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31話 「じゃあどうぞ。入るといいわ。魔女のダンジョンに」

 



「ダンジョンが選ぶんだ。魔女と契約したと言い張るならば、実証してもらわないとな。マクラウド氏は、攻略者でもないから、知らないだろうが、魔女の新規ダンジョンにはいくつかのルールがある」


 ダンジョン発生48時間以内に魔女の後継が一人でダンジョンに入ること。

 ダンジョンの中層階に到達し、スタンピードを阻止することが出来れば、魔女の後継として正式に魔女と名乗れること。

 供を連れてのダンジョンはスタンピードを起こすこと。


 今まで言われたことだけど、アンディさんに視線を向けると、アンディさんは、にこっと笑顔を浮かべる。

 可愛い。

 じゃなくて、そうじゃない、あたし、そうじゃないでしょ。

 アンディさんに尋ねたこともある。

 なぜ、ゾンビにならないのかと。


 ――深紅の魔女の研究結果が、ゾンビ化しない僕です――


 らしい。

 ていうことは、ダンジョンのゾンビ化を防ぐなんらかの術式をこの子にかけてるってことなのかと納得した。

 新規ダンジョンを魔女の後継一人で攻略を進めるのはかなりハイリスクだから、ルビィ様はずっと研究していたっぽい。

 アレクも「ルビィは研究熱心なの」って言ってたこともあるし……。

 やっぱり深紅の魔女って、頭の出来が違うのか。

 そんなことも研究して対策たてるなんて。

 爽やかな笑顔でとんでもないことを振ってくる領主が惚れた魔女だもんね。

 お似合いです。


「新規ダンジョン出現からかなりの時間経過だ。マクラウド氏の娘が魔女の後継ならすでに時間オーバーでスタンピードが起きていてもおかしくはない」

「しかし、先にそこの娘がダンジョンに入ったからでは!?」

「だから、それを実証するために、マクラウド氏が言う、自分の娘をダンジョンに入れろと言っているんだ。これにサインを。先代の魔女と契約を交わしたというなら、この私とも契約を。今、ここで交わせ」


 なんの契約だかわからないけれど、多分、マクラウド氏にとっては、不利な契約だろう。

 アダマント様なら、この手の商人なんか、本来なら近づけさせもしないのに。


「魔女の後継となるために、娘がダンジョンに入り、その間に起きた出来事には責任を負うというごくごく簡単な内容だ」


「それは……」


「もし、今回の攻略でスタンピードが起きたら、その責任はマクラウド氏にあるということだよ。新規ダンジョンについて、我々も遊びでやっているわけではない。このダンジョンの攻略には、ウィザリア大国東側辺境伯爵領の公費だけではなく私の私財も充当させている。セントラル・エメラルドの防衛対策や、ダンジョン攻略の為にこの東側辺境伯爵領に散る経験者を呼び寄せている」


 えっぐ、アダマント様、悪魔だな!

 一介の宝石商ごときが、金でどうにかなる責任とかじゃない。

 マクラウドさん、アンタ、自分の娘が可愛くないのか。新規のダンジョンについてどこまで情報持ってる?

 多分サンドラにおねだりされたんだろうとは思う。

 一人娘の言うことだし、サンドラだって「あたしが魔女になれば、ダンジョンの利益はうちのものでしょ」ぐらいは唆したりしたのかもしれない。

 だけどプライドと利益が命と同等なの?

 って思っていたら、サンドラがその契約書をひったくってサインした!!

 サンドラ、あんた、街での忠告した時はびびって逃げたのに、なんでそんな強気なの!?

 わからない……あたし、アンタのそういうところが、わからない。


「ただ名前がエメってだけで、エメラルド様の後継とか、聞いてあきれるのよっ!」


 掴みかかるように、あたしに近づくサンドラを、アンディさんが装備した鬼爪を、サンドラの鼻先、数ミリの距離に突きだす。

 サンドラは「ひっ」と声を上げる。


「エメラルド様、アダマント様、ルビィ様、始末しても?」


「ダメ、アダマント様が検証したいそうだから」


 あたしがそう言うと、アンディさんは鬼爪を治める。

 可愛い一人娘を目の前で脅されたマクラウドさんは怒り心頭って感じだ。

 けど、どんなに怒っていたって、あたしは怖くもなんともない。

 これから入るダンジョンの方が何倍も怖い。


「アダマント様、時間ですので、あたしは行きます」

「待て!」


 マクラウドさんがあたしに向かってつかみかかろうとしたけれど、あたしがひょいっと肩をずらすだけで、足をもつれさせて、つんのめった。


「サンドラ、あんたが魔女の後継で、あたしが偽物なら、アンタは無事よねきっと、ダンジョンに入っても」

「当たり前よ!」


 凄い自信ね。


「じゃあどうぞ。入るといいわ。魔女のダンジョンに。貴女が魔女の後継なら。怖いなら、一緒に入ってあげてもいいわよ」

「ふざけないで! これ以上、アンタにいい顔なんてさせるもんですか! アンタが入りなさいよ! そしたらすぐにあたしが入って、ゾンビになったアンタを殺してやるわ!」


 目を吊り上げて鬼気迫る顔でそう叫ぶサンドラを一瞥する。

 ああ、そういうこと?

 どこまで情報を掴んでいるのかわからないけれど、あたしを先にダンジョンに入れて、その後自分が入ろうってことか。

 そういう検証はまだされなかったな。

 アダマント様はできれば一緒にとか言ってたけれど、多分、一緒に入ったら、50年前のラピスラズリ・ダンジョンの再現にしかならないでしょうし。

 あたしも知りたい。

 あたしがダンジョンに入ってる状態で、他の侵入者がダンジョンに入った場合、どうなるのか。

 今後、そういう状況もでてくるでしょうし。


「そう。じゃあ、あたし、4階層から攻略の続きだから」


 あたしはアダマント様とルビィ様を見ると、お二人は頷く。

 アレクがダンジョンカードを手にしている。

 映像を残してるのか。


「行きましょう」


 アンディさんに声をかけると、アンディさんは「はい」と素直に返事をした。

 あたしの背後でアンディさんがなんでダンジョンに入るんだとか、娘も協力者を伴っても大丈夫だろうとか、アダマント様に大声で交渉してるマクラウドさんの声が聞えてくる。

 しかし、それもダンジョンに入り込むとその外界の音は遮断された。





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