4-3 演説/「クレセンド襲撃準備」
「ウェベンヌに、クラリオンさん!?」
「今ッ更何も言わねェが、なんでオレだけ呼び捨てなんだよ」
「ソレは置いといて、いい情報を聞いた」
「国が吹き飛ぶ爆弾なんて、とんでもねぇモン隠してたなァ?」
「それで、ウェベンヌ、本題は?」
「つまんねェ奴だなお前」
ウェベンヌは、テーブルに足を乗っけて椅子に腰掛けた。
「何言いに来たかと言うと、忠告だ」
「キマイケーラの襲撃が無ェとかなんだとか言ってたが、残念ながらもう来ている」
「昨日クラミジアに連れてかれた時に一体、確実にキマイケーラがいた」
「クーラーリーオーン!言い間違いの意味わからないけどなんかすっごい貶された気がする!」
クラリオンはウェベンヌの首を後ろから握る。
体に似合わず、クラリオンの握力は相当なものである。
「おま……ッ!お前クソ乱暴だなァ!?普通の人間なら絞め殺されてるぞ!?」
「お姉さんの名前はクラリオン!ちゃんと覚えてよね!」
無理矢理振り払ったが、ウェベンヌの首元にはクラリオンが握った窪みがくっきり残っていた。
「それで、そのキマイケーラは?」
「すごーく高い所、上空に逃げちゃった」
「アイツ、多分だがこの前のペーパーファルコンがまだ生きてないかって探ってンだよ」
「それさえ解ればこっちが襲撃準備してるなんて筒抜けだからな」
絶望的だ。
上空にいるキマイケーラは空高く、空中にいる。
それに対応できる者はウェベンヌただ一人。
仮にそのキマイケーラが殺されれば、人間側が完全な戦闘態勢である、と受け取られる。
これでは相手が防衛態勢を取るため、こちら側からは総力戦を仕掛ける他無い。
逆に逃がせば、取るに足らない相手だと舐められ、近い内にトーン王国に攻め入られて、数の暴力で敗北する。
現状、ヴィエラやヴァイオレットなどの人間界指折りの精鋭とばかりキマイケーラは鉢合わせている為、人間は思ったよりも強いと思い込ませているだけである。
この硬直状態を維持できているのは奇跡的とも言える。
「どうしろと仰るのですな!?えべんぬ殿!?」
「あァ?ジジイ、なんか勘違いしてねェか?」
「奇襲するには絶好の機会だろうが!」
「そうそう、実は作戦立ててきたんだー!」
この状況にニヤりと不敵な笑みを浮かべる二人。
演劇の悪役の様に、口角が曲がっている。
顔面を平仮面で隠しているウェベンヌは元から悪役なので、いつも通りだが。
(ロクでもないこと仰る気がします……)
「オレの体にあるコレ、サクリスタルは取り外し可能だ」
「昨日ヴィエラに外されて気付いた」
「この前散ッザン暴れやがったペーパーファルコンに変身も可能だ」
「ザコに姿変えるのは心底嫌だけどな」
小声で本音を漏らす。
「そんでそんでー、ペーパーファルコンに変身したウェベンヌが空中にいるアイツを誘導するんだ!」
「そこで時間を稼いでもらって、一気にみんなで襲撃しに行く感じだったんだけどねー」
「初めっからンな大層な爆弾抱えてンだったらオレ一人で充分だろ」
「爆発させりゃパーだしな」
「それではウェベンヌさんが死んでしまうのでは……」
「あァ?死ぬわけ無ェよ、オレは不死身だ、不死身のフェニックスのキマイケーラだ」
ウェベンヌが付けている仮面を外すと、赤黒く、禍々しい三角形のサクリスタルが顔面にめり込んでいるのが見てわかる。
顔面を埋め尽くす程に巨大で、神器などに取り付けれる大きさではない。
「最上位のキマイケーラになるにはこの特殊なサクリスタルが必要だ」
「そして、これを持つキマイケーラだけは圧倒的な力を手に入れる」
「オレのこのフェニックスの能力は不死身!塵になろうとこのサクリスタルがあれば元通りってワケだ」
「だからと言って貴方に全て任せるわけには……」
「お前らの為にやってるワケじゃねェ」
「オレのエゴだ、キマイケーラまとめて全員ブッ殺してェだけだ」
