2-1 残火/「争いは同レベルの者とでしか生まれない」
前回までのトライ・アンド・ゴー!
クレセンド王国は一夜にして、異形“キマイケーラ”の手によって陥落してしまった。
しかし、人々は、1人の王女は希望を捨てていなかった。
彼女の名はヴィエラ・クレセンド。
最強の剣士【剣天】の娘である彼女は、神器“剣盤ハーモニカ”を手にし、キマイケーラを撃退!
自称穏健派キマイケーラ、“ウェベンヌ”を仲間に加え、向かうは隣国“トーン王国”へ──
第2章も波乱怒涛バトルあり!
トーンに近づく巨大な影、“絶対零度の城壁”──
神器をその手に、トライ・アンド・ゴー!
クレセンド王国に続く道路。
トーンとクレセンドからの貿易や移動はこの塗装された道路
平地の上で見晴らしは良く、周りに木々が数本ある程度。
そんな平原の上で馬車が何かに襲撃されかかっているのをヴィエラたちは目撃する。
「OOOOOooooooo……」
「ひっ、ひゃぁあああ!? なんだこいつら助けてくれぇ!」
細い人型がのそりのそりと3体、生命のある方向へ近づく。
その全身は薄黒い灰色で彩られ、歩くたびに灰を撒き散らす。
顔面はカボチャランタンのように丸く抉り取られ、その中で火が絶え間なく燃え盛っている。
「トライアンゴウ!解──錠ッ!」
「OOooooo!!!!??」
ヴィエラはそんな奇妙な生命体に臆することなく斬りかかる。
人型は大きくのけぞり、体勢を崩す。
残りの2体はヴィエラの叫び声に気付き、視点を馬車からヴィエラへと変える。
「残り火か……」
「サクリ……ファイア……?」
「キマイケーラに殺された人間の死骸は数日したらああなる、こいつも鎮魂対象だな」
「ま、大した強さでもない。見かけたら潰しとけ」
(……この人も……何の罪も無いのに……)
「……はい」
ウェベンヌの指示のもと、ヴィエラは手っ取り早く鎮魂させるために“サクリスタル”を使用する。
『Blizzaaard!!』
「今、救います!」
サクリファイアの足下が瞬間的に凍結する。
動けなくなったサクリファイアに向かって、ヴィエラは“剣盤ハーモニカ”で刺突。
命中。
三体同時に体を貫かれ、サクリファイアの炎は消え失せる。
次第にサクリファイアの肉体は何の変哲もないただの遺灰へと変わっていった。
「あ、ありがとうございます! まさかとは思いますがあなたは……」
「クレセンド王国の王女サマ、ヴィンテージワイン様の前だぞ、頭下げろ」
「ヴィエラ・クレセンドです、そろそろ覚えてください」
ヴィエラはウェベンヌの横腹を小突く。
ウェベンヌの扱いに少々慣れてきたようだ。
「ごほん、お怪我はないでしょうか?」
「は、はい、おかげ様で……」
馬車引きは姿勢を正し、サクリファイアに怯えていた馬に餌を与え、ヴィエラに対し一礼する。
「申し遅れました、わたしは馬車引きのギーロ・ダニョルでございます」
「馬車か、こっからナントーカ王国までコイツ連れて飛んでいくのも流石に面倒だからな……」
「トーン王国ですね、それに関しては私も同感です」
「本当ですか!?あんなバケモノがいるとは思わなかったもので……これからあちらに行くのがすごく心配で……」
「利害一致、と言ったところだな」
「すみません、どうしてギーロさんはクレセンド王国の方向に?」
「わたしはオクタルヴの商品を納品に……」
(クレセンド王国に何が起きたかまだ行き渡ってない……!?)
