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4話 「新たな魔女様、これ、ルビィからです」

 

 エメラルド・べリルの葬儀の際、迷宮都市セントラル・エメラルド地区は喪に服した。

 ダンジョン攻略中の者以外は、その墓に訪れて献花を捧げる。

 商業エリアの店舗も葬儀当日はクローズになる。

 アダマント様が言った、国葬に準ずるとはそういうことだ。

 隠遁したかつての家から少し離れた森の入り口に、アダマント様が墓碑を建てさせて、そこに、エメラルドが埋葬された。

 ウィザリア大国自体は土葬だけど、東側辺境伯爵領の迷宮都市の葬儀は一律火葬と相場が決まっている。

 これはダンジョンのせいだ。

 遺体が魔素を取り込むとアンデットになるから。

 深紅の魔女がエメラルドを火葬した。人骨の原型を残さないように。骨もまた、魔素を取り込むことがあるとかで……。


 あたしはエメラルドが亡くなってから、彼女が隠遁していた家にいた。


 なにがどうしてこうなった。

 あたしは護符屋のしがない店長代理。

 商人だ。攻略者じゃない。これが攻略者だったら、ヒャッハーな状態なんでしょうけど。

 シエラの店でも手を付けない、酒精の高い酒をあおると、咽喉がひりつき、身体の中の血が沸騰したようにめぐる。


「よおー、エメ、元気だせよー」

「まあなあ、失恋の翌日にオーナーがこうなっちゃ、落ち込むなっていうのも無理だけど」

「なんかあったら声かけろやー。あ、でも、オレに惚れるなよ、オレは今、嫁とラブラブだ」


 やかましいわ、とっとと、帰れ!

 ダンジョン内でも噂を聞いて、攻略引き上げて、献花にかけつけてくれた連中なんだけど。

 アンタ達、もう一度、献花に行ってこい。


「こんばんは、新たな魔女様」


 ドアからそっと顔を覗かせそう声を出したのは、深紅の魔女の傍にいた、小さな女の子だった。

 赤い髪に緑金の瞳が大きくて、くりっとしている。


「ご友人がおられましたか。でも、人は選ばないとダメですよ、中には、ダンジョン発生と同時に我先にダンジョンに行っちゃう人がいるから」


 あたしに声をかけていた男共は黙る。

 そうかいそうかい。そういうことですか。

 ダンジョンは巨万の富を生むってやつだもんね。

 別にあたしが心配だから~なんてわけでもなく、要は、魔女を選ぶダンジョンに興味津々というわけですか。


「いいよ別に、行きたければ行きなさいよ」


 あたしは、そんなものいらないから。

 欲しければくれてやる。


「ルビィがいうには、もう鍵付きの意味すらも知らない攻略者人口が増えているとのことですが……」


 小さい子が幼馴染の連中にその緑金の瞳を向けると、周りの男共もなんともいえない表情をする。


「鍵付きなあ……魔女以外が潜ったら第一層で命とられるって話は聞いてるがなー」

「アダマント様がダンジョン周辺に厳戒態勢しくだろ? 何年ぶり? 鍵付きの出現って」

「アクアマリン・ダンジョン以来じゃね?」


 なんだかいつものシエラの酒場での会話っぽくなってきた……。


「潜りたければ魔女は止めないですが、ダンジョンの許可が下りてないので、通常のダンジョンとは異なりますよ」


 連中と小さい子はあたしに視線を向ける。

 その視線を受けた小さい子ははっとした様子だった。


「お名前をまずお伝えしてませんでした。大変失礼をしました。わたし、アレクサンドライト・クォーツです。新たな深緑の魔女様。今後ともどうぞよしなに」


 ローブの端をちょんとつまんで、カーテシーをする女の子。


 アレクサンドライト。

 どこかで聞いたような。

 宝石の名を冠した名前の魔女……?

 いや、その宝石の名の魔女はいない。

 ダンジョンもない。

 でも、見た目はどう見ても深紅の魔女の後継でしょ?

 それに……この子……すごい運気がある……。

 ほら、あたし恋占いとかするじゃない? だいたいわかるのよ。そういうの。

 この子、こんなに小さいけれど、結構強いし、修羅場くぐってるわ。きっと。


「新たな魔女様、これ、ルビィからです」


 小さな女の子アレクサンドライトがあたしに匂い袋みたいなものを手渡す。


「お守りにしなさいって、ルビィが言ってました。ルビィは新たな魔女様のこと、すごく心配してました」


 小さな可愛らしいその袋の中は綿に包まれた白い硬い……石のようなものが入っていた。

 玉なのか? 

 形状は丸くて白くて……硬い……それが数粒入っている。

 はっとした。

 加工されているけれど。間違いない。

 それが――エメラルドの遺骨だとあたしは直感でわかって、また泣き出してしまった。





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