000:謎のお届け物
自分宛てに届いた謎の荷物。
ピンポーン
蝉が騒がしい日中の最高気温に達した真夏の休日。
チャイムが家に鳴るとすぐに
「お荷物です、佐木さーん」
配達のお兄さんが玄関のマイクに向かって話す声が玄関真上の部屋に聞こえた。
……下の階にいるお母さんが玄関を開く気配がない。
「おかぁさ~ん!宅急便じゃないのー?!」
少しドアを開いて大きな声で呼んでも返事はない。
あぁっ、めんどくさいなぁっ!
タンクトップにショートパンツだからあんまり人前に出たくないんだけど、ずっと待たせるのも悪いから仕方なくドアを開けて一階の玄関へ向かう。
涼しい部屋と違って廊下は暑いんだよなぁ。
ほんのちょっと歩いただけで薄く汗を滲ませながら玄関へ向かう。
その前にリビングのドアを開くと誰もいない……お母さんは買い物にでも行ってるのかな。
モニターに映るのは、帽子を被って大きな白い箱を抱えるお兄さん。
あ、このお兄さん近所を担当してるからよく覚えてるんだ。
何度も荷物受け取ってるし、結構イケメン。
このお兄さんなら薄着でも良いカナ~なんて思いながら玄関へ向かった。
「いつもご苦労さまでーす」
笑顔で出迎えると、白い箱を持ったお兄さんの顔が見えない。
棚のハンコに視線をやると、大きな白い箱がズイ!と自分に向かってきた。
おわっ!と反射的に受け取ったその大きな箱は、両手に抱えると自分の頭を優に越える大きさと予想外の軽さで上に投げ飛ばしそうになった。
軽っ。あ、お兄さんにハンコを……と思って体を捻り箱を置こうとしたら、宅配のお兄さんが踵を返して帰ろうとしている瞬間が見えた。
「あ、ハンコ……」
あたしの声に反応する事無く背中を向け、無機質な声で
「結構です。佐木 晴海さん宛てですので本人へよろしくお願いします」
――あうぅ……あたし、何かお兄さんに嫌われる事しちゃったのかな。
薄着だったのがマズかったのかな?なんて思い返そうと思っても、そもそも顔すら合わせてないしすぐに後ろを向いてしまっていた。
ちょっとカッコイイ人だから少し弾む話でもしたかったのに、あっという間にワゴン車に乗って行ってしまった。
数秒放心状態の後、額の汗が流れて我に返ると異様に軽い大きな箱を持ったままだった事を思い出した。
お母さんの通販じゃない、あたし宛て?
そもそも何も買ってないんだけどな~と思いつつ、階段の幅ギリギリの大きな軽い箱を足元だけ見ながら自分の部屋へ持っていく。
バタン
部屋のドアを閉めてその白い箱を眺める。
伝票貼ってないし、本当にあたし宛て?
そう思って開封しようとして違和感を感じた。
?継ぎ目がない?
ガムテープを剥がすなり、開封用の穴に指を入れる場所もない真っ白な箱。
指で押せば歪むけど……まるで薄い紙で出来ているような感触。
何というか、ティッシュペーパー?
真ん中辺りに爪で軽く押すと、プツリと破れるような感触と共に何故か箱の天辺から紙吹雪のように崩壊が始まりハラハラと全体が薄い紙の山となった。
あ、新しい演出?
こんな箱今まで見た事ないんだけど……って、また箱?
習字の半紙を千切って盛ったような中に、今度はボール紙のように硬いしっかりとした小さな箱が一つあった。
林檎のマークのiPa〇でも入ってそうなサイズの箱。
何か懸賞にでも当たったのかな。
とても高級そうな物が入ってそうな白い箱を開くと、中にはサングラスと漫画の単行本くらいの本が綺麗に仕切られていた。
白い箱にサングラス?
そもそもサングラスなんて懸賞すら出した事ないんだけど……と思い、本を見ると表紙にはUser's Manualというプリント。
開いて読んでみる。
数分軽く読んで、自然と両方の口角が上がっている事に気づく事無く
……ふふっ、面白そうじゃない。
懸賞なんか目じゃない、もっともっと面白い事にあたしは選ばれたみたい。
これって現実?本当にこんな事ってあるの?
あたしは、その取説に夢中になっていた。
地味ですが暇つぶし程度に読んで頂ければ幸いだと思っております。