6話 「新たな魔女様は何が得意なんですか?」
配分失敗した! ちょっと長めになってしまった><
幼馴染の三人は深紅の魔女が来る前に、スタコラとこのエメラルドの家から出て行った。
その場に残されたあたしは呟く。
「やったこともないのに、ダンジョン潜れって……」
「初めては誰にでもあるって、ルビィは言ってました」
あたしは、ちびっこちゃん……アレクサンドライトを見つめる。
「わたしも、ルビィのところでごはんの作り方を覚えました!」
「……そ、そう」
「新たな魔女様は何が得意なんですか?」
得意……恋占いです。
とりあえず、この子はお客様だ。お茶を淹れましょう。
この家には何度も通っていたし、物の配置もわかってる。オーナー……エメラルドが体調を崩してからは、何度か泊まり込んだこともあるから、第二の家と言っていいもいいぐらいだ。
深紅の魔女がここにくるまでまだ時間ありそうだから、この子を占ってあげようかな。
「ダンジョンになんか縁のない占いが得意なのよ? 恋占いとかしてあげようか?」
「わ、すごい! ルビィは魔女だけど、占いはしないので、是非!」
アレクは両手を合わせて喜ぶ。
こんなちっさい子に恋が訪れるなんて、まだないだろうけれど……。でも、魔女の後継なんだから……。
「できれば、ルビィとアダマント様を占って欲しいです」
え? 東側辺境伯爵様と深紅の魔女ってそういう関係なの!?
やだ、知らなかった。っていうか、これこの迷宮都市では誰も知らないんじゃない?
ていうか、アダマント様って、魔女の落とし子とか言われてて、不老不死なのかもという噂も流れてるから、お二人とも、見た目とは違って実年齢は高齢なのよね?
付き合い長い二人とか、なんかあれ、そういうの素敵……。
そしてイケメンと美女の組み合わせ……。
神様……ひどい……不公平です。
カードをシャッフルしてテーブルに並べ始める。
ああ、アダマント様が片想いで、深紅の魔女もまんざらじゃないのか。
でも、二人が結婚して子を成すことはなさそうだ……。
二人とも複雑なカードの意味を成している。ああ、アダマント様もルビィ様も『記憶持ち』なのね。
この大陸の中央にある黒き森の魔素のせいで、この地には前世の『記憶持ち』が生まれてきたり、別世界から迷い訪れる人がいたりする。
東側辺境がこんなに世界的に科学力も魔力も有しているのは、『記憶持ち』や『迷い人』の力によるものだとか。
あたしが店長代理を務める店の隣にある『いつもニコニコ焼きたてパン屋さん』の店主もその『記憶持ち』で、美味しいパンをいつでも食べられるっていうのが売りのセントラル・エメラルドの人気店。
弟子や従業員も少人数で、以前占いでアドバイスしたら、「あ~オレ『記憶持ち』なんだけど、なんか普通に生活できればいいかな~って感じなんだ~」って欲のない人だった。
前世でとても疲れたからスローライフを楽しみたいとか言ってた。「チート能力持って転生した人は、頑張ってくださいって感じ」だとか。ちょっとよくわかんないこと言ってたけど。
パン屋の店主がいうには、知ってる単語とか文化とか道具とか目にするから、きっと力のある人(権力者とか魔女とか、最深層ダンジョン攻略者とか)の中には、やはり『記憶持ち』とかいるだろうって、話してくれたことがある。
「結婚しないみたいよ」
カードの結果を伝えると、アレクサンドライトはその緑金の瞳をとじて「んー」と唸る。
「そうですか」
「でも二人とも幸せそうよ。未来も」
そう伝えると、アレクサンドライトはぱあっと顔を輝かせる。
「よかった!」
可愛いな……やっぱり子供欲しかったな……。
「じゃあ次はアレクね」
「はい」
カードをシャッフルして並べ始める。
……やだ、この子、すごい……。なんだろう多分この年ですでに、何度も命が危険なことにさらされている……。でも、乗り越えてきた。
カードの配置がダンジョン攻略者のトップランカーの人達と似ているわ。
仲間や身近な人の喪失が過去にあるっていうのが特徴なのよ。
不屈とか忍耐とかもあるから乗り越えていけた感じ。
最後のカードを捲ると、ああ、やっぱりだ。成功者のカードだ。
恋はここからだと読み取れないか。
「うーん……恋はまだかな」
「えへへ、多分そうかなって。よくわからないから」
「だよねえ」
「新たな魔女様は、自分の恋を占ったりしました?」
「自分のことは占えないのよ」
「えー……」
「いつも振られちゃうんだ」
そう。告る前に終わっちゃうんだ。
でも、エメラルドはそんなあたしを占ってくれていた。
――お前が望んだ人生とは真逆の運命が待っている。何度も占っても、そう出てる。そんなお前を傍にいて守ってやれそうもない………だから、わたしの名をお前に譲る。お前は強い子だから、きっと成し遂げられるわ……
エメラルドの後継はあたし以外の誰かを選んだ場合、スタンピード発生してこの街が壊滅したのかもしれない。
大多数の死者が出て、その中にあたしもいたかもしれない。
そんな未来をカードから読み取って、あたしを後継に選んだのか?
