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1-1 襲撃/「オレを養ってくれフォビアラク」

 夜。

 クレセンドの1日は月明かりと共に終わりを迎えようとしている。

 当然の平和、安泰を国民は皆受け入れており、誰もが暇を持て余す1日を過ごしていた。


 奴等は突如襲いかかってきた。

 既にクレセンド王国は襲撃されていた。


「敵襲──ッ!! 敵襲──ッ!!」


「うっうわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 地上、地中、空中からの襲撃。

 どれもこれも姿形の異なる怪物が軍を率いて王都を襲撃する。


 怪物の数はおよそ100。

 軍としての数は少ないが、戦力差は圧倒的。

 蹂躙(じゅうりん)、そして捕食の限りを尽くす。


 怪物に喉を突かれた人間は痙攣(けいれん)するかのように不規則に震えだす。

 その後肉や骨が液体化し、死が確定する。


 異形の口はストロー状に変形し、人間の肉体を吸い尽くす。

 (しぼ)んだ風船のように皮膚だけがべっとりと乾き落ちる。


 地獄絵図がそこにある。


「……指示の必要ないだろコレ、気に食わねーけどフォビアラクの作戦は完璧だわ」


 上空。

 異形軍団のリーダーと思わしき影が見える。

 両翼を拡げた鳥の模様が入った平仮面。


 肉体を突き出た骨盤が目立ち、鮮やかな朱色の皮膚を持つ。

 触手の様な6本の翼は水車(プロペラ)のように旋回し、直立姿勢で空を舞う。


 鳥仮面の怪物は退屈そうに虐殺を見届ける。


「あー……お前ら、勝手にしろ、俺腹減ってねぇから寝るんで」


 命令を聞いた飛行型の異形は地上へ降下し、生き残っている人間に向かって一目散に襲いかかる。

 一度「きゃあ」とか「うわぁ」だとか、面白味もない悲鳴が聞こえた後、人のざわつきも静かになっていく。


 特に、この国の人間は平和ボケし過ぎていて、“多勢に無勢”という言葉も通用しない程に無抵抗だった。

 そもそもの話、このクレセンド王国は何百年もの間戦いの歴史が一切無い。

 剣術、槍術といった武芸も“己を表現する芸術”という認識でしかなく、死闘を繰り広げる催しも行われた試しもない。


 こういった異形の存在も知ることなく、平和である事を当然として文明が発展していったのだ。



 鳥仮面の怪物は一人、城塞の窓を外側から割って、城内に侵入する。


「邪魔するぞ」


 割った窓の縁に座り込み、城内の状況を観察する。


 城内を異形の蜘蛛が這いずり回り、それらを食い止めるべく、騎士が三人ばかり立ちはだかっている。

 彼らの後ろには力及ばなかったのであろう。王らしき男の遺骸と取りすがる金髪の少女が見える。


 が目撃できる。


 金髪の少女、ヴィエラは弱々しく崩れ去る。

 青いドレスの裾に涙が(にじ)み、華奢な手が小刻みに震えている。

 現実を受け止められない心情が声色が悲壮感を助長する。


 だが、目撃者の鳥仮面は異形である。

 この悲劇に対して何か感情が揺さぶられたか、と言われれば「いいや、全く」と答えるだろう。


 その筈なのに、鳥仮面は崩れ去る少女ばかり見つめている。


 その理由を例え話で言うなら、“見たこともない虫が、よく分からない行動をしているから気になって観察している”、という“物珍しさ”だろう。


「起きて……ください!」

「こんなのって、あんまりです……お父様……!」


 死体は綺麗な状態で遺されており、額に小さな円形の風穴を開けられ即死、と伺える。

 骸と化した王の表情は、この王宮内の惨状とは逆に安らかである。

 手は咄嗟に武器を握ろうとしていたが、脳天への一撃はあまりに一瞬。


 事実は無念さと残酷さを生み、ヴィエラの精神を抉る。


「死んでいるのが解らないのでしょうかね、あまり汚い手でその器には触れないで貰いたいのですがね」


