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食事の時間になり、大広間へと向かうにつれて、ガーリックの香ばしい匂いがどんどんつよくなる。
大広間に入ると、すでに父と母は食卓に座っていた。
「おかあしゃま、おとうしゃま」
「アイリーン、体調はもう良いのかい?」
「はい、しゅっかりよくなりました」
私も自分の席について料理が運ばれてくるのを待つ。
「それにしても、今日はなんだかとても香ばしい匂いがするわね」
「本日のお食事はアイリーンお嬢様がお考えになられましたレシピをもとに、リゼルが腕を奮っております。」
エイミーが給仕の手を止めて2人に向き直り、今日の料理について説明する。
「まあ、アイリーンが?」
「いったいどんなものを作ったんだい?」
目を瞬かせる2人に胸を張って満面の笑みを向ける。
「ひみちゅでしゅ!」
2人の生暖かい視線をお腹で受け流して料理の準備を待つ。
お昼にちょっと食べ過ぎちゃっただけだもん。
久しぶりのポテトチップス美味しかったんだもん・・・。
前菜、スープはいつも通り出てきたが、次に出てきたメインはポークソテーのトマトソースがけだ。
普段のメイン料理は塩のみの味付けであるため、盛り付けが添えられている野菜とメインの肉料理だけ、というシンプルなものだが、今日のようにトマトソースがかけられるだけで華やかな見た目になる。
「これがアイリーンの作ったレシピかしら?」
「ふむ、トマトのようだな」
「はい!めちあがれ!」
あの後、トマトとキノコ、玉ねぎのソースを長時間煮込んだのだろう、香りが強く、旨みが凝縮されてるのが分かる。
ポークソテーはガーリックと塩胡椒で味付けしてあり、それだけでもおいしく食べれる。
両親はトマトのかかってない端の部分だけを最初に食べたようだ。
「なんだこれは!?いつもと違う味付けだ」
「塩と胡椒の味付けは普段食べているものと同じですけど、それと別にこの広間の匂いの正体が隠されているわね」
「ショーシュもちゅけてたべてみてくだしゃい!」
私の言葉に、2人はトマトソースのついた部分を食べる。
私も2人と同じようにソースをつけて食べる。
うん、私がお昼に説明して作って貰ったものよりも、味に深みがある!
もしかして、鶏がらを煮込んで出汁として加えたのではないだろうか?
エイミーに視線を向けるとエイミーは小さく頷いてみせた。
母と父は無言で咀嚼している。
「美味だ・・・実に美味!」
「これがあなたのレシピなの?アイリーン!」
2人は目を輝かせて私を見る。
「はい!」
正直前世の食事を考えると、もっと美味しいものを食べてたけど、今はこれでも充分贅沢よね。
「この他にデザートなんかはないのかしら!?今度開かれるお茶会で出したいのだけれど」
うちの特産を使った小麦系のお菓子は既に出来てるが砂糖やはちみつを入れただけのもので正直見栄えは地味だ。
手作業は疲れるだろうけど、生クリームを作って飾り付けしても良いかもしれない。
「うーん、また考えてみましゅ!」
「ええ、楽しみにしてるわ」
母に期待のこもった目で見られる・・・よし、明日は公爵夫人が出すにふさわしいデザートを作りましょう!
パンにソースをつけて食べていると、2人も真似をしてソースを一滴も残さずに食べきってしまった。
食事を終えて、エイミーについて厨房へ向かう。
「リジェリュ、とりをにこんだショーシュでしゅね!とてもおいちかったでしゅ!」
「あーお嬢様には分かっちまったか!昼に食べた鶏の旨味を出せないかと思ったんですよ。そんで部位ごとにちょっとずつ煮込んで味比べしてみたら骨のとこが1番美味しく出来たもんで」
お昼から夕方の短時間の間に試作品をいくつも作ってその中で自作の鶏がらを完成させるとは・・・リゼルってもしかしなくても有能なのでは?
「リジェリュ、しゅごい!でしゅ!」
「へへっ、せっかくお嬢様にレシピを貰ったんです、こんくらいは当たり前ですよ」
「たのもしいでしゅ!あしたもおかしちゅくりましゅ!」
「はい!分かりました!明日も材料準備して待ってますよ」
明日の約束も取り付け、就寝の準備にかかる。
うーんガーリックを食べたら歯ブラシに歯磨き粉が欲しくなるなあ〜
歯磨き粉かーミントにココナッツオイル、まではいいとして、重曹とかって手に入るのかな?
製造から行う?面倒くさすぎる・・・
魔法でその成分だけ抽出とかって出来ないのかな?
この世界には歯磨きの習慣が無いため、私は濡らしたタオルで歯をゴシゴシと拭っている。
エイミーは最初、言われた通りにタオルを準備しつつも不思議そうな顔をしていたが、歯を綺麗にするためにしてると説明すると、食後に必ず用意してくれるようになった。
異世界生活を充実させるためにはまだまだ必要なものだらけだ・・・
ひとつずつ快適な生活に近づけて行こう!
密かに決意する転生2年目の夏だった・・・。