――結婚して子供が二人、旦那と一緒にいつまでも、共白髪まで、孫もたくさん……そんなお前の夢を、最期に潰してしまう、わたしを赦してほしい。お前を守りたいんだよ。
鍵付きのダンジョンを攻略することで、あたしもこの街も、終わらないっていうなら、あたしのささやかな夢は諦めるしかない。
確実に無事の未来があってこそ、夢は見れるんだもの。
ただね、思うの。
エメラルド。
もう少し長生きしてほしかった。
照れちゃうけど「お母さん」って貴女を何度も呼びたかったな。
玄関のノッカーが鳴って、ドアをあけると、そこには深紅の魔女が立っていた。
「ふうん、さすがエメラルドが選んだ子ね、逃げ出さなかったんだ」
「アレクを先にこっちに向けて様子見させたけれど、取り乱した様子もないし、肝は太いってところか」
褒められているのかな……でもごめんなさい。逃げてどうにかなるなら逃げてますけども、喪失感半端なくて、迷宮都市を抜けてどこかへ行こうっていう行動力が出てこなかっただけです。
深紅の魔女様にも、お茶を淹れよう。
ソファに座った彼女の前にお茶を差し出す。
「アンタ、ダンジョンに潜ったことはないって言ってたわね」
「……はい」
「ラピスラズリの時もそうだった」
あたしは学校で習った近代ダンジョン史を思い出す。
ラピスラズリ・ダンジョンのスタンピード。
ラピスラズリの魔女に選ばれた少女が一層でゾンビに倒されて、モンスターが大発生して街一つが消滅した。
セントラル・ラピスラズリの外壁を強化し、スタンピードを食い止め、アダマント様が攻略者達を率いてモンスターを殲滅したという。
アダマント様が英雄にしてダンジョンの王と言われる数多くある史実の一つ。
「スタンピード発生は、アダマントも止めたいだろうし、アタシも望まないから、アンタを全面的に支援するわ。あ、たばこいいかしら?」
「は、はい」
深紅の魔女はローブから銀色の綺麗な細工の細長い煙管を取り出す。彼女の指先が火皿部分に触れるか触れないか……その仕草の後に、葉に火が付いたようだ。
多分魔法なんだろう。
「安心していいわよ、アンタ、一層は確実に抜けられるから」
「え⁉」
「新たな鍵付きダンジョンが何層になってるかは予測できないけれど、序盤で死なないと思うよ」
深紅の魔女はそう言って、煙管を加えて紫煙を吐き出した。
何、この人……カッコイイわ。やばい。新たな扉を開きそうだわ。
ていうか魅了の魔法とかないわよね? この人。
「アンタ、どれだけの付与魔法を使える?」
今まで防具や武器や護符アクセにつけてきたのは……。
「えっと……防御力上昇と速度上昇と攻撃力上昇、回避、回復上昇……、それと、毒耐性と麻痺耐性、睡眠耐性……とかの状態異常耐性」
「付与の基本形は使えるってことか。上出来だ」
本当ですか!?
やだ、これ、あれ? ちょっと褒めてその気にさせちゃおうって作戦なのかしら?
「付与魔法を自分にかけたことはない……か……ダンジョンに潜ったことないんだもんね」
……実は、魅力上昇をかけてみましたとは言えなかった……。
もちろんその効果なんてなかったわ。
当時の片想いの相手には全然通じず、やっぱり他の女の子の告白を受けて彼は彼女と付き合いました。
三ヵ月後には結婚してました。
ええ、その後、大繁盛でしたとも、護符屋エメの恋占いとおまじないは効くって。
「でも、新たな魔女様に武器、防具に付与を施してもらった攻略者の方々からは、好評でしたよ?」
え? そうなの? アレクさん……あなた、いつそんなリサーチとってくださったの?
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