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デスターン  作者: 春川立木
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8話 ミスカのスパルタ修行

そろそろダイエット頑張ります。

痩せてモテたいから。

雪もすっかりと溶け、春の新芽が出てきた季節。

俺はあくびをしながら、まだ太陽が出ていない外でミスカを待っていた。


「朝だとまだ寒いわね」


ミスカが半袖半ズボンの格好で家から出てくる。


「そんな格好だからじゃない?」

「どうせ暑くなるんだからいいじゃない」


今日は神体術の修行1日目だ。

前々から教えてやると意気込んでいたミスカだ。

きっと気合を入れるためにラフな格好を選んだのだろう。


「あ! なんであんた長袖なんか着てるのよ」


俺の上着を掴み引っ張ってくる。


「そりゃ、寒いもん!」

「脱ぎなさい!」

「嫌だー! 俺は絶対に脱がない! たとえこの上着に爆弾が仕掛けられたとしても、脱いでやるもんか!」


ミスカが引きちぎれんばかりに上着を引っ張るのを抵抗して止める。


「エルもどうせ暑くなるのよ!」

「やめろー! 千切れてしまう!」

「脱げぇー!!」

「あっ!」


スポンと上着を脱がされてしまう。


「うっ、俺の温もりが……」


がくりと肩を落とし、しょぼくれる。


「ほら、さっさと行くわよ」

「……どこに?」

「どこって走りによ」


走り?

なんで?


「体術は?」


俺がそう言うとミスカがため息をこぼす。


「どこに初日から体術を教えてもらえると思ってるやつがいるのよ」


ここにいます。


「体術はね、基礎と下地が重要なの」


ほほう。


「そしてエルは今4歳。一番身体能力が爆上がりする歳 『ゴールデンエイジ』」


なーるほど。


「さ、走りに行くよ。お母さんについて来て」

「ほーい」


俺は言われるがまま、家の門を出るミスカについて行く。


門の外に出るとミスカは右足を後ろにし、前屈みになる。


「ほんとに着いてくるのよ」

「?」


そう言うとミスカは地面を踏み込んでまるでバネのように吹っ飛んでいった。


「嘘だろ……」


どんどん小さくなっていくミスカに呆然としているとミスカが声を上げる。


「置いてっちゃうよー」


その声を聞いて我に帰る。


そうだ、こうしちゃいられない、早く着いていかなくちゃ。


急いで駆ける。


「いや、無理だろこれ」


全力で走ってはいるが、どんどんと差が開いていく。

だんだん息も上がってきたし、全力なんてあっという間に終わってしまう。


それでも息を荒げながらも必死に走る。


ずっと遠くにいるミスカは、最初と同じスピードを出し続けているのに一向に、バテる気配がない。


「ハァハァ……。も、もういいや……、自分のペースで行かして……」

「少しでもスピード落としたらランニング追加するからねー!」


くそっ。

ミスカは俺の心が読めるのかよ。

仕方ねぇ、必死に走ってやるよ!




走り始めて1時間ほどで家に戻ってこれた。


「はぁはぁゲッホゲッホ」


やべぇ、この人スパルタ教師だ。

なんか喉がおかしい。血の味がする……。


「どうしたの、こんなものでへばってちゃ何にもできないわよ。ほんとは倍以上走って欲しいのに」


やれやれと肩をくすめ、ため息を吐く。


くそぉ、お前は鬼か!悪魔か!怪物か!

こっちはまだ4歳児だぞ!


「さっ、次は筋トレね」

「筋トレっ!? き、休憩は……?」

「キュウケイッテナニ……?」


こいつぅ……。

実の息子になんで非道なことをさせるんだぁ!


「はいはい、腕立てだよ」


手を叩いて過呼吸になっている俺を急かしてくる。


もう嫌だっ!

実家に帰らせていただきます。あっ、ここが実家だったわ。


泣きながらも腕立てを始める。


「それを500回ね」

「はぁ?!」




「だはぁーーーー」


ランニングと筋トレを終わらせた俺はその場で寝転がり、空を見上げていた。

太陽はすっかり登りきって眩しい日差しがうざい。


「結局、腕立ても腹筋も体幹も半分以下しかしてないじゃない」

「腹筋は300回ですぅー、半分以上ですぅー」

「はいはい、早く風呂に入って来なさい」


重い体を起こして家に入る。


にしても疲労がエグい。

体に力が入らず、ずっとプルプルしてる。


「お湯はさっき沸かしたからゆっくり体を休ませて朝ごはんにするよ……て、もう昼か」


ミスカが台所に向かい、ご飯の支度を始める。


「腹減ったぁ、死ぬぅ」

「すぐに作るから汗ながしていなさい」




服を脱ぎ捨てて風呂に入る。


「くぅ〜、効くぅ」


ゲールがいた時はお湯を張るのも魔術でチョチョイのちょいなのに、今はいちいち水を汲んで沸かさないといけねーからめんどくさいよな。


「やべぇー、クソ眠い。あんなに動いたのは前世でもなかったな」


明日も同じように朝っぱらから走って、筋トレしてって思うと憂鬱になる。


「でも、頑張らなくちゃな。決めたんだ、強くなるって」


今度は何もかも失わないように、守れるようにならないとな。


湯船に浸かりながら目を閉じる。


……あれ?

