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デスターン  作者: 春川立木
18/72

15話 敗者からの置き土産

ルービックキューブを考えた人頭良すぎん?

なんならそれの公式を作った奴もっと頭良すぎん?

何度やっても訳わからんよ、あれは。

「さぁ、最後に言いたいことはあるかぁ?」


右腕は折れ、

左腕はちぎれ、

右足は潰れて、

左足は削れたミスカが今にも意識を失いそうになりながら寝そべっている。


シルバリがミスカの魔法条件を見抜き、流れを変えてから勝負がつくまで一瞬の出来事だった。



────────────────────────────────────────────────



ミスカの魔法、『ブルームブロゥ』が消えた瞬間、シルバリはミスカの顔面へ右手を向け駆け込んだ。

それをミスカは必死に避け、カウンターを与えようと右拳を出した時、ミスカの視界がぼやける。


魔法発動の後遺症。

ミスカはの状態は貧血によるめまい、頭痛、発熱さらには鼻からの出血。


圧倒的な魔法ほどそれはひどく脆いもの。


シルバリはそれを見逃さず右腕を折る。


「──あがぁっ!」


激痛のお陰で意識を保ち、ミスカが左足をシルバリへ伸ばす。


「──ぁあ゛!」


それを易々と抉り殴る。


「いい声だなぁ!」


必死に左手で鳩尾を殴ろうと、構えた所でシルバリはそれを掴み、ちぎり、引っこ抜く。


「──っ」


声にならないほどの悲鳴はまるで超音波の如く周りへ轟く。


ミスカの戦う意思はとっくに消え去り、地面へ倒れ込む。


「メインディッシュは最後だなぁ。次は右足ぃ!」


不気味な笑みを浮かべながら、シルバリが残りの右足を踏み潰した。


「…………」

「死んだかぁ? まだシメがあるだろぉ」


シルバリが近づき、耳元でそう囁く。


「───」

「?」


か細い声がシルバリの耳に届く。


「──す」

「す?」

「──殺す──」


耳を澄ませ、しっかりと聞く。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す──」

「ハハっ、面白ぇ」


シルバリは笑いながら立ち上がる。


「さぁ、最後に言いたいことはあるかぁ?」

「あんたは殺す、私の愛しの子がね。私ができる敗者からの置き土産……」


その目は狩られるやつの目ではなく、まるで死体を漁る害虫へ向けられる目。

その目でシルバリを睨む。


「しょーもないなぁ、最後の言葉がよぉ」


シルバリの右手がミスカの頭部を掴む。


「あぁ、最後にエルに会いた──」


その言葉は誰にも届かず、不快な濁った音だけがその場を反響させた。


「さて、次は村を潰すか」


踵を返し、村の方へ進もうとする。


「あ?」


突如として目の前に大きな扉が現れる。


──『地獄門』


それは魔界と人界を結ぶ扉であり、行きたいところへどこでも行ってくれる素晴らしい扉。


「いやぁ、やっぱり便利だな。どこでもドアは」

「チッ、何しに来た」


シルバリは扉から出てきた男を睨む。


「そう怒るなよ。ガットレイさんから連れ戻せって言われてきただけさ」

「お前の命令じゃ無いんだな。本当にガットレイ様なんだな」


男はシルバリからの信用がないのか、指を刺し、問い詰める。


「本当本当、みんな待ってるから早くしろって言ってらっしゃいますよ」

「ならいい。俺はお前の命令は絶対に聞かねぇからな、ギルデルト」

「へいへい」


そう言って渋々シルバリはギルデルトについて行き、地獄門の中、魔界へと帰って行く。


────────────────────────────────────────────────



「母さん遅いなぁ、もう夕方なのに……」


ミスカが帰ってくるまで自主練をしていた俺は、逆立ちで腕立てをしていた。


「1263、1264、1265、このままじゃムキムキになっちゃうな」


1266、1267、126──、

黙々と筋トレをしていると、家の門に誰かの足が地面から伸びていた。


「あ、母さんおかえ……」


逆立ちをやめ、立ち上がりる。


「あれ? ビーさん?」


その足はミスカのものではなく、猟師Bのものだった。


「エルくん……」

「?」


そのビーの顔はどこか儚げで申し訳なさそうな暗い顔だ。


「どうしました?」

「ちょっとついて来て欲しいんだよぅ」


ビーはそのまま踵を返すと門を出て村の外へ続く道を歩き出す。


どうしたんだろう。

いつものビーさんじゃない。


疑問を持ちつつ俺はビーの後ろをついて行った。






「ビーさん、どうしたんですか。こんな森の中まで来て」

「……もう少しだからついて来てよぅ」


いや、ついては行くんだけど、どこに向かってるのかぐらい教えて欲しいよ。


道なき道、森の奥を進むと開けた場所に出た。


「ん? 他の猟師さん達もいるんだ」

「ベッチ、連れて来たよぅ」


ビーはそう言うと大きめの布で被せられた場所を他の猟師と囲むように位置に着く。


「でも、本当に見せるのかよぅ。まだエルくんは8歳だよぅ」

「ずっと黙って騙すよりマシだ」


ベッチはその布を一気に剥がす。


「────!」


そこにいたのは間違いなくミスカだ。

いや、ミスカだった肉片だ。


「お、おえぇ──」


たまらずその場で嗚咽し、嘔吐。


「え……、か、かあ……さん……?」

「そうだ。お前の母親のミスカ・フォールだ」


俺は膝から崩れて落ちる。


「え……え……え……なんで……なんで……なんで……」


