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外が少しずつ暖かくなり、草木が花をつけ始めると私の2歳の誕生日だ。


この世界では7歳になるとようやく1人の人間としてカウントされるらしく、それまではお披露目も誕生日パーティもないようだ。


というのも、この世界には魔法はあるが医学は発達していないようでなかなかに子供の死亡率が高いらしかった。そのため、母のように光適性をもつ魔法使いは少なく、貴重であるらしい。


「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」


私に仕え始めた時よりも幾分表情の和らいだエイミーが私に最初の祝いの言葉を投げかけた。


「エミーありあと、でしゅ」


エイミーに着替えさせてもらい、少しずつ自由に歩き回れるようになった屋敷内を進んでいく。

今日からは家族みんなで食事を取ることになった。食事の際は大広間へと移動する。

貴族の屋敷は広く、2歳児には部屋を歩き回るだけでもかなりの運動になる。


歩いている途中でヘトヘトになり、エイミーに抱き抱えられ、大広間へつくと扉の前で腕からおろされる。

淑女らしく優雅に歩みを進め、スカートのすそをつまんだ

「おとーしゃま、おかーしゃま、おにーしゃま、おきえんよう」


「アイリーン、なんて愛らしい淑女だ!誕生日おめでとう」

「まあ、上手に挨拶出来たわね。お誕生日おめでとう。」

「アイリーンおめでとう!」


家族に囲まれてみんなに誕生日を祝ってもらい席に着く。

食事内容は他の家族と同じものだ。

カトラリーが並べられているが実際に私が使うのはフォークとスプーンくらいだ。

すべて1口サイズに切られて食べやすいようになって出てくる。


「神々の恵みに感謝を」

父の挨拶に続く

「「「神々の恵みに感謝を」」」


両手の平あわせるのではなく、右手を握りしめ胸に当てるのがこの世界の食前の挨拶の仕方だ。


行儀作法は分からないが前世の記憶を頼りになるべく上品を心がけて食事を摂る。


本来は食事のマナーがきちんと守れるようになるまで両親や兄弟とは一緒に食事が出来ないのがこの世界の貴族の慣わしであるが、家族を不愉快にさせない程度の礼儀作法がエイミーに認められたため、本日より同席する事になった。


ちなみに、私の両親はマナー等の小さなことは気にしないがその辺りは家令やメイド長がしっかりしている為ブルーノが家族と食事が出来るようになったのが去年のことだ。


音を立てないように静かに口もとへ料理を運ぶ。

合格点をくれたエイミーのメンツを潰さないようにと、あとせっかくなら成長した姿を家族に褒めてもらいたい一心で丁寧に食事をする。


この世界の料理には和食らしきものや、魚介類の料理は出てこない。

肉や野菜を炒めたものや、焼いただけのものが多く、味付けも塩でまぶしただけのものが出てくるため、不味くはないが飽きる。正直もう飽きた。


少しずつ屋敷内を自由に行動できるようになれば料理に幅を持たせたいところだ。


何事の粗相もなく食事を終えると、家族皆の視線が私にチラチラと注がれているのがわかった。


「とても、おいち、でしゅ!」


「アイリーンはあっという間に成長してしまうわね」


「いつの間にかカトラリーも上手に使いこなすようになるなんてな」


あ・・・カトラリーを使いこなす2歳児なんて、本来であれば奇異にうつるのでは!?


・・・とも思ったが皆が微笑ましそうに私を見つめるため、このままでもいい気がした。いいよね。

それに皆でご飯食べれるしね!



