14話 大勝負
眠気ってどうやったら無くなるんだっけ
寝ても無くならんのならもう、わけわからんな
季節は春。
暖かく心地よい風が吹く清々しい季節。
そして何より新芽を食い散らかして、油の乗った食べ頃アルクが誕生する季節。
「お母さんこれからちょっとアルク取っ捕まえてくるから留守番してて」
ロープを持ったミスカが俺に声をかけ、玄関のドアノブに手をかける。
「俺も行くよ、母さん」
扉を開くミスカを止め、俺は近寄る。
「いや、だいじょぶ。たった一頭だし、すぐ終わるから」
「じゃあ、代わりに行こうか?」
「ううん。間に合ってます。自主練でもしてて、すぐ帰るから」
そう言ってミスカは家を出た。
「……うん」
少し心がざわめいたのは気のせいだろうか。
うん、気のせいだ。
言われた通り自主練でもしとくか。
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「ガットレイ様、北央大陸後街一つだけ」
「ヒヒっやっと一段階」
朽ちた世界樹の中根。
魔神ガットレイが創った魔界にて、城のベランダから街を見下ろすガットレイに魔神どもが膝をつき話を始める。
「そうか、これで次の段階に移れるな」
「北央大陸制覇したら次は何するつもりで?」
ベランダの柵に腰を掛けたギルデルトが放つ。
「ヒヒっ、そりゃもちろん魔獣朧を見つける」
「名答」
魔人のパラペットとローテスが答える。
「おい、それよりもシルバリはどうした」
魔人達は周りを見渡し問題児がいない事を知ると、同時に口を開く。
「「……あ」」
「はぁー、またどっかに行ってるのか」
ガットレイは頭を抱え、ため息をつく。
「ギルデルト、お前シルバリのおもりを任せたはずだが?」
「えぇ……私保護者ぁ?」
腑抜けた声でギルデルトが声を上げる。
「シルバリは魔人の中ではダントツの強さだ。それを制御できるのは我か、お前だけだ」
「うえぇ、わかりましたよ。探しに行きますよ」
ギルデルトは重い腰を上げてだるそうに歩き出す。
「おい、あみを探そうとするな。探すのはシルバリだけだ」
「ぎくっ、バレてた……。でも、結局見つかってないでしょ」
「……まぁ、そのうち見つかるだろう」
ガットレイは嘘をついた。
実際は誰があみかを知っている。
そいつの居場所もわかっている。
だか、それを言えばギルデルトは間違いなくそっちを優先する。
さらに言えばガットレイは自分の手でその女を殺したいと思っている。
だからガットレイは嘘をついた。
「そのうちか……、そうだな。じゃ、シルバリくんを見つけてきましょうかね」
何も知らないギルデルトはガットレイの言葉を素直に受け止め、ベランダから飛び降りた。
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「楽勝ー♪圧勝ー♪アルクはヘッショー♪」
アルクの頭中から投げた石を取り出し、血を抜く。
「早く帰らないと可愛い可愛いエルが待ちくたびれちゃう」
慣れた手つきでアルクの足をロープで縛り肩に掛ける。
「──?!」
けもの道から逸れ、森道に出たところでミスカは一瞬にしてその禍々しい歪な魔力を感じ取った。
その大元を辿るため一番気持ちの悪い魔力、一番それが濃ゆいところへ歩く。
「黙れ、死ねよ、あの男。俺のおもりなんてもんしてんじゃねぇ。俺は一人でできるんだ、その力があるんだ」
その正体は、ぶつぶつと独り言を撒き散らしながらフラフラと覚束ない足取りで森道を歩く人影。
否、それを人と言うには間違っていると誰もが思うほどの忌々しい体。
見た目だけだとただのスタイルのよい青年なのだが、尖った爪、赤い瞳孔、そして漆黒よりも黒く、硬そうな足。
右手に持っている赤い血で染まったゴツい槍。
その全てが歪で禍々しい魔力を生み出している。
「あんた、何者よ」
そいつの後ろから声をかける。
「あ゛?」
そいつは苛立ちを見せながら振り返り、ミスカを睨む。
「ただの冒険者だ。だだの人間それだけだ」
そう言い返すと踵を返し、再び歩き出す。