手は震え、呼吸は荒れ、目が霞む。

まともに声も出やしない。


「俺らが見つけたときにはこの状態だった」

「もっと早く気づけてやれればな」

「うぅ、エルくん……ごめん……よぅ」


ビーも頭を抱えて泣いている。


「ビーさん。誰が……こんなことをした……?」


俺はビーの顔を見つめる。


「ビー絶対言うんじゃねーぞ」

「……」


ビーは黙ってミスカを見つめる。


「ビーさん……教えてください」

「あ……、それは──」

「ビーっ!!」


ベッチが叫びビーを言葉を遮り止める。


「黙れよ……、俺はビーさんに聞いてるんだ……。邪魔すんな……」

「じゃぁ、知ってどうするんだ! 復讐ってのは何も産まねぇ!」

「……」


俺はその言葉に少し黙る。

そして黙った後、


「……復讐じゃない。ミスカの雪辱を果たすだけ……」

「それが復讐って言うんだ。同じことだ」


その言葉に俺の血管が切れた。


「いや、違う! 俺の為にやることじゃない。母さんの、ミスカの為にやらなくちゃダメなんだ!」


俺はもう一度ビーを見る


「だからビーさん教えて下さい。ビーさんは知ってるんでしょ」

「……でも、言ってしまえばエルくんが全て背負って──」

「ビーさんは優しいなぁ」


ビーの瞳孔が開く。


「エスタ領都で迷ったとき、魚屋を教えてくれて本当に嬉しかった……」

「……よぅ」


ビーが俯く。


「龍魔獣朧をすぐに伝えにきてくれたのもビーさんだった。お陰で誰も死なずに解決できた」


精一杯の笑顔で俺はビーを見る。


「ありがとう」


ビーの俯いていた顔は空を向いている。


「ずるいよぅ。エルくんはずるいよぅ」


ビーの目は潤んでおり、それを必死にこらえていた。


「ミスカさんは魔人にやられたんだよぅ。頭部を潰すやり方はそいつだけだよぅ」

「ビー!!」


ベッチが止めようと叫ぶ。

が、ビーはベッチに手のひらを向けて、黙らせた。


「破壊の魔人シルバリ。そいつがミスカさんを殺した名だよぅ」


魔人……。

英雄譚アズエルで見たことがある。

魔神が作り出した殺戮兵器。

それが魔人。


「やっぱり、ビーさんは優しいや……」

「……」


ビーは何も言わず、ただ涙を堪えている。

他の猟師も同じく。


「皆さんありがとうございました」

「おい、どこにいくんだ」


踵を返し、森の中へ入ろうとすると、ベッチが呼び止める。


「家に帰ります」

「そっちは村とは別の道、森の奥だぞ」


そんなこと知っている。

誰もいない家になんて帰りたくない。

あそこにいても何もできない。


「ちょっと、一人になりたいだけです」

「そうか。なら、ちゃんと帰ってくるんだぞ」

「はい」




────────────────────────────────────────────────



喪失感よりも怒りが湧いてくる。

自分に対する怒りだ。


俺は猟師達に嘘をつき、ただひたすら森の中を進む。


あの時、ミスカが家を出たときに感じた胸騒ぎは、ミスカが死ぬと思ったからじゃない。

ただ単に、自分は獲物1匹仕留めさせてもらえないほど、子供扱いされていたことに対して感じた胸騒ぎだ。


もし、もしもだ。

俺が無理言って狩に行っていたらミスカは死ななかったのかな……。

もし、狩に行かないで欲しいって強気で行っていたら結果は変わっていたのかな……。


『変わらないさ』


無気力の中、森を彷徨いながら問いかけると、答えが返ってきた。


『きっとミスカは自分を庇って死ぬはずだ。

村を守るために戦死するはずだ』


じゃぁ、どうしろって言うんだよ。


『自分が、お前が、強ければ守れたんだ。

ミスカも、村も、自分自身のその感情も何もかも失わずに済んだんだ』


自分が、俺が強ければ……守れた……?


『あぁ、そうだ。

お前も結局は俺と一緒だな。

大事な人を、友を守れない。

何一つ変わってないな』


きっとこの声は俺なのだろう。

転生する前の俺の思考。


そうだよ、何も変わってないよ。

何にもなれない。

所詮は口だけの男。

力を持っていても、持ってない自分の頃と同じ結末になる。

そんなこと知ってたんだ。

流れるまま、力だけを蓄えて、意志なんてなかったんだ。

持っていたのは、ただの意思だけだったんだ。


『意志ならまだここにあるだろ。

助ける者はまだ沢山いるだろう』


その言葉は何者よりも深く、強く色濃く俺のどこかへ刺さる。


『お前はまだ死んじゃいない。お前の意志は死んじゃいない』


そうだ。

本当は気づいていたんだ。

もし違っていたら嫌だから、期待しないようにしてたんだ。


『そうだ。

ずっと気づいてた。

気づいてて知らないふりをしていた』


知らないふりをして勝手にハッピーエンドにしていたんだ。


『自分だけが死んだって思い込んでいたんだ』


もう、逃げるのはやめよう。


『もう、都合のいい解釈はやめよう』


あの場で死んだのは俺だけじゃない。


『ゆうじも、美香も、秋人も、学も、あみもあの場で死んだんだ』


そして、俺と同じようにこの世界に産まれてる。


『この世界は残酷だ。日本とは比べ物にならないほど血が流れている』


魔獣に、魔族に苦しめられているかもしれない。


『助けを待っているかも知れない』


「助けよう」

『助けよう』


二つの思いがシンクロする。


「ここは……」


目的もなく歩いていると見たことのある景色が見える。


「エスタ領都……」

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