021 『夜の約束』
「ルーイ様?」
明日からの対策を練っていた王子は、アリシアの声で我に返る。
講義ではなく、うっかり自分の考えに没頭していた。
「お疲れではないですか?」
アリシアが心配そうに覗き込んでくる。
覗き込まれると彼女の薄い胸の辺りとドレスの間に隙間が空く。
白い肌の下で血管の流れが透けて見える。
聖女の肌は白いのだなと頭の隅でボンヤリと思う。
「ルーイ様、体の回復にとって、睡眠はとても重要なのです。今日の講義はこれくらいにして、休みましょう」
休むってどこで?
ここで?
ここは王子の寝室だから、当然だろう。
アリシアは自室に引き取るのだろうか?
そこまで考えた時、王子はアリシアの腰に手を伸ばし引き寄せていた。
引き寄せれば体の中にスッポリと収まってしまう。
薄い肌着を通して体のラインがハッキリと伝わって来る。
「昼間、俺のものにはならないと言ったな」
「……言いましたね」
「二度も口説くつもりはないが、違う誰かのものになったら殺す」
「………」
「意味は分かるな?」
「言葉通りの意味なら物騒ですね」
「言葉通りの意味だ。返事をしないなら、このまま押し倒す」
「素直に頷いたらどうなりますか」
「……手を離す」
しかし、言葉とは反対に王子はアリシアを強く抱き締めた。
強く抱いた所で、手に入らなそうな気がする。
そんな雰囲気がする女だ。
もちろん押し倒す気など更々なかった。
命を助けて貰い、回復の手助けをして貰い、その上、強姦などしたら、善意に悪意で返す事になる。
それは当然、したくなかった。
ただ。
彼女はあまりにも無防備で。
そして生徒との距離が近い。
手が届いてしまうから、掴みたくなってしまう。
返事など当然頷く事しか出来ないだろう。
そう思って暫しの間待っていたら、アリシアの手が王子の背中に回り、そっと抱き締め返してくれた。
「この格好のまま寝るってどうですか?」
「…………」
返事は二択の筈だったが、まさかの三択目が返って来たのか?
「結構大切な話をしていたと思うが……」
「いえ、申し訳ありません。私は前世では教師と生徒の間にしっかりとした距離感を持っていたのですが、こっちの世界は割と融通が利くんで、色々と冒険と言いますか、未知の領域にチャレンジしてみたくなったと言いますか……」
「…………」
「……つまりですね、公務員ではないので、こういう癒し方も許されるかな? と考えていたのです」
「……こうむいん?」
「前世の言葉です」
「前世ね」
「はい前世です。そういう立場の教師だったので、生徒との抱き合いというスキンシップは許されていませんでした。でも、ルーイ様がそのようなものを求めているのなら、有りっちゃあ有りじゃないですかね?」
「………えー」
「ああ。答えがまだでしたね。押し倒して頂いて結構ですよ? そしてもう一つの方、『誰のものにもなるな』ですね。了解しました。あなた以外の方には抱かれません。あなたが抱かない限り一生処女ですね。お約束しましょう。このお約束でルーイ様の心が安定するならお安い御用ですよ」
「…………次元が違うんだな」
「は?」
「……いや」
つまり。
思考回路の次元が違う。
アリシアという人間は、ものの見方が独特なのだ。
生徒が元気になるのなら、自分の身体的な部分やそれを提示することに戸惑いがない。
王子はそっと体を離した。




