4-8 愉悦/「まだ希望はある、と思い込んでいるのですか」
国の存続を見据えて、キマイケーラに降伏するべきだ、と己の体をキマイケーラに作り替えようとするジャンパール国王。
その考えは間違いだと、食い止めようとするヴィエラ。
だが、ジャンパールはヴィエラの反対を聞かず、サクリスタルを口に放り込むのだった。
「ジャンパール国王!」
ジャンパールの肉体が呻き声を上げる。
身体をのけぞらせ、地面に倒れる。
「ぐぐっ……」
「うご、うごごご、体が……うごごごうごめ、く」
ジャンパールが飲み込んだサクリスタルを吐き出せないかと駆け寄るヴィエラ。
老人の背中であっても手加減せず、平手打ちする。
「待ってください!そんなもの吐いてください!」
もう喉の奥まで通ってしまったのか、吐き出る気配がない。
サクリスタルほどの大きさであれば、喉の中で詰まりそうなのに。
「無駄ですよ、もうキマイケーラ化は止められません」
静まり返った廊下に立ち寄る者。
フォビアラクはヴィエラの背後に立っていた。
「……!」
「数日ぶりですね」
「フォビアラクっ!なんでそこに!」
その声だけでヴィエラは冷や汗を浮かべた。
後ろへ大きく跳躍し、距離を取る。
そして、剣盤ハーモニカを構える。
「アナタとの折り合いを付けに、ですかね」
「まぁ、それと、クレセンド王国で目ぼしいものも無くなりましたしね」
「まさかもうトーン王国中は……!」
「残念ながら、今回はワタシ一人ですね」
「……ジャンパール国王、勝手に諦めないでください、貴方の事は必ず戻します、だからここで終わらせます!」
不気味だ。
フォビアラクが一人ということが。
とてつもなく嫌な予感がする、策を練っているのは確実だと思うが、今回は何かがおかしい気がする。
だとしても深く考えている暇はない、速攻でケリを付けてから考えることにしよう。
と、ヴィエラは戦闘脳にスイッチを切り替える。
『Pla-zma!』
『Fire…』
『Blizzaaard!!』
『Triangle -Phenomenon-』
初撃が来る。
脳内に浮かぶ水面を頼りに、どこで回避して、どこを狙って叩き込むか推測する。
そう、フォビアラクの攻
『Thunderrr!!!』
「なっ」
「ああああああああああっ!!」
感電。
フォビアラクの召喚した雲から雷がほとばしり、ヴィエラの肉体を焼いた。
全身が麻痺し、意識を保っていられないほどの痛みがヴィエラを襲う。
雷の速度にヴィエラは追いつけなかった。
以前は水面に雨が降るような錯覚が見えていたのに、今回、水面はぴちゃりとも動かなかった。
理解の追い付かないヴィエラの頭を踏みつけ、フォビアラクは呟く。
「ワタシ一人なら倒せる、と思いあがっている様ですね」
「アナタの強さは充分に認めます、前回、それで負けましたからね」
「戦闘において、取るに足らない相手だと思わせるのは重要です」
「ですが、それはワタシたちキマイケーラにも言えること」
「低級キマイケーラはサクリスタルを奪われる量の面でリスクが少なく、且つ偵察としても、人間に対して“勝てない相手でもない”と思わせるというメリットがあります」
「そしてアナタは最上位のワタシにも決定打を与えることができました」
「その時アナタたち人間は思ったはずです」
「まだ希望はある、と」
ヴィエラや他の神器使いが戦ってきたキマイケーラは低級、そして最上位のみだった。
それはフォビアラクが計算した上での希望を持たせているだけにしか過ぎなかった。
手に取るように、蜘蛛の糸に絡めとられるように、我々人間は勝手に思い上がっているだけにしか過ぎなかった。
「ワタシの盤面に狂いはありませんでした」
「ワタシ一人でもこの国の人間は誰一人逃がすことなく、拘束できましたからね。お蔭で奇妙な程この一帯は静かでしょう」
そう言えば、フォビアラクはさも当然かの様に王宮に入ってきたが、見張りも兵士も、一般人の声すら響かない。
そもそも、どこからも音がしない。
「そん、な……」
「最、初から……」
身体が動かない。
何もできない。
全てが奴の手のひらの上で転がされていた。
絶望。
そして憎悪。
ヴィエラは初めてその感情を覚えた。
「そろそろジャンパール・トーン7世もキマイケーラとして覚醒します」
「折り合いというのは大事です、放置していれば厄介事が一生分付いて回るかもしれませんから」
フォビアラクは愉悦という感情を覚えた。
相手の尊厳を踏みにじる。
快感。
「待、て……」
「どうかなさいましたか?」
ジャンパールはゆっくりとフォビアラクに近づく。
いわばクライアントに当たる関係、フォビアラクは彼には悪い扱いはしない。
「儂の、国民全て、きまいけぇらと、なれば……」
「全員が助かる、というのは……本当なんじゃな……?」
「もちろん、誰一人殺していませんよ。大事な命ですからね」
フォビアラクは後方に指をさす。
周囲の兵士、一般人、全ての口と手足が蜘蛛糸に絡まって動けなくなっていた。
死んではいない。
「少々手荒な真似はしてしまいましたね」
「ヴィエラ・クレセンドのような害虫を始末できていない様ですので、その為の必要経費と心得てくだされば助かります」
「ですが、ジャンパール・トーン7世。一つ思い違いをしているようですね」
「キマイケーラとして転身できる者には適性があります、適正外の人間は生殖用、食事用、実験用の3つに区分されることになります」
「もちろん、人として生きている以上平等に役職はあるべきだと思っています」
「キマイケーラにはキマイケーラの、人間には人間の大事な役割が存在しますからね」
「ジャンパール・トーン7世及びロックロックマンモスよ、共に完璧な社会を作りましょう」
フォビアラクの辞書に人権、そもそも権力という言葉は存在しなかった。
悪意も善意もなく、平然とそんな台詞が言えるのだ。
「な……!」
「そんなの……騙して、いるのと、一緒じゃ、ないですか!」
「そちらが勝手に都合の良いように解釈しただけでしょう」
ヴィエラの頭を強く押し潰す。
「ぐぁっ……!」
更に悲鳴をあげる。
フォビアラクはゴミを見る様な目でヴィエラを踏みつけるのみ。
だが、そんなフォビアラクの醜悪さを目にし、憤るのはヴィエラだけではない。
「死んでも、忘れぬぞ」
「大事なコトを、伝えずニ、都合の良イコト、バカリヲ口にすル」
「ソレガ人ヲ騙ス、トイウ、コトジャ若造ガァ!!!!」
巨大なキバを持つ象の顔が上下対称に、2つ。
岩石を粗削りして作られた剛腕が、4つ
巨大な砂時計が中央に、1つ。
キマイケーラが生まれる時、憎しみや悲しみや怒りが増長されることが多い。
だが、今はその感情が頼れる力になるだろう。
ロックロックマンモスはフォビアラクへの憎悪を持って生まれるのだから。
「ビエラ殿、儂ガ間違ッテオッタ」
「儂ガ責任ヲモッテ、コノ俗物ヲ潰ス!」
「交渉決裂、ですか」
「ならばプランBに移行するまでですね」
ジャンパール国王が味方になってくれました!
ヴィエラ&ロックロックマンモス vs フォビアラク(2回目)、緊迫した戦いの結果は……また明日!
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