1-5 協力/「二度と焼き鳥とか言うなよヴィンテージワイン」「ヴィエラです」
『Pla-sma!』
『Fire…』
『Blizzaaaaard!!』
『Triangle Break!!』
三原色の刃が菌糸蛙の胴を貫く。
皮膚の凍結と、内部の燃焼が同時に発動し、肉体の大爆発を引き起こす。
「ィェルァァァァァアアアアアアア!!!」
異形は断末魔を上げる。
全身に赤い亀裂が生まれ、亀裂は秒を追う毎に増幅していく。
トードファンガスという体が、ディオンという意識が消えそうな中、何かを発した。
ヴィエラの耳にしか聞こえないような、今にも消えてしまいそうな声で。
『100戦目、楽しかったぜ』
「──ディオン」
その言葉が最後だった。
完全に肉体は限界を迎え、爆発四散と共に命は消滅した。
そして、ウェベンヌの手元に2つのサクリスタルが転がる。
黄緑色の『Toad』と紅白の縞模様の『Fungus』。
『解除形態に移行、端末の休息を感知──OFF』
「……ディオン……いい立ち合い、でした……」
だがサクリスタルの存在よりも、嬉し涙を浮かべるヴィエラの姿の方がウェベンヌにはよっぽど奇妙に見えた。
「何が嬉しいんだか、気持ち悪ぃ」
「ケッ、知ったつもりで振る舞おうとしたが、人間の考えなんてやっぱ何にもわかんねェな」
「ちょっと、待ってください!」
「責任取ってって言いましたよね!?」
「責任?知るかよオレの問題じゃねぇだろうが」
「じゃあどうするんですか?一人であの化け物と戦うんですか?」
「まァ、そうなるだろうな」
「計画性も無く裏切ったんですか?」
「……アホですか?」
「はぁ!?」
「どう考えても一人では無理でしょう……」
「じゃあなんだ?こんな怪我人連れ回して行けってのか?」
「そういう、事じゃなくて!」
「根本的に!軍には軍、大勢には大勢で対抗するのが普通なんですよ!」
「知るか、どうせお前のアテなんてオレ以外のキマイケーラに食われて終わりじゃねぇか」
「だとしても今よりは断然良いです!隣国のトーン王国まで行って下さい!」
「どこだよそこ」
「じゃあ着いてきて……痛っ……」
満身創痍の状態のヴィエラを抱えるウェベンヌ。
肩に担ぎ、飛翔する。
「はァ……しゃあねぇなぁ……お前の意見に乗ってやるから、先に休めよ」
城下町から離れ、一つ森を挟んだ境にある村に移動する。
「……もぬけの空か。一旦横になってろ、ここらは荒らしただけでもう誰も手つけてねぇからな」
「オレはハナっから寝たかったんだよ!そもそもこんな夜更けに襲撃決行したバカは誰だッ!」
「……布、御拝借致します……」
(お父様……ディオン……昨日まで元気だったのに……)
(……あの異形たちみんながディオンみたいに……)
(そんなの……考えたくもない……)
(……けど、だけど、思い上がりだとしても……二度と誰かをディオンみたいな目には合わせたくない……!)
(取られたものは……取り返します、絶対に……)
「起きろ、何時間寝てんだお前」
「……おはようございます……」
ヴィエラは襲撃の夜から一日中寝ていた。
外は夕暮れ、もう日が沈む頃だ。
トードファンガスとの戦闘で肉体は疲弊し、すぐには起き上がることはできなかった。
だが、常人ならば生死を問うレベルの外傷であるものを、一日で回復できる様になっている事がおかしい。
これもまた、神器の恩恵なのかもしれない。
「ここが襲撃予定外の場所で良かったな。追っ手は全くもって来なかった」
「あの……」
「結局の所あなたは何者ですか?」
焼き鳥としか呼んでいなかった鳥の異形の事が気になった。
敵の異形集団と同じの筈なのに、一緒に戦ってくれた。
「先にお前から名乗れ」
「ヴィエラ・クレセンドです」
「ウェベンヌ、二度と焼き鳥とか言うなよ」
ヴィエラのデコに指を差し、念を押す。
「で、ビオランテお前さぁ」
「ヴィエラです」
名前を間違えるなと言った瞬間に名前を間違える。
一瞬で先程の台詞の説得力が消え失せた。
「ゴホン、ヴィエラ、お前王族だろ?」
「そうですが……」
「それで国を取り返すんだろ?」
「取られたものは取り返します」
「て事は、お前が次の王か」
「え、そんな事一言も」
「拒否権は無い、オレの為にお前がこの国取り返してここの王になるんだよ!」
ヴィエラの「ちょっと待って」の言葉を聞き流し、隙を与える暇なくウェベンヌが口を動かし続ける。
「その代わり……全面協力してやるよ」
「あーそうそう、ただし条件が1つ……2つ……3つ!ある。」
「国を取り返してキマイケーラを一人残らずぶっ潰した後……」
「オレに安定したエネルギー供給源、安定した生活と住まい、安定した地位を寄越せ」
「……つまり?」
「オレを養え」
「……」
一気にヴィエラの顔が白ける。
期待していた訳ではないが、想像していたウェベンヌの第一印象からは大きく崩れてしまった。
端的に言わずとも、彼は想像以上のロクでなしだ。
「……自分で言ってて恥ずかしくないんですか?それ」
「は?」
「フォビアラクと全く同じセリフ吐きやがってテメェ……怖いもの知らずだな」
ここで逆上して襲い掛からない辺り、ウェベンヌはまだ善性に富んでいるのかもしれない。
「貴方の事はまだ信用できませんが……残念な人だというのはわかりました。とりあえず一緒に来てください、ウェベンヌ」
「一言余計なんだよビビンバ」
「ヴィエラです……ってそんな間違える名前ですか!?」
「じゃあ王女サマで」
「それも恥ずかしいからやめてください」
なんと本日、1章(計7話分)を全話公開してます!
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