12話 「理不尽、ふざけんなっていうーのっ!」
「ほんとないわー」
ダンジョンカードを拾い集める。
「なんか疲れた……。ポーション飲も」
アイテムボックスからポーションを取り出すして、一気飲みすると、身体がすごくよくなった気がする。
この即効性とかやばくない?
それにしても、戦闘中にピンポンピンポン、ダンジョンカードが鳴りっぱなしで煩かった……。
自分のダンジョンカードを見ると、ギョっとした。
レベル上がってる……これかあ……。
付与魔法を使いっぱなし、スキル使いっぱなしだったので魔力が上がってる。
新たなスキルもあるけど「魔女の威圧」ってなんなの……。
「はは、おっかしーでしょ、なによこれ」
一人呟くと、いやーな感じがした……。
これはまたモンスターだ。
ダンジョンカードに「危機察知」とかあったけど、それだ。
転がったメイスを掴んで、銃をホルスターにしまう。
フードを目深にかぶって深呼吸をする。
またゾンビだ……。
力では敵わない。あたし、ゾンビよりも体力ないし。
メイスじゃなくて、剣にすればよかったかなー。
でも、このメイス、スタッフやロッドとそう変わらなのに、魔力の伝導率がいい。
きっとこのメイスも高額商品よね。
この迷宮都市で一番偉くて強い迷宮の王の支援が、ありがたい。
ありがたいけど……。
「だったら、お前がさっさと攻略すりゃいいじゃないのよ!!」
腹立つわあ!
あの人が魔女に嫌われるのわかる!!
なるだけ音をたてずに、でもできるだけ早く走りこんで、跳躍の前に浮遊付与の魔法。
攻撃力付与で思いっきりメイスを振り下ろした。
敏捷の魔法も重ね掛けしてタコ殴りだ。
死肉が溶けていく。
「その生前の姿でいるってところが、腹立つわ! アンタも、アンタ達も!!」
指さして、そう怒鳴る。
だいたいね、ダンジョンがぼこぼこ発生して魔素が多い迷宮都市だから、エメラルドは骨も残らず火葬だったのよ!!
他の国のように、土に還る時に、その姿のままでいて欲しかったエメラルド。
せめて骨ぐらいは、土に還って欲しかったのに……。
「理不尽、ふざけんなっていうーのっ!」
あたしの憤りは、ゾンビに向けられた。
振り上げたメイスが炎を宿す。
ああ、付与魔法以外の魔法が……使える。
でも、炎は球体にならず、メイスの先端についているだけ。
それを思いっきり振り、ゾンビの頭を吹っ飛ばすと、ゾンビの身体は燃えて消えた。
あたしは残ったゾンビたちを睨む。
「勝手にゾンビになって、持ち主に襲い掛かってくるところがほんと、最低!」
怒りが恐怖を凌駕するっていうの、こういうことかな。
「だいたいさ、勝手に入って攻略したいなら、さっさと攻略してくれればよかったのよ。鍵付きだろーとなんだろーと、アンタ達、攻略者だったんでしょ?」
あたしが一歩踏み出すと、ゾンビたちは心なしか、後ずさってるように見えた。
何よ、モンスターが襲い掛かるはずの人間に対して、何を後ずさってるのよ。
ゾンビに成り果てる前は、いっぱしの攻略者だったんでしょう!
「あたしは一人で中層まで行かなきゃなんないっつーのに、アンタ達は徒党を成して勝手にダンジョンに入って、勝手にゾンビになって、あたしを阻むとか、本当にもう……」
ホルスターから銃を取り出して、連射する。
「死ね」
無駄弾なしで、全部ゾンビに命中する。
銃弾に込めた攻撃力倍の付与のせいか、ゾンビが魔素に溶けるのがさっきよりも早い。
そして、やっぱり戦闘中のダンジョンカード、煩い。
これ、消音できないのかしら?
ゾンビ12体はさすがに疲れる……。
疲れるのは多分魔力を使い過ぎているからだ。鑑定スキルも常時展開してるし、新たな危機察知が勝手に反応するし。
「疲れた」
お風呂入りたい。
髪も身体も洗いたい。
ベッドで眠りたい。
ダンジョンカードを拾い集めて、てくてく歩いていくと、扉の前に突き当たる。
「ボス部屋……」
ボス部屋に入ると、ゴブリンが一体立っていた。
コイツを倒せば地上に戻れる……。倒そう。
メイスを振りかざしてぼこぼこに殴りつけるとゴブリンは魔素化して消えた。
なんていうか、ゾンビの方が強かった。あいつら団体だし……。
『エメラルド・ダンジョン一階層クリアおめでとうございます。二階層攻略まで120時間のインターバルが与えられます。
エメラルド・ベリル様の一階層リザルトのご案内です。
スライム22体
アルミラージ13体
ゾンビ12体
ゴブリン1体
以上を撃破。
ステータス、レベルの上昇は―――――』
何……このダンジョン……煩い。
どうでもいいから、あたし、地上に戻りたいんですけれど!?
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