「そっちには何もない村だけよ。さっさと消えなさい」
ミスカはそいつを睨み戦闘体勢をとる。
「冒険者っつっただろ、村にも行けねぇーのか?」
「誰だって言ってんだ。あんたみたいな人間なんていないわよ」
村への足取りを止め、またもや睨む。
「ハァー。俺の名前はシルバリだ、以上」
「あんたがシルバリ、頭部破壊愛好家のシルバリ。なら尚更行かせるわけない」
「今俺はキレてんだ。あのぽっと出の男に指図せれて、ムカついてんだ」
シルバリは舌打ちをしながら頭を掻く。
「だからあいつの無視をしてブリタリ湖にいる魔獣朧を探しに来たのに、先客に殺されてた」
近くに生えている大木を左手で易々と砕き折る。
「噂では白髪の人間がやったって言うじゃねーか」
シルバリはミスカの頭を見る。
「お前がやったのかぁ?」
「やったって言ったらどうするの」
「そりゃ──
シルバリは槍を左手に持ち替えてその場で屈む。
──殺す!!」
踏み込んだ地面は焦げつきながら抉れ、雷撃の如く開いた右手がミスカの頭部に近づく。
「──っ!」
スレスレで左へ傾きいなす。
そのまま右足でミスカはシルバリの背中を蹴り飛ばした。
蹴りの衝撃でシルバリは飛び、木にぶつかる。
「その槍はお飾り?」
「はっ、な訳ねぇ。俺は一発目素手って決めてんだ」
ゆっくりと立ち上がり、槍を回しながら右手に持ち変える。
「いいぜぇ、使ってやるよ。そんなに欲しがりさんならなぁ!」
槍を力一杯右手で振り投げる。
その速度は音速を超え、光速でミスカの正面に向かってくる。
しかし、ミスカはそんな速度は目に見えていた。
正面からの攻撃だ、タイミングさえ間違わなければ簡単に避けれる。
「甘いわね」
軽々と避ける。
「───!?」
避けた後になって気づく。
目の前にいたはずのシルバリがいない。
「おめぇーだ、甘ぇーのは」
「まさ──っ!」
そう、そのまさか。
シルバリは光速で投げた槍を囮にその槍よりも早くミスカの後ろへ回り込んだのだ。
さらにはその槍を掴みミスカの鳩尾へ捻じ込ませる。
「──あがっ」
それだけでは終わらず右足でミスカの顎を蹴り上げた。
綺麗な放物線を描きながら地面へと落ちてゆく。
「無様だなぁ。強ぇのは言葉だけかぁ?」
「…………」
倒れたミスカは空を見上げて黙っている。
「訂正ェしろよ、この槍は俺が唯一尊敬してる人が作ってくれたもんだ」
「──わね」
「ぁ? 聞こえねぇよ。訂正するならハッキリ言え」
「ここだと──いわね」
か細い声にシルバリが反応する。
「聞こえねぇって言ってんだろうが!!」
「ふっ」
ミスカの呆れた笑いがシルバリの血管を切る。
「ここだと村に近いわねってだけっ!!」
「くたばれぇ!!」
シルバリは怒りに身を任せて倒れたミスカの顔面を右手で掴みにかかる。
「怒りは最も愚者のやる事よ!」
「──がっ!」
右手が顔に近づいた所でミスカのつま先が、シルバリの顎を蹴り上げ、村とは逆方向へ飛んでゆく。
そのままミスカは跳ね起き、すかさずシルバリに追いつくと、鳩尾へドロップキックを喰らわす。
やべぇ、このままじゃ一方的に殴られるだけ……。
そう思ったシルバリは槍を地面に突き刺し、それを軸に急カーブ。
ミスカの方へ、ドロップキックを返そうとする。
「遅いわよ」
しかし、出した足をミスカは掴み、さらに村と反対方向へ投げる。
「なっ──!」
さらに追い討ちをかけ、シルバリへ音速の投石。
みるみるシルバリは遠くに飛ばされる。
「──がはっ」
森を抜け、開けたところにでたシルバリは崖下にぶつかる。
「まぶっ」
「ここなら十分いいわね」
追いかけてきたミスカは、逆光に照らされながらそう言うと、空を見上げ、手を叩き、合掌した。
「傍近大樹、矢庭天道」
ミスカの心地よい詠唱が始まる。
「痛ってぇ。今度は何だ? 魔法かぁ?」
「御前猛者、白血満開、死へ皚々」
魔力の光が合わせた手のひらに集まり、神々しく輝く。
「さぁ、条件は全部揃ったわ。ここで決める。『ブルームブロゥ』!!」
閉じていた手のひらを離すとその場から二つ、青く輝く拳サイズの魔力の塊がフワフワと宙を舞う。