俺って死んで転生したんだよな?

あの場で死んだやつって俺だけ?

秋人に学、ゆうじは助かったのか?


「うーん。正直な話、ゆうじ倒れたあたりから記憶がねーんだよな」


腕を組んで首を傾げる。


「わかんね。それより腹が減って死ぬ」


勢いよく浴槽から立ち上がり風呂場を出る。


「ご飯できてるよー」

「うぃ」


急いで体を拭き新しい服に着替え、リビングの方に向かう。


「多っ!」


テーブルにはみ出さんとするほどの料理がぎっしりと並べられている。


「いい体づくりにはいい食事よ!残したら殺す」


こわっ。

実の息子に言っちゃいけない言葉ランキング2位の言葉だろ殺すって。


ま、完食してやりますよ。


「いただきます!」





体術の特訓をして一年と5ヶ月程経過した。

未だに実践的なことは何一つしておらず、毎日毎日走り込みと、筋トレをするだけのスパルタ修行だ。


だいぶ感覚が麻痺してきたのか、辛さは感じなくなっている。

今日も朝の日課であるランニングと筋トレをし終えたところだ。

最近は自分一人で進んでやるようになり、ミスカは朝ご飯の準備をして待ってくれている。


「ただいまー」

「おかえりー」


とりあえず服を着替えるために部屋の方へと向かおうとするとミスカがよびとめる。


「もうすぐ収穫祭じゃない?」

「確かに、」


収穫祭。

毎年七月の秋頃行われる飲めや歌えやの大宴会。

その季節が今年もやってきた。


「今年もポリヌの丸焼きが欲しいって村の人たちから依頼されたの」

「うん」

「と言うことで、昼にでも一緒に狩りに行こうか」


……狩か、またあの戦闘が間近で見れるのか。

あれは全人類がお金を払ってでも見るべきものだからな、もちろんいくに決まっている。


「お供しますとも。母さんの技を間近で見たいし」

「任せなさい」





「近くに二匹いるね」


森の中を進むことはや10分、ミスカが急に立ち止まった。

しかし辺りは静寂に包まれており、動物の気配なんて全くない。


「どこにも居ないじゃん」

「前の草むらと後ろの岩裏に一匹づつ気配がするのよ」


言われたところを目を凝らしてみるが、何にも居ないけど…


「まあ、見てて」


そう言うとミスカは地面に転がっている拳ほどの石ころを拾い上げる。


「ポリヌの角はそれぞれ別々の役割があるの」


石をポンポンと上に投げながらミスカは説明を始めた。


「一番長くてでかい角は獲物を捕らえるため、右側の角はどこに獲物がいるかを熱で察知するため、左側は微小な音をキャッチするためについてるの。それにこいつらは人間並の頭脳を持ってる。少しでも油断すると殺されちゃうからね」


