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デスターン  作者: 春川立木
16/73

13話 ギャフン 

最近豚肉と卵と玉ねぎで作る、親子丼豚肉バージョンにハマってます。

あれガチでうまい。

タレは焼肉のタレでね。

「エル、タイマンの時間よー」

「はぁーい」


この世で最も野蛮な呼び声をあげるミスカに返事をして外に出る。


「身体術を学んで三年ぐらい。そろそろお母さんに一本取りなよ」

「分かってるよ。でもむずすぎる」


ミスカは俺の痛いとこをつく。


毎日のように組み手をやってもらっているが一度も俺の攻撃が通用したことがない。


「ま、エルにはできないわよね。だって私が強いから」

「いや、今日は絶対、ギャフンを出させる。その策がある」

「口は達者。でも技術は不達者」


ぐぬぬ。

よく言ってくれるな。

だが、本当に策はある。

昨日の夜にひらめいたミスカに勝てるかもしれない策が。


「お母さんに勝てるってなら、こっちも本気を出そうかな」

「やってみろ、全部捻じ曲げて倒すから」

「いいね! なら先攻はあげるわ」


ミスカはその場で立ち尽くし、右手で俺を挑発する。


「お言葉に甘えますっ!!」


いつもだったら俺はミスカの正面へ走り込んでいたが、今日は違う。

その場で左右に揺れ、ミスカの目をよく観察する。


さぁ、どっちを見る?


ミスカが俺の揺れに連動して右左に動く。


──そこっ!!!


その目が左に大きく動いた瞬間、俺はその反対の右に音速で走り込む。


「──!」


ミスカには一瞬俺が消えたように見えるだろう。

だが、相手はあのミスカ、そんなちっちゃな隙はすぐに埋まる。

でも、ほんの一瞬、そのほんの一瞬が俺のチャンス。その一瞬だけあればいい。


走り込んだ俺はミスカの後ろへ回り込み、相手のバランスを崩すため、そこでしゃがむと右足をミスカの足にかける。


「なるほどね、そう来たか」

「なっ──」


まるで後ろに目がついてるかのように俺が足をかけた瞬間、ミスカはその場で飛び上がる。

さらには飛ぶだけでは終わらず、空中で左足の回し蹴りに切り替わる。


「やっぱり、母さんはそう来る」

「!?」


俺の足をかける行為はもちろんブラフ。

何度もミスカと戦ってるんだ。

何をしたら何をされるかもう完全に分かってる。


前に出した右足を軸に、俺はミスカが後ろを向くタイミングぴったしでもう一度回り込む。


これが俺の新しい戦術、一度も目視されずに倒すニューウェポン、《バックインビジブル》だ。


「こりゃ厄介。でもこっちにもできることはあるっ!」


そう言うとミスカはただ真っ直ぐ直進に全力で走る。

それに着いていくため、俺も同じスピードで走る。


さぁ、ミスカ、どう出る?

急に止まるか? 右に逸れるか? それとも左?


ミスカの後ろを凝視して、少しのラグもなくストーカー。


「右か、左……それとも止まる。そう考えてそうね。だが、違う正解は上!!」


ミスカは飛び上がり、華麗な曲線を作りながら俺の後ろへ着地した。


「いいや、残念。それを待ってた」


ミスカはきっと俺の後ろを獲る。

その後絶対決めに来る。

俺に突進して攻撃をする。


「さぁ、こい」


この《バックインビジブル》は相手に合わせることが得意な俺だからこそできる芸当。

相手のことをよく知り、それを予測し、行動できる、俺にしか出来ない戦術。


俺は走るスピードを落とさず真っ直ぐ進む。

そのスピードを優に超えてミスカがやってくる。


俺とミスカとの距離がどんどん近づく。


きっとミスカはこれをチャンスと思っているだろう。

わけもわからずひたすら走る俺のことをただ逃げてるだけだと思ってるだろう。

それがミスカの弱点だ。唯一の欠点だ。


十分に距離が迫ったミスカはさらに加速し、攻撃を仕掛ける。


来た!

