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小さなジャーナリズム宣言

 「俺たちは校内探検隊だ! 七不思議をばっちり撮影してきてやるぜー!」

 「じゃあ私は考察班やるー! 七不思議の謎をまるっと解明するんだから!」


 私が六年一組の教室に戻ると、すでに子供たちはわいわい盛り上がっているところでした。

 一つの島のように並べかえられた机の上には、大きな模造紙やマジックペンなどが所狭しと散乱しています。


 どうやら子供たちはおおまかに二つのチームに分かれる様子。


 一つは、校内を歩き回って七不思議スポットを巡る調査チーム。

 一つは、七不思議に関する考察を巡らせながら記事を作る編集チーム。

 小学生にしてはなかなか要領のいい感じがしますね。


 「なんとか七不思議の正体を写真に収めないとな」

 「でもさ、今日だけで七不思議の尻尾を掴めるとは思えないよ」

 「ああ、こいつは長期戦になるな」


 調査チームの子たちがそんなことを言いながら、ちらちらこちらを見てきます。

 もしかして明日以降も私を付き合わせる気なのでしょうか。やめて。


 「トイレの花子さんについては、なにを書けばいいのかなあ」

 「厠神信仰が元になってるってことにしない?」

 「えー、なにそれ。かわいくないよー」

 「とりあえずネット上の情報を探して、それっぽいネタをパクろうよ」


 編集チームの子たちがそんなことを言いながらスマホを弄っています。

 適当に記事を取り繕う姿勢がありありと見えます。


 と、そのとき。


 「そんなのはダメよ!」


 突然の大声があがり、編集チーム一同がぎょっとして固まりました。

 大きな声の主は、詠梨ちゃんです。


 「今回の学級新聞では、七不思議の真実を暴くの! 適当なやり方は認めないんだからね!」

 「で、でもさあ。花子さんの記事なんてどうやって書けばいいの?」

 「そうだよ。だいたいトイレの花子さんなんて本当にいるの?」


 子供たちが詠梨ちゃんに反論します。

 すると詠梨ちゃんは少し落ち着いたトーンで答えました。


 「記事にできるかどうかは調査次第でしょ。なにも手掛かりが見つからなかったら、花子さんはいなかったって結論になるだけよ」

 「ええ~? そんなの面白くないじゃん!」

 「そんな夢のない新聞、誰が読むのさ?」


 編集チームの子供たちは不服そうでした。

 私も正直気持ちは分かります。

 小学校の学級新聞なんだから、自由奔放な内容でいいと思うのですが。


 でも詠梨ちゃんは譲る気がないようです。


 「新聞っていうのはね。記者が自分の力で調べた事実を読者に届けなければならないの! それがジャーナリズムというものなんだから! 適当な記事転載や捏造なんてアタシが許さないんだからね!」

 「ご、ごめんね。わたしたちが間違ってたかも……」

 「詠梨ちゃんがそういうなら、きっとそうなんだね」


 気圧されてしゅんとなる子供たち。

 なんだか見ているとこちらまで委縮してしまいそう。


 詠梨ちゃんって案外と真面目な一面があるんですよね。

 普段は小生意気で小癪な子供というイメージなので、こういう場面を見るたびにいつもびっくりします。


 彼女の口ぶりから察するに。

 七不思議について自分たちなりに調べて、その結果を新聞記事にすること。

 そういう過程を積み上げることが大事だと考えているんでしょう。

 立派なことですよ。


 「分かればいいの。それじゃあ校内調査隊が帰ってくるまで、アタシたちも図書館で七不思議の情報でも集めときましょ」

 「図書館で情報収集? なんだか本格的!」

 「ばりアガる!」

 「おー!」


 詠梨ちゃんの言葉に、編集チームのみんなは元気よく返事をしました。

 ほんのさっきまで下がり気味だったテンションも元通り。

 いつものことながら、リーダーシップ能力が高いですね。


 そんなことを考えていると。


 「もものぎせんせー」


 詠梨ちゃんから声をかけられました。

 思わず身構えます。


 「な、なにかな? 矢倉さん?」

 「せんせーは校内探検隊のみんなに付いていってあげてよぉ。新米くそざこよわよわせんせーでも、子供のお守りくらいできるでしょぉ?」

 「大丈夫だよ。矢倉さん」


 私は力強く胸を張ります。

 調査チームの方は活発な男子が多いので、学校の備品を壊さないように目を光らせなければいけませんからね。


 「人体模型とか銅像に襲われても、ちゃんとみんなを庇ってよね。せんせーと違ってみんなは未来ある若者なんだからぁ」


 冗談なのか本気なのか分かりづらいことを言いますね。

 まさか七不思議を本当に信じてるわけじゃないですよね。


 「先生に任せてよ。全員無傷でお家に帰すからね」


 少し気取った風にそう返事すると、詠梨ちゃんは鼻で笑いました。

 本当に小癪な子供ですよ。まったく。


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