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14話 「一階層攻略おめでとうございます」

 




 疲れた……腕パンパン。絶対、筋肉痛だ。

 どういう仕組みなのかわからないけれど、一階層のラスボス倒して、なんかダンジョンのアナウンスが流れてる時に、光る扉がもう一個でてきて、そこに手をかけて入ったら、地上に戻っていた。

 ダンジョンの入り口にはアダマント様の私兵なのか……制服着てない人が二人いて、あたしを見るなり声をかける。


「エメラルド・ベリルか!?」

「一階層終えたのか!?」


 そんな声をかけられても、答えられないから。


「エメさーん」


 聞き覚えのある声が聞こえる。


「あ、アレクだ」

「アレクも来てたのか」


 この人達もアレクを知ってるのか……。


「お疲れ様でした、エメさん! 一階層攻略おめでとうございます」

「……うん」


 風呂入って寝たい。

 せっかくアレクがお出迎えしてくれたけれど、言葉なんか出てこない。

 身体が重い。足に鉛がついたみたいだ。なんとかエメラルドの森の家までたどり着く。

 その家の近くになんか建ってるけど……これ何?


「アダマント様が建てました。エメラルドの魔女様のおうち、小さいから、スタンピード対策の為の方々が揃って手狭だったようで」


 あたしの視線の意図するところを察してアレクが説明する。

 でも、あたしは、エメラルドの家に足を向けた。

 扉を開けると、エメラルドの匂いが残っていて、ほっとする。

 アレクは慌てて、あたしの後を追う。


「新しい建物の方に、食事やお風呂もあります」


 アレクはそう言うけれど、多分、そこ、知らない人もいるんだよね?

 別に人見知りってわけではないけれど、この状態で、そこは行きたくない。

 こんなに疲れて帰ってきて、他の人がいるところでなんかお風呂に入れないし、食事も緊張してまともに食べられそうにない。


 なんとかお風呂の準備をして、湯舟に身体を沈める。

 お湯……あったかい……髪も身体もまんべんなく洗う。もう一度湯舟につかると、意識が飛びそうになった。

 実際とんでいた。アレクが慌ててひっぱりだそうとしなかったら、そのまま沈んでいたと思う。風呂からベッドに身を投げ出してダンジョンカードの通話機能を開いて、シエラの酒場の大将に連絡を入れる。

 大将はすぐに通話に出てくれて、あたしだとわかったみたいだ。「シエラに代わる」とぼそりと言う。ああ、いつもと変わらずいい声ですね。

 すぐにシエラがでてくれた。

 通話機能でわかるのは、どうやら大将は店をあけているみたいだということ。酔った客の声が時々漏れ聞こえた。

 シエラは泣きそうな声で応対してくれた。泣きそうなほど心配してくれてるのが、嬉しかった。一人じゃないという気がして。あたしに家族はいないけれど、シエラは姉妹みたいなものだ。

 店を頼むと要件だけ告げて、あたしはベッドの上で気を失うように眠りこけた。

 小さいけれど、緻密な意匠をほどこしたエメラルドの遺骨が入ったお守り袋を握り締めたまま。

 だからだろうか……ゾンビになった人間を、あたしは殺したはずなのに。なんの夢も見なかった。

 ただ、真っ暗なダンジョンの闇の中に落ちるみたいに眠った。




 何時間寝たんだろう……全身筋肉痛で、起き上がるのがつらかった。


「エメさん、起きました?」

「……うん」

「起き上がれます?」


 痛い、身体痛いよ!!

 そりゃそうだ、普段使ってない筋肉使いまくったよ。付与魔法かけて。

 あまりの痛さに涙が出たわ。

 アレクがいそいそとワゴンを引いて、お茶を淹れてくれる。

 お礼を言って、紅茶を一口飲むと、ふわっとリンゴの香りがした。

 砂糖を入れて、ティースプーンでかきまわす。


 おいしい……。あたし、生きてもどってきた。

 ほっとする。このお茶、なんかポーションが入ってるのかも。

 またダンジョンに潜らないとダメなんだけど。


「エメさん、ダンジョンカードをお預かりしても大丈夫ですか?」

「どっちの?」

「え?」

「あたしの? それとも、ダンジョンで拾ったやつ?」

「両方です」


 アレクにダンジョンカードを渡す。


「それを飲み終わったら、朝食にしますね」

「うん」


 なんか嬉しい……小さい子が、あれこれ世話を焼いくれているのもそうなんだけど、その様子が微笑ましくて、おまけに、あたし孤児院を出てずっと一人だったから、余計に。

 エメラルドにも時々していたな……あたしも。


「アレクは、深紅の魔女の後継になるのかな」


 食事を終え、自分で食器を下げて洗いながらそう呟くと、アレクは答えてくれた。


「前のエメラルド様がわたしはルビィの後継にはならないって言ってました。でも、魔女にはなるみたいです」


 エメラルドはこの子を占ったのか……。

 ルビィ様の後継にはならないで魔女になる……?

 新たに出現するダンジョンの魔女になるってこと?


「エメさん、実は、アダマント様がお呼びなのですが……」

「うん、隣の新しくできた建物に顔を出せばいいのね?」

「はい」


 憂鬱だな。

 ルビィ様もアダマント様も、このダンジョン攻略に協力してくれるけれど、それこそ金をかけての支援だけど、だからこそ憂鬱。

 この二人の投資が回収できる働きを、あたしが出来るとは思えないからだ。






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