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七不思議ってなんですか?


 「七不思議かあ、久しぶりに聞きましたねえ」

 「子供って、そういうの好きだよなあ」


 放課後の職員室。

 私は先ほど子供たちとやりあったことを、同僚の先生たちに話していました。


 「もものぎ先生も、生徒たちに付き合わされて大変だね」

 「あまり校内ではしゃぎ回らないようにちゃんと見張っててよ。どうも一組の子たちはもものぎ先生を舐めてるようだけど、大人としてしっかりね」

 「最近は陽が落ちるのが早くなってますから、遅くとも五時半くらいにはみんなを下校させてくださいね。もものぎ先生」


 先輩の先生たちが少し心配そうに声をかけてくれました。

 基本的に私に優しい職場なんです。

 子供たち以外は。


 「ところで、この学校の七不思議ってどんなものがあるんですか?」


 せっかくなので、先生たちにそんなことを聞いてみました。

 これから七不思議調査に駆り出されることになった手前、せめて七不思議の内容くらいは知っておこうと思ったのです。


 「そっか、もものぎ先生は最近赴任したばかりだから聞いたことがないのか」

 「しょうもない作り話っすよ。他の学校にもあるような感じのやつ」

 「ええっと、どんなのがあったんでしたっけ?」


 先生たちはなんだか懐かしいものを思い出すようにして、七不思議をひとつずつ列挙していきました。


 「まずあれだろ? 動き出す人体模型」


 初手で定番のやつ来ましたね。

 この時点で残りも大体推測できそうです。


 「あとは、動き出す校長の銅像とか」

 「真夜中に鳴り出すピアノもあったよね」

 「それと、死の十三階段」

 「トイレの花子さんも忘れるなよ」


 順当なラインナップです。コンビニ並みの安心感。


 「百葉箱の生首、というのもありましたねえ」


 油断していたら急に猟奇的な話がぶちこまれてきました。

 なんだか本当にあった事件なんじゃないかと勘ぐってしまいそうで、正直怖いです。


 ともあれ、ここまでで教えてもらった七不思議は六つ目。

 残りはどんなネタが待ち受けているのでしょうか。

 願わくは定番めいた、ほほえましい話であってほしいです。


 「あと一つはなんでしたっけ」

 「ほら、あれだろ。なんだか意味わからんやつ」

 「ああ、あれかあ」


 先生たちはそう言うと、最後の一つを口にしました。


 「『桜の木の下には死体が眠っている』、ってね」


 桜の木。

 死体。


 なあんだ。これも定番のやつですよ。

 昭和の初期に書かれた掌編小説が元ネタでしたっけ。

 桜の木の下といえば死体が埋まっているか、告白したら成就するかのどちらかが相場ですよね。


 「へええ、全体的になんだか普通ですね。百葉箱以外は」

 「まあそうなんだけど……もものぎ先生は疑問に思わないのかい?」

 「え? なににですか?」


 こちらがきょとんとしていると、先生たちはおかしそうに笑いました。


 「だってさ、この桜木小学校には……桜がないんだよ」

 「え? そうなんですか?」


 ちょっと驚きました。

 今の今まで、桜の有無なんてまったく気にしなかったものですから。


 でもそう言われれば。

 思い返せば半年前の始業式の春。


 はじめてこの学校に赴任してきたばかりの私は、「なんだかぱっとしない地味な学校だなあ」と感じた覚えがあります。

 あれはもしかすると桜が咲いていなかったからなのかも。


 「でも桜がないのに、なんで『桜の木の下には死体が眠っている』なんていう話がでてくるんですか?」


 素朴な疑問でした。


 だってそうじゃないですか。

 桜がないのに桜にまつわる七不思議があるなんて、なんだか変ですよね。

 トイレがないのに花子さんの噂があるくらいにおかしな話ですよ。


 廊下を疾走するテケテケとか、異界に繋がる大鏡とか、他にもネタはいくらでもあったはずなのに。


 「知らないよ。こっちが聞きたいくらいだ」

 「その疑問も含めての七不思議だと言われてるくらいですからねえ」


 先生たちは馬鹿らしい話だといわんばかりに笑い飛ばしています。

 それを見ていると、私もなんだかどうでもよくなりました。


 まあ七不思議なんてそんなものなのでしょう。

 真面目に考えるだけ、野暮というものです。


 その後、私は先生たちと軽く雑談を交わしてから職員室を出ました。

 これから子供たちの七不思議調査とやらに付き合わなければいけません。

 もちろん残業代は出ません。


 さきほど聞いた七不思議の内容を思い返しながら、私は子供たちが待っている教室へと歩いたのでした。



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