げないってだけの理由でビビって、追撃をせずガードを固める。
お陰でカウンター貰いまくってたってことだろう。
それに────
マッチョのリーチギリギリで、急カーブし、すぐさま相手の後ろに着く。
「消えた!」
────やっぱな。
こいつさっきまでの仲間との戦いだけを見て、俺の攻撃をあらかじめ予測してただけだな。
「正面突破だけじゃねぇーよ!」
すぐさま蹴りでバランスを崩す。
もちろんさっきまでの威力ではなく、常人ならそれだけで足がちぎれるほどの力でだ。
「うおっ」
しかしそれすらも予測していたのか、それともただのまぐれなのか、飛び一つで躱わす。
「甘ぇーよ」
一度躱されてんだ、同じミスはしねぇーよ筋肉バカ。
両手で地面に力を込め、飛び上がり、背中に両足の蹴り。
「──っ!」
マッチョメンが壁にぶつかる。
「痛ってぇ!!!」
「今のは骨いったはずだ。そこで寝てろ」
血の混じった唾を地面に吐き捨て、残っている一人を睨む。
「マジかよ……、ルークまでやられた……」
「投降するなら今だけだ」
「ハハ……」
乾いた笑いをしながら最後の仲間が杖を地面に置き、両手を挙げる。
「降参だ」
「バーカ、許すかよ」
既にそいつの懐に潜り込んでいた俺は顎に直接グーパンを決める。
「ふべっぷっ!」
みっともない声をあげて天井にぶつかり、白目を剥き地面へと落ちる。
「はぁ、はぁ、やっと終わった……」
ミスカほどではねぇーけど、流石に痛てぇ。
地面にへたり込みクルトを見る。
「大丈夫か? あ、杖ここに落ちてるぞ」
さっき殴った男の杖の横に転がっているクルトの杖を持ち、仰向けで寝ているクルトに見せる。
「大丈夫……ちょっと動けないけど」
「早く帰ってロンさん治さねぇーと」
膝をついて立ちあがろうとした時、そいつは起き上がった。
「痛ってーな。やっぱ強ぇーわ、お前。プッ!」
「?!」
マッチョマンが腰を叩きながら血を吐いた
「はぁ!? 骨すら折れてねぇーのかよ……タフすぎんだろ」
「そう褒めんな。ガキに褒められるのは屈辱だ」
褒めてはねーよ。
こいつガチの脳筋かよ。
「忘れてたな、4年も経てば。」
腰を伸ばしながら独り言のようにそう喋る。
「本気の殴り合いってやつを忘れてた。──けど、思い出してきた」
「エル! 杖をあいつに向けて──!」
急に声を荒げ、クルトが叫ぶ。
それに釣られて俺はわからないまま杖をマッチョに────
「させねぇーよ」
「しまっ──」
獣の突進の如く、マッチョのでかい拳が俺の溝を抉る。
「がはっ!」
「あぶねぇーな。まさか黒髪のガキの意識がはっきりしてたとは」
殴られた衝撃で離した杖がマッチョの頭上を通過する。
「いや、完璧だよ! 別にエルは魔術は使える訳では無いからね!」
無理やり体を起こし、クルトは笑う。
そう。
クルトはこの時を待っていた。
他の奴とは比べ物にならないと勘で分かった時から魔術を雷を文字通り貯めていたのだ。
その杖に────
「そう! 完璧の位置で完璧の状況! 貯め込める杖でよかったよ!」
「まさか──っ! このガキっ!!」
宙を舞う杖をマッチョが睨む。
「穿て!『シンライ』!!」
杖から眩い光がマッチョを覆うと、今度は怒号が辺りを揺らした。
「が、が……らだが……らが……だ……」
真っ黒に焦げたマッチョメンは香ばしい香りをあげながら、その場にどっさり音を立て倒れた。
先の戦いに一人心熱く見ていた少女が、眼を限界まで開いていた。
すごいの……。
今の魔術、詠唱なしだったの……。
その前も、その前も無詠唱で使ってたの。
少女は先日、自室の部屋から見ていたあの花火を思い出す。
絶対あの人なの。
じゃないとこんなことできっこないの。
少女は立ち上がり、天井を見つめている魔術師の前に向かう。
「ミルナお嬢様……?」
エルが不思議そうな顔でそう言った後、少女はクルトに向けて声をあげる。
「あたしに魔術を教えてくださいの!」
「……は?」
「……へ?」
クルトは口を開けて情けない声を出した。
────もしもあったかも知れない世界線────
「先攻、後攻選ばせてやるよ」
相手を挑発するよう俺は右手で煽る。
「ガキ相手だ。ハンデで後攻にしてやるよっ──!!」
言葉とは裏腹に、残り5人の先頭に立っていた男が、懐から投げナイフを素早く取り出すと俺の眉間目掛け撃つ。
「せこいね、おっさん」
「───?!」
眉間に突き刺さったはずだったそのナイフは、紙切れ一枚分残し、右手に掴まれ止まっている。
「先攻ってことでオーケェ? じゃぁ次は俺のターンだ!」
俺は魔力を右足に纏い、体重を前へ持っていく。
神体術。
防御は捨て、技は二の次でスピード特化に長けた武術。
普通ほとんどの生物は最高速度を初速で出すことは出来ない。
しかし、神体術は初速が最高速度と言われるほど、速く、鋭い。
俺は投げナイフを持ったまま、地面を蹴り上げる。
その初速はこの世界で最も速いと言われる飛竜すらも凌駕する。
「っ──!」
さらにそのスピードに自らの腕力がプラスされれば?
持っていた投げナイフを先頭の男、顔面目掛けて俺は力一杯投げつけた。
横から見るとナイフは、まっすぐな直線を残したまま、男の左目へと直撃した。
ナイフは顔面を貫通し、そのまま壁にぶつかり、その衝撃で粉々に散ってゆく。
「へ……? なんか……視界が……ぼやけ……」
風穴の空いたその左目から赤黒い血が頬をつたり、肩に落ち、腕に滴る。
「あ、あ、あ……目が……」
血だらけの左手で目を押さえる。
「死ぬのか……? 俺?」
押さえていた手の力が抜け、ダランと垂れ下がる。
そのまま膝から崩れ落ち仰向けで倒れた。
「あ……あ……あ……あがっ────」
勢いよく大量の血が噴水の如く目から溢れ出て、全身真っ赤に染まり男は死んだ。
「エル……それはやりすぎだよ」
「え……うそだ……狙いがずれた……?」
口を押さえて青ざめた顔のエルが震えている。
「犯罪者だ……、俺……犯罪者だ……」




