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1-2 解錠/「これで勝ったと思うなよ」

 逃避。

 ドレスの裾を掴みながら、できる限り速く、遠くへ逃げようとする王女ヴィエラ。


「はぁ……はぁ……」


 接近。

 8本の節足で疲れる様子もなく追いかける、蜘蛛の異形“フォビアラク”。


「やれやれ、何事も自己責任ですかね、ワタシの管轄内はワタシで直々に処理しませんとね」


 だが、この階は奥に宝物庫があるだけで行き止まりだ。

 初めからヴィエラに逃げ場はなかった。


「鬼ごっこは終わりのようですね」


 フォビアラクは指から糸を3本噴射し、宝物庫の扉を粉砕した。

 ただの糸ではない。大理石であっても軽々と砕いてしまう剛糸だった。


 扉にもたれていたヴィエラの姿勢が崩れる。


「くっ……」

「なんで……何が目的で殺すんですか!?」


 震える唇を噛み締め、憎悪の感情を突き刺す。


「下らないことを」

「目的などありません、貴方は()()に復讐心を抱こうなどとは思いませんでしょう」

「同じく、ワタシも貴方がた人間に復讐心を抱くことはありません」

「全ては自然の摂理、寿命を少し早めるだけの存在です」


「ワタシは、ワタシたちは()()()()()()、生きた自然災害のようなものです」

「これ以上の会話に意味などないでしょう」


「そんな……」


 相手はそもそも対話を望んでいない。

 フォビアラクは利用価値が()()()()かでしか、人間という生物を判別しない。


Plasma(プラズマ)Slug(スラッグ)Blizzard(ブリザード)……後はあの無能を始末するためにアレを投与しますかね。」


「話す必要が無いなら……ここにある剣で……!斬り……ッ!?」


 何歩か後ろに退き、地面に突き刺さる剣を引き抜こうとするヴィエラ。

 だが、フォビアラクの節足は()()ヴィエラの肉体を捕らえ、毒を注入していた。


「あ……がっ……」


 唾をこぼし、痙攣(けいれん)しながらゆっくりじわじわと毒を注入されていく。


「死体はできる限り綺麗にしておきませんとね」

「ご安心ください、神経毒ですから痛み無く死ねます」


──────────────────

 “ドクン” “ドクン” “ドクン”

   “ドクン” “ドクン”

 毒が頭にまで回り、意識が混濁していく。


 だが、ヴィエラは最後まで“生きること”を諦めようとはしない。


 「いくら惨めな姿になろうとも、“絶対”に生きたい」と心の中で叫びながら。


(お母様は言っていました……“剣だけは絶対に捨てちゃダメ”って……、死にたくないし、負けたくないし、剣を降ろしたくなんてない……けど……どうしたら……)


 その時、不意に脳内に声が響いた。


『答えよ』


(……?)


(なんじ)に器があるか、答えよ』


(う……つわ?)


『然り、汝が握る我を解錠せよ』


(解錠……?)


『我にかかりし封印を解け』


(だったら……一からちゃんと方法を教えて下さいよ!)