「ど、どうなされましたか!?そんな暗い顔をなされて!?」
「……クレセンド王国は……陥落しました」
「な、なんですって……?」
「あそこは危険です、引き返してください」
「ヴィエラ様がそうおっしゃるなら……でも、詳しく説明していただけませんか!?」
「それはしっかりとさせていただきます」
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「……以上です」
ヴィエラが見てきた悲劇のあらすじを語った。
父や友の命も、国までも奪われたヴィエラは、誰かに今までの事を打ち解けないと限界だった。
途中の声色は涙混じりのかすれ声になっていることは嫌というほどわかった。
ヴィエラがまだ若く、悩む年頃の少女であることが残酷で、ギーロの心に深く突き刺さった。
「そんなことが……」
そんな空気も気にせずにウェベンヌが話を割る。
「オレは少なくともアイツらとは違う」
「こんな穏健派の、心優しい、忠誠心の高いキマイケーラなんて俺以外いないからなぁ!」
「それ自分から言います?」
ウェベンヌが「は?」と開き直り、はたまた自意識過剰に己を持ち上げる事のなんと多いことか。
ヴィエラは焼き鳥との会話に慣れたのか、それとも飽きたのか、日に日に彼の扱いが雑になっているようにも感じる。
「全く……焼き鳥の癖になんでそんな偉そうなんですか」
「おい今から表出ろよ……このオレに媚売らせて貰ってるありがたみを教えてやろうじゃねぇか……」
また口論が始まってしまった。
生まれも育ちも価値観も、さしては種族すら異なる筈の、平行線上の二人が何故こうも悪い意味で相性が良いのか……
答えは一つ、『争いは同レベルの者とでしか生まれない』からである。
「わかった、わかったよ焼き鳥さん。ほら、もうトーン王国見えてきましたよ。」
「しれっと焼き鳥言うのやめろ」
引き気味な声が二人を落ち着かせる。
この微妙な空気から切り替える為にヴィエラは口を動かす。
「すみません、暗い話ばかりしてしまって……」
「ヴィエラ様が今生きていることの何が暗いものですか、まだお若いのですから、お体大事になさってくださいよ!」
「ほら、到着しましたよぉ! お代は結構なんで! とにかくお元気で!」
ギーロはヴィエラの背中を叩き、これからの旅路に対して“自信を持つように”と言った。
「ありがとうございます……!」
笑顔でヴィエラを送ったギーロ。
だが、彼の顔は深く曇りを見せた。
「あのクレセンド王国……が陥落……かぁ……」
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崩落する前のクレセンド王国ですら、これほど広大な城壁は無かっただろう。
裕に20mは越える石壁が目の前にある。遠くからでも確かに壁の存在は確認できたが、近づいてみればその絶壁は見るものを威圧する程だ。
トーン王国。
全方位360度が縦長の石壁に包まれた“要塞国家”。
人類が文明を持ったその日より作られた三つの国家の内一つであり、王の血筋は現在8代目まで続く。
内陸国のクレセンド王国とは異なり、国外は海に面しており、この大陸での海産物の9割はトーン領海の物である。
また、“片刃剣”と呼ばれる武芸品が有名で、これを伝統工芸品として海外との貿易も盛んに行っており、多数の国と取引が成立されている。
クレセンド王国とは国際新興国との関係にあり、現在トーン王国では、ヴィエラの母である“ヴァイオレット・クレセンド”、弟の“ツェロ・クレセンド”が滞在していた。
そして、二人生き延びて逃げたヴィエラとウェベンヌはようやくトーン王国へ到着したのであった……
~ トーン王国 検問所 ~
昨夜から、多数の避難民がトーン王国に来訪して関所は24時間体制で大忙しである。
今までに無い不測の事態、避難民は一時的に関所内の地下倉庫へ箱詰めの様にされながら避難することを強いられていた。
クレセンドに何が起こったかの情報はまだトーン全体に行き渡ってはいない。
具体的な対策案も示さないまま国民の不安を煽るわけにはいかないからだ。
ヴィエラ達の到着はというと、多くの難民が眠りにつこうとする深夜。
ウェベンヌは顔面以外を薄く汚れた大きなローブに身を包み素性を隠す。
辛うじて人型ではあるので、肌さえ隠さなければ仮面を被った奇妙なヤツぐらいにしか思われないだろう。
「名前と通行手形を……ヴィ、ヴィエラ様……!?」
「ヴィエラ・クレセンドです。通行手形は……すみません、なんとかできませんか……?」
「流石にそれは私めでは……」
暇そうに頬杖をつくウェベンヌにトーン兵士は疑問を持った。
「恐縮ではございますが隣の者は……?」
「従者です。少しワケアリなのであまり追求していただけなければ……と……思います……」
「承知いたしました。ヴァイオレット様が来国されておりますので、保護者としてお呼びする形となります。しばらく隣の従者と詰所でお待ちいただければ……」
いくら他国とはいえ、王族が故に顔は通り、厚待遇を受ける。
「従者って設定通るんだな。」
「下手なこと言わないで下さいよ」
「チッ、信用されねェなぁ」
「じゃあ態度で示してくださいよ」
「何を」
「全部ですね……」
「は?」
ウェベンヌが薄汚れのローブを脱ぎ捨て、ヴィエラの胸ぐらを掴んでやろうかと思った矢先だった。
ドアが勢いよく開けられた。
「ヴィエラですか!?」
「お母様!」
その女性は“尊き者”の具現の様だった。
菫色のドレスと金糸の様な髪。
ヴィエラと瓜二つの外見情報ではあるが、身長は彼女よりも一回り大きく、装飾は彼女よりも絢爛豪華。
何よりも、見るもの全てが畏敬の念を抱いてしまうような存在感が、扉が開かれると同時に放たれているのだ。
特徴と言えばもう一つ。
白き目枷は何を意味しているのか。
一つ目線を向けられれば世の男は彼女に魅了されてしまうとでも言うのだろうか。
彼女の名はヴァイオレット・クレセンド。
クレセンド王国現女王であり、【剣天】の異名を持つ最強の剣士。
そしてヴィエラ・クレセンドの実の母親である。
「詳しいことは知りませんが、生きていて良かった……」
ヴィエラの無事に涙し、優しく抱擁する。
「して、そちらの者は?」
「……ヴィエラサマのチュージツなるジューシャだ」
「今その設定いいです」
「はァ!?」
ヴィエラの身勝手のあまり出鼻を挫かれ腹が立ったのだろうか。
ローブを脱ぎ捨て、異形“焼き鳥男”の姿を見せつけてしまうウェベンヌがそこには居た。
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