013 『3時限目 食事』
食事には大変な気を使う。
なんせ毒が混入しやすいからだ。
口に含むものと言えば、飲み物と食べ物。
これは徹底させる必要がある。
作る所まで逐一チェックしても直前に混入する可能性がある。
なので、食す直前のみチェックする事にする。
私室に運んで貰うとアリシアが自ら取り分ける。
大皿に盛ってもらい、それを二人分に取り分けるのだ。
こんなことをする貴族はそうそういないが、だかしかし、各自の皿に盛り付けて食べるタイプの食事だと、毒が混入していても気が付かない。
大皿盛りにして貰えば、先ずはアリシアが毒味をする事が可能になる。
しかし一番手が人間なのも少々危険を感じるので、一番手は魚。二番手は小鳥。
アリシアは水とパンを、観賞用の魚に与える。
凄く珍しい魚よね。
この世界独特の色をしている。
金魚のようなサイズなのだけど、体が瑠璃色をしている。
水に溶けてしまいそうな綺麗な色。
魚を凝視していたが特に異変はない。
毒針を持つ生物のように、瞬間的な痛みが発生しない服毒は三十分前後の経過待ちが必要だ。
長いわよね?
続いて籠の中の鳥にサラダとスープを与える。
こちらもやはり瑠璃色の鳥だ。
前世でいうなら文鳥に似ているのだけど。
色が違うのよね。
食べ物を前にして、三十分待つのは少し気が遠のく。
小鳥の方も特に異常はない。
きっちり見守ってから、今度はアリシアが食事に手を付ける。
匂いと色は問題ない。
後は味だが……。
ほんの少しだけ掬って、舌に含む。
痺れない。苦みもない。
しかし。
美味しくもないわね?
冷めてるし……。
「ルーイ様、どうぞ」
王子は勧めてもカトラリーを取る気配がない。
「毒味も家庭教師の仕事なのか?」
「毒味が仕事という事はありませんが、私の仕事はルーイ様に幸せになってもらう事ですので、毒を盛られては困るのです」
「そうか」
「そうです」
「これからアリシアとは早朝から食事までずっと一緒なのか?」
王子様は当然といえば当然の質問をしてきた。
「一緒です。少し息が詰まるかも知れませんが、慣れますのでご一緒下さい」
「プライバシーはないんだな」
元よりプライバシーが尊重されるような立場でもなかっただろうが、更に無くなった。
心が腐りそうな時というのは、大概一人でいる時に悪化する。
心の病とはそういうものなのだ。
友達と一緒にいる時に、自殺する人間などそういない。
アルコール中毒者も一人の時に際限なく飲んでしまう。
過食も一人の時にするのが基本だ。
麻薬だけは仲間とするかもしれないが、止めさせたい場合は二十四時間管理化に置く必要がある。
人は一人でいると、悩みやすい。
後から後から際限なく悩み続ける。
悩みは心を蝕みやすいから。
悩ませない手段が必要になる。
安定したら、もちろん一人の時間を作っても良いのだけど。
今はまだ一人にはしたくないのだ。
「私の事は、教師であり、姉であり、空気だと思って下さい」
「……空気ね」
「そう。空気です」
「空気さんは、毒を含んでも死なないのか?」
「いえ、しっかりと毒は効きますが、治せます」
「無敵だな?」
「いえいえ、それほどでも」
「別に褒めてない」
「そうですか」




