3-3 距離/「特別な何かでもない、ただの親子」
「今回作ったアーマーヴァイパーでしたか、それは如何なる特性を持ったキマイケーラなのでしょうかね?」
「本日奏でていただくのはワビ・リュウコウ氏」
「彼はトーン王国で片刃剣の使い手として功績を納められた御方のようです」
「そういった実力、精神性共に優れた個体は上級キマイケーラとなれる場合が多いのですが、名前を聞くに低級なのですね」
「お亡くなりになってから随分と日が経ちます」
「古い素材でしたので低級になる形にはなりましたが……」
「並の低級以上の実力は期待できるでしょう」
「ではワタシも経過観察を楽しませていただきましょうかね」
「かしこまりました、ワタクシ、指揮者スピルカンの多重奏をお楽しみくださいませ」
◆ヘオンキ王宮・来賓個室
その日、ヴィエラは敗北した。
酷く後悔した。
自分が見失っていたこと、自分の考えが甘かったこと、自分が利己的だったこと……
全てが脳内にフィードバックする。
「ヴィエラ、わたくしはあなたに今まで色々と無茶を言ってきたのかもしれません」
「キマイケーラと人、見た目は違えど人同士の争いでしかない、無謀なものです」
「わたくしはあなたに剣を教えたのは、そんな悲しい争いをさせる為では無いのです」
「……と叱りつけたいのですが、あなたは賢いのでもう気付いた後なのでしょう?」
ヴァイオレットはどう叱りつけていいのかわからない。
ヴィエラが後悔していることをわざわざ怒っても、それは理不尽を与えるだけであり、躾にはならない。
ヴィエラが傷心しないように優しく声をかけ、導くことしかできない。
「……はい」
ヴィエラからすれば、見抜かれてばかりで頷くことしかできない。
「でも……私は賢くなんてありません」
「私は勉学で教えていただいたこと以外は全部不器用なんです」
「それは奇遇です。わたくしも相当不器用なんですよね」
「娘がとてもお利口なおかげで、かえって心配でたまらないんです」
「そ、それは……」
「感情を表に出せなかったのですよね」
「いいですか、剣技は己を表現するもの」
「人の心はいわば剣です。人と接して、粗削りして、これから磨いていきましょう」
導いてあげることしかできないのだから、言葉はちゃんと選ぶ。
希望を与えてやるんだと、思いを伝えた。
「大丈夫、あなたは強い子です。辛いことがあったらすぐに相談できる子になりなさい」
まだ言葉が足りない。
不器用であっても、届くまで口を閉じない。
「……」
「ヴィエラ、悲しいことがあって、それでも必死に耐えて、使命感に囚われて、打ち解ける暇もなくて、一人になる機会もなくて……辛かったのですよね」
「……ッ」
「どうして……どうして……お母様の前では、私はこんなにも情けないところばかり見せてしまうのでしょう」
ヴィエラは膝を落とし、うずくまって涙を流す。
それにヴァイオレットは優しく抱擁する。
「それでいいんです、わたくしたちは特別な何かでもない、ただの親子なんですから」
「……ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」
「私、お父様が殺されて、感じたこともない嫌な感情が残ったままで、それを、それを抑えきれませんでした!」
「激しい憎悪が、私の視界を曇らせて、周りが何も見えていませんでした!」
「大丈夫です、これから一つずつ、ゆっくりと改善していけばきっと良い方向へ進みます」
「使命感や苦しみも何もかも捨てて、今はゆっくりとしましょうか」
「ごめんなさい、本当に……ごめんなさい……!」
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一方その頃。
ウェベンヌは単独でアーマーヴァイパーと交戦していた。
『Fire……』
「燃えろ!」
火炎弾、鎧に着弾。
しかも被弾箇所はヴィエラが一度当てた位置。
鎧越しに更に高熱が走り、アーマーヴァイパーは暴れ、のたうち回る。
「グギャ、ギャラ、ギャッ!?」
「やっぱザコ相手だと負ける心配とか無ェから気持ちいいな!」
見るまでもなく勝機はウェベンヌ側に傾いている。
低級キマイケーラのアーマーヴァイパーが高位の存在であるウェベンヌに勝てるはずがない。
遠距離主体の立ち回りで圧倒的に分が悪く、その癖技の威力も絶大。
近距離戦に持ち込めて、万が一刃が通ったとしても、そこで体を掴まれて炎で体もろとも焼き殺される。
勝てないという前提で救いがあるとするのなら、ウェベンヌは決して好戦的ではないということ。
彼は勝てる戦いだけを好んでいるのだ。
なんの苦労もなく弱者を痛めつけ、気持ちよくなる事が彼の心の平穏であるが故に。
「あ、待てコラ逃げんな!」
そして、弱者との戦いで慢心するが故に、逃げられる。
逃亡。
アーマーヴァイパーは十字路に紛れ、行方を眩ました。
「……やっべ、見失った」
「オイ、兵士ども、帰るぞ」
「……なんか立場逆じゃないか?」
「協力してくれるとはいえ、見た目はバケモノだし、こんな態度だとなぁ……」
陰口を叩く。
ウェベンヌに聞こえないが、視線や表情はあからさまに不服そうだ。
「……なんだその顔」
「いえ、別に」
「なんでもありません」
近づこうとすると引き気味に後退される。
「あからさまに距離とりながら言うなよ」
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