30話 「街で何かあったかわからないけれど、エメは甘さが無くなったね」
ダンジョン攻略の為に、ひたすら訓練に明け暮れて、再び、ダンジョンに潜る。
事前にアダマント様達から、情報の共有をしてもらう。
このあたしが戻ってる間も、やっぱり、新規エメラルド・ダンジョンには攻略者が入っているらしい。
だいたい前回の倍ぐらいだ。
今回は長時間ダンジョン攻略になるのは織り込み済み。
あたしも次代のエメラルドになる腹は決まった。
スライムやホーンラビットぐらいで、ぎゃあぎゃあ言っていたあたしじゃない。
元は人間だろうが、ゾンビはゾンビだ。
攻略を邪魔する者は殺す。
あたしはスタンピードを止める。
「前回の検証を踏まえて、エメラルドが先制攻撃をしていくことで、階層モンスターはゾンビの出現率があがるから、アンディ、初手は控えろ」
あたしとアンディさんは頷く。
「今後、ゾンビ以外のモンスターが出現する可能性もゼロではない。モンスター捕食で別のアンデッドモンスターに変化しているのもそろそろ出てくるだろう。だが。訓練どおりに、落ち着いて攻略していけばいい」
「訓練時も感じましたが、驚くほど、成長が早いですよ。先代エメラルドの目は確かでしたね」
セドリックさんの言葉に、アレクは握り拳を作ってうんうんと頷いている。
ルビィ様もニコニコしていたけれど、笑顔が消えて、警戒するような表情になって、街道の方へ視線を向けている。
「どうした? ルビィ」
アダマント様の言葉に、ルビィ様が答える。
「誰か来る」
ルビィ様が言う通り、街道の方から団体の影が見えてきた。
先頭の馬車には見覚えがある。
サンドラの実家のマクラウド商会の馬車だ。
アダマント様の私兵が、馬車を手前で停める。
サンドラの父親であるマクラウドと、サンドラが馬車から出てきた。
サンドラは本当に、セントラル・エメラルドを手にしたいのか。
「オルセンから聞いていたが、どこのエリアにも、いるにはいるんだ。こういうのもな」
アダマント様が呟く。
街でのひと悶着は、オルセンさんから、アダマント様の耳にも入っているようだ。
マクラウドとその娘サンドラがくるのなら、相手が何を言いたいのかもう予想ついてるだろう。
あたしだって、勘はいいから、だいたい何を言ってくるかわかる。
多分、あたしは魔女の後継に相応しくない、自分が入るべきだとかなんとか。
サンドラの実家は宝石商だからね、新規エメラルド・ダンジョンに埋め尽くされているエメラルドの原石が狙いだろう。
アダマント様の口ぶりから、攻略者以外にも、ダンジョンの利益に恩恵を受けていた豪商が、攻略に嘴突っ込むのは過去にもあったのだろう。
「アダマント様、検証はどうしますか? アレを先にダンジョンに放り込みますか? それとも。あたしが入った後でダンジョンに入れますか?」
アレといったのはサンドラのことだ。
あたしの発言に、アダマント様は唸る。
「うーん……」
「エメ、ダンジョンに入れる気なの?」
ルビィ様が驚いたように、あたしに尋ねる。
ルビィ様の心象、悪くなっちゃうかもだけど、あたし、もう、ダンジョン攻略しか頭にないんで。
大事な友達が無事ならば、後はどんな奴がダンジョン入ってゾンビ化しようが知ったことではないし、殺すだけよ。それに……。
「言っても聞かない部類ですよ、あの親子は」
三馬鹿から情報を脅し取って、無理矢理ダンジョンに入ったあの男と大差ない、同類だ。
あたしがそう答えると、ルビィ様も納得したのか頷く。
それにアダマント様に尋ねたのにも理由がある。これまでみたいに、「実はこうでした~ごめんね、てへぺろ」とかやられるよりは、こっちから検証材料を提示した方が何倍もメンタルに負担がかからないからだ。
そんなあたしの内心を読み取ったみたいで、アダマント様は言う。
「エメ、あの娘とお付きの者が、魔女の後継と一緒に入ってどういう変化があるか見たいね。それはまだ映像で残ってないから」
「了解です」
一緒にか……。
「そうなると、また一階層からですか? 攻略の進みがただでさえ遅いのに」
「大丈夫だよ、エメなら」
「わかりました」
「まあ、相手が勇んで先に入り込むようなら、予定通り、前回の続きからで構わないよ」
即答したあたしに、アダマント様は思うところがあったのかアンディさんを見ると、アンディさんは頷く。
「街で何があったかわからないけれど、エメは甘さが無くなったね」
アダマント様の言葉にあたしは微笑む。
「別に、何もありませんよ」
そう、あたしがいなくても、セントラル・エメラルドに住む人達は変わらない。
あたしの大好きな人達が住む場所。
あたしの大好きなエメラルドが――お母さんが――守った場所。
エメラルドがもういないなら、あたしが守る。
マクラウドが、アダマント様に進み出る。
ご機嫌伺う挨拶とかも、白々しいし、この場がどういう場なのかこの親父はわかってるのかと、オルセンさんもブルヘルムさんも、眉間に皺が寄っている。
一体何のためにスタンピード対策で街に防壁たてたのかと。ブルヘルムさんがぶつぶつ呟いてた。
仰る通りです。
「エメラルドの魔女の後継はそこの娘と言われてますが、ウチの娘こそ、真のエメラルドの魔女の後継です。それを認めて頂きたく……」
サンドラ……実家の財力にものを言わせてそれっぽく攻略者の恰好してきたけれど、あんたそれであの鍵付きダンジョンに潜るの?
「マクラウドとか言ったね。キミは商人だ。魔女のダンジョンのなんたるかを、知らないだろう。魔女の後継を決めるのは私ではなく、先代の魔女と、新たなるダンジョンだ」
「ちゃんと証拠も、ここに魔女の契約書が!」
……偽造だな。あたしが呟くとルビィ様を初め、皆さんしら~とした雰囲気だ。
アダマント様が実に爽やかにマクラウドに笑顔を向ける。
短い付き合いだけど、この人のこの笑い方……ヤバイってわかるわ。
笑顔が本心を裏切ってます。
「ふうん。じゃあ、そこの娘にもダンジョンに入ってもらおうか」