「はっ、そんなちっぽけなもんで何ができんだぁ」
「あんま侮らない方がいいわ。痛い目にあうからね」
ミスカは両腕を開き、その塊を掴む。
「ふんっ!」
同時に二つをシルバリに投げつけ、自分はシルバリの裏を取る。
「ただの目眩しかぁ?」
左からきた塊を左手の拳で跳ね返そうと殴る。
「──!?」
しかしその塊は拳の中を通り抜ける。
まるで物質ではなく、ただの光のように。
その塊は拳から腕へ、腕から肩へ、登ってゆきシルバリの頬に直進する。
「ぶへっ──!!」
頬に触れた瞬間、まるで拳で殴られたような痛みがシルバリを襲う。
「それはただの魔力の塊じゃないわ。そいつらの意思で触れたり、触れられなかったりできる、私だけの魔術」
「ウゼェ」
血を吐き出すと、今度は右からのフックが炸裂する。
それでは終わらず後ろに回り込んだミスカが頭部を殴る。
「がっ──」
「どう? 痛い目ってのは」
「死ねって感じだっ──!」
すぐさま体勢を整えたシルバリは振り向きざまに蹴りを入れる。
だか、そこにはミスカはいない。
いるのは青く光る塊のみ。
「──ぐっ!」
塊は一直線にシルバリの腹へ激突した。
「ほらほら、まるでサンドバッグね」
後ろからニヤリと笑うミスカが、再び後頭部を殴り飛ばす。
何なんだ、この魔法は……。
シルバリは思考を凝らした。
それもそうだ。
近接で攻撃する奴らの魔法はほとんどが肉体強化。
その他は相手へのデバフのみ。
しかしミスカの魔法はまるで違う。
塊一つに意思が宿り、意味がある。
まるでミスカが3人いるかのように、攻撃をし続ける。
それを受ける者は自ずと理解する。
「弱点がねぇ」
普通はここで心が折れる。
だか、シルバリは違った。
絶対に敗北しないという意思、こいつを壊すという決意。
それだけがシルバリの脳をフルに回転させていた。
考えろ、どんな魔法にも条件がある。
しかもその魔法が強ければ強いほど細けぇ条件が必要だ。
塊が上から落ちてくる。
きっと、あの詠唱の中に条件があるはずだ……。
ギリギリでそれをかわすと、左からもう一つの塊が頬を殴る。
だか、シルバリはお構いなく思考を止めない。
考えろ考えろ考えろ、あいつは言った。
条件が揃ったと……。
詠唱は何だったか……。
ミスカの言った言葉を一つ一つ思い出す。
「がぁーー!!! ダメだぁー!!」
「こわっ、」
全くわからん。
白血ってなんだ、皚々って何だぁ!?
何言ってんのかすらわからんくなってきた。
二つの塊か前後からぶつかる。
だめだ、一度思考を壊せ。
俺はシルバリだ、魔人シルバリ。
「破壊の魔人、シルバリだぁ!!」
そう叫ぶと、一瞬にして考えていたことが崩れ去る。
白血、皚々、知らん単語は捨てろ。
わかるもので言ったら大樹、天道、満開……。
そう思った時、シルバリに電撃のような思索が降りてくる。
「──なるほどなぁ、わかったぜぇ。お前の条件ってやつがよぉ」
シルバリは攻撃をスイスイと避けながら崖下へ走る。
「そんなことわかっても、もう遅いわよ!」
二つの塊がさらに加速し、シルバリに向かう。
が、お構いなしにシルバリは駆ける。
「おらぁ! どこでもいい! 降り注げぇ」
崖下に大きく振りかぶり、硬い岩壁を砕く。
その破片たちは不規則に散り、空を仰ぐ。
「はぁ?! やばっ!」
破片たちは不規則ながらもほとんどがミスカの頭上へ到達した。
そして、太陽の直射に入り、ミスカへの影となった時、好機がシルバリへ訪れた。
「消えたなぁ、塊二つとも」
「くっ──」
先程までシルバリを追っていた二つの塊が姿形なく突如としてその場からいなくなっていたのだ。
「お前の魔法のその条件。他はわからんが、天道、つまりは太陽の動き。それが条件だ」
ミスカは図星のようで眉をひそめる。
「満開ってのもそれだ。太陽の下で花開く技」
ニヤリとシルバリが笑う。
「こっからは俺の時間だぁ!」
アルクを持って歩くってちょっと書きたかったけど頭おかしいって思われたくないからやめました。