ここだ。

ここしか無い。


「今っ!!」

「──っ?!」


俺は左足を前に出した途端立ち止まり、それを軸に右足をミスカのいる方へ、反時計回りで蹴り回す。


「避っ──?!」


踵が空気を蹴る。

ミスカが空中で回る。

ミスカは攻撃ではなく、回避を選んだのだ。


再びミスカは俺の後ろへ回り込むと、そこからびったりとくっ付いて動かなくなる。


何度、振り返ってもそこには誰も居ない。


やっぱりね……、早速俺の武器をパクったってことか。

だが、甘いよ母さん。

甘すぎる、糖尿病になっちゃうよ。


俺は後ろにいる圧倒的な殺意に気づきながら、笑みが溢れた。


この技は俺が生み出した技だ。

この技の弱点を知った上で使ってたんだ。

ミスカが同じようにこの技を真似ることまで、考えたからこそ使ったんだよ。


俺は振り向くのをやめ、その場で立ち尽くし、両手を挙げ下を向いた。


降参のポーズだ。


「あら、もう負けを認めちゃったの? 蹴られるのが嫌になったのね」


構えをやめ、腰に手をついたミスカがそう言った。


「いいや、それを待ってた。そのポーズをね」


完全に油断したミスカはとっさにガードを取る。

しかし、俺の右足の踵の方が速くミスカの顎を触った。


「──ぶへっ!?」


そのままミスカは植木に突っ込む。


やった、やった、初めてミスカに一撃を喰らわした。

しかもただの攻撃でわなく、会心の一撃を。


「やったぁーーーー!!!」

「よかったわね、3年経ってやっと当たって!!」

「やっ──」


いつの間に目の前にいたミスカは、いつもよりも重い拳で俺の顔面を潜らした。


俺はその勢いのまま外に置いてあるテーブルに激突。


「あがっ」

「その油断は3年経ってもまだまだね」


完全に油断した。

初めて攻撃が通用したことに嬉しくなって、ミスカのことを意識出来ていなかった。

たった一発与えただけで、一人舞い上がって、ただの馬鹿だ。


「まさか影をみて、攻撃してくるとは思わなかった。でも纏魔で顔を固めといて正解だったわ」

「…………」


首をコキコキ鳴らしてミスカが俺の方へ近づいてくる。


「ほらほら、さっさと立ちなさい。まだ終わってないわよ」

「…………」


ミスカの声に俺の返事は無い。


「まだお母さんはピンピンしてるわよ」

「…………」

「あれ、ほんとにヤバい感じ……?」


ことの重大さを理解したミスカは、急いで俺の方へ駆けつける。


「エル! 大丈夫!? 意識ある!?」


ミスカは倒れた俺を覗き込み、右手を鼻に近づける


「よかった──、息はある……」

「やっぱ優しいね母さんは」

「え……」


ずっと薄目で見ていた俺は、ミスカが顔を近づけるのを待っていた。

そして、近づけたその一瞬を狙っていた。


「ふんっ!」


仰向けの状態から跳ね起きの要領で、ミスカを両足で蹴り上げる。


「──なっ?!」

「勝負の世界では情けは要らない、でしょ母さん」


空中を飛び立つミスカを見上げて、拳を握りしめ、立ち上がった俺はそう呟いて大きく踏み込み、空へ飛び上がった。


「へぇ、言うようになったじゃん」


ミスカに近づき俺は左足でミスカの顎を蹴り上げる。

だが、ミスカはそれを後方宙返りで避け、カウンター。

回転のスピードを変えず右足を俺にぶつける。


「あぶっ」


ギリギリで交わし、空中での体勢を調整する。


「さぁ、行くわよ。あんたが大好きな落華星石!!」


無理な体勢で避けたせいで隙が出来てしまった。

それを見逃さないミスカはすでに踵を俺の頭上へ、持ってきていた。


「ふんっ───」

「ここだっ!」


ミスカが踵を振り下ろしたと同時に俺は握りしめていた右手を開き、ミスカの目、目掛けて投げつけた。


「痛っ」


仰向けから立ち上がったときに掴んだ砂だ。


