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デスターン  作者: 春川立木
23/72

20話 決行です

外暑すぎてエアコンから離れたくない。

なんかもう付き合いたてのカップルみてぇーだな。

結婚しようかな、エアコンと、

芋虫の如くぐるぐる巻きにされていたロープを解いた俺は、胴衣を脱いだピッ○ロのように体が軽い。


「へへへ、こうなればこんな枷なんてちょちょいのちょいよ」


勢いよく枷を引きちぎる。

劣化していたのもあってか、枷は粉々に壊れた。


「エル、僕のも」


クルトが枷を俺に差し出す。


「へいへい」


枷を握りしめ力を入れる。

すると同じく粉々に粉砕された。


「今度は私ですね」


ウッキウキでロンが靴を俺に差し出した。


靴でも舐めて欲しいんか?

なんだよ、なら早く言ってくれればいいのに。

靴ぐらいいつでもどこでも舐めてやるっての。


「ちょっと、エル君! 何舌出しているんですか?!」


靴に顔を近づけてベロを出そうとすると、足を引っ込め、ロンさんらしからぬ大声で叫ぶ。


「え? 舐めてほいしのかと」

「違いますよ! 靴についているナイフを取って、ロープを切って欲しいだけです!」

「あぁ、なんだ。そっちか……」


渋々ナイフを受け取り、ロープを切った。


「なんで、残念そうなんですか!」

「ロンさん枷は?」


ツッコミを無視して俺はロンの枷を握ろうとする。


「これぐらい自分で外せます。ふんっ!」


力づくで枷を引きちぎる。


「ふぅ。これでいつでも戦えますね」

「ところでロンさん。今この状態を誘拐犯達に見られたらまずいのでは?」


ふと、そこの鉄扉から誘拐犯が大勢で現る可能性を考えた。


だが、大丈夫だろう。

なんたってここには二度も監禁されたプロフェッショナルがいらっしゃいますからね。


きっと、大丈夫。

今にも「確かに……」と言い出しそうな顔をしているロンさんはきっと気のせいだ。


「確かに……」

「流石。ロンさんだね」


クルトが他人事のように笑って、ブーツの中に隠していた某魔法使い映画に出てきそうな杖を取り出す。


「なぁ、杖って魔術使うのに絶対いるもんなのか?」


ゲールは杖なんか持っていた記憶はないし、そもそも魔術関連に疎すぎる俺はそんな質問をした。


「んー、どうかな。別になくても使えるけど……、あったほうが高火力、高密度、高精度の魔術になるってだけかも……」

「へー、なるほどね」


ごめん、クルト。

聞いた本人は俺なんだけどさ、普通に興味無かったわ。


「あ、でも、この杖はちょっと特殊で──」

「あ、それはいいや」

「はうっ」


楽しそうにクルトが杖の説明を始めそうになったので全く興味がない俺は話をロンさんへ戻した。


「確かに……」


まだ言ってるよ。


顎に手を置いたロンはずっと「確かに……」と、連呼し続けている。


「ロープもう一回巻いときますか?」

「いえ……大丈夫だと……思い……ま……す……」


しっかし、あれだな。

ロンさんは上げて落とすタイプの人だな。

俺そういう人嫌いじゃないよ、ロンさん。

だから自信持てって。


「大丈夫だよ。これが平常運転のロンさんだから」

「平常運転ね……。ま、気長に待つとしますか」


不安な顔で立ち尽くすロンを尻目に俺は腰を下ろした。






気長に待とうと思っていたが、案外それは早く来た。


「待ち時間ってガチ暇ぇー」

「本当にそうだよねー」


ボーっと扉を眺めていると、扉が錆びた音を立てながら開く。


「さっきからうるせーんだよ!」


あ、偽商人の人だ!