『我の指示に従え』

『汝の口より「()()()()()()()」と叫べば我は解錠される』


──────────────────


 宝物庫にもう一体。

 鳥仮面の異形が現れる。


「おい」


「そのサクリスタルはなんだ」


 サクリスタル、異形(キマイケーラ)たちの体に突出している結晶体。

 宝石ほどの大きさしかない、この結晶からキマイケーラたちの肉体が形成され、サクリスタルに秘められた()()を身に宿している。


 鳥仮面の異形“ウェベンヌ”は赤いサクリスタルを見ると、反射的にフォビアラクの首を掴みかかっていた。


「何と言われましても、ワタシの能力で複製しました、貴方の“サクリスタル”ですが」


 フォビアラクは悪びれる様な態度すら取ろうとはしない。


「だから何故作ったかって聞いてんだよ!」


「自分でも立場をご理解しているのではないですかね」


「ワタシたちキマイケーラは()()()()()に、このサクリスタルを()()することによって生まれます」


「そして私たち()()()()()のキマイケーラが知的生命体としての()()を保てているのも身に染みて理解いただけている筈」


「……」


「つまり」

「この国に無尽蔵にある新しい器からキマイケーラを複製し、無能な人格を持った者を即刻切り捨てる事を第一目標としております」


「具体的には、課せられた任務すらも怠けようとし、働くことを心から嫌い、誰かに養って欲しいなどと考える──」

()()()の様な人格に利用価値は皆無ですね」


「なのでウェベンヌ、貴方には……」


『Fire…』


「おっと」


 フォビアラクは確実に同族に敵意を向けていた。

 同族であるキマイケーラもただの道具でしかないからだ。


 それを悟ったウェベンヌのとる行動は一つ。

 翼から火球を飛ばし、爆発させる。


 皆まで言わずともフォビアラクがウェベンヌを殺そうとしているのはわかる。

 そんな相手に一々喋り合う必要はない。


「……今の行いは裏切り行為、と認めても宜しいですかね」


 命中。

 至近距離で炎の弾丸を放たれ、フォビアラクは軽くのけぞる。


 その際に『Fire(ファイア)』のサクリスタルともう一つのサクリスタルがウェベンヌの足下に転がる。


Blizzard(ブリザード)のサクリスタル……氷は俺の弱点だ、端から殺す気満々だっただろお前も」


「殺す?いえ、そんな非合理的な事は致しません、貴方の肉体は別の用途で使わせていただきますよ」

「弁明になってねぇだろうが!」


 ウェベンヌは大きく羽ばたき、フォビアラクから距離を取ろうとする。


「仕方ありませんね、後でもう一度サクリスタルを作るしかありません、捕らえなさい、プラズマスラッグ」


 毒をたっぷりと注入し、丁度良い器が転がっているのを確認したフォビアラクは『Plasma』『Slug』のサクリスタルを投げ込む。


「……おや」


 が、その器はキマイケーラになることはない。


「しぶといですね、人間という軟弱な生物では死ぬ毒の筈でしたがね」

「仕方ありません、少々器を汚すことになりますが……」


 フォビアラクが腕を伸ばし、ヴィエラの脳天を抉ろうとした瞬間。

衝撃波が巻き起こる。


()()()()()()()


 発せられた七文字。

 この瞬間、()()()()()()


