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51話「大丈夫よ、サム、あんたは消えないわ」



 地上に戻らず次に行くとあたしがそう言うと、サムがあわわと慌てた様子であたしに近づく。

 そんなサムに、文句あるのかと一瞥して、ボス部屋の中を進んでいく。

 マミーを倒した後のボス部屋は、主がいた時よりも、不気味な沈黙に包まれていて、ヒールブーツの音が、ボス部屋に響き渡る。


「一度、地上に戻られた方がっ!」


 サムの語尾が、ボス部屋の中で響く。

 いつものなら「え~戻っちゃうの~? 寂しい~」なんてお調子よく言い放つくせに、カタカタと両手を振って身振り手振りで.そんなことを言う。


「大丈夫よ、薄皮一枚だけだし」


 あんまり沁みたからちょっと泣いたけど、でも、全然平気。すぐに塞がる。

 あたし……本当に変わったな。

 痛いとか怖いとかそういう感情が、まったくないとは言わないけれど、あんまり感じなくなってきてる。


「中層を攻略するわ。もうすぐ、サンドラに会えそうな気がするの。あの子をひっつかんでダンジョンから叩き出すわ」

「はは、やっぱりエメラルド様はお優しいです」


 いままで黙っていたアンディがそう言う。


「さっきのマミーみたいに、魂までも魔素還元すらできないほどに、滅してしまえばいいのです。ここは先代様がエメラルド様に託されたダンジョンですから、それを横から掻っ攫おうなんて、盗人猛々しい」


 サムが「やだ。この小型狂犬、こわっ!」とか呟いている。


「そうね、サンドラに渡す気はないわ」


 終わりにしたいのよ――……死臭が漂うこのダンジョンアタックを。


「あのマミーはサンドラが中層にいると嘯いていた。でも、おかしいじゃない。このダンジョンは相変わらず、アンデッドの気配しかない」


 ボス部屋を抜けて今、49階層だ。

 でもどうだろう。このダンジョンの雰囲気は。

 あたしが泣いて泣いて、怖がっていたダンジョンの雰囲気のままだ。

 強力なモンスターの気配がしない。

 道中のボス部屋には、それこそダンジョンアタックを生業としてる連中が畏怖を感じる強力なモンスターも現れたけど、その方が違和感だった。

 手ごたえもなくて、まるで幻覚と戦ってるみたいな感じだった。

 倒したはずなんだけど、あれが本物だったのかって疑問もある。

 魔女を深層の奥へ誘うのは――アンデットだけ。

 さっきの階層で置いてきたサムの手下になった軍団とゾンビの集団の喧噪も、当然聞こえない。

 それはダンジョンの構造的は当然なんだろうけど、例えば、わたしがここで、じゃあさっきの階層に戻るとなっても、あの軍団VS軍団の戦場は綺麗さっぱりなくなってる。


「サム……あたしを一度、地上に戻そうとしたのって、あんたの手下が消え失せたから?」


 あたしがサムにそう尋ねると、サムは歯の中に手を突っ込んでマジマジとあたしを見る。

 サムはスケルトンを統べることができるから、その気配だって敏感に感じとってるはず。

 でも、あたしもそれは同じだ。

 このダンジョンに強制的に放り込まれた、だって、あたしがダンジョンに入らないと、エメラルドの作った街がスタンピードの被害にあうって言われたら、潜るしかなかった。


「ふざけたポーズでごまかさなくていいわ。真実だけ教えて」

「ああ、エメラルド様にはわかるんですね、オレの同胞の気配が消えたの」

「ゾンビもきっと同様ね」


 サムはまるで子供みたいに……ぬいぐるみを抱きしめるみたいに、剣を抱きしめてカクカクと頷く。

 ああ、お前も、不安だったのね、仲間が消えた感覚がわかったから。

 そして自分もそうなるんじゃないかって。


「大丈夫よ、サム、あんたは消えないわ。わたしが傍にいるからね」


 わたしがそう言うと、サムは安心したように、剣を小脇に抱えて、両手を肋骨に押し当ててる。


「だって、あんた、あたしの眷属になったアンデットだから」

「エメラルド様~!!」


 サムが両手を広げてあたしにハグしようとするけれど、アンディがあたしとサムの間に入り込んで、サムを睨む。


「ヤキモチはみっともないぞ!」

「ずうずうしいんだよスケルトンの分際で。エメラルド様に触れるな」


 いつもの、アンディとサムの変わらないやりとり。

 あたしはアンディの銀髪をそっと撫でる。サラサラした髪。

 わたしを見上げるその瞳の色も、まるで人形のように綺麗な色彩。


「エメラルド様?」


 アンディぐらいの頃、シエラによく髪を梳かしてもらって、「エメの髪はすごく綺麗ね」なんて褒められたことがあった。


「昔、シエラに髪をとかしてもらったことがあるの。そのたびに、綺麗ねって褒められた」


 ダンジョンを攻略する前の――普通の生活……シエラとふざけたりタロット占いで女の子達の一喜一憂の様子をみたり、難しい仕事依頼が来て付与術式を考えたり、そういう普通の日常が、すごく懐かしい。

 ねえ、エメラルドーーお母さん――……。あたし、このダンジョン、やっぱりいらなかった。


「まだ、生きてるのか、護符屋」


 そうわたしに声をかける方向に顔を向ける。

 アンディもサムも臨戦態勢になる。

 ゾンビじゃない男がそこに立っていた……。



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