12話 アズエリックの波乱日常
陰キャには飲み会は地獄でしかない。
店の隅っこでお通夜かの如く静かに飯を食うだけの生物になる。
それがチーム陰キャ
ブリタリ湖で龍魔獣朧を倒した俺たちはビワ村にて、宴を開いていた。
「飲め飲め〜」
「いいねぇ〜、いい飲みっぷり」
「はい! 一発芸しまーす」
子供の俺を差し置いて、大人達はすっかりハイテンションの酒臭集団に成り果てている。
「母さんやめて、実の親の一発芸とか見たくない」
ミスカの服を引っ張って、引き留める。
「それにしても、驚いた。まだ六歳なのにあそこまで強いんだね」
「全くだ、最近の子供ってのはバケモノ揃いかよ」
「ハハハ、母さんの地獄修行のお陰です。こら、母さん、服脱ぐな!」
酔った勢いで全裸になろうとするミスカの服を掴む。
「そういえばレスト王子。エスタの方はよろしかったので?」
「あぁ、ただの茶会だし、半日で終わったよ」
お酒をチビチビ飲みながら答えるレストに俺は質問する。
「茶会?」
「うん。なんか僕の弟、ほらそこで寝てるノスト。エスタ領都の娘さんと婚約話しになってるんだよ。それの交友会的なやつ」
「へー」
貴族らしい話だな。
俺には無縁なことだ。
「本当は三男の弟って話だったけど、色々あってノストになったんだ。まだ8歳なのに婚約って娘さんも大変だよね」
8歳……、犯罪だろ。
スゲェーな異世界。
前世だったらお縄についちゃうよ。
「あれ? レスト王子、王都ブリタリアに到着されたのって……」
「ん? こっちに着く2時間前かな、状況を察するや否やすぐに馬で駆けつけたから」
「私たちのためにそんなに急いで……」
ガンゾウが泣き叫びながらレストに抱きつく。
このハゲもだいぶ出来上がってるな。
「ハハハ。でも、よく僕らが来るまで耐えたよね」
確かに、龍魔獣朧が現れてブリタリアに応援要請して、こっちに来る。
最短でも4時間は掛かる。
「いえ、龍魔獣朧が現れたのは応援に来ていただいた数分前でしたから。その前からあった予兆を知ってすぐに応援要請にいかせました」
「そうよ、龍魔獣朧とか、ただの魔獣朧は出現する前の前触れがある。
例えば群れるはずのない魚達が一斉に渦を撒き始めたり、空高くまで飛び跳ね出したり」
酔っ払って服を脱ぎ出すミスカに俺が奮闘していると脱ごうとする手を急に止め、聞いてもいないのに説明を始めた。
「生命の多い森とか、海とかには膨大な魔力が生まれるの。で、その場にいる一番適した生命に膨大な魔力が宿り、魔獣朧が生まれるって昔聞いたわ」
「詳しいんですね」
爽やかな顔でレストが笑う。
「そりゃ、幾多の死戦を潜り抜けた猛者だからね!」
自慢げに腕を組み鼻を鳴らす。
「お、もうこんな時間じゃないですか」
ガンゾウが、煤けた懐中時計を取り出し、覗く。
そう言われてみると周りはもう薄暗くなっていた。
「時間も時間なんでここでお開きにしましょう」
手を叩きレストが片付けてを始める。
それに釣られて俺も皿を集め出す。
「レスト王子と、エルくん! 私どもでやっておきますのでゆっくりされて下さい」
ガンゾウが、俺の持っていた皿をぶん取り、レストが持っていた木製ジョッキを奪う。
「ありがとうございます。料理の準備から片付けてまでやってもらって」
「何を言うんですか、エルくん達は命の恩人。雑用は私がやるに決まってる」
なんだこいついい奴じゃん。
……でも俺のこと小僧って言ってことは忘れねぇーけどな。
「家までうちの兵士が送らせようか?」
「いや、歩いて帰ります」
ガンゾウに甘えてビワ村のベンチで俺が座って休憩しているとレストが隣に座って来た。
「歩くって、こっから結構あるよね」
「いや、走れば1時間ってとこです」
「化け物だね、その体力とスピードは」
レストはハハッと笑ってそう言った。
「でも、おぶって帰らないと行けないみたいだよ」
