表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスターン  作者: 春川立木
22/72

19話 感謝感激作戦

尊敬している発明家はと聞かれたら、私はエアコンを作った人だと自信を持って答えるだろう。

だって涼しいもん。

目が覚めた俺はロープでぐるぐるに縛られ、手と足には枷が付けられていた。


「痛ってぇー、……石畳硬ってぇー」


体を起こし、周りを見る。


薄暗く、少し生臭いその部屋はまるで石造りの牢屋だ。


「まるでってか、牢屋だなこれは」

「スー、スー」


左から寝息が聞こえて来る。


「こいつはよく熟睡できるな」


自分のベッドで寝るかのように、クルトがスヤスヤと眠っている


「おーい、起きろー。やべーぞお前」

「スー、スー」

「……」


声をかけるがうんともすんとも言わず、寝息だけだ聞こえて来る。


「クルトー、目ぇ覚せー」

「スー、スー」

「……」


ダメだなこいつは。

どんだけ寝れば気が済むねん。


「起きろや! こら!」


縛られた体をクネクネ動かし、寝ているクルトに頭突きをする。


「痛っ! どうしたのエル? もうココ村着いた?」

「……もう一生寝てろ」

「?」


寝ぼけた顔でクルトが首を傾げた。


「あれ? ここどこ?」


キョロキョロと辺りを見渡しながらクルトは俺に質問する。


「……はぁ、誘拐だ」

「誰が?」

「俺らが」

「わーお」


わーおって、何だよ。


「どうしよう。魔術教本ここにはないよね」

「当たり前だろ。あってたまるか、こんなとこに」


はぁ、ロンさんに啖呵切ったものの、どうしたもんか。


俺は目の前にあるボロい鉄製の扉を見る。


鍵はかかっているだろうけど、蹴ったら開くか?