「黙れ!これ以上ヴィエラ様に話しかけるな!化け物が!」


 騎士達が怒号を放つと同時に、蜘蛛の異形に向かって槍を向けて臨戦態勢に入る。


「ヴィエラ様!ここでこの怪物は仕留めますので、今のうちに逃げてください!」


「ヴァン、ソロ、ディオン!貴方たちも逃げてください!」


「逃げる……?冗談はよせよヴィエラ、ここは友達のディオンとして言わせて貰うぜ」


「お前は逃げる!俺はコイツに勝ってから逃げる!絶対生きて帰るから安心しろ!」


 ヴィエラは涙を幾度か垂らしつつも立ち上がる。

 危険は一歩一歩と己の方向に近づいているのは嫌というほど理解していた。


 彼女自身、体では状況は理解している。

 王の亡骸をそっと置き、騎士達とは逆方向に走った。


「ふむ、下級の器が一体……他に大した器はありませんね」


「まぁ、いいでしょう、上級一体下級一体、良好な自我の形成ができそうですね」


 余裕綽々のクモ型異形は窓側に目をそらす。

 ……と言ってもクモの目は8つ。

 顔面から弧を描くように、そして規則的に並ぶ眼球なので、目をそらすほど顔を動かしていない。


「……おや、ウェベンヌ、居たのですね。やることが無いのならあの小娘を捕らえるなりしてはいかがですかね」


 鳥仮面こと“ウェベンヌ”は「は?」と地声を漏らした。


「フォビアラク、お前の要求だけは絶ッッッッッ対に従わないからな?」


「そもそも新個体の作成とかお前の趣味だろうが、さっさとオレに安定したエネルギー供給源を作れよ」

「エネルギー供給源……まさか貴方食べることすら面倒と?」


「ああ、面倒臭い!だからフォビアラク、オレを()()()()()

「……自分で言っていて恥ずかしくないのでしょうかね、なんのプライドも無いのでしょうね」


 談話を断ち切るように、クモ型異形“フォビアラク”に向かって突撃する騎士が1人。


「喋ってる……暇あんのか! 俺はディオン、槍術最強のディオン・フォルティスだぞ!」


 目にも止まらぬ槍での一閃。

 他の騎士とは段違いのスピードでフォビアラクの喉元を狙う。


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」


 不発。

 フォビアラクの触腕は長くしなり、ディオンの胸部に打ち込まれる。

 それだけでディオンは勢いよく壁に打ち付けられ、血反吐をこぼす。


「ウェベンヌ、そう減らず口を叩いていられるのも今の内ですからね」


 残っている2人の騎士に対し、発達した脚部で()()()心臓を抉る。


「あ、あがッ!? あ、あ、痛い! 体ががが、とげ?とけ、る──」


 騎士は悲鳴を上げた後、踊るように痙攣を起こす。

 そして人間の姿形から徐々にかけ離れていく。


 “グジャッ……” “グジョ……” “ベヂョ……”


 目の前にあった命は、()()()()()一瞬の内にペースト状のミンチになった。


「な……」


 ディオンは声を上げようとしても、口が思うように動かなかった。

 嗚咽すらも漏らせない。


 呆気なさが“死への恐怖”と、“死への怒り”を生み、ディオンの心を葛藤させさせる。


「……ハァ……ハ……ァ…………」

「お前……よくも……!よくもヴァンとソロを……!」


「クソ野郎がぁぁぁっ!」


 震える体を無理矢理動かし、叫ぶことにより恐怖を押し退ける。

 心の中ではディオンは誰よりも臆病だ。

 人前で強いフリをして自分を保ってきたから、心は誰よりも脆い。


「所詮人間など老いて死ぬ生き物です、若干その死期が早まっただけで何を焦っているのですか?」

「黙れ黙れ黙れぇ! この畜生がぁぁぁああっ!」


 断末魔と等しき渇いた叫びと共に、ディオンはフォビアラクに向かって刺突を試みた。

なんと本日、1章(計7話分)を全話公開してます!


もし気に入っていただけたら、


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