「?」
「ほら」
レストの指した指の先にはオッサンのように大の字で寝ているミスカだった。
「わぉ」
たまらず声が出てしまう。
マジかよ、この人連れて帰らないいけねーのか。
普通にめんどくさい。
「はぁー。ちょっと起こしてみます」
ベンチから立ち上がり、ミスカの方へ向かう。
「母さん、起きてー。帰るよー」
ミスカの頬をペチペチと叩く。
「うー……、ガチやめて……もう、杭は見たくない……」
どんな夢見てんだよこの人。
全然起きる気配せんのだが。
もう、置いて帰ろうかな。
「はぁ──。しゃあない、おぶるか」
ミスカを背負い、レストを見る。
「真っ暗になる前に帰ります」
「うん、気をつけて。時間ができたら、いつでもブリタリアに顔を見せてよ」
「はい。ありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げてビワ村を出た。
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「はい、と言うことでこの石を使います」
「いや、どう言うこと」
ビワ村で宴をした翌日の昼間、いつもはミスカとの組みてをするはずだが、拳よりも一回り小さい小石を籠いっぱいに入れたものを俺に見せてきた。
「いやーねぇー、昨日の戦闘でわかったのよ」
「なにを?」
腰に手を置き、ミスカが答える。
「エルは目で見た後、行動に移してること」
「そう?」
「うん。お母さんが動いた後について行ってるじゃない?」
まぁ、そりゃそうだろ。
あん時はミスカに合わせるために動いてたし。
「それに、いっつもやってる組みてだってお母さんの攻撃を見て即座に反応してるし」
「ダメなの?」
「ダメではないけど……、それを今日レベルアップさせようかなって」
それで小石って、何する気なんだ?
流石にミスカが投げた小石を避けるとか言う危険な修行ではないよな。
流石に違うよな、だってポリヌの脳天貫いたんだぜ。
「これ、全部本気で投げるから全部避けて」
「うん。人生終わった」
ありがとうみんな、俺は今日ここをもって終わりらしい。
「ほら、早くそれもってついて来て」
ミスカは籠に指先を向ける。
「え? やるんならここでいいじゃん」
「いや、ここだと色々面倒なのよ。諸事情って奴」
まぁ、確かに。
家の前に死体が転がってたら嫌だろうな。
「よっと、おもっ!」
籠を持ち上げ、先に進んでいるミスカについていく。
「どんぐらい行く?」
「すぐそこよ」
家を出て約30分、村はずれにある大岩でミスカが立ち止まる。
「とうちゃーく」
「だぁー! やっと着いたぁー!」
重い籠を地面へ降ろし、大岩を見上げる。
「近くにこんなんあったんだ……」
痺れる手を振りながら俺は6メートル以上ある大岩のそばに近寄る。
「よし、その岩を背にして構えなさい」
「背?」
言われるがまま俺は踵を返し、ミスカを見た。
『バギュンっ!!』
俺の右頬を何かが擦り、後ろの大岩にぶつかり大岩が砕ける。
「え……」
振りかぶったミスカを見て察しがつく。
恐る恐る振り返り大岩を見ると、煙をあげた小石が未だ回転を続け、岩を削っていた。
「いや、まだ準備してないですけど……」
「戦闘に準備なんてないわよ。もう一発いくよ!」
やば、本気で殺すつもりじゃね。
躊躇なく再び小石を振りかざす。
「あっぶ!!」
頭スレスレのところで回避する。
またもや小石は回転を続けて岩を抉る。
「なるほどね……、庭でやってたら家が壊れるからここに来たのか……」
「そゆこと、流石に大事故はさせたいからね」
いや、大事故どころか大事件だろ。
実の息子の殺人未遂で捕まれよ。
インターバルなしでまた投げる。
音速で向かう小石が俺の左肩へ近づいてくる。
俺はそれを軽くあしらうように体を傾け避け──!
