18話 「対峙したとして勝てるの?」
「で? 誰が、あのクランの代表に情報を渡したの? ダンジョン潜って5年もすればいっぱしだと言われるのに、なんで、あの男に顎で使われてるのかしらね?」
両腕を組んで、三馬鹿トリオを見上げる。
彼等は沈黙を保ったままだけど、目線だけで「お前」「オレ違う」「いやお前」なんて会話が飛び交っている感じ。
「スミマセン……」
「ゴメンナサイ……」
「モウシワケゴザイマセン……」
あたしの隣にアレクとオルセンさん、そしてダンジョンの方を背にしてる見張りの人二名。
三人でこの五人に囲まれている状態で、思いっきりアウェー感だ。
この三人が、あのクラン代表に情報を流した理由は察することはできる。
まずは金。
そして、契約クランの意向とか強制。
それに、攻略者として新規ダンジョンに興味がある。
理由はだいたいこの三つぐらいだろうって想像はつく。これらが彼等の中でいろいろな配分で、ない交ぜになってるんだろう。
この三人はあの男のクランには属してはいないけど、所属してるクランの上層部から何某かの指示があった可能性が高い。この三人は5年潜ってるけれど、だからってクラン内で頭角を現すほどの働きをしている話は耳にしない。
だいたいエメラルドの家に弔問としてきた時もそんな感じだったし。
「おい、護符屋! 戻ってきたら酒でも奢ってやるぜ! あとそいつらは好きにしな!」
さっきの男の上機嫌な大声がこっちまで聞こえてくる。
クソだわね、ほんと。
男が率いる攻略者の最後の一人がダンジョンに入っていくのを見届けて、三馬鹿に絶対に中に入るなと釘を刺して、あたしはダンジョンの入り口にゆっくり向かう。
入りはしないけれど、中を見ることができるだろうかと思ったのよ。
「暗くて見えないわね」
アレクがさっと自分のダンジョンカードを取り出して、ダンジョンの入り口に向かってかざす。
「わたしのカードは暗視機能もついてますから」
すごいな。
「望遠もできる?」
「この距離は難しいですけれど……」
アレクがそう言った瞬間、ダンジョンから男達の断末魔が聞えた。
20人前後がダンジョンに入って行ったから、ダンジョンの入り口から飛び出すような咆哮みたいな感じで声の反響がすごい。
ぞっとした。
実際人間の声だけじゃない。本物のモンスターの咆哮も聞こえる。あと、不気味な音も。咀嚼の音なのか、なんなのか。モンスターがどういう姿をしているか、どうやって彼らに襲いかかってるのかはわからなかった。
「アレク、見える? 撮れてる?」
「ダメです。魔素が濃いし、阻害されてます」
アレクはかざしていたダンジョンカードを降ろす。
あたしとアレク、見張りの人と三馬鹿とオルセンさんはみんなダンジョンの入り口に目をこらしていた。
一人の男――。代表格じゃない。多分、潜った中で一番足の速い敏捷に特化した男が、こっちの方へ向かって走ってくる。その男もあたしたちの姿を視認して手を伸ばした。
「助けてくれ!!」
その男の背後から黒い毛に覆われた大きな前足が、空気を切り裂くように伸びてきて、男の頭上に覆いかぶさる。
足の形状から四足獣の形態のモンスターなんだろう。
地面に這いつくばった男を鋭い爪でひっかけるようにしてダンジョンの奥へと引きずり込んでいく。
「いやだ、やめろ! 離せ! ぐっ……」
言葉は最後まで発することができなかった。
這いつくばった男の身体に、再度、前足がふりおろされ爪が男の背を貫く。
身体の肉が潰され、骨が折れる音が一緒に聞こえて、あたしは呼吸を止めて見つめていた。
やがてダンジョンの入り口から悲鳴が聞こえなくなり、いつもの森の静けさが戻っても、あたしもアレクや他の人達も、そこに立ち止まって、ダンジョンに視線を向けていた。
「アレク、今の、なんのモンスターかわかる?」
あたしがアレクに尋ねると、アレクは指で顎を摘まむような感じで考え込んで、しばらくして答えた。
「前足だけだからわからないけれど、ケルベロスとかマンティコア……それ系かと」
あたしはオルセンさんをみるとオルセンさんも頷く。
とりあえず、それはいるのね、このダンジョンに。
「そ、そう……ちなみに、アンタ達、そいつらと対峙したことあんの?」
あたしは三馬鹿トリオに尋ねると、顔色を失くした三馬鹿トリオは一斉に首を小刻みに横に振る。
「対峙したとして勝てるの?」
「無理デス」
「ゴメンナサイ」
「死ニマス」
「今の人たちなら三倍ぐらいの人数で入って倒せたらラッキーって感じですね。オルセンさんのパーティーならば、1体ぐらいならいけるけど、でも、オルセンさんの所属するパーティーがこのダンジョンに入ったら何が出てくるかわからないし……、中のギミックが複雑化するでしょうね」
「ギミック?」
「んと、造りが複雑に変化して、罠もたくさんでる感じ?」
「……」
あたしが潜った時はかなり平坦な洞窟で一本道でしたけれど。
迷うと思ってたけれど迷わなくて、そこは拍子抜けというか、助かったなとは思ったんだよね。
これはダンジョンが排除してるってことか。
魔女だけを最短で最終層まで誘う造りに変化するってことなの?
あたしはオルセンさんを見ると、彼は首を横に振る。
「文献や資料なんかも残ってますが、俺クラスだとドラゴンがでてきてもおかしくないでしょう」
え?
そんなのがいるの?
あたし、一人でそれ倒すの?
無理無理無理無理ィ!!!