21話 「でも初回12体は多すぎないですか?」
「私も、魔女のダンジョンについては詳しくは聞いてないのですが、アクアマリン・ダンジョンの攻略は、エメラルド様の予想で、当たりだと思いますよ。それに気が付いた魔女は、エメラルド様が初めてかもしれません」
炎系魔法につていの講義と実践を重ねて、休憩していた時に、セドリックさんが口を開く。
あたしみたいなド素人が、ダンジョンに入って無事に一階層から出てくること自体、なんかおかしいでしょ。
確かにスライムやホーンラビットなんかもいたけど、ゾンビは数多しいし、マジで死ぬかと思ったのに!
「でも初回12体は多すぎないですか?」
機嫌の悪さを隠すことなく、セドリックさんにそう尋ねる。
セドリックさんはペリドット・ダンジョンの攻略者代表だそうだ。
魔法の講義と実技をこなす前に、軽く自己紹介された。
オルセンさんとはまた違った美形ですよ。
モテそう……モテるんだろうな。
オルセンさんの時にも思ったけれど、こういう状況じゃなければ、どんなにウキウキだったか……。
基本的に、ダンジョンの最下層攻略者ってカッコイイのよね。
「アダマント様もそこは焦ったのでしょう。本当に、初回は地元の攻略者にしてやられたのでは? 人数も調整して、魔女に挑ませないと、魔女の無事の帰還が前提ですので」
だからアダマント様も、あの12体のゾンビ出現にあたしに「すまなかった」なんて頭を下げたのね。
休憩もそこそこに、あたしは立ち上がって、憤りを糧に魔法の練習を再開する。
怒ってると、わりと、火炎魔法の行使ができるのかもしれない。
アレクも、初めての火魔法の行使は、そういう怒気を含んだ感情が強まった時だと言っていた。
アクアマリン・ダンジョンの検証を最初っから誰かにレクチャーしてもらいたいな。
ていうかアダマント様から訊きたい。ルビィ様でもいい。
ここまでわかったら、情報全部こっちに寄こしなさいよって思うわ。
そう思うと、特大の炎が貸与されてるメイスの先端から渦巻いて顕現した。
「わ、エメさん、良い感じです!」
そんな褒め上手なアレクさんにおだてられて、調子に乗って、ガンガン魔法を使って、魔力枯渇寸前までいった。
セドリックさんが慌てて、止めなかったら、次の日は起き上がれなかったかもしれない。
翌日ブルヘルムさんから、ダンジョン講義を受けることになったんだけど、開口一番そう言ってきた。
「質問があるなら受け付ける。知っている限りで答えよう」
不信感いっぱいでダンジョンに潜られても……とか思ったのかな? アダマント様とは連絡はとれてるみたいだから、アダマント様からの指示なのかもだけど。
この時間があるなら、いろいろ訓練とかした方がいいんじゃない? でも、何も知らずに二階層で30体近くのゾンビに殺されるのもヤダな。
これは逆にいい機会だから魔女のダンジョンについていろいろ聞いておいてもいいのかも。
「魔女のダンジョン――鍵付きダンジョンが、魔女以外が入ったらどうなるかは、昨日でわかりました。 魔女と一緒に、一階層から攻略する人物とかもああなるんですか?」
学校の生徒みたいに手をあげて質問をすると、ブルヘルムさんは頷く。
「同行者を伴って成功した例はある」
え、成功したの? でも失敗した例もあるってことか。
ダンジョンによるの?
「それって、やっぱりパーティーで攻略したんですか?」
「パーティーで潜行すると、大半がゾンビ化したという例がある。パーティーに加わったうち、一人だけがアンデット化を免れた。魔女と生き残りがダンジョンを攻略したんだ。ゾンビ化を免れる条件があるのだろうが、その条件はまだ不明だ。今後、魔女のダンジョンを攻略するうえで検証していくことになると思う」
やっぱり謎なところはあるのね。
「今回もいろいろ検証していくが、そこは協力をお願いしたい」
「はい」
ヤダなんて言えないもんね。
うーん……ゾンビ化しない条件ってなんだろうな。
「でも同伴者をともなって成功したダンジョンって……」
「現在のサファイア・ダンジョンだ」
魔女が現在最下層に向かって攻略中のダンジョン。
確かサファイア・ダンジョンって、5年前に魔女が代替わりしたんだよね。
同行者と共に、中層までたどり着いてスタンピードを阻止したという。
アクアマリンと同様に、魔女の後継としてちゃんと教育もダンジョン攻略の実践もうけてきたんだろう。
おまけに同行者付きなんて羨ましい。
当然、アダマント様の支援もあったんだろう。組んだパーティーはセドリックさんやオルセンさんみたいなベテランなんだ。現在の同行者もそうなんだ。そうに違いない。
それに比べてあたしときたら!
いや、先日のダンジョンに入る奴等を止めなかったどころか、薦めたのはあたしだったけど、もっと先に言ってよ。
「今回30人近くダンジョンでゾンビ化したけれど、あれって、全員、次の階層にいるんですか?」
「そこまで一気にゾンビ化した例はない」
……すみません。
「サファイア・ダンジョンの例だと24名、一気にゾンビ化したこともあるそうだが、魔女が挑戦する階層に出現したのは全員ではないらしい」
よかったあ! やっぱりゾンビ化して一階層で彷徨ってるのこともあるのね!?
「ダンジョンを攻略するって気概のある魂を持つ者は。ゾンビになっても攻略を進めていくようだ。モンスターと対峙しながら別のアンデッドに変化を遂げていく。サファイア・ダンジョンではヴァンパイアにまで変化を遂げた例もある」
全然よくなかった……。
幼馴染三人を三馬鹿呼ばわりで叱ったけど、バカはあたしじゃんよ。
とにもかくにも、訓練と講義を経て、あたしはダンジョンに再び挑む。二階層だ。
アイテムバッグの中は、前回と同じ。
アレクが最後にいそいそと、ポーションとランチボックスを入れてくれた。
そして外に出ると、ブルヘルムさんの傍に、アダマント様とルビィ様が立っていた。見慣れない子もいる。
アレクと同じぐらいの子だ。魔女の後継なのか? 参考までに、見学? 他所でも新規ダンジョンが出現する可能性もでてきたの?
エメラルドの家から出てくるあたしを見て、アダマント様は朝の光と同様の爽やかな笑顔を見せる。
「おはよう、エメラルド。調子はどう?」
「……おはようございます」
「怒ってる?」
あざとい顔をして小首をかしげてあたしの顔をのぞき込むアダマント様。
いや、別に誰に対しても怒ってないですし、あたしの自分の馬鹿さ加減に、嫌気はさしますけれども。
とにかく二階層は、どれだけゾンビが出現するんだろ。全員か、半分か。
オルセンさんの指導の元、防具と武器の最終チェックは終わった。
「ブルヘルム氏からいろいろ聞いたということで、キミの今回からの同行者を連れてきたよ」
ルビィ様とアダマント様の間に立っていた、アレクと同い年ぐらいの少年に目線を落とす。
綺麗な顔……。
人形みたい。
サラサラの銀髪に、グリーンの瞳で……え、ちょっとまって、同行者はこの子なの!?