「あぁ!?」

「……」


 解錠、そして復活。

 剣は触腕が近づく瞬間、ウェベンヌやフォビアラクを軽く吹き飛ばす程の風圧を放つ。

 ヴィエラは立ち上がると共に、剣をフォビアラクの首に向ける。


『同調第一段階完了。猛毒の中和完了。解錠準備に移行する。』


「あー……なるほどな……残念だったなフォビアラク、オレは泥水を吸ってでも生き残ってやる、お前の嫌いな“ニンゲン”の武器に魂売ってでも生き残ってやるよ!」


「あれは“神器”……キマイケーラの殲滅の為に作られた武器ですか」


「ですがその軟弱、脆弱過ぎる人間の器のどこに恐れる必要があるのでしょうかね」


「あぁ、ご丁寧にそんな事言わなくたって()勝てねぇ事ぐらいわかりきってンだよ!」


「これで!勝ったと!思うなよ!」


 飛翔。

 “神器”を持ったヴィエラを掴み、宝物庫の窓を突き破る。


 フォビアラクは即座に部下に伝達する。


「キャノンビーボックス、ウェベンヌは裏切り者です。抹殺を。」


「BBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!!!」


 時間に猶予(ゆうよ)はない。

 何故なら後方にはウェベンヌ、ヴィエラをハチ型の異形が追っているからだ。 


 そしてヴィエラは気づけば空の上に居た事に気づく。

 当然ではあるが、人は空を飛ぶことはできない。


「えっ、さっきから何なんですか貴方あーーーっ!?飛んでぇええええ!?」


 当然の反応である。


「黙れ女!さっさとその“神器”寄越せ!」


「嫌です!」

『汝に我を握る資格はない』


 神器はウェベンヌの脳内に直接語りかける。


「は?資格とかそんな問題今はどうだっていいだろうが!」

『汝に我を握る資格はない』


「だから!追っ手が来てんだよ!見りゃわかるだろ!こんなガキよりオレに使わせろ!」

『汝に我を握る資格はない』


「この……ッ!」

『汝に我を握る資格はない』


「BURSTOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!」

「何回言ッ──うおおお!!?」


 キャノンビーボックスの下半身の“巣”は大砲状となっており、そこからエネルギーを凝縮させたレーザー光線を放つ。


 それにはたまらずウェベンヌ達も急降下してしまう。


 ……ハチの巣からビームが出るわけがない?

 ()()()()()()()()()()、という名前なのだからレーザー光線は撃てて当然である。


「ちょっと落ちる落ちるぅーーっ!?」


「仕方ない……」

Fire(ファイア)…』


 着陸。

 レーザー光線のお返しに、上空に向けて火炎弾を放つ。

 手のひらから勢いよく放たれる剛速球だ。


「BBBBBBBBBBBBBB!!!!!!!!!!!???」


 命中。

 キャノンビーボックスは黒煙と共に一時退散する。


 ひとまず、敵は一時的ながらも消えた。

 だが本筋の問題はまだだ。


「ちょっと!さっきからなんなんですか!?剣寄越せだとか裏切りだのなんだの……」


「……何……これ」


 ヴィエラが見た城下町の風景はまさに地獄絵図。


 萎んだ風船のような()()()が辺り一面に落ち、

 ドロドロに()()()()()()()に食らいつく異形達。


 捕らえた人間を一人ずつじわじわと弱らせながら体を溶かす。


 逃げ惑う人々を執念深く追い回し、絶望させていく。


「随分とまぁ、ご盛況だな」


「ハッ、オレがこの剣持ってたらアイツら全員潰せたのになァ!」


『汝に我を』

「くどい!」


「……んで、どうだ?このザマを見て、ブルブルと震えながら、振れもしない剣を握るつもりか?」


 普通の人間でなくともこの光景を見れば、腰が引けてしまう程の恐怖心を煽らせられるだろう。


 純粋な心を持つヴィエラならば尚更の事。

 だが、その恐怖心を押さえつける“王族としてのプライド”がヴィエラにはあった。


「剣は……振れます」

「私は【剣天】の娘ですから」


 息をのみ、叫ぶ。


「どうすればいいなんて、言ってる場合じゃない!」


「お母様は言ってました、王族たるもの、己でその身を守り、国民もまた己が身の様に守れって」

「王族たるもの!民を守り!導き!常に誇り高くなければならないんです!」


「今、目の前で救えなかった命の為にも……!私は剣を持つ以上!この剣で()()()()()()()()()んです!」

『汝を器として認める。解錠最終準備完了』


 ヴィエラの咆哮は、“神器”への承認。

 同調、つまり一心同体。


「トライアンゴウッ!」

「解────錠ッ!」


 “神器”に付着した錆や固まった土埃が吹き飛ぶ。

 月の光に射され、白く煌めく刀身。


 現れたのはヴィエラの体格の半分を占める大剣。

 鍔には()()()()()が装着されている。


『我は剣盤ハーモニカ、我と汝は完全に同調し終えた』

『故に我らは体、意識、命を共にする共同同調体である』

なんと本日、1章(計7話分)を全話公開してます!


もし気に入っていただけたら、


下画面にある『☆☆☆☆☆』、その左上にあります『感想を書く』『ブックマーク』などで応援していただけると、承認欲求モンスターの私が画面の向こうで大道芸します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 特撮ものの最初の様な独特の語り口の作品ですね。続きも楽しませていただきます。
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