「黙らねぇーってんのなら見せしめにその男を殺………………」


偽商人は違和感に気づき、俺、ロン、クルトを順番に見ていく。


「おい……聞いてもいいか?」

「ロンレル・キュールです」


男の質問にロンが答えた。


「趣味は体を動かすことです」


それに続いて俺も答える。


「得意魔術は土と水です」


クルトも答える。


「自己紹介を聞きてぇーわけじゃねーよ!」


あら、見事なツッコミだこと。


「縄と枷はどこやったのかって聞いてんだ!」


やっぱりか。

そりゃバレるわな。

なんとかして誤魔化すしか無い。


「……えっと」

「それが……」


ロンとクルトが言い訳を模索し始める。


「あっ、劣化シテマシタ」


うん。

俺嘘下手すぎだろ。


「まさか……逃げようとしてたのか?」

「いえ、全く」


俺は首を横に振る。


これは全く嘘じゃ無い。

だって逃げるも何も、返り討ちにしようとしてたからね。


俺のこめかみから汗が垂れ、地面に落ちる。


「おーい! ジーン!」


この状況を打破する方法を考えていたが、チャンスは向こうから送られてきた。


「ジーン! 身代金が来たぞー!」


身代金、その言葉が部屋中に響き渡ったほんの一瞬、偽商人の意識がそちらに傾いたのだ。


「──!!」


たった数コンマの出来事で俺とロンはそれぞれ、そいつの顔面に、腰に刺していた剣に、飛び出して行った。


「はや……」


クルトが声を発した瞬間、ロンが剣を奪い抜き、俺が顔面に拳を沈める勢いで殴り地面へ叩きつける。


「さぁ、ミルナお嬢様、反撃開始ですよ」


ロンは奪った剣で、華麗にミルナのロープと枷を切り落とした。


「すごいの……」


ミルナは口を開け、呆然と倒れた偽商人を見つめている。


「おーい! 何してんだー!」

「やびっ、来るよ! ロンさん!」


誘拐犯の近づく声に反応するクルトが、急いでミルナお嬢様を抱き抱えロンに呼びかける。


「まずい! 隠れる所!」

「どこかに逃げないと!」


てんやわんやで慌てふためき、辺りをぐるぐる走り回る。


「金貨10枚だぜー! 山分け一人金貨一枚だ!」

「どうする! どうする! まずすぎる!」

「と、と、と、と、とりあえず、扉、閉め、閉めて、、、お、お、お、落ち着いて、、」

「ロンさんが一番落ち着きなよ」


クルトがテンパる俺らにため息を吐きつけ、杖を構えた。







「ジンー! どこに……」


男は廊下に倒れている偽商人に気づく。


「何倒れてんだよ。ドッキリか?」


そう、ケラケラと笑って倒れた偽商人に近づく。

すると男は違和感に気づく、その違和感とは偽商人の腰にいつも刺さっていた剣であった。

その剣が鞘に収まっていないのだ。


その違和感は確信へ変わると否や、男の後ろ腰に携えていたナイフを素早く引き抜き、戦闘体勢に入る。


「どこだ……」


男はジンをこの有様にした犯人を警戒する。


縦一列、永遠と続くその通路は薄暗く、人が隠れるには丁度いい岩が露出している。


「チッ、だから廃坑を拠点にするの反対だったんだよ」


震える手に力を入れて深呼吸を繰り返す。


「前か……後ろ……それか上……」

「残念。真横です!」


誰がどう見てもただの壁であった場所から剣身が伸び、男の横腹を貫通した。


「──っ!」


それに追撃する形で白髪の子供が壁の中から飛び出し、男の顔面に蹴りを入れる。

しかし、男は横腹に剣を刺されただけでは隙を見せなかった。

微動だりせず、ナイフを真横に振りかざし、白髪の子供の首へ。


「あっぶ!」


その攻撃を紙一重で、身体を反り回避した。

さらに反った動きのまま、つま先を男の顎に当て、蹴り上げる。


「がっ──!」


蹴り上げられた男は天井に頭をぶつけ、地面へ落ちる。







「いやー、クルトのお陰でなんとかなったわ」

「感謝するなら岩壁に感謝してね」


ペチペチとクルトが壁を叩く。

しかし、魔術ってのも便利なもんだな。

ちょっとした溝を壁で埋めれるなんて。


「さて、みなさん。急ぎましょう」

「とりあえずこの人が来た道戻れば外出られるよな」

「うん。もしそれでダメだったら、天井にでっかい穴でも開けよう」


俺らまで穴空きません?