「その技は何度も喰らった」


三年間毎日欠かさずボコされた。

その時のとどめはいつもこれだった。

1日に7回喰らったこともあった。

だから、そのお陰でこの技が完壁に、完全に、100点に放つことができる。


目を押さえ、悶えるミスカの頭上へ、右足の踵を持ってくる。


「これで、ギャフンだ」


落下する威力と、踵を落とす威力、そして纏魔の威力。

その全てをここで放つ。


「堕ちろ!!『落華星石』!!!」


まるでそれは雷霆の如く空を切り裂き、雷鳴の如く空気を鳴らし、落雷の如く地面を抉った。


「ハァハァ、ハァハァ流石の母さんでも、もう立てないよね」

「……えぇ、降参よ、文字通りの」


うそん、あの威力でまだ意識保ってるのか。

本当に人間じゃないのかよ。


「強くなったわね。鼻が高いわ。これでもう、教えることは無くなったはずね」

「いや、まだまだ課題だらけ。次はなす術無くして勝つ。パーフェクトを目指すよ」


仰向けのまま空を見上げるミスカは負けたのにどこか清々しい顔でいて、誇らしげな声でそれがいいと、笑った。





「フォールさーん、郵便でーす」


夏の昼下がり、一人庭にて自主練をしていると郵便屋が手紙を一つ俺に手渡した。


「珍し、手紙とか」


誰だろうと思い、送り主の名前を見てみる。


「うおっ!」


その名に嬉しくなった俺はいち早くミスカに伝えたいため、急いで家に駆け込む。


「母さんっ! 手紙!!」

「……手紙?」

「そう! 早くみて!!」


慌てた様子の俺にキョトンとしたミスカは言われるがまま手紙を受け取る。


「…………ふぅん。生きてたんだ」


少し嬉しそうで少し安心した様子でニヤけながら封筒を開ける。


「…………」


ミスカは黙々と手紙を読む。

初めはワクワクしながら読んでいたが、途中から「あの豚国王がっ!」と、罵倒をする。

罵倒をしたかと思うと、今度は「共食いじゃんっ!」と、爆笑し始める。


「そこは愛してるだろ!」


ミスカが手紙を読み終えると、手紙を俺に渡してくる。


読めってことなのだろう。

俺は受け取るとすぐに手紙を読み始めた。



───────────────────────────────

連絡遅れてすまんな。

やっと仕事が落ち着いてきて、こうして手紙が書けるようになった。

相変わらずロムはやかましいで溢れてる、リタも最近白髪が増えてきてた。

三年経ったら帰るって言ったのに帰れなくで申し訳ない。

やけに、俺のとこにみんな仕事を持ってくるお陰で、これからもどうも帰れなさそうだよ。

だが、エルの成人には絶対帰ろうと思ってる。

もし、ロム国王に見つかったらポリヌを食べさせようと思う。

それと、前に言ってた勇者、ヒークだったらしい。

すごいよなあいつ、前々から剣術はロム王国一だったし納得っちゃ納得なんだよな。

それだから国王も激怒してるんだろうな。

じゃあ、俺はこれから堤防の補修工事をやってくる。

エル、いい子でお母さんに迷惑かけないようにな。

ミスカ、俺はお前を世界で一番尊敬する。

ありがとう。


                 ゲール・フォール


───────────────────────────────


読み終わると、手紙を隣にいたミスカに返す。


「エルが迷惑かけたことなんてあったかしら」


笑顔で俺の頭を撫でる。


「ゲールが成人には帰るって、まだ10年は先だし、舐めてるわねあいつ」


ミスカは愚痴をこぼしながらも、しっかり手紙を封筒に戻すと引き出しに入れた。


「さ、今日も今日とて組み手をするわよ」

「……うす、返り討ちムーブです」


拳を掌へぶつけて俺はニヤけると、ミスカは苦笑しながら外へ出た。

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