1-3 残酷/「戦う理由ができました」
「皆さん!出来るだけ遠くへ逃げてください!」
民には伝わる。
己の命より民の命を救おうとする王族としてのヴィエラの言葉が。
「焼き鳥!」
「あぁ!?誰が焼き鳥だお前……!?」
「こうなったのも貴方達の所為です!責任とってください!」
「は?誰が責任なんて──」
苛立ちを露にするウェベンヌは一瞬口ごもると思えば、態度を翻した。
(王族か……王族と言えば権力、権力と言えば楽な暮らし……ハッ、媚び売っとけば快適安全安心スマートニートライフ約束してくれそうだな……)
「……チッ」
「気分が変わった、協力してやる」
「おい女、先陣を切れ、俺はお前がぶっ飛ばしたキマイケーラを惹き付けとく」
翼を広げ、体勢を崩したキマイケーラに向かおうとする“焼き鳥”ウェベンヌ。
「あの!ひとつ質問いいですか!?」
「あァ?」
「これ!どうやって使うんですか!?」
「知るかよ!」
『我が教えよう、まずは円盤にサクリスタルを填めよ』
「サク……なんですって?えーっと、あ、これですか!」
『Pla-sma!』
一つ。
ヴィエラには聞き取れない単語が。
「なんか喋りました!?」
『Fire……』
『Blizzaaaaaaaaaaaaaaaaaaard!!!』
同じく二つ、三つとやかましい音声が響く。
『そして円盤を回す』
「回すって……こういう?」
ヴィエラは円盤の端を掴み、回転しそうな軽さを確認した後、「せーの」と勢いよく回す。
『そうだ』
“神器”の真の力が目覚める。
三つの力が循環し、今、この時、この瞬間に鍵は開かれる。
魔の結晶サクリスタルの能力を引き出すのはキマイケーラだけではない。
そう、この神器こそがサクリスタルの特性を引き出し、キマイケーラの殲滅の鍵を握るのだ。
『Perfect Circulation!Triangle-Phenomenon』
「ヴィ……ヴィ……!!」
それに反応して現れたのはキノコと蛙を掛け合わせた様な異形。
奇妙な鳴き声と共にヴィエラに向かって襲いかかる。
「……トードファンガス、コイツは『Toad』と『Fungus』のサクリスタルで作られた下級キマイケーラだな」
「トー……なんて?」
「とにかく、コイツを倒して道を切り開く、わかったか?」
「なんとなくは……」
「さっさとやれ」
「……行きます!」
『Fire…』
クリーンヒット。
音声と合わせて剣から炎が放たれる。
一直線に獲物の胴体を焼き付けて、大きく仰け反らせる。
「ヴィ……!!ェラ……ァ!」
蛙の異形は燃え痕を手で払いながら、呻き声を上げる。
だが、ただの呻き声ではなく確実に意味の聞き取れる単語があった。
「──ッ!」
ヴィ、エ、ラ。
確かにそう言った。
「……なんで私の名前を……」
舌打ちをするウェベンヌ。
そのあからさまな態度がヴィエラの好奇心を刺激する。
「……何か隠してるんですか?」
「どうでも良いだろ」
「言ってください!」
「……コイツの元はお前の所に居た……なんだっけな、ディオンとかいう奴だ」
「え……?」
「フォビアラクがぶっ殺して、コイツに作り変えた、死にたてホヤホヤだからまだ生前の意識があるんだろ」
キマイケーラは人間の死体から錬成される。
その中には、生前の意識が保たれたままキマイケーラへと変貌する者もいるらしい。
「ヴィエラ……ァ!!」
人を認識する意識はあっても、喋るだけの死体でしかない。
ディオンの心が苦痛の叫びを上げている、そうヴィエラには感じ取れる。
「……戦う理由ができました」
「私の大事な友達に、こんな仕打ちまでさせられて、黙っていられるものですか!」
「剣さん!!」
「どうしたらいいの!?」
『キマイケーラから元の姿に救いだす方法は存在しない。死んだ人間を蘇らせることはできない』
『だから主にできることは我で鎮魂し、魂を解放することだ』
「そんな……そんな事って……」
「……」
いつまでも黙りこんだままでいるヴィエラに対し、ウェベンヌは彼女の首を掴みかかり、叫ぶ。
「下らねェ、たかがニンゲン一人死んだところで、命に優先順位でもあるのかよ?」
「どうにもならねぇモンはどうにもならん!いつまでも事実に拘ってねぇで、今何をやるか、それぐらい自分で考えろ!」
首を掴まれたヴィエラはウェベンヌを軽く突き飛ばす。
「あーもう!うるさいですね!深呼吸ぐらいさせてくださいよ!」
「確かに取り乱しそうにはなりましたが!私以上に苦しんでいる友達が!目の前にいるんですよ!」
「……辛いけど、辛いですけど!私は私ができることをします!」
「“何もしない”ことが一番ダメだって、ずっと教えられてきたんですから!」
「だから、見ていてください焼き鳥さん」
「お前さりげなく焼き鳥呼ばわりすんな」
「……ヴィエラ・クレセンド、参ります!」
『我が主の御心のままに』
なんと本日、1章(計7話分)を全話公開してます!
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