安全は保証されてます? それ。


「私に続いてみなさん来て下さい」


ロンが先頭に立ち、通路を急ぐ。

俺らもそれについて行く。


「なぁ、ロンさん。ミルナお嬢様連れてきても平気なんですか?」

「?」


ロンが首を曲げる。


「いや、もし人質として取られたらアウトじゃん」

「フフフ、わかってないですねぇ。恩は目に焼き付けさせてこそ熱くなるんですよ」


ちょっと、よくわからんが、ロンさんが調子に乗ってるってことだけはわかる。

あんまり自信ありげにしないで欲しいもんだよ。

ロンさんは時々ポンさんになるんだから。


「あ、クルトくん。魔術を人に撃てる覚悟はありますか?」

「ん? 出来てはいるよ。でも、なんで急に?」


曲がり角でロンがみんなを止め、奥に人がいないことを確認し、再び早足で進む。


「魔術師あるあるです。魔物とか、魔獣には撃てる魔術師は皆、人に向けて撃つことができるわけではないって話です」

「撃てる撃てない以前に僕エルに一発撃ってるよ」


その言葉を聞いて俺はついこの間の事件を思い出す。


「そうだよ! お前なんで俺に撃ったんだよ!」

「へへへ、いやぁさぁ、無詠唱で魔術を出すためにいろんな方向で、いろんな構え方で、試してたらちょーどエルの方向で出ちゃった。えへへ」


えへへじゃねぇーよ。

後ろ頭に手を置いて、舌出すんじゃねぇーよ。

ちょっと可愛いじゃねぇーか。


「止まって下さい」


俺がため息をつくと急にロンが腕を出し、俺らの道を塞いだ。

そんなロンを見ると、目線がずっと奥を見ていた。

何を見ているのだろうと思い、俺も目線と同じ方向を見る。

すると、うつ伏せで震える老人が誘拐犯達に囲まれていじめられているではありませんか。


「親父狩り……」


誰ががそう口を開いた時、ミルナの瞳孔が広がる。


「じぃ!」


ミルナは老人を見るや否や肩を振るわせ、顔色が悪くなる。

きっとじぃとの良き思い出が頭の中に溢れ出ているんだろうな。


「じぃが……、じぃが……、あたしのせいで……」


呼吸もどんどん荒くなってゆく。


「落ち着いて下さい。ミルナお嬢様。必ず助けますから」


ミルナの視界を遮るようにロンが前に出て、ミルナの肩を掴み、笑顔でそう答えた。


「うぅ、ごめんなさい……ごめんなさい……」


ミルナの涙がロンの手に落ちる。


「ここで大人しく待っていて下さい」


その問にミルナは頷き、涙を拭く。

ロンは頭を優しく叩き、踵を返した。


「ロンさん、手ぇ貸そうか?」

「いえ、少しだけ暴れたい気分なので、ミルナお嬢様のそばにいてください」

「了解ー」







「お嬢様に……何か……あったら……タダでは……」

「うるせーよ! クソジジイ!」


すでに殴られた後のある顔に鋭い蹴りが炸裂する。


「金貨10枚ノコノコと持ってきて、はいじゃあガキ返しますってガチで信じてたんかぁ?」

「はは! バカだろこのジジィ」

「ガキの世話係はガキに似てバカだなぁ! 腐ったみかんみてぇーによ!」


今度は鳩尾に蹴りが入る。


「金貨一枚あれば毎晩女だけんじゃね」

「いや、女ぐらい強姦すりゃいいだろ」

「そりゃそうだな! がはは」


虫唾が走る。


「ま、まさか……ミルナお嬢様にも……そんな……」

「バカ言うな、ガキには興味ねぇーんだよ!」


倒れたご老体の顔面を踏み潰す。


よくもまぁ、品のない会話が口から無限に溢れ出るものですね。

本当に────


「俺は俄然、あの嬢ちゃんでもいいけどな」

「ロリコンかよ! きめぇーな」

「お前だって人妻にしかキョーミねぇーだろーがよ!」


本当に────


「ミルナのガキを餌にすれば夫人とも一発やれんじゃね」

「それだ!」


本当に────


ロンが剣を握りしめて怒りを抑えつける。


「あの黒髪のガキと、舐めた態度の剣士は殺していいかなぁ?」

「あぁ、いいだろ。目的のやつはあの二人だけだったし」


足音ひとつも立てず、ロンは気付けば誘拐犯の真後ろに立っていた。


「本当に────虫唾が走る!!」


怒りに身を任せたロンの一振りは目の前にいた男の首を切り離した。


「────!!」


噴水のように溢れ出る血を被り、鬼のような形相をしたロンが誘拐犯達を睨みつける。