この世界の食事は1日2食。

朝はゆっくり起きてブランチ。

お昼には時折お茶会が開かれたりしながらティータイム。

夕方は陽が完全に沈み切る前に食事をとり、眠りにつく。

電気の発達していない世界である為、蝋燭の灯りを頼りに生活し、陽があるうちに行動している。


朝と夕方の食事は家族みんなでとる事が決まっているようだが、父は夕方の食事に間に合わず1人で摂ることも珍しくない。

そのため、朝は家族全員がそろう大切な時間だ。




この世界に産まれて2年。

まだ2年だが、惜しみない愛情を注いでくれる家族は私にとってかけがえのない存在となっていた。






春がすぎ、本格的な夏が始まった。


ブルーノと私の勉強はあれからも続いていて、現在は各地の特産品等の勉強をしている。



アルフォレスト国は、ティアーク(地球)の中でも大きな大陸のうちの1つである。

その中でも私たち、ブリュッセル公爵は王都に近い内陸地に広大な土地を有している。


そう、公爵である。

使用人の数は少なくないが多くもなく、威厳よりも優しさが滲み出るゆったりとした両親に、上質だが派手さはない屋敷。

そこそこのお金持ちの貴族だろうと考えてはいたがあった事もない祖父が前王の王弟であらせられるらしい。



「ブリュッセル公爵領の1番の特産は小麦です。アルフォレストの国の半分の消費量を賄うほどの生産量を有しているのです。」


この世界の主食はパンであり、その原材料は小麦だ。

国の半分の生産量を誇るこの領地はアルフォレストの食料庫と呼ばれていて、領地も随分と富んでいる。


しかし、内陸地にあるため海産物はなく、保存食などの加工食品が発達していないため、魚介類を食べることが滅多に出来ないのだ。



やっぱり食事の内容を少しずつ改善したいところね。



「それでは、今日の勉強は終わりとします。」



座学が終わると私は昼寝をしに自室へと戻り、兄は剣術の稽古の時間だ。


部屋に戻り、ベッドで目を閉じるとすぐに意識が底に沈んだ。






「 ーー!!」

「ー!!ーーー!」


部屋の外がなんだか騒がしく、意識が浮上した。


「医者を呼べ!早く!」


兄に剣術を教えている青年の怒鳴り声が聞こえてくる。


「んー?」


眠たい目をこすり体を起こすと無表情ながらに瞳を揺らし、動揺を見せるエイミーの姿があった。


「どうちま、し、たか?」


「お嬢様・・・ブルーノ様が倒れられ、意識がないと・・・」


エイミーの返答に一瞬理解が及ばず固まった。


「おにいしゃ!どこ!」


ベッドから落ちるようにしてすべりおり、扉の方へとかける。


「お嬢様!今はブルーノ様の無事を祈ることしか出来ません。」


「どこ!」


エイミーは私を宥めようと抱きあげようとした。


「め!にいしゃ!どこ!!」


今まで、聞き分けの良かった私が、伸ばされた手を振り払ったことに驚いたエイミー。


この時間すらも勿体ないと重い扉をなんとか外側にひく。

ほとんど後ろに倒れるようにしてドアを開けると騒ぎの元へと走って向かう。


騒ぎは中庭で芝生の上で倒れている兄を執事がそっと抱きあげようとしていた。


「め!うごかしゅな!」


何が原因で倒れたか分からない場合、動かされることで更に状態が悪化する事がある。


今まで心がけていた丁寧な言葉も、取り払い、兄のもとへと転がるようにして向かう。


「お嬢様!邪魔してはなりません!」


後ろからエイミーの声が聞こえてくるが答える余裕もない。


「どいて!!!」


執事をおしのけて兄の頭もとに立つ。

「にいしゃ!にいしゃ!」


肩を叩くが反応はない。

呼吸は胸を上下させるように荒い。

剣術の最中だったのだろう、髪の毛や服は汗でぬれており、体温は高い。脈はあるが5歳児の平均を考えてもはるかに早い。

瞼を持ち上げて瞳をのぞくが、瞳孔の開きに問題は無い。


肩を叩いた後に、おでこや、手首に触れ、瞳を無理やり覗き込む2歳児を遠巻きに見つめる使用人達。


何が行われているのか分からないが、アイリーンの危機とした姿に誰も介入できず、その姿を見守るだけだった。


夏が始まったばかりとはいえ、今日の気温は高く、日陰のない中庭での剣術稽古。

汗も大量にかいており、脱水症状を引き起こしたのだろう。

脱水症状は死を引き起こす事もあり、時間との勝負だ。


「みじゅをもってきて!さとうとしおも!!」


目の前のメイドに声をかけるが何を言われたのか理解できないのか、動く気配がない。


「早く!!」


私の声にようやく我に返ったのか、白髪混じりの執事が屋敷へと走って戻っていく。

次に先程兄を抱きあげようとした執事に向き直る。


「うごかしてへいき、へやにはこんで!」


「はっ、はい!」


執事に部屋に運んで貰っている最中も、近くのメイドに氷水とタオルを頼み私も部屋へと向かう。


ベッドに兄を運んですぐに母が部屋に飛び込んできた。

「かあしゃ!おにいしゃまが!」


「ブルーノ!あぁ、なんてこと・・・」

母はベッドの近くに座り込むと、ブルーノの手を握りしめた。


「かあしゃ、なおして!」


私の額の傷を治した母の光魔法で治癒術をかけてもらえば・・・!


「ダメよ、光魔法は病気にはきかないの・・・」


「しょんな・・・!」


てっきり病気も怪我も魔法で治癒出来るものだと思っていた私は、目の前が真っ暗になる。

そんな・・・光魔法って何でも治癒できるわけじゃないの!?



「お嬢様!お水と塩と砂糖です!」


愕然としていた私にかけられた執事の声で我に返る。




そうよ、前世では魔法もない世界で多くの生命を救ってきたでしょう!

まだ兄の息はある!心臓も動いている!うろたえないで!



「セバス!それはなに!?」

母がセバスに問いかけるのも無視して間に割り込む。

「かちて!」


目の前に差し出された水に塩と砂糖をひとつまみずついれる。

だめだ、意識のない兄にこのまま飲ませると上手く飲み込めずに肺に入ってしまうかもしれない・・・上手く飲ますためには・・・、


「こむぎもちょうらい!」


執事にもう一度小麦を取りに行ってもらってる間に冷たいタオルを首と鼠径部にまく。首や鼠径部には太い血管があり、熱のあがった兄の体を少しでも早く冷やすためである。


無遠慮に兄のズボンを下ろした私の奇行に母は目を見開き声も出ないようであったが、お構い無しに看護を続ける。


セバスと呼ばれた執事に持ってきてもらった小麦を小さな器で水と一緒に混ぜ、溶けきったところで簡易ポカリスエットにまぜてさらにかき混ぜる。

とろみを付けるためには片栗粉やゼラチンが良いが今は手元にあるもので何とかするしかない。


「からだをすらわせるよおにおこして!」

うまく呂律が回らないが気にしていられない。


意図を汲み取ったエイミーが兄の体を起こす。

口元にスプーンで簡易ポカリを運ぶと微かに喉が動き嚥下した。


「のんだ!」


少しずつ少しずつ簡易ポカリを飲ませ、温くなったタオルを取り替える。


汗がひき呼吸が少しずつ楽になった頃

「はあっ、はあっ」

荒い息と共に、白衣を着たおじさんが部屋へと飛び込んできた。






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