「痛ったぁーーー!!!」
小石は途中で急激に落ち、左側の太ももへクリティカルヒット。
その痛みで蹲り、悶える。
「ちっ、直前で左足に纏魔を固めたね」
纏魔で固めてもこの威力かよ。
もし遅れてたら左足吹っ飛んでいってたな……。
「今……チッて、言った……!?」
「いってない」
蹲りながらミスカの方を向くと目を泳がせて口笛を吹いている。
「さぁ、立って。まだまだあるわよ」
籠から小石を拾い投げるフォームを取る。
「くそっ、バカ痛ぇ」
毎回思うが、ミスカの修行ってなんで殺しにかかるんだよ。
息子が可哀想だと思わねぇーのか?
右頬から血が垂れる。
てか、龍魔獣朧を倒したの俺だろ。
ミスカは龍の魔光弾でぶっ飛んでいってたし、修行するのはお前の方だろ。
痛む太ももを纏魔で覆い、俺はゆっくりと立ち上がった。
なんか腹立って来た。
師匠ヅラすんなよ、母ちゃんが。
「ふぅーーー。投げすぎて肩壊れても知らねーぞ」
「面白いわねそれ。どっちが壊れるかってやつ?」
勝手に面白がってろ。
こっちは本気でやってやる。
「かかってこいよ、全部避けてやる」
指先を曲げ挑発をする。
「ラ……ラスト……」
フラフラしたフォームでミスカが最後の小石を投げる。
弱々しいはずなのに小石は死ぬほど速い。
「左──いや、右!」
蛇行する変化球に対処するため、反応を遅らせず、ギリギリの距離で瞬時にかわす。
「肩死ぬぅーーー!!」
全ての小石を投げ終えたミスカは地面にペタリと背中を合わせ、右肩を押さえる。
「しゃぁ!! 勝ったっ!」
すべての小石を避け、ミスカの肩を壊せることに成功した俺はガッツポーズを決め、ボロボロになった大岩にもたれかかる。
「そりゃそうよ。悔しいけどエルの方が纏魔の使い方が上手い。だから負けるに決まってる」
「分かってたんならしなきゃよかったじゃん」
「今回はお母さんの修行みたいなもんよ。あの魔光魚如きに、苦戦したからね」
ミスカもミスカで考えることがあったんだな。
俺の修行ついでに自分も鍛えようとしてたとは。
「そういえば神体術を教える最初、周囲のものを使って戦うやり方教えるって言ってたじゃん」
ふと思い出した俺は、ミスカに尋ねる。
「えぇ」
なのに一度もそのことについて教えてもらっていない。
「それ、教えてよ」
空を見上げ、返事をするミスカは首をこちらに回し、俺を見る。
「だって……エルは纏魔が出来てるじゃない。本当だったら出来ないことよ。だから纏魔の代わりに、それを習得させようと思ったの」
「そーゆうことか……」
ミスカはため息を吐くと、立ち上がり俺に手を差し出す。
「?」
「帰るよ、今日はもうおしまい。ご飯食べてお風呂入って寝る」
俺は返事をしてミスカの手を取り、立ち上がった。
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「本物の魚が食べたーーーーーーーーい!!!!」
うるさーーーーーーーーい!!!
今日ずっとミスカが喚いているため、外で自主練をしていたのだが、わざわざ家から出て来て俺の耳元でミスカが叫けび散らかしてくる。
鼓膜破れるぞ。
「食べればいいじゃん、魚ぐらい。今から川に釣りに行こうか?」
「ちがーーーーーーーーう!!!」
だから耳元で叫ぶなよ!