「お姉さんはキマイケーラに捕まった人たちを全員逃がして、死器ボウ?って擬似神器を回収したら早々に撤収するよ!」
「ヴァイオレットさんにジャンパール国王たちにお願いしたいのは私たちの作戦へのサポート!」
「ヴァイオレット、お前は万が一の為にクラリオンに付き合え」
「お前は神器すら持ってないのに、一回シェルザルドを撃退してるからな」
「……なるほど、理解しました」
「作戦決行の猶予はいつまでですか?」
「猶予?あ?もう明日には行くが」
「な、そんな短時間で、ですな!?」
「流石に同感です……」
「あァ!?テメェらジジババに選択肢なんか無ェんだよ!」
「黙って俺の言うこと」
『SQUID Command!』
「あだだだだだだだだだ」
クラリオンの神器からイカの触手が多数伸び、ウェベンヌを縛り上げる。
「こらー!王族になんて事言うの!?お姉さん言ったよね!?」
「それに今ババァって言った!?ヴァイオレット様、まだ32だよ!」
(クラリオンさんも相当失礼な事仰ってませんか……?)
「あだだだ兎に角、あだだ、あのキマイケーラはあだだ、待ってくれるワケだだだだだ……いい加減離せよ!」
「ちゃんとごめんなさいするまでダメ」
「……ゴメンナサイ」
先程の威勢の良さとは真逆のか細い声。
謝罪の心は毛程も生えて無いだろう。
「よくできました!」
「……要するに」
「明日、わたくしとウェベンヌと、クラリオンさんがクレセンド王国に乗り込めばよろしいのですね」
「……そして、明日中に全てを終わらせる」
「わかりました。ジャンパール国王、時間に余裕がありません、避難民用の馬車の用意、避難勧告、騎士団の招集、諸々を行いましょう」
「……」
「……そうですな」
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翌日の早朝、トーン王国全体が警戒態勢を強めた。
キマイケーラは未曽有の災害として国民全体に公開。
不安に駆られた国民、クレセンドからの難民からの抗議や喧騒は止まなかった。
だが、騎士団長コルネット・フィオナが人々の前に放つ言葉は周囲の注目を集め、一瞬にして声は静かになった。
「どうか!トーンの民、クレセンドの民よ!聞いていただきたい!」
「我々は一つの巨大な敵に立ち向かっている!その存在は残酷で、悲痛で、恐ろしい存在だ!」
「だが!その脅威に立ち向かう力は、この神器が、この地に集った神器を扱う者にある!」
その呼びかけに応じ、ヴィエラ、クラリオンが神器をかざして登場する。
「ヴィエラ様だ……!生きていらっしゃったのか……!?」
「この神器はキマイケーラに対抗する為の希望である!」
「決して……倒せない敵ではない!」
「自分は民を守る為にこの神器を使い、必ずキマイケーラを鎮魂する!」
この場は静まりかえった。
この世の物とは思えない神器は見るものの目を奪ったのだ。
「この剣、おとぎ話でしか聞いたことの無ぇ、あの、神器だべ……?」
一人の男、鍛冶師はヴィエラの持つ剣盤ハーモニカを見て、驚いた。
「この前、ヴィエラ様にバケモノから助けてもらったの、見たよ!」
また、スラム街出身の女も口を開く。
それに呼応して、トーン、クレセンドの民がざわつき始めた。
それは不安に駆られたざわめきではなく、信頼と安心に包まれたざわめき。
民衆の目からはヴィエラ、コルネットの姿にか弱さを感じることは微塵もない。
ヴィエラはクレセンドの民にとっての希望。
また、コルネットもトーンの民にとっての頼みの綱。
この二人が存命であれば、クレセンド襲撃準備も円滑に進むであろう。
本格的にクレセンド王国を取り返しに行き……ってもう直で!?
即席即行の作戦が決行されました。
一体どうなるのでしょうか……
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