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16話 「エメラルドから名前もらっちゃったし」

 




 ルビィ様とアダマント様が不在の間、再び詰め込み式ダンジョン講習が始まった。

 講師は、いずれもこのウィザリア大国東側辺境伯爵領のダンジョンを攻略するトップクランの代表だ。


 現在、攻撃についての実習に入っている。

 講師は、オパール・ダンジョンの最深層を攻略してるクランの代表、オルセンさんだ。オパール・ダンジョンはこのセントラル・エメラルドよりも南にある。鍵付きじゃなくて、踏破者を純粋に待つダンジョンらしく、セントラル・エメラルドからセントラル・オパールへ拠点を移したクランやパーティーもいるくらいだ。

 そしてオルセンさん。

 これがこんな状況じゃなければどんなにウキウキだったか……。

 カッコイイし強そうだし、モテそう……モテるんだろうな。


「エメラルド様、なんでメイスを選んだんです?」

「モンスターとの接近戦とかは、無理だと思ったので、長柄で、先端ががっちりしてるから、素人のあたしでも打撃部分にインパクトがつくかと思って……」

「実際使ってみてどうでした?」

「本音を言うと疲れました。あと、敬語は不要です。あたしは先達に教えられる身ですから」


 オルセンさんは頷いた。


 打撃武器って単純でいいかなって思ったのよ。魔力の伝導率とかを考えて、スタッフ、ロッド、ワンド、メイスの中で殺傷能力が高そうなメイスを選択したけど、実際は剣の方がよかったんじゃないかと、ダンジョン内でモンスターを倒すたびにその思いは強くなった。

 長柄にこだわったのは、モンスターが怖くて近づきたくないって理由だったけど。

 でも、一度ダンジョンに入った今となっては、もうそういう気持ちは薄いというか、何を武器にしたって、あたし一人だから接近戦は不可避でしょ。

 実際に、距離をとりたいという点だけを考えれば、サブに持ってた銃の方がモンスターとの距離があって殺傷能力は高い。銃をメインにしておけばよかったとゾンビと対戦する度に後悔した。


「メイスの選択はいいと思います。中にいたゾンビには頭部打撃が効く。魔法の付与ができるなら火魔法が効果的です。ゾンビは炎に弱い。映像を見た限りじゃ、エメラルド様は序盤、力任せで打撃してるけれど、その際いろいろ付与を乗せるのは間違ってない」


 オルセンさんの説明にあたしは頷く。付与系魔法しか使えないから、できるだけやろうとしたのが意外にも正解だったのね。


「アンデットモンスターにも魔力があるから、メイスのインパクト時に、魔力吸収もできる。ただ、サブの銃には魔力吸収はできない。なので、装填する魔弾自体に、攻撃力や殺傷能力があがる付与をつけて装備した方がいいでしょう。できるだけ一撃で仕留められるように」

「魔弾に付与……?」


 そっか、魔弾にも付与はできるんだ……。

 あたしの言葉にオルセンさんは柔らかく微笑する。まるで、生徒を指導する先生のように。

 かつてエメラルドがあたしに付与魔法を教えてくれた時みたいだ。


「そういった武器の取り扱い方をレクチャーします。けれど、その前に、エメラルド様にはやってもらわないとならないことがあります」

「はい」

「とりあえず基礎体力から。このメニューこなして、とにかくストレッチや柔軟をして、ひたすら走ってほしい」

「わかりました」


 はは……とにかく基礎体力を作れと、そういうことですね。

 確かに、基礎体力は大事な気がする。これはダンジョンに潜ったから、特に実感する。まずそこが何もなっていないのがわかる。


「エメさーん、わたしも一緒にやりまーす」


 たたっと、アレクがあたしの傍に走ってくる。


「なんだよ。アレク……お邪魔虫だな」


 え? 何それ、別の意味でドキドキしちゃいますよ、オルセンさん。


「エメさんに『悪いむしがつかないように』って言われてます! エメさん、『悪いむし』とはなんですか?」

「お邪魔虫のことだよ!」

「むーちがいます~」

「アレク、ちょっと背中押して」

「はあい」


 えいえいとアレクがあたしの背を押してくれた。小さい手が背中にあたると、ちょっとくすぐったい。

 オルセンさんがいうには、柔軟は、関節の可動域に関わってくるとかで、大事らしい。

 これでも毎晩ストレッチとかはしてたのよ。

 黙々と柔軟をして、ストレッチをして、走る。ひたすら走る。

 ひー。あたし長距離苦手なのに~。

 スピードとかはともかく、距離を走るように言われた。

 確かに、持久力必要だなって一階層でも思った。

 これから階層を進んでいかないといけない。

 こんなことをしても、すぐ死ぬすぐ死ぬとか周囲の声がそう聞えそうで、それもなんだか癪に障るし、進められるだけ進まないとなんか悔しい。

 だからこのインターバルで、なるだけ力を付けたい。

 持久力でもいいし、魔力でも、攻撃力でもなんでもいい。


「エメさん、エメさんは、すごく素直に取り組むんですね、ダンジョン攻略に。逃げたりもっとごねたり普通はしますよね?」


 側にくっついて走るアレクが尋ねてきた。

 確かに。

 アレクの質問は、彼女が小さな子供特有の好奇心からくるものなのかなって思ったけれど、多分違う。

 今こうして、スタンピード対策に集まったクランの代表者達も同様だ。


 誰だって思うだろう。あたしみたいなのが、中層まで到達できそうもないのに、ダンジョン攻略から逃げ出さないのか。


 どうせ死ぬのに、やりなれてないトレーニングやら、座学やら、苦しいばっかりで、ほんと、バカだなって自分でも思う。

 投げやりで、自暴自棄で自堕落な状態になったっておかしくないし、あたし自身その方が何度も楽だろうって思ったけれど。

 それをしなかったのは……。


 エメラルドに選ばれたからだ。


 孤児だし、婚期のがしかけだし、片想いしちゃ告白する前に振られた感じになるばかりだったし、多分一生誰からも選ばれない人生を送るんだろうなって思ってた。

 そんなあたしなのに。


 エメラルドは選んでくれた。


「エメラルドから名前もらっちゃったし」


 あたしがそう言うと、アレクはにっこりと笑う。


「ですよね~魔女からの名前の継承は憧れちゃいます!」


 この子は魔女に憧れているのか。

 ルビィ様の傍にいればそれは自然なことなのか。


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