頭キンキンするわ!
「川魚なんて、魚って言わないわよ! お母さんが食べたいのは海魚!!」
「海魚って言っても近くに海ないじゃん」
ココ村は内陸も内陸、山に囲まれた田舎の村。
川はあっても海は無い。
南東に海魚を売ってる町があるって前にミスカが言ってたけど、こっからだと60キロメートルもあるらしく、車も綺麗な道もないこの世界だと行こうにもいけない距離だ。
「だからこそ、海魚がたべたぁーーーーーい!!!」
「うるさーーーーい!! もう諦めてくださーーーーい!!」
反撃するため俺もミスカの耳元でそう叫ぶ。
「うるさいわよ、そんな叫ばなくたって聞こえてる」
なんだこいつ。
さっきまでの記憶なくなったんか?
「と言うことで走って買って来て」
「やだ。修行関係ないもん」
俺はそっぽを向き歯向かう。
「はぁー、はいこれ」
庭のテーブルに一つの砂時計が置かれる。
「?」
「これは一回15分の砂時計。これが4回つまり1時間経つ前にここに戻って来て」
戻って来てって、60キロあるんだぜ。
フルマラソン優に超えとるぞ。
「もしかしてそれが修行って言ってる?」
「言ってる」
「わお」
雑じゃね?
ただ魚食いたいから制限時間までに買って来いってことだろ?
パシリかよ。
「ほら、これお金とリュック。魚は海魚全種類でいいよ」
「いや、まだ行くって言っとらん」
「村を出て東に進めばデカい川があるから、吊り橋渡ってもっといけば着く」
話し聞けよ。
耳ないんか。
「じゃあ、スタート!」
「待て待て待て、勝手に決めないで」
ひっくり返した砂時計をもう一度ひっくり返し、元に戻す。
「何よ?」
「話しを勝手に進めるのは良くない。俺の意見も聞いて欲しい」
そういうと、ミスカはなら聞くわと言い俺の目を見る。
「そもそも母さんが食べたいんだから母さんが、行けばいい。それと60キロを1時間は無理すぎる以上」
「確かにそう。でも、行かないと今日のご飯が何もない。そして私なら60キロ40分で往復できる。さらに私は海魚が食べたい」
最後は私情だろ。
「はぁー。分かったよ、でも1時間は厳しいからせめて1時間半で」
ミスカは分かった頷き砂時計をひっくり返す。
「1分でも遅れたら晩御飯無しだからね」
「はいはい。出来るだけ頑張ります」
ミスカからお金とデカいリュックを受け取ると俺は村を後にした。
領都エスタ。
人口は世界第三位の都市であり、アズレット大王国とも同盟を組んでいるほどの領都である。
最近では領都というよりエスタ国とも呼ばれるようになっていっている。
「はぁ……はぁ……。着いた、結局道に迷って30分以上かかっちまった……」
魚屋はどこだ。
商店街っぽいとこ行けばわかるか……。
「てか、広すぎる。こんなとこ7歳のガキがくるとこじゃないな」
人口第3位と言うだけあってあたりは人だかりであふれかえっている。
「うお、魔術師に、剣士! それに武術家まで……。どんな流派なんだろうな、一戦やってみたい……いや、今はそんな時間はないんだった」
ココ村から領都エスタまで道が一直線だったけど、結局30分ぐらいかかっちまったからな。
残り1時間出来るだけ早く、出来るだけ楽に帰りたい。
そう考えながら道を歩いているといつの間にか人気のない所に来ていた。
「うん。早速迷った」
どこだよここ。
大通りをただ真っ直ぐ歩いてただけなのに、気づけばボロい家が建ち並ぶボロい道を歩いてるなんて。
「あれ? エルくんだよぅ」
来た道を戻るため踵を返そうとした時、どこかで聞いた声がした。
「こんなとこで何やってるんだよぅ」
声のした方を見るとそこにはどこかで会ったことのあるような顔をした男が俺をみていた。
「えっと……どちら様?」
「忘れたのかよぅ。酷いよぅ」
どっかで会ったっけ。
えーと、思い出せ俺。
「ビーだよぅ」
「あ! 猟師B!!」
「いや、ビーだよぅ!!」
龍魔獣朧の出現をいち早くミスカに報告してくれた優しきBさんはキレッキレのツッコミで、返してくれる。
「ここで何やってるんだよぅ」
「そうだ! Bさん魚屋の場所わかりますか?」
「それならそこを右に曲がってよぅ、真っ直ぐ行ってよぅ、左に行けばすぐあるよぅ」
Bさんまじナイス。
ガチで神。GOD、いや、BODだよ。
「ありがとう猟師Bさん。マジ助かる」
「だからビーだよぅ!!」
ビー、この恩は忘れるまで忘れねぇーぜ。
多分明日には忘れてるんだろうな。ごめん。
俺は猛ダッシュで魚屋まで駆け抜けた。
「なんかよぅ、デジャブだよぅ……」
「着いた……」
Bに言われた通りの道を駆け抜けてると、そこには看板にデカデカと『海魚あり、世界一うまい魚屋ゴーちゃん』と書かれたお店があった。
「おっちゃん……、海魚……くれ……」
息を切らしたまま魚屋に入り、店主にデカいリュックを渡す。
「お、おう。なにが欲しい?」
「とりあえず……全種類……」
汗だくの俺をみて心配と嫌悪感の混ざった顔をしながら注文を取る。
俺はミスカに言われた通りのことを店主に伝え、リュックを手放す。
「全種類!? 全部だと60匹いるぞ」
「はぁ? 6……嘘ぉ」
「本当だ。まぁ、このリュックには入ると思うが……」
店主は不思議な顔をしながらせっせと魚たちを袋に詰めて氷を入れ、リュックに詰めてゆく。
「おっちゃん早くしてくれ」
「早くって……坊主何急いでんだ?」
「これから後50分でココ村に帰らないかん」
店主は動いていた手を止め、少しの間思考する。
「……ココ村って60キロもあるだろ。子供が大人に嘘言っちゃぁいけねぇよ」
嘘じゃねぇよ。
マジもんのガチもんだよ。
「坊主、何歳だ?」
「7」
「じゃあ、七匹おまけだ」
え、やめろよ。
量が増えればその分重くなるだろ。
「やっぱ、0歳」
「ハハハ、遠慮すんなよ。俺の優しさを受け取っとけ」
リュックに60匹+7匹の魚がぶち込まれる。
「ほらよ。聖玉2枚と銅玉一枚だ」
店主の手のひらに硬貨を渡し、パンパンに入ったリュックをもらう。
「じゃ、ありがとうおっちゃん」
「おう。また来いよ」
またって、きついから来たくはないな。
俺はそれを受け取るやいなや高速で走り出す。
「はや……、ほんとにココ村まで帰るのか?」
店主は走り去ってゆくのをみてそう言葉をこぼした。
「急げ、急げ、じゃないと間に合わん」
やばいな。早く帰らねーと、ガチで間に合わん。
こっちに来るので結構時間食っちまった。
しかも魚屋がどこにあるか分からんかったから、その分時間が潰れてちまった。
それに領都エスタの出口まで結局迷子、もう時間が30分しかない。
急がねぇーとほんとに飯抜きになっちまう。
「流石にもう迷子にはならんだろ。こっからは来た道辿ればいいだけだからな」
道を辿るって言っても、来る時に気づいたがココ村から領都エスタまで遠回りしなきゃいけないんだよな。
領都エスタとココ村の間には北側に大陸を分断するほどの山脈、ブリア山脈から流れる大河が存在する。
これを渡るには橋を渡らないといけないが、それが遠回りにあるため時間を食ってしまう。
そこで疑問が頭をよぎる。
「橋を渡る意味あるのか?」
渡る時に思ったが、飛び越そうと思えば飛び越せる距離だった。
「いいや、行っちゃえっ!」
俺は考えることがバカらしくなって、ココ村一直線方向の道のない森の中へと突っ込んでいった。
「さぁ、あと30分。エルは間に合うかな?」
砂時計をひっくり返したミスカは不敵な笑みを浮かべた。
近道だと思って森の中を突っ走ったけど、やっぱやめといたがよかったかな。
方位磁針もないのに考えなしでやるもんじゃないなこれ。
俺は道なき道を駆け抜け、そう考える。
でも、道なりにいってたら結局間に合わなかったし、ものは試しって言うし、まぁ、いいだろ。
「おっ、」
不安になりながら走って行くとやっと森を抜けた。
「大体15分って言ったところか……」
森を抜けた先に大きな大河が目に入る。
「合ってたら右側に吊り橋があるはずなんだよな……」
目を凝らし、橋があるはずであろう場所を見てみる。
「ビンゴ!」
遠くて見にくいが、思っていた通り来た時にあった吊り橋がそこに合った。
「後はこれを飛び越えれば──」
来る時には行けると思っていたが、実際川を見てみると思う。
「──以外と遠いな」
だが、引き返せば間に合わない。
男エリック、ここで魅せよう。
「まずはこのクソ重いリュックだな」
背負っていたリュックを下ろし、片方の肩掛けを握りしめる。
体の重心を後ろに乗せ、両手を後ろに回し、俺はそのまま左足を前に出すと、体重移動で力一杯リュックを投げ上げた。
「うりゃぁっ!!!」
リュックは見事に綺麗な曲線を描き数十メートル上の空を舞う。
「このタイミング!!」
俺は大河とは逆の方向へ走り出し、10メートルほど離れたところでスライディングで大河方面へと切り替えて助走。
「どりゃぁーー!! とべぇーーー!!」
大河直前でしゃがみ込み、力一杯飛び上がる。
リュックより少し下側、低い軌道で、華麗な弧を描きながら大河を横断。
「掴めっ!」
俺よりも高く舞うリュックをギリギリの距離で掴み、大事に抱える。
「あれ? ……ちょっと、飛びすぎでは……?」
想像していた着地点とは遠く離れ、その奥にある森へと突っ込んで行く。
「やばっ──」
「タイムアップ」
6回目の砂時計、最後の一粒が落ちたのを見つめて私はガッカリした。
せっかく30分も追加したのに結局間に合っていない。
私よりも纏魔を使えるってのに何やってんのよエルは。
「……使える、使エルっ?! 私天才!」
「人の名前で遊ぶな……」
「あ、エル。遅かったわね」
噂をすれば愛しの我が息子がズタボロになって玄関に立っていた。
こりゃ洗濯大変だ。
「遅いって、ギリセーフでしょ」
「いいや、1分も遅刻。私の胃袋が爆発しそう」
お腹をポンポンと叩く。
「食べてねぇーのに爆発はしないだろ」
確かに。
エルの方が天才だったか。
「まぁ、いいや。魚が食べれればそれでいい。ご飯にするから着替えてきて」
「……え? 間に合わなかったのに?」
エルは素っ頓狂な声を出し、ポカンと口を開けていた。
「そりゃそうよ。おつかいしてくれたのにご飯抜きは可哀想だからね」
「じゃぁ、俺も海魚食えるってこと?」
「そうよ、だから早くお風呂行ってきて」
パンパンになったリュックを受け取り台所に向かう。
「よっしゃぁーー!! 魚だぁーーー!!」
ご飯を食べれる安心感か、海魚を食べれる興奮か、エルは大はしゃぎで服を脱ぎ、すっぽんぽんの状態で風呂場へ走った。
「前言撤回。アホだわうちの子」