「殺したな? ハハっ、様子を見に行ったジンも、ペルーも殺したんだな」


机に座ってタバコを吸っていた男がロンの前に立つ。

仲間を目の前で殺されたと言うのに誘拐犯達は笑っている。

きっと、頭のネジが外れているのだろう。


「まだこっちには7人いるんだ」


タバコを床に投げ捨て、靴底で踏み潰す。


「数なんて期待しない方がいいですよ」

「あぁ? 黙れ!」


一斉に剣を、ナイフを取り出した男どもは、ロン一人に対し斬ってかかる。


「幼稚な剣筋ですね」


一番先に切り掛かった男の剣を楽々弾き返し、踏み込んだ。


「心臓は、外しておきます」


ロンの剣先が胸に刺さり、剣唾まで一気に深く貫いた。


「が───っ」

「てめぇ!」


他の仲間がロンの横から剣を突き刺そうと飛び出した。


が、ロンは刺した男の肩に手を置き、剣を抜きながらバク宙し、回避する。


「片腕の借りぃ、返してもらうぜ! リベンジマッチだぁ!」


そうナイフをロンに向け、叫んだのは飛んだ先の着地点にいる、ミーガバードで腕を切り落とした男。


「リベンジマッチに受けたいわけでは無いですよ! ちょうどいい位置に突っ立ってるだけです!」


落下しているロンの長い足目掛けて、ナイフを横に振るった。


「おらぁ!」


しかし、そのナイフは曲げられた足によって空振り。

挙げ句の果てに振り終えた腕にロンが乗り、重い足蹴りが男の横顔に襲いかかる。


「両方言っときましょうか!!」


体勢を崩した男の左腕をロンが切り離す。


「くそがぁ、!!」


華麗に着地し、剣についた血を血振で落とす。


「舐められたもんだなぁ、うちらもよぉ」


周りよりも遥かにガタイのいい男が前に出る。


「短時間で仲間半分やられるなんてな。いや、違うか……舐められてんじゃなくて、単に使えない奴らなだけか……」


その男は鼻で笑うとロンの後ろに目線を持って行った。


どこを見ている……。

まさか──!


嫌な予感がしたロンは男と同じ方向を向く。

するとその嫌な予感の答えはすぐに見つかる。


ミルナお嬢様──!!


ミルナの青髪、その頭のてっぺんからビヨンと伸びたアホ毛が、物陰から現れ、右に左にゆらゆらと揺れているのだ。


「クルトくん達! 今すぐ逃げ──」


ロンの叫ぶ声が途中で途切れた。

理由は簡単だ。

刺されたのだ。


何に?

ミーガバードの裏で一度見た毒ナイフにだ。


誰に?

目線を見せた男にだ。


「紳士ってのは、時に縛りだなぁ」

「ぐふっ──」


背中から腹に貫通した刀身を見つめ、ロンが吐血する。


「ガキも捕えろ」

「りょうかーい」


仲間に顎で指示を出し、剣を抜く。


「逃げ……て……」


あぁ、まただ。


うっすらと薄れてゆく意識の中、クルトくん達の方へナイフを持って駆け込む男を、ロンは睨んでいた。


まただ。

また、人を助ける事が、出来ないのか……。


ロンの意識の中に過去の記憶が流れ込む。


昔と何にも変わってない。

傲慢で、天然のままの自分だ。

守れなかった妹に、守ことさえできなかった最愛の人、守られて死んでいったパーティーメンバー。

そして守りきれなかった子供達……。


男は物陰の方へ飛び込んだ。


「あ……あ、あ……あぁ……」


ロンの光の消えた目は無惨に散る子供達────


「ショウ、リュウ、ケン!!」


────ではなかった。


「エルくん!?」


消えていたはずの目の光がいつの間にか戻っている。

消えそうな意識も気づけば覚醒していた。


それもそうだ。

たった8歳の子供が、3倍以上の年齢の男にアッパーを決め、物陰から元気よく飛び出しているのだから。


「ガキだからってあんま舐めんな、こちとら何度も殺されかけてきたんだからなぁ!」


あぁ、そうだった。

手加減をしてたって言っても私の剣筋を見切った8歳児だ。

あんな男に心配される理由がなかった……。


「クルト! さっき言った陣形!」

「うん! ちょっとだけ腹が立つから本気出すよ!」


エルが叫ぶと、クルトが杖を持ち替えながらゆっくりとエルの左側へ着く。


「さぁ、大将戦だ!」


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