52話「そっかあ……やっぱりあたし、強くなったのね」
ゾンビじゃない……。
腐ってもいない。人間に化けた? 血色の良くない肌色。
見た目は腐ったゾンビよりもマシだけど、でも青白さは異常。
「マミーを倒したのか」
こいつの言葉を無視して光学迷彩のマントをフード目深にかぶり、敏捷速度に5倍掛けの付与をかけて接近し、メイスを振りかざす。
だけどヒットした感触はなかった。
散々アンデッドをこのメイスで屠ってきたけれど、こんな宙を振り抜いた感触は、ゴースト相手にした時ぐらいだ。
動きが速いのか、元が冒険者なら5重付与したあたしの動きを見切ることは別に問題じゃない。
この魔女のダンジョンは低層だろうと深層だろうと、アンデッドだけなのだ。
――魔女のダンジョンは全てアンデッドで、低層階は雑魚なモンスターしかでない。
そんなダンジョンの中層間近で、見た目が上等の服に身を包み――まるで上流階級の、それこそお貴族様が着そうな服を着こんで偉そうにあたしに話し掛ける男は尊大で偉そうでイラつく。
アンタは元は冒険者で、今のあたしよりも劣る装備を身に着けていたでしょうに。
ああ、そういうところってコイツがサンドラに付き従っていた影響なのかしらね。
ひらりひらりと避ける男のマントの裾を掴みそのまま魔力を巡らせて、燃やす。
「ごめんなさいね、アンタが人間でいた時よりも豪華な服を燃やしちゃって」
鼻先で笑ってやると、ムキになってあたしを掴もうと手を伸ばす。
「このっ!」
伸びてくる手の速度がわかる。
付与をかけてなければ見切れないだろうし、避けもできない。
それにしても、こんな煽りに感情を見せるあたり、強敵感が半減するわね。
「エメラルド様!」
その声だけで、あたしはどんな動きをすればいいのかわかる。アンディがバトルアックスで男に降りかかるが、男は間一髪で避ける。
避けられたことにも躊躇わないアンディは次の動作に入ってる。
バトルアックスがブォンっと空を切る音がだんだんとスピードアップしていく。
サムは左から音に切りかかる。
「はっこのスケルトンが!」
男はそう言い捨てて、サムの尺骨と橈骨を一緒に握る。
「最弱アンデッドのくせに!」
膂力10倍の付与をかけて、あたしは男の腕に飛び乗る。
男の腕にヒールブーツの踵が刺さる感触を感じたんだけど、痛みに飛びのくとかそんなことはしない。
やっぱり人間のガワを被ったアンデッドなのね。
痛覚がないんだ。
男は口を開けドラゴンのブレスみたいに魔法を放ち、あたしは吹き飛ばされる。
アンディの瞳が赤くなって戦闘モードのままだ。
バトルアックスから鬼爪に武器を変えて男に接近し、尺骨と橈骨をつかまれたままだったサムは肘関節を外して、身体の自由を取り戻し、片手剣の状態で切りかかる。
吹き飛ばされながらも、その状況を見ることができる。
滞空時間が思ったよりも長い。
空中で体勢を整えられる。
地面に着地するともう一度、速度の付与をかけて男に近づく。
腐った腐臭もしない。
魔法も使った……。
口を開けた時の八重歯。
「うん」
わかった。
こいつはヴァンパイアだ……。
アンデッドの中でも最上位って言ってもいいんじゃないのかな?
魔法も使えるし、魅了も使ってきてる。
アダマント様とルビイ様が用意してくれた装備に加えて、状態異常無効の付与をかけているから効かないけれどね。
「アンタのそのうざい魅了スキルは、サンドラからのおこぼれよね」
目の前のヴァンパイアはぎょっとする。
がしっと、ヴァンパイアの頭部を膂力15倍で両手で掴む。
まさかあたしが背後からアンタの頭部を掴むなんて思いもしなかったでしょうね。
正面からのアンディとサムの攻撃を塞ぐ為、両手は使えないけれど、魔法であたしの動きを封じようとしてる。
でもね、あたしの付与魔法はアンタが知ってる付与魔法とはもう全然違うのよ。
痛覚がないからわからないでしょうけれど、ほら、もう、アンタの頭蓋骨にヒビが入る音がきこえるでしょう?
「お、お、お前……」
「なあに?」
あらやだ、まだ口がきけるのね。
「なんでそんなに、強い……」
「そっかあ……やっぱりあたし、強くなったのね」
魔法で燃やしつくなんてことはしない。
アンタはサンドラの眷属になって、魔法が使えて、万能感を感じてたかもしれないけれど、あたしは逆に、自分の膂力に付与魔法を最大限に注ぎ込むことで、物理的な破壊に万能感を感じるのよ。
「アンタのちゃちな魔法はね、ダメなのよ……一度見たらどういう魔力の循環で、魔法を発動しているのか把握したわ。魔法を使えて嬉しいのよね、多分人間だったころは魔法に縁がなかったでしょ? 使い始めて慣れないから拙いのよ。魔女の魔法を越えられないから、効かないの。残念ね……ね、ところで聞こえてるかしら? さっきからアンタの頭蓋骨に音が走ってるの」
「ひっ……」
「大丈夫よ、安心して、アンタの大好きなサンドラも、そう時間を置かずに、アンタと同じように、葬ってあげるからね」




