29話 「イーサン、約束、守って絶対に」
「サンドラのは嫉妬よ。エメは人気あったし」
あった!? 人気なんてあったの?
片想い女子からは絶大な人気なのはわかるけれど。
占いとかで。
それもさー結構大変なんだよ、望み薄い結果を湾曲に伝えるの。
恋愛脳の女子には効く語彙を選択するけれどさ。
サンドラはあんまりいい未来の運を持ってなかったのよ。
サンドラを占った時は、あたしも占い始めたばっかりだからストレートに言っちゃったんだよね。
「先々は結構暗いよ」って。
あたしもあたし自身のことは占えないから、悪い結果とか、気になるじゃん。
今だったらもっと語彙力駆使して、なんかいい感じの結果を伝えられたんだろうけど。
可哀そうだから、こっそり何回か占ってみたけれど、サンドラの未来を示すカードは、いいものじゃなかった。
「エメラルド様に可愛がられてたし」
そこは、否定はしない……。分け隔てがないエメラルドだったけれど、あたしは可愛がられてた。娘のように。
「一人でお店を切り盛りする才覚もあるし」
それはあたしの付与魔法だのみでしかないから。
その付与魔法もエメラルド直伝だ。
「エメラルドの後継は、セントラル・エメラルドの次期、統治者だからね。サンドラも焦るでしょ。実家が豪商で縁談も引きも切らずなのに、何をえり好みしてんのかって思ってたけれど、セントラル・エメラルドの統治を狙う気概もあったってことよね」
……そうか、野望が果てしないのか。サンドラ。
マジで代わってくんないかな。
「けど、魔女の後継はダンジョン攻略してスタンピード阻止をしないと統治者として領主が認めないから、悔しいんでしょ。自分の手は汚さずのお嬢様だからさ」
まあねえ。
ゾンビとはいえ、元は人間をぼっこぼこにしてるあたしは、多分地獄に落ちるだろうなって思ってる。
あのお嬢様にそれができるかな……できそうだけどな。「無礼者!」とか言って切り捨てるのに罪悪感の欠片もなさそうだ。
そんなことをつらつらと考えながら、最低限に必要なものを購入して、シエラを送り届けると、丁度、シエラの旦那が帰ってきたところだった。
「イーサン!」
「シエラ、ただいま! あ、エメさんだ! 久しぶり、どうしたのそんな道端……で」
シエラの旦那イーサンはずっとダンジョンに潜っていたんだね。
無事に帰ってきてくれてよかった。
お願いだから、しばらくはシエラの傍にいてあげて欲しいな。
そんなことを思っていると、あたしとあたしの周りにいるアレクやオルセンさん、アンディさん……そしてアダマント様の紋章の馬車を見て言葉を切る。
「エメさん……まさか……」
ダンジョンから帰宅して、セントラル・エメラルドの情勢は聞いているだろう。
できれば、一家そろって、ここから離れてほしい。
それはあたしの希望なんだけど、ここでずっと暮らしていた人達だから、今までの生活を捨てるのは難しいよね。
最悪、アダマント様の手腕に任せるしかできないか……。
シエラはいったん店に入っていく。
その後ろ姿を見ながら、あたしはシエラの旦那に語り掛ける。
「イーサン。しばらくはシエラの傍にいてやってね。約束して、上手い話しには気をつけて、新規ダンジョンに潜る話には特に。あたしが知る限り、このエリアの攻略者30人以上はゾンビになってるから、もしこの約束を破ったら、アンタの今の幸せも命もあたしが奪うことになる」
イーサンは、三馬鹿と違ってしっかりしてるから、大丈夫だとは思うけれど、念の為。
「魔女の後継に脅されたと、あたしのせいにしていいからね」
「エメさん……わかった。約束するよ」
今後も潜るヤツはいるだろう。
見張りの人が一気に入り込まないように、阻止してるはず。
「エメ、これ、帰りに食べて」
シエラが店にからすぐに戻ってきて、紙袋をあたしに渡す。
なんかロールパンにいろいろ挟んでいるサンドイッチ。親父さんが作ってくれたのかな?
シエラのこういうところ、可愛いよね。
「うちの店で出してるパンは、アンタの隣のパン屋さんから卸してるの」
「うん」
「あたし、何があっても、アンタが大事だし、大好きだからね、絶対戻ってきて」
嬉しい言葉。
「イーサン、約束、守って絶対に」
姉妹のように育ったシエラから、憎まれるのは勘弁だ。
例え、あたしは相手が誰だろうと、きっとダンジョンに出てくるゾンビは殺すだろう。
あたしがそう言うと、イーサンはシエラとあたしを交互に見る。
「二人とも、仲良くね。あたし、もう行くから」
馬車に乗って、二人が見えなくなるまで、あたしは手を振っていた。
見えなくなると、わんわん泣いてしまった。
こんな姿を見たら、シエラは「エメはやっぱり泣き虫ね」なんて言うだろうか。
隣に座っていたアンディさんがあたしの頭をよしよしと撫でる。
ごめんね、こんな泣き虫な魔女の後継で。
「大丈夫。僕がエメラルド様をお守りします」
将来有望だな、アンディさん!




