4-17 熾烈/「天災に敵う生物など存在しない」
「──そして、現在に至る」
「キマイケーラ軍を裏切るということはどういうことか解っていますね?」
「宜しいでしょう」
『G・o・e・t・i・a』
「キャノンビーボックス、チェーンソースティングレー、ニトロスワローテイル、始末しなさい」
三体、シェルザルドの目の前に現れる中級キマイケーラ。
正六角形を重ねた巣を持ち、それを大砲として下半身に兼ね備える巨大なハチ。
常時高速で旋回する鋸を口腔に持ち、宙を泳ぐエイ。
小型であるが、体内に強烈な爆薬を抱えるアゲハチョウの群れ。
「わたしのサクリスタル、Goetiaはサクリスタルの複製という能力です」
「そして、複製したサクリスタルで作ったキマイケーラの主導権は常にわたしにあります」
男声と女声の重複した、絶妙な不快感のある混ざり声。
フォビアラクハザードは言葉を綴る。
「シェルザルド、お前に天然物のサクリスタルを使うべきではありませんでしたね」
その言葉と共に一斉にキマイケーラがシェルザルドを襲う。
『Blizzaaaaaaaard!!』
『Ca,stle!』
『~Hell~』
「余の領域の中、永久に眠れ」
だが、シェルザルドの領域に踏み込めば如何なる生物ですら凍りつく事は忘れてはならない。
『雹罰』
「……」
凍結。
三体のキマイケーラが全て真っ白な氷像へと変化した。
宙に浮くものは重力に逆らえず、地に落ちる。
「所詮、レプリカはオリジナルには勝てませんか」
「その程度のキマイケーラで余に一矢報えるとでも思ったのか?」
「それら全てお前の、“クレセンド”の国民ですよ」
「お前が直接、国民に手を下しました」
「……何が言いたい?」
「シェルザルド……いや、コンバトラス・クレセンド。お前の国民の認識などその程度、という事です」
「これはわたしの、ヴィエラ・クレセンドの本心を尊重して申し上げています」
「……ヴィエラ……?」
「少なくとも、ヴィエラ・クレセンドはお前よりは、見ず知らずのキマイケーラにすら情を抱いていましたが、お前からすれば命などその程度」
「さしずめ、口だけでは国を大切だとか言っているのでしょうが、お前が大切だと思っているのは家族だけでしょう」
「……余が何だと?」
「ヴィエラ・クレセンドの主張を代弁するのであれば、お前は王の器ではないという事です」
「貴様がヴィエラの何を知る!」
「それが本心として、ヴィエラが余にそんな事を率直に伝える人間だとでも思っているのか!」
「先程から命を弄ぶ真似をしているのは貴様の方だろう! 己を棚に上げて他者を糾弾しようなどと笑止千万!」
『Blizzaaaaaaaard!!』
『Ca,stle!』
『~Hell~』
「雹、罰ッ!」
冷徹な怒りを見せるシェルザルド。
フォビアラクハザードの全身は一瞬にして氷像と化した。
「……我が娘ヴィエラよ、すまない、必ず戻し──」
『Warning Announcement!』
『E,E,E,EARTHQUAKE!』
『F,F,F,FLOOD!』
『S,S,S,STORM!』
『HAZARD DESTRUCTION』《Code:B-6hbs-》
「馬鹿な……! 凍結しても尚脱出できるというのか……!?」
神器、剣盤ハーモニカ起動。
フォビアラクハザードを包み込む氷の膜は突風と激流の中砕け散り、怯むこと無く前進する。
一歩大地を踏むごとに地響きが生じ、この平原一帯を震撼させる。
「激昂するほどにお前の動きは単調になりつつあります」
『EARTHQUAKE』『FLOOD』『STORM』、言わずもがな天災の名を冠する三種のサクリスタル。
神器を振るえば、その力が解放される。
大地に亀裂が生じ、隆起と陥没を幾度と無く起こす。
シェルザルドは地形攻撃を避けれる筈もなく、地割れした地層に挟まってしまう。
「ぐ……身体が地面に挟まって動けぬ……!」
「地震、津波、台風、天災の力に敵う生物は地上には存在しません」
「今の今まで晴れていたのに、私が一つ剣を振るっただけで空は曇り、雨風が吹き荒れ、大地は亀裂を生みました」
「貴様、神にでもなったつもりか……!」
「そうですね、まさしく神の所業です」
地割れが起きた後、地層は元の形状に戻すように徐々に形を戻そうとする。
いくらシェルザルドの装甲であれど、身動きがとれないままだと、やがては重圧に耐えきれず砕け散ってしまうだろう。
「死ね」
『Cas,tle!』
「……!」
だが、そういった弱点を防ぐためにも『Castle』、城壁を生成する能力をシェルザルドは持っている。
「この程度で死ぬ程温くはない、余は絶対零度の城壁、だからな」
城壁を足場に、復活。
だが、一息する間もフォビアラクハザードは与えない。
『F,F,F,FLOOD!』
『S,S,S,STORM!』
『Blizzaaard!!』
巨大な渦潮を生成。
シェルザルドすら軽く包み込む程の水流が迫る。
だが、対処可能な攻撃だ。
『Blizzard』で渦潮を凍結。
『Pla-zma!』
『Fire…』
『Blizzaaard!!』
いや、そんな対処法のわかりきった攻撃をあのフォビアラクハザードがするだろうか。
単なる時間稼ぎでしかない。
別のサクリスタルを神器にセットするための。
渦潮が凍り、雲散霧消した機会を狙い、霧の中からフォビアラクハザードがシェルザルドの懐に忍び寄る。
両手で握られた剣盤ハーモニカは『Plazma』『Fire』『Blizzard』の三元素を集約し、破壊の一撃をもたらす。
「ッ!?」
『Triangle Break!』
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!?」
命中。
一撃は三元素の爆発を産みシェルザルドを仰け反らせる。
だが、これで終わりではない。
「なッ……!?」
更に、サクリスタルを変更し、『Toad』『Slug』『Viper』の三生物の能力を凝縮した二撃目を炸裂させる。
『Toad~!』
『S~lug!』
『Vi,per!』
『Triangle Break!』
「ぐぉぁあああああああ!!!?」
命中。
宙に浮くシェルザルドに、無慈悲な追撃が入る。
シェルザルドは何もできないまま、距離を離される。
「城壁と自称するほどには硬いですね」
「まぁ、無傷というわけではありませんが」
『G・o・e・t・i・a』
「こういう組み合わせもあるんですよ」
『Fire…』
『Fire…』
『Fire…』
『Triangle Full-Fire!!!』
同じサクリスタルを三つセット。
解錠と共に巨大な熱量を持つ炎波がシェルザルドを襲う。
業火は平原を一瞬にして焦土に変え、刻一刻とシェルザルドの命を狩り取ろうとする。
『Cas,tle!』
『Cas,tle!』
『Cas,tle!』
黙って受けるわけにはいかない。
城壁を三枚重ねで生成。
反撃の機会を伺う。
「まさか!? 城壁すらも溶かすと言うのか──」
だが、灼焔は丸石を何枚も重ねた城壁すらも貫き、熔かす。
一枚、二枚、そして三枚目の城壁すら容易く熔解し、シェルザルドの眼球が炎刃を目の前にブラックアウトした。
シェルザルドですらフォビアラクハザードには敵わないのか……!?
次回! 混沌の第4幕を締めくくり!
もうあの男しか残されていない、彼こそが最後の希望となるのか!?
緊迫する最終決戦へ、トライ・アンド・ゴー!
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