幕間 第二の鎮魂者/「お姉さん頑張っちゃうよ!」
その夜、クレセンド王国は陥落した。
運の悪かった人間は姿形ひとつひとつが異なる異形たちの捕虜へと、実験台へと、そして食糧へと立場を与えられていった。
運良く逃げ延びた人間は異形への恐怖を一生分抱えながら難民の立場を与えられた。
そしてお姉さんはその状況を変えなければいけない、そんな立場に立たされた。
第二の鎮魂者としての立場を。
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クレセンド王国城下町。
交戦状況は……蹂躙だ。
人が、兵士ですら誰一人としてキマイケーラには力が及んでいない。
下級キマイケーラであれば兵士複数人でかかれば対処できない事もない。
だが、まるで戦局は逆でキマイケーラが群れを成して人間を一人ずつ潰し、栄養にしている。
「指示通り“器”を残していただき感謝しております」
最上級のキマイケーラにしてこの襲撃を立案したフォビアラクという蜘蛛型の異形は、王国内に残った人間たちを包囲しながら捕らえている。
「やめてください! 連れて行くのは私でいいでしょう!」
「この子供は中級キマイケーラに相応しい器ですのでそのご要望にはお答えできませんね。貴方には保存食としての役目がありますのでね」
「ふざけんな!悪魔が!」
「こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」
「タダ……?ああ、無料ではありません、安心してください、皆さんの商品価値はしっかりと査定させたうえで消費させていただきますからね」
まるで話が通じていない。
人間の倫理観を問うた所でキマイケーラがそれを理解できるとは到底思えない。
そもそも命の価値すら違うのだろう。単なる消費物としか見ていないのだろう。
「では分別作業の方お願いしますね」
6体のキマイケーラが人々の逃げ場を塞ぎ、一歩一歩と迫りゆく。
そんな中、一人だけ立ち上がる人間がいた。
「待ちなさいな」
「……」
「お姉さん、そういうのは良くないって思うんだよね」
「シスター様! やめてください! 殺されます!」
「大丈夫大丈夫、安心して! お姉さんの指示に従ってくれればみんな助かるよ!」
紫を基調とした修道服。
立ち上がると共になびく白銀の髪。
桜の様な可憐な瞳。
お姉さんを名乗るシスターは笑顔で民衆を集める。
「貴方は……おや、リストアップしていない部外者が紛れていたようですね。」
「……3、2、1」
『Squid Command!』
シスターの右腕から触腕が伸びる。
後方の“ハンマーオクトパス”と呼ばれるキマイケーラに直撃し、シスターの方向へ吸い出される。
『Hit!Hit!Hit!』
目にも止まらぬ殴打。
顔面、顎、横腹、三連発が直撃し、更に蹴りの一発。
狙いは──
「GUGA!?」
ハンマーオクトパスが飛ばされた先は、崩落しかけていた城壁。
一気にキマイケーラの体重がかかり、シスターの予想通り人が通れるほどの穴を開ける。
「みんな!お姉さんの後ろを追いかけながら走って!」
「「は、はい!」」
「神器使いがもう一人紛れていたようです。追いなさい、ハンマーオクトパス!」
「GUGAAAAAAAAAAA!!!!」
一気に戦局は変わった。
たった一瞬の隙でフォビアラクを出し抜き、逃亡を成功させたのだ。
「速攻で行くよ!」
シスターは率先して真っ向勝負をしかける。
その時、仕草、喋り方、表情までもが全くの別物に切り替わる。
まるで少年のような声色で、見た目と中身のアンバランスさが伺える。
『SHARK→SQUID→JERRY=TriCommand!』
『Jumping Sonic Slice!!』《跳弾式無限連鎖拘速斬》
腕に付けていた“ブレスレット”の様な神器を、右足に付け替える。
電子音と同時にシスターは跳び上がる。
その跳躍は一つに留まらず、クラゲの様に悠々としたステップで相手を撹乱する。
腕輪神器から白い触手が伸び、ハンマーオクトパスの体は身動きの取れない程に絡めとられる。
そして、右からサメの背ビレの様な鋭利な刃が生え──
『Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!Hit!』
触手がワイヤーアクションの要領で足の留め金となり、右足での蹴り技が決まる。
蹴りの反動を利用し、サメ背ビレの刃がひたすら、ただひたすらにハンマーオクトパスの体を切り刻み続ける。
止まらない、そして的確に急所を突く。
飛ぶ、血しぶきとハンマーオクトパスの肉体が何回も。
幾度もの猛攻の末、肉体の限界を迎え……
「K.O!!!」
「GUGUGUGULAAAAAAAAAAAAA!!!!」
十秒にも満たず、ハンマーオクトパスは鎮魂された。
爆発と共に、二つのサクリスタルが遺品代わりに地に落ちる。
「名も知れぬあなたの魂が救われた所、お姉さんはちゃんと見届けたよ」
余裕綽々の笑みで合掌。
シスターもまたキマイケーラとなった人々を解放する鎮魂者の一人。
「みんなこのまままっすぐ行ったらトーン王国までの道路があるはずだからそこ目指して!」
「シスター様は!?」
「ここを一旦食い止めるから! 後の事はお姉さんに任せなさい!」
フォビアラク、その他大勢のキマイケーラと対峙するのは一人のシスター。
「してやられましたね、神器使い……」
「クラリオン・ヴレイスと覚えてくれたら、お姉さん嬉しいんだけどなぁ」
「クラリオン・ヴレイス、ヴィエラ・クレセンド、そしてウェベンヌ……」
「あと二人は誰の事かな……?」
「これでワタシたちの障害はまた一人増えてしまいました。ですから貴方はここで確実に始末致しますね」
「対話の余地なしの様だね」
「……なら、立場はどうでもいいね、お姉さんがケンカしてあげる」
その名はクラリオン・ヴレイス。
勇猛なる精神と拳で敵を穿つ、疾風怒濤の神器使いである。
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(※ご覧の映像はイメージです)