いや、その前にこのロープと枷をどうにかしねぇーとな。


「なぁ、クルト」

「ん?」

「この枷とロープ外せるか?」


自分の手元を見ながら俺は聞く。


「んー。どっちも燃えそうだからいけるよ」

「なるほどな……ん、まて、今燃やすって言った?」

「うん。言った」


笑顔で頷く。


「魔術でか?」

「そう」

「その二つが燃え尽きた時、俺の命も燃え尽きるな」


そう言うとクルトは確かにと、俯いた。


「詰んだな」

「詰んだね」


二人して天井を見上げていると、鉄の扉が錆びた音を立てながら開く。


「おら、さっさと入れ」

「痛いの」


青髪の幼女が投げられる形で牢屋に入る。


「女性には優しくするもんですよ。野蛮人さん」

「うるせー、お前も入るんだよ!」

「あ痛っ」


今度は背の高い男が蹴られて牢屋にぶち込まれる。


「そっから1ミリも動くなよ、黙って待っとけ商品どもが!」


よくわからん捨て台詞を吐いて、勢いよく扉を閉める。


「はぁー散々ですね。でも、先客が居たとは」


男は顔を上げて俺らを見る。


「え……」

「え……」


目を合わせたと同時に俺とクルトと男は口をぽかんと開けて見つめあっていた。


「わーお、ロンさんさっきぶり」

「これはこれは、エルくんじゃないですか。ここはココ村じゃないですよ」

「らしいですね」


三人して再び天井を向いてため息を吐いた。






「一体なぜ、二人ともここに?」


ロンが芋虫のように地面を這い、壁に寄りかかる。


「あー、罠に引っかかっただけです」

「罠?」


疑問に首を傾げているロンに、俺は一から十まで詳しくことの経緯を伝えた。


「なるほど。そういうことでしたか」

「ロンさんこそ、何でこんなところにいるんですか?」


クルトは寝ていた体勢からやっとの思いで起き上がり、そう言った。


「まぁ、驕りすぎた結果がこれなだけです」

「ロンさんらしい言動と見た目ですね」


ククッと、笑ってクルトがディスる。


「反論出来ないのが悔しいです」


ロンが自分の置かれている状態を、ぐるぐる巻きで縛られている体を見て、失笑した。


「さて、どうやって出ましょうか」

「ロンさん。策はありますか?」


ロンさんならいくつもの修羅場を潜ってきてそうだし、大人だし、元冒険者だから何かしら案があるはずだ。


「ふっ」


ロンさん鼻で笑い、自信ありげな顔をした。


これは期待できそうだな。


「──ないです」


終わったわ。

ここで俺らの冒険はバッドエンドを迎えたっぽい。


「ですよねー」


ため息を吐いて俺はその場でへこたれる。


「クルト君に魔術でこの縄と枷を燃やしてもらいましょう」


その話はさっきしたよロンさん。

思考が俺と一緒で嬉しいよ。


「命も一緒に燃え尽きて終わりって話」

「確かに」


それの流れももうやったよロンさん。

デジャブってやつだよロンさん。






「ところでその子は?」


俺はロンさんの隣に座り込んでいた青髪の少女を見る。


「えっと……うちの裏で困ってた少女です」


いや、誰だって。


「そういえば名前すら知らないですね」


ロンが笑いながら少女を見た。


「……ミルナ」


少女は俯いたままそう呟く。


「え……」

「ロンさんが変な目で見たから怒ったじゃないですか」

「えぇ?! 私のせいですか!?」


だって、ロンが見てから見るなって言ったじゃん。


「……名前がミルナ。ミルナ・エスタ」


なんだ。

名前か。

てっきりロリコン反対派閥の人間かと思った。


「え……エスタ……?!」


ミルナの名前を聞いて、ロンとクルトが目を見開いた。


「エスタ? この領都とおんなじ名前なんだな」


何も考えずそう言った途端、俺は気づいた。


「領主の令嬢!?」


驚きで、でかい声をあげてしまう。


「うるせーぞ! ぶち殺すぞ!!」


扉の奥から男の怒号が部屋に入って来る。


「……ごめんなさい」


心からの謝罪をして、俺はもう一度ミルナに言った。


「ご令嬢様でございます?」


ミルナはコクリと首を縦に振る。


まじか、お偉いさんじゃねーか。

こんなとこいたら、まずいんじゃね。


そう考えていると、ロンがのっそのっそとこちらへ近づいて来る。


「何ですか、ロンさん」


俺とクルトの側まで近づくと、俺らの耳元で囁いた。


「これはチャンスですよ! 硬ったいパンと味のしないスープから逃げ出すチャンスです!」


チャンス?

何で?


「ですね! 死ぬ気であの子だけは守り切りましょう!」


クルトまで乗り気になって、目を輝かせロンと話す。


「どういうこと? 全く状況が読めんぞ俺は」


一人だけ仲間外れで、少しだけ虚しい俺はクルトに助け船を出してもらう。


「全く、鈍感だねエルは。ほら、よく考えて見て? ミルナは令嬢、領主の娘」

「うん。そこはわかる」


でもなぜ飯が出て来る?


「領主の娘=領主」

「はい」

「領主=金持ち」

「はい」

「金持ち=報酬」

「ほう」

「報酬=僕らが潤う」

「ほほう」


読めてきたぞ。


「僕らが潤う=?」

「美味しいご飯が食べられる」


俺がそう答えるとクルトとロンが大正解と、ニンマリ笑った。


「よし! 乗った。詳しく作戦を聞こう」


俺はクルトとロンの正面に正座をする。

正座といってもこの状態だ。

心だけは正座したつもりで、目を輝かせ、その場で前屈みになった。


「私は昔、二度ほど似たような状況に置かれたことがあるので、この後の流れは大体予想がつきます」

「予想とは?」


俺は心の正座をしたままロンさんに聞く。


「誘拐犯と連携をとっている奴隷商人か、ちょっと変わった変人がここに来て、お金で私たちを取り換えます」

「なるほど」

「しかし、それをされるのは私とクルト君とエルくんだけでしょう」

「? ミルナお嬢様は?」


俯いたままピクリとも動かないミルナを尻目にロンに質問する。


「ミルナお嬢様は領主様からの身代金目当てです」


確かにな。

そっちの方が儲かる話だ。


「ここでエルくんに問題です」

「はい」

「身代金をもらった誘拐犯たちは、律儀にミルナお嬢様を返すでしょうか?」


そりゃぁ、返すだろ?

だって金をもらったんだから。

……いや、待てよ。

ここで金を貰って、さらにロリコンの変人に売ったら丸儲けでは?


「返さないですね」

「その通りです。私でも返したくありません」


ロンが楽な体勢へ体を動かし、深く息を吐く。


「チャンスになるタイミングは簡単です。領主エスタさんが身代金を持ってきたら、きっとあの人たちは浮かれます」

「浮かれたところを横から突いて、感謝感激作戦ってことですね」


俺がそう答えるとロンとクルトが深く頷いた。


「しかし、ロンさんよ。この縄と枷が邪魔なんですけども」


戦闘をしようにも、この体勢だと無理なもんは無理。

せめてロープだけでも取ってくれれば、枷は何とか壊せるのに。


「はぁー、わがままですね。エルくんは」

「だって、このまま戦えって言ったって動けんぞ」


ロンはその言葉を聞いてニヤリと笑う。


「ま、まさか……打破する方法が……」

「ゴホンっ、テレレテッテレー『隠しナイフー』」


どこかで聞いたことのある鼻声で靴底の踵を強く地面に叩きつける。

すると、その反動で踵の先端から刃物が5センチほど伸びる。


流石ロンさん。

さすロンさん。


しかしよ、ロンさん。

幾多の修羅場をくぐってきて、素晴らしいと言えるほどの用意をしてくれたのは、靴を舐めるだけじゃ足りない感謝なんだけどさ。

一言だけ言わせてくれ。



いや、初めからそれやっとけや。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