背中がいたっ
どーんっ。
「わあっ?」
がったーん、がたがたがたっ。
「うおっ?」
ごろごろごろ、しゅたっ。
「…ふう、あぶなかった…敵襲でしょうか。」
額ににじんだ汗を拭って、きょろきょろとまわりを見てみましたが、転がった柳川くんしか見当たりません。
「…大丈夫みたいですよ、敵はもういないみたいです。」
学校の廊下を歩いてるだけで襲われるとは、なんとも物騒な世の中ですね。
うっかりうかうかしていられません。
「なんでお前、受け身とかとってんだよ!俺転がったのに!」
「あ、わたし柔道剣道合気道初段なんです。」
「何者だよ!」
「田鍋こえり、女子高生ですが。」
「くそっ。」
くそっ。て…
なんてベタなひとなんでしょうか、柳川くん!
流石はわたしの好敵手です。
ベッタベタすぎです。
「…ふっ、まあいい。聞いて驚けよ!」
もうちょびっとだけ、驚いちゃってますが。
びしいっとわたしに人差し指を向けて、どこぞの悪代官さながらに、柳川くんは高らかにいいました。
「襲ったのは俺だ!」
「ええっ。」
ああっまんまと驚いてしまいました。
なんだかくやしいです。
でも、どうしてそんなことをしたのでしょうか。
「…わからないみたいだな。」
「はい、すみません…。」
それもそうなんですが…
柳川くんは、自分で襲っておいて一緒に転がったんでしょうか。
お約束なひとなんですね。
なんだか素敵です。
「お前、誉とキスしたんだってな!」
「ええっ何故それをっ。」
「ふっ、俺が知らんと思うてか!」
ああ、ちょっと時代劇っぽいです。
どうしましょう。
胸がときめいてしまいます。
あ、わたし水戸黄門すきなんです。
どうでもいいですか、そうですか。
ちなみに、桃太郎侍も全部録画してあります。
枝豆をつまみながら見ると、なかなかに乙なものですよ。
「聞いてんのか!」
ああ、すみません。
桃太郎侍に気をとられてしまいました。
「お前…誉のことどう思ってるんだ!?」
「あ、それオレも聞きたいなー。」
…ん?
おそるおそる振りかえるわたしと柳川くん。
「「…わあああっ?」」
ハモりました。
ええはい、ハモっちゃいました。
「…どーしてみーこの背中、ほこりだらけなの?柳川?」
黒い、それはもう真っ黒マックスなオーラをまとった誉くんが、わたしたちの後ろ、教室のドアのところで、やっぱり真っ黒な笑顔を浮かべて立っておりました。
今更ですが、いわれたからか、背中がいたいです。