マジかよ、そんなに強い動物だったのかよ。


「だからわざと隙を見せれば向こうも隙になる」

「どうやって隙を突くの」

「見てればわかるよ」


ミスカは石ころを握りしめ、草むらにいるであろうポリヌ目掛けて大きく振りかぶった。

いや、振りかぶるふりをした。

すると後ろのポリヌはそれを隙と見たのか、電光石火の如く岩陰から飛び出してきた。


「本当に居た…」


驚くのはまだ早い。

真後ろからの攻撃だと言うのに、ミスカは草むらに向かって振りかぶった体制を、左足を軸にこれでもかと体を捻り振り返る。

高速で振り返ると、後ろのポリヌの額めがけて石をぶん投げる。


石は強靭な角を砕き、額を抉り、脳天を貫いた。

ポリヌが汚い断末魔を上げると同時に、草むらのポリヌはその隙を逃さない。

だが、ミスカの方が一歩先を行っている。

体を捻った勢いのまま草むらの方へ一回転。

それと同時に、左足に体重を乗せ踏み込んだ。

まるで弾丸のようにポリヌに接近し、右拳でポリヌの巨体を地面に叩きつける。


「ふいー。終わりー」

「……」


早すぎて追いつけなかった。

ポリヌが同時に倒れるのを見ながら呆然としている俺は体が震え上がっていた。

アニメでしか見たことがないような戦闘を生で見れて鳥肌が立ちまくっている。

かくゆう本人は鼻歌で血抜きをしている。


「たいりょーたいりょー」

「すげぇー…」

「すごいでしょ。君のお母さんは」


コクコクと頷きながらポリヌから取り出された血だらけの石ころを拾い上げる。


「こんな石であんな威力が出せるんだ…」


昔は石を投げたら怪我するからダメだって言われてたけど、これじゃ怪我じゃすまねーよ。


「よしっ。血抜き完了!帰るよ、エル」

「はーい」


俺らは一匹づつポリヌを背負うと、森をあとにした。





次の日、いつも通り朝の日課を終わらせて家に帰ると、庭にミスカが立っていた。


「おかえり。今日は実践をします。ご飯食べたらすぐ庭に出てね」


やっとか、体術を教えると言って1年半、ずっと基礎トレしかなくて飽き飽きしてたところだ。


「うい」


俺はいそいそと部屋に入ると朝ごはんを爆速で食べ庭に出た。


「早っ!!」


驚いた顔でミスカが叫ぶ。


「もう食べたの!?」

「うん」

「すご…。まあいいや、実践はするけど最初に私の流派について話すね」

「流派……」


ミスカは俺の前に来ると人差し指を立てる。


「昨日や前に見せた体術は神体術っていう1000年以上前からある由緒正しい流派なの」


そんな昔からあったんだ。

てっきりばあちゃんの我流かと思ってた。


今度は指を三本立てる。


「この流派は大きく分けて3つに分けることができるの。一つは攻めに突起した技、一つは相手の技を見切ってカウンターを狙う技、一つは昨日見せたみたいな石ころとかその場にあるものを応用する技」


守りは無いんだな。

最後の一つはカンフー映画でよく見るやつだろうか。

ブルースリーとかジャッキーチェンとか俺よく見てたぞ。

予習はバッチリだな。


「で、エルには最後の技をマスターしてもらうからね」

「わお。マスターですか…」

「うん。まずはどこまでできるか確認します!」


そう言うとミスカは俺から数十メートルほど離れると地面に目印を書いた。


「そこから一歩でここまで来てくださーい」

「えっ…」


ここからって10メートルもあるのに?

立ち幅跳びの世界記録でも四メートルもないんだぞ。

それの3倍以上あるのに、こんな幼い5歳児に何をさせる気なんだ。


「神体術は初速が大事だから踏み込みができないと次に進めないのよ」


確かにミスカの戦闘はどんな時でもあっという間の戦いだったな。


「やってみるか」


どうせなら本気でやらせてもらおう。

ま、本気でやっても届かないけど。


右足を後ろに回して全体重を、全神経を右足に集中させる。


イメージはできている。

ミスカから見せてもらったものをここで真似するだけだ。

初めて見たのはゲールが雨を降らせた後、自分もかっこいいところを見せたいと駄々をこねたミスカのために、みんなで狩に出かけてポリヌを仕留めた時、次はランニングをやり始めた時、そして昨日の狩で3回見てきた。


限界まで右足に負荷をかける。

溜めて溜めて最後に解放するイメージだ。


十秒ほど溜めると何か身体が熱くなるような気がしてくる。

前にも似たことがあったような…

あぁそうか初めて魔術を使った時の感覚に似てるんだ。


溜めた足で地面を蹴り上げる。


「やべっ!」


踏み込んだ足は弾丸のような音をあげ、体は猛スピードで風を切っていく。


「嘘っ…」


ミスカが何かを呟いていたが、風にかき消され何も聞こえやしない。

俺は止まることができず、目印のさらに奥にある植木に激突した。


「ぶへっ」


「驚いた…てっきり2メートルにも届かず終わると思ってたのに、10メートルどころか20メートル以上行くなんて。後ろ見てみて」


仰向けのまま倒れている俺は頭を上げ、後ろを見る。

踏み込んだ地面は隕石が降ったかのように抉れており所々焦げていた。


「これ、本当に俺がやったのか…」

「あなたがやりました」


まじか…

自分で何が起こったかわからん。


「まさかこの歳で纒魔を独自で発動させるなんて、才能しかないんじゃないの」

「てんま?」


なんだそれは、俺はそんなもの使った覚えはないが…。


「そう、纒魔。魔力を纏うと書いて纒魔。神体術の基本の中の基本。大体は早くて神体術を学んで5年。私でも7年かかったんだから」


なるほどな。

だから身体全身が魔術を使った時と同様に熱くなったのか……。


「なら朝のランニングは纒魔の状態を保ったまま走ってもらおうかな」


ミスカは嬉しそうに笑いそう言った。

この世界の季節について

1月は春になり、7月は秋になります。

意外と春夏秋冬もあり、聖神祭は一月、収穫祭は7月です。

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