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49話「サム、あんまり無茶しちゃダメよ?」


 サムと合流して、この階層はゾンビとスケルトンの集団合戦場と化していた。

 アンデッドVSアンデッドの構図。

 スケルトンの弱点は脆さ――。

 物理的な力でその身体への衝撃が強いと、倒れる。

 でも、この団体戦を観戦してると、この衝撃もそれなりの力でなければ、スケルトンの身体はノーダメージ。

 ゾンビの攻撃も弾くことがある。骨が硬いから。

 力で押されて衝撃で崩れて倒れたスケルトンもいる。

 だけどバラバラになったスケルトンは、頭蓋骨が無事だったら再生の速度が速い。

 これはあたし自身が防御力の付与を、スケルトンに施してるのと、ダンジョン補正の相乗効果なんだろう。

 しかし相手はゾンビ、腐っても冒険者――だ。

 ダンジョン攻略に慣れた冒険者にしてみれば、アンデッド最弱というスケルトン討伐のノウハウを持っている。ゾンビも元は冒険者。腐ってもスケルトン対策の記憶があるってところか。

 団体戦は混戦を極めていた。


「サム、スケルトンがアンデッド最弱モンスターっていうのは通説よね?」


 あたしがそう尋ねると、サムは頷く。


「このダンジョンの補正力が、かかってるんじゃないっすかね。骨自体が硬いんっすよ。普通のダンジョンだったら、初心者が、ガツっとハンマーあたりで粉砕して、おしまいだし、再生なんかしない」


 これだけの軍団を率いてジェネラルの称号を持ったけれど、その飄々とした口調は変わらない。

 サムの言葉にアンディも頷く。


「ゾンビも強いっす。通常はビギナーが倒して当たり前。そんな、アンデットが、階層が進むにつれて、こんなに強力になっていく。オレが指揮してるこの軍団なら、アースドラゴンぐらいは倒せるっしょ。ダンジョン階層のボス部屋のモンスターは前回のケルベロスを最後に逆に弱まっていくし……」


 このダンジョンは……魔女のダンジョンだ。

 最初こそ、弱いアンデッドしかいない。

 それは魔女の為。魔女をダンジョンの奥へと進ませる為。

 あたしがこのダンジョンに潜行して一か月? 二か月?

 アンデッド(不死)を倒して、人間だった女性は魔女としての命を永らえていく準備をするんだろう……。ルビィ様は何も言わないけれど、多分そう。

 魔女のダンジョンの――最下層のボスを倒して魔女は長寿を得る。そして永遠に変わらない若さを得る。

 サンドラはそれを欲したのだろうか。

 あの子はなんでも持っているのに。

 こんなアンデッドだけのダンジョンに潜るのは、それが欲しいから?

 欲しいものはなんでも手に入る立場なのに。馬鹿じゃないの?


「サム」

「なんでしょう、エメラルド様」

「わたしは先に進むわ。この階層はスケルトンがいれば大丈夫でしょう?」


 大人数の軍団戦になってる。

 アンデッド同士の団体戦は混戦を極めていた。

 動きが緩慢なゾンビ相手に、速度で対抗するスケルトン軍団。

 スケルトン、骨が脆弱で強力な打撃ですぐに崩れるけど、あたしはサムに防御の付与を書けている。

 わたしはここにいても意味はない。サムに任せよう。


「お供します」

「軍団ほっといて平気なの?」

「はっはっはー。あれぐらいの団体はカインの奴に任せますよ」

「カインって誰?」

「あらーひどい、お忘れで。エメラルド様がゴーストだった奴をスケルトンのボディに魂を定着させて、めっちゃ脅して服従させたじゃないですかー。ヤダー」


 ああ、いたわね、そういえば、そんなヤツも。


「カイン、この階層頼むぞー」


 雑な感じでサムは声掛けする。そんな感じでいいのかと思ったけど、いいらしい。

 あたしが、ダンジョンにいない間、かなり自由に深い階層を行き来してるのがわかる。


「サム、あんまり無茶しちゃダメよ?」


 あたしが声をかけると、サムの眼窩の大きさがほんの少し、開く。ぱあって喜びを顔面で現わしてるみたい。

 スケルトンなのに、表情が豊かよね。コイツ。


「え、心配!? 心配してくださってる⁉ エメラルド様!?」


 ゾンビとスケルトンの集団合戦の横を、さっさと通り過ぎていくあたしに、サムは嬉しそうについてくる。


「そりゃね、あたしはかなり下駄をはかせてもらって、この深層のダンジョンを攻略してる。装備も武器も、傍にいるアンディなんかは、特にそう」


 その言葉に、サムはアンディに顔を向ける。

 そうよ、一番の謎はこの子よ。

 ゾンビ化しないのは子供だから?

 子供のゾンビに遭遇したことこないから、そうかなとも考えたことあるけれど。

 やっぱりルビィ様がなんかこの子に術式を組み込んでると思うのよ。

 魔力の感知が全然しないけど。


「サムもそうよ」

「オレがっすか?」

「おかしいでしょ、アンデットになっても記憶と自我があるなんて。アンタの場合はダンジョンの補正なのかなとも思うけど」

「え~そこはさあ~オレの純情な恋心とか思わないっすか~?」

「骸骨のクセにエメラルド様に言い寄るとか、頭蓋骨粉砕する? 妄執があると自我が残るんでしたっけ? やはりエメラルド様の傍に置くのは危険すぎるのでは?」


 ジャキンと音を立てて、鬼爪を瞬間装備するアンディを見て、サムはあわわと二、三歩後ずさる。



「妄執なんてそんな暗いもんじゃなくてえ~あわーい恋心ですよ~」

「ほんと調子乗ってるな、この骸骨。やっぱ最初に殺しておくべきだった」

「わあ、わああ~まって、まってよお~、だって、オレ、スケルトンになっちゃったじゃん~死んじゃったからさ、エメさん好きでーすとか言っても、相手にされないのわかってるから~言うだけ言っとこうと思うじゃーん。小型狂犬も、言っとけばいいじゃん」


 サムの言葉にアンディはガシィっと鬼爪で頭蓋骨をひっつかむ。


「アダ、アダダ」

「アンデッドに痛みはないだろ」

「心よ! 心が痛いからああああ!! 同志でしょー!」

「アンディ、やめなさい」


 違うわよ、そんなんじゃない。

 そしてアンディもなんでコイツに優しいのって目で訴えないように。

 サムは多分、その頭蓋骨粉砕したぐらいじゃ、死なないわ。あたしに黙って深層まで潜ってる意思を持ったアンデッドスケルトンなんだから。


「ねえ、サム、あんた、サンドラに会った?」

「まだっす」

「エメラルド様がいない間あんな軍団作って、深層潜るとか、裏切る気だな……やはり…殺す」


 アンディが再び鬼爪でサムの頭蓋骨をギリギリ締め上げる。

 サムの方が体長あるけど、アンディは飛び上がって、頭蓋骨ひっつかむと、腰骨曲げて這いつくばる感じになるのよね。


「やー、違うから! 探してるだけ、まじ探してるだけー! お願い! 信じて!! だって、ここ最近オレだけでもアンデットばっかりなんだもん! 攻略しやすくて~!」


 そうか……攻略しやすいのか。


「じゃあ、次はちょっと強めのアンデッドが少数でくるかもね」

「へ?」


 多分、サンドラに、近づいてるんだわ。

 そして、中層も近